“ECのプロ”が選んだ5つの優れたECサイトがやっている施策まとめ
今年で3回目を迎えた「JECCICA ECデザイン大賞」。“デザイン大賞”というものの、もちろん単純にデザインだけが評価されるのではない。顧客体験やユーザビリティー、デザインに込められた戦略など、さまざまな観点から審査される。
5月18日に行われた最終プレゼンに登壇したのは5社。米国拠点のアパレルメーカー、イタリアの調理器具ブランド、佐賀・福岡の漢方薬局、名古屋の酒販店、金沢のオーダーシャツ専門店……業種も業態も異なる5社が語った、それぞれの強みと課題、それに対する各社の取り組みをまとめた。
【ダイヤモンド賞】ECが家業を救った
「オーダーシャツ専門店 金沢・片町・金港堂」
金港堂は石川県金沢市のオーダーワイシャツ専門店。ECサイトは2008年から運営している。フルオーダーで納品までおよそ1か月で前払い制。しかも値段は「多分、ネット上にある中では一番高い」(宮谷氏)。イージーオーダーとの違いを伝え、値段に納得してもらうことと、信用してもらうことが必要と考え、2004年にブログを書き始めて以来、毎日更新している。
オーダーの敷居を下げるために生地の選び方を5つに絞り、プルダウンで選択できるようにした。スマホからも同様に、選択するだけでオーダー可能にした。ページが長くなりすぎないよう、プルダウンメニューを設置。現在のユーザー比率は スマホが53.9%、PCが36.6%、タブレットが9.5%。2回目からは前回と違う個所だけ伝えれば良い設計にし、リピート率アップを試みた。
NHKの連続テレビ小説など、テレビドラマwwの衣裳も数多く手がけている。時代考証が伴うドラマの現場では、襟の形や大きさなど、細かな注文に応えてくれるフルオーダーは強い味方。有名人の顧客も得て、波及的に知名度が上がっている。
うちは85年続いているんですが、もしECというものがなかったら、多分、消滅していたと思っています。ECがうちの家業を支えてくれています。
これからも継続して良い商品をお客さまに届けられるよう、がんばっていきたいと思います。(金港堂 宮谷氏)
【プラチナ賞】コアなファンをつかむ
「ベルギービールJapan」
「ベルギービールJapan」を運営する「木屋」は、愛知県名古屋市にある創業127年の酒販店。代表取締役の三輪 一記氏は4代目。事業を引き継いだ当時はお酒が飲めなかった三輪氏が、たまたま出会ったベルギービールでビールの美味しさに開眼。その後、ベルギーにも足を運び、2004年に現サイトの前身となるサイトをオープンした。ベルギーで見聞きした情報を発信し、全国のベルギービールファンとのつながりを作ってきた。
しかし、ネットでの売上は伸びず、飲食店向けに樽やケースでの販売を行うBtoBサイトも運営したが、こちらも売上が伸びないため、2016年に本店サイトのリニューアルとBtoBサイトの構築をAISHAの伊東美沙貴氏に依頼した。
リニューアルに際し、伊東氏はまず「ベルギービールJapan」の売上分析とアクセスログ解析を実施。月別の動向から特徴を見つけ出し、三輪氏が発信する専門性の高い情報と売上に関連性があることと、ベルギービールの熱心なファンをつかんでいるこがわかった。リニューアルの際にはこの2つを生かすことをテーマに設計した。売上はV字回復し、BtoBサイトも同じコンセプトで展開した。
デザイン的には配色をベルギーの国旗から、黒、赤、黄色に決め、ユーザーがコンテンツに集中できるようにシンプルにした。商品写真にもこだわり、スタイリング写真には料理を添えるようにしている。ショッピングカートは「EC-CUBE」を使用。そちらに商品情報を登録し、WordPressに80以上ある醸造所の概要や代表銘柄を登録し、相互にデータを呼び出してECサイトを運営している。
【ゴールド賞】明るい色合いにこだわった
「回生薬局漢方未病ラボ オンラインショップ」
「回生(かいせい)薬局」は佐賀県と福岡県に店舗を持つ薬局チェーン。処方箋のドライブスルーなど、先進的な取り組みをしている。コーポレートサイトには漢方についての豊富なコンテンツがあったため、ECサイトも別ドメインにせず、コーポレートサイトの下に入れる形でオープンした。
コンセプトは「漢方薬のデパート」。品揃えと品質の良さ、薬剤師がセレクトし、厳しい基準をクリアした商品であることを訴求したいと考えた。「漢方」というと古めかしいイメージだが、店舗の中心顧客が30代から40代女性なこともあり、明るい色合いを心掛けた。
モバイルファーストで設計し、PCサイトは後から制作した。90%以上がモバイルからのアクセス。
漢方薬にはさまざまな効果効能があると言われているが、薬機法に留意しなければならないため、サイト上で訴求できることが少ない。そのため、すでに生薬の名前を知っている目的買いのユーザーをターゲットにしている。また、特定の体の不調や単体の症状で訴求するのではなく、「梅雨の時期の養生」「夏の養生」というように、季節に合わせたおすすめテーマを提案し、“漢方からの卒業”がないようにコンテンツを用いて工夫している。
【シルバー賞】“男性向け”と“イタリアブランド”を意識した
「RISOLI Japan」
「RISOLI(リゾリ)」はイタリアの調理器具ブランド。広告代理店を営むヒューマンイノベーションの塚野香織氏が製品にほれ込み、独占販売契約を獲得。2017年から自社で販売している。調理器具は競合が多いため、差別化ポイントとして男性を意識してサイトを制作した。実際、Facebook広告からの流入を見ても男性が多いという。
サイトのコンセプトは「イタリアブランド」。ブランドショップにいるような雰囲気が出るよう、サイトをデザインした。新しいブランドなだけに商品認知度アップが課題。SNSやブログ、チラシなど、あらゆる方法で商品の魅力を伝えていきたいという。
【特別賞】表示速度にこだわった
「L.L.Bean」
「L.L.Bean」は米国に本社があるアパレルブランド。ECサイトの立ち上げは2002年だが、当初は米国で運営していた。2011年に現在のドメインで独立。2016年10月に株式会社ドーモのスマホサイト変換・最適化ツール「mobify(モビファイ)」でモバイルに最適化。コンバージョン率が20%改善した。売上自体はまだPCサイトの方が多い。
2018年に入ってモバイルの商品詳細ページの改善に取り組んでいる。商品画像が全面表示されるように自動スクロールを実装したり、数量欄を数字入力からタップに変更したりといった細かい改修を重ねているという。
ページの表示の速さにこだわっており、「SpeedCurve」というツールを導入し、毎日9時、12時、21時に計測している。近い将来、Amazon並みの表示スピードを実現できると考えている。すべてのマーケティングの効率を上げる意味で、スピードもデザインの一部だとお伝えしたい。(ドーモ 代表取締役 占部雅一氏)
JECCICA ECデザイン大賞2018について
審査対象は2017年4月1日から2018年3月31日までに制作、またはリニューアルしたECサイト(1ページでも可)。エントリーはJECCICAサイトにおいて、2018年2月20日から4月13日の間に受け付けた。
エントリーされたサイトをJECCICA理事8名が採点し、平均点で順位を決定。 上位5サイトが決勝に進出。決勝会場では5分間の最終プレゼンを行い、その場に参加している全員の投票で各賞が決定した。