酒、食品、アパレル、中古買取、ギフト……優れたECサイトが伸びている理由と今やっていること
“ECのプロ”が選ぶ優れたECサイトはどんなことをやっているのか? 伸びている理由は? ジャパンEコマースコンサルタント協会(JECCICA)が5月12日に開催した「第2回 ECデザイン大賞2017 プレゼン&表彰式」で、最終選考に残った5サイトの代表または制作担当者が、5分間のプレゼンテーションを行った。
商材やターゲット、事業規模も異なる5社が行ったプレゼンテーションでは、デザインやユーザビリティにとどまらず、商品開発、コンテンツマーケティング、接客、SNSの活用など、それぞれのECサイトが独自に行っている試行錯誤や創意工夫が語られた。
プレゼン終了後、当日の参加者とJECCICAのコンサルタントが1票ずつ投票。投票の結果、5つの賞が発表された。
特別賞「ところてんの伊豆河童本店」
伊豆河童があるのは静岡県の伊豆半島。あまり知られていないが、伊豆半島はところてんの原料である「テングサ」の名産地。特に海女さんが潜って手詰みで収穫している地域は全国でも珍しく、品質の良さが自慢だ。
伊豆河童がところてんの販売を始めたのは17年前だが、創業は明治2年と古く、今の店主で4代目。ネットショップでは背景画像に富士山を望む柿田川の写真を配置し、「富士山の美しい水でところてんを作っている」ということをアピールしている。
シルバー賞「宝塚アン」
宝塚アンは1997年にオープンし、今年20周年を迎えた宝塚歌劇グッズの販売・買い取り専門店。“宝塚歌劇のブックオフ”を自認する。
コンセプトは「宝塚・愛の循環」。「大切なコレクションを、大切にしてくれる人に買ってもらいたい」という、ファンの思いをかなえる場になっている。
実店舗は有楽町駅前店と花のみち店(宝塚市)の2店舗。両店とも宝塚劇場の隣にあるため、観劇帰りの利用者が多い。
店舗で人気なのが「レシート」。スタッフが毎日、タカラジェンヌの誕生日やスケジュールを記入していることがファンの間で話題になり、レシートを目当てに開店前から並んで商品を買うファンもいるほど。
劇場の隣に実店舗があると、観劇帰りにネットショップで注文した商品を店頭で受け取り、さらについで買いも……というパターンが見られる。宝塚歌劇は海外でも人気が高く、外国人観光客の来店も多い。
ゴールド賞「日本デザインストア」
日本デザインストアは伝統工芸品・手仕事品のセレクトショップ。日本の良い商品を次の世代に継承するべく、「日本製」「希少性」「デザイン性」「高品質」というキーワードで商品をセレクトしている。
日本デザインストアで増えているのが結婚式の引き出物。引き出物は1回の注文が100万円以上になることも多く、自分たちの大切な人たちへの贈りものとあって、注文する方は慎重になる。
日本デザインストアでは、
- オリジナルセットの作成
- 豊富なラッピングの種類
- 素早いメール対応のために専属の担当者を置く
- 安心保証サービス(予備の在庫、のし紙など)
といった施策で他社との差別化と安心感の訴求に力を入れている。
プラチナ賞「ワイシャツ通販 ozie」
ワイシャツ、ネクタイの専門店「ozie」(オジエ)は、ECでワイシャツやドレスシャツの通販を行うほか、六本木にショールームを設けるなど、オムにチャネルにも注力している。
今回ozieの柳田社長がプレゼンしたのはスマホサイト。同社では全アクセスの65%がスマホ経由。従来のPC接客を見直し、スマホでの接客のあり方を追求するため、レスポンシブではなく、スマホ専用サイトを構築した。2013年に開設したものを2015年7月から段階を経てリニューアル。今年3月に完成した。
コンテンツへのアクセスも8割がスマホ。同社の場合は毎週土曜日に「ポケットチーフ」についてのコンテンツのアクセスが伸びる。おそらく、結婚式などでポケットチーフの使い方を調べようとしているのだろう。
「コンテンツの内容が深ければ深いほど、何回も来てもらえる」と考え、徐々にコンテンツを増やしてきた。
ダイヤモンド賞「達磨正宗」
達磨正宗(だるままさむね)は、岐阜県岐阜市で江戸時代から続く、創業180年の日本酒の蔵元。プレゼンに登壇した白木滋里さんで7代目。
達磨正宗が製造・販売しているのは「古酒」。古酒とは、ワインのように熟成させて飲む日本酒。鎌倉時代から愛されてきたが、第二次世界大戦中の重い酒税のため姿を消した。昭和40年代、店長の父親である6代目が復活させた。
古酒造りには何十年もの時間がかかる。仕込んでもお金になるまで時間がかかるため苦労した。「父がすべてを賭けて作った古酒を広めたい。そしてこれからも古酒を造り続け、1人でも多くの人に古酒を知ってもらいたい」。これが私の願いです。(白木さん)
店主のこの願いを形にするため、デザイナーの伊東美沙貴さんはいくつかの工夫をした。
1つ目は言語。達磨正宗のお酒は海外でも評判が高く、調査してみると、海外の小売店で達磨正宗のお酒を購入した人は、達磨正宗のサイトを翻訳して情報収集していることがわかった。
そこで、Googleのサイト翻訳で内容が伝わるように、できるだけテキストベースでサイトを作成した。国外への販売はしていないが、1人でも多くのユーザーに情報を伝えるための工夫だという。
写真についても研究し、グラスや小道具にもこだわった。PCとスマホ、それぞれの環境で商品が美しく見えるように異なる写真を使用。パソコンは横長、スマホは正方形で表示させている。
コンセプトは「時を贈る」。時間をかけて作られていることと希少性の高さを訴求し、ギフトラッピングやキャッチコピーにもこだわっている。
美沙貴ちゃんと6年前からやってきて、ホントに美沙貴ちゃんは一生懸命考えてくれて、電話とかで「そんな、そこまで考えなくてもいいよ!?」って心の中で思うくらい、「白木さんのサイトがこうなったらいい」「お客さまにこう伝わったらいい」って、言葉では言えないくらい一生懸命やってくれた。
美沙貴ちゃんがそこまで考えてくれるのに、「私がこんなんじゃあかん」って思って、私は技術的な知識はありませんけど、酒造りはやりますので、心を込めて作ったお酒の良さがホームページを見てくださるお客さまに伝わるようにやってきました。これからも2人、二人三脚でやっていきたいと思います。(白木さん)
2010年にはじめてサイトリニューアルを行ったときに、「創業180年の蔵元のサイトリニューアルを成功させなければ。ここで終わらせるわけにはいかない」と思って。作っているときは何度も迷うことがあって、白木さんはWebのことはわからないから、私がしっかりしないとと思って、ホントにサイトの背景1つにしても悩みました。
悩んだときには1人でお寺に行って精神統一をして、「ご先祖様は今どう思っているだろうか」「達磨正宗をどうして欲しいと思っているんだろう」と考えました。すごくプレッシャーが大きかった。
いつか私も何らかの形で古酒を広めるお手伝いがしたいと思っていて、今回のプレゼン大会に来ました。5分スピーチで時間がオーバーしてしまっても、どうか思いが伝わるようにと考えて来ました。(伊東さん)