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「オムニチャネル」という言葉が話題に上るようになって久しいが、有店舗小売企業にとって、ネット販売と実店舗とのスムーズな連携は喫緊の課題となっている。今回は、新たな取り組みに乗り出した有力企業の取り組みを紹介する。ヒマラヤでは店頭にタブレットを配置、店員が通販サイトに消費者を誘導する。ジンズでは店舗で利用できるスマートフォンアプリを導入した。また、オイシックスドット大地の奥谷孝司COCOが、小売企業に求められる今後のオムニチャネル戦略を語った。

ヒマラヤ、タブレット導入で取り寄せ日数削減

スポーツ用品販売のヒマラヤでは9月25日から、店頭に設置したタブレットを使い、自社通販サイトへ誘導する取り組みを始めた。これまで消費者が欲しい商品が店舗に在庫がない場合は、他店舗やメーカーの在庫を確認してから取り寄せるため、消費者の手元に届くまで1週間程度かかっていた。今回、新システムを導入し、他店の在庫がタブレットから確認できるようになった。その場で注文し、最短で翌日には該当店舗や消費者の住所に届けることができる

ヒマラヤでは、店頭に設置したタブレットを使い、自社通販サイトへ誘導する取り組みを開始
タブレット端末を使うことで、他店の在庫がタブレットから確認できるようにした

ヒマラヤでは2010年頃、ネット販売事業に参入した。楽天の「楽天市場」を中心に、ヤフーの「ヤフーショッピング」、アマゾンの「アマゾンマーケットプレイス」で売り上げを順調に拡大、2017年8月期のネット販売売上高は全社売上高の10%を超えてきた。消費者の購買行動が多様化する中で、成長分野となっているわけだ。

同社販売チャネル統括部販売チャネル統括チームの木村久和チーフマネージャーは「人的・資金的にリソースを投入できるようになったため」と急激な成長の理由を説明する。一昨年には自社サイトを立ち上げた。ただ、ネット販売の売り上げに占める比率はまだ数%。自社サイト強化が課題となっていた。

今回導入した新サービスは、タブレットを使い店頭で自社サイトから商品を注文してもらうというもの。木村チーフマネージャーは「これまで『サイズ違いが店舗にない』というような場合、店員による発注作業が必要なので、顧客の手元に届くまで1週間は見込んでいた。しかし、最近は『届くのが遅すぎる』という不満が聞かれるようになっていた」と話す。

届けるまでの期間を短縮しなければ機会損失を生みかねない。そこで、店頭でタブレットから他店の在庫が簡単に確認できる仕組みを導入した。

もともと、同社のネット販売は、注文した消費者の住所に近い店舗から商品を発送する仕組み。新サービスは、タブレットから商品を検索し、店頭在庫がない商品でも、他店に在庫があれば店員が注文する。同社ではネットから申し込む「ヒマラヤメンバーズ」という会員制度があり、クーポンなどの特典が付与される。タブレットから購入する際は、ゲスト注文も可能にしているものの「会員になってから購入する人が大半」(木村チーフマネージャー)という。個人情報については、消費者が入力する。

商品の配達先は、店舗もしくは消費者の自宅。以前は商品が入荷してから店員が電話をしていたが、新サービスでは注文時に届く日を伝える。最短では翌日だ。また、タブレットにはウェブカタログの役割もある。木村チーフマネージャーは「消費者から『このサイズないの?』と聞かれて、在庫を確認しにいく手間が省けたし、消費者が欲しいブランド・サイズの商品を検索し、タブレットを見せながら接客することもできる。『接客の効率が良くなった』と店員からの評判も良い」と喜ぶ。消費者が「このサイズのシューズを全部持ってきてほしい」と店員に頼むのは良く見る光景だが、シューズを持ってくるまでに10~15分程度はかかってしまう。タブレットを活用することで、店員・消費者双方にメリットが生まれるわけだ。

店頭受け取りサービスについても、タブレットと同時に導入した。購入金額によらず、送料無料で受け取れるというもので「20~30%が利用しており、想定以上。また、店舗への馴染みが薄い顧客が多い楽天市場店でも約10%が利用している」(木村チーフマネージャー)。同社の場合、出荷は店舗から行っているため、10月からの運賃上昇を考えると、店頭受け取りの増加は経費削減にもつながっている。

「消費者の利便性を高めるために、ネットとリアルを時と場合にあわせて選べるチャネルにしていきたい」(同)。同社ではこうした取り組みを踏まえて、自社通販サイトのネット販売売上高に占める比率も10~20%まで伸ばしたい考えだ。

ジンズ、アプリで顧客データ収集

眼鏡ブランド「JINS(ジンズ)」を展開するジンズもオムニチャネル化に向けて舵を切り始めた。これまでセキュリティーの観点から実店舗では顧客情報を一切保持しておらず、結果的に100万人以上にのぼる通販サイトの会員情報が店頭の消費動向と紐づくことはなかった。しかし11月から国内の全店舗でオリジナルアプリの利用を促す。アプリ上で顧客データを登録してもらい、通販サイトとの連携を進める。今後はリアルとネットを融合して顧客基盤を有効活用していく狙いだ。

眼鏡ブランド「JINS(ジンズ)」を展開するジンズもオムニチャネル化に向けて舵を切り始めた
11月から国内の全店舗でオリジナルアプリの利用を促している

そもそもジンズでは度付き眼鏡だけでなく、パソコン用眼鏡などパッケージ商品を販売しており、こうした度数の調整が不要な商品はネット販売の成長をけん引する役割を担ってきた。しかしそれが徐々に変化している。

現在、店頭で度付き眼鏡の販売割合は7~8割程度だが、自社通販サイト「JINSオンラインショッピング」でもほぼ同じ程度の割合で度付き眼鏡が売れているという。

同社では店舗での購入時に渡す保証書の購入番号を通販サイトに打ち込むと度数情報が表示されるといった仕組みを構築。これが通販サイトで度付き眼鏡を買う際のハードルを下げている。加えて、店頭購入時にサイトで使える割引クーポンを配布し、ネット販売を後押ししている。

このように国内323店(8月末時点)の店舗網をECに活かす取り組みを以前から実施していた。この動きをさらに推進し、店舗網と自社通販サイトを融合する切り札となるのがアプリだ。

これまでジンズの実店舗では個人情報を持たないという考えのもと、名前や度数情報などの顧客データはすべてその場で破棄していた。そのためリアル拠点でのCRMの体制が整っておらず、通販サイトの会員情報を店頭と紐づけることができなかった。

提供するアプリではユーザーの生年月日や性別、住んでいる都道府県など販促に使えるデータを収集できる。そうなると今後はECと店頭の顧客情報を同じデータベースで管理できるようになるというわけだ。同社デジタルコミュニケーション室マネジャーの向殿文雄氏は「当社はCRMでは後塵を拝してきた」とする。その一方で、「顧客データはこれから貯まっていく」と期待を寄せる。

ジンズの店舗とネットの連動を推進する切り札がアプリ
アプリで顧客データを収集するジンズ

ユーザー側はアプリを通じて眼鏡の保証書や度数情報を管理できるほか、眼鏡の試着やAIによる似合い度判定、商品検索やお気に入り保存、さらには現在地の近くの店舗を検索して在庫状況を確認することも可能になる。

ユーザーはアプリに自身のデータを残しておくことでリピート購入時に店頭で改めて度数を調べる必要がなくなるため、店舗での再購入がスムーズになる。通販サイトでの購入もこれまではユーザーが保証書に記載されているデータを自分で打ち込んでいたが、アプリ内の保証書のデータを使うと同じ度数の商品を通販サイトで簡単に購入できる。アプリをフックにリアルもネットも購入がより便利になるのだ。

各店舗でも従業員に教育を行い、アプリの利用を促進することの全社的なメリットを説明。社内で目的を共有し、モチベーションを落とさずに店舗オペレーションを進めていくのが目的だ。

同社ではオムニ化を進め、今期(2018年8月期)EC売上高で前期比9.5%増の13億円を指す考えだ。

オイシックスドット大地・奥谷COCOが語る「オムニチャネルの可能性」

オムニチャネルでは『顧客体験』を深めていく接客が必要になる。それにより、今後はECも店頭も成長する可能性があると考えている」。オイシックスドット大地でオムニチャネル施策を統括する執行役員総合マーケティング部部長COCO(チーフオムニチャネルオフィサー)の奥谷孝司氏はオムニチャネルの可能性についてこう話す。アプライド・プレディクティブ・テクノロジーズ(APT)が10月4日に開催したメディアセミナーに登壇しオムニチャネルをテーマに語った。

オイシックスドット大地でオムニチャネル施策を統括する執行役員総合マーケティング部部長COCO(チーフオムニチャネルオフィサー)の奥谷孝司氏
オイシックスドット大地の奥谷孝司氏

奥谷氏によれば、オムニチャネル化に伴って、「お客様がブランドとつながりたいと思うかが問われていく」という。商品の検討から購入、使用、消費までの「カスタマージャーニー」は一過性のものと考えるのではなく、繰り返し使ってもらうことでブランディングにつながるとされてきた。その中で、アプリが事業者と顧客をつなぐ役割を果たしてきた。アプリを使ってもらうには「企業が用意するブランドや、顧客の口コミ、ファン同士のつながり、購入後にどう感じるかまで、包括的な顧客体験を考える必要がある」と指摘する。

オムニチャネルの将来像を予想する上で、米国のビジネスモデルが参考になる。例えばファーストフード店「ザ・メルト」ではネットで注文し、店頭受け取りと配達サービスを展開。ユーザーは自分で生成したQRコードを使って店頭でクレジットカード決済が可能となる。奥谷氏は「購入と検討をアプリで完了させて、お客様の食べる時間を増やした。お客様にとっては消費がもっとも重要。オムニチャネルではITを通じて便利な消費体験を提供できる」と話す。

また、アパレルの自動定期購入サービスを行う「ステッチ・フィックス」は毎月複数の衣料品を提供。顧客は毎月届く衣料品の中から購入する商品を選び、自由に返却が可能だ。奥谷氏は「お客様とITでつながることで顧客体験のうちの『使用』『消費』のデータを収集し分析ができる。精度を高めれば満足度向上につながる」と見る。

さらに、奥谷氏は米国で実際にオムニチャネルを体験したという。男性向け衣料品「ボノボス」では、2人の店員とiPad、試着用サンプルが設置されており、試着したアイテムをタブレット端末で注文すると翌日に届いたという。「店員は洋服をたたむ作業やレジ業務がなくなり、接客を真剣にやる。IT化で店員の仕事が減るといわれるが、そんなことはない」(奥谷氏)と話す。このほか、米国アマゾンが運営する実店舗「アマゾンブックス」にも訪れた。「アマゾンの世界感を説明する店舗。本は売らず『アマゾンエコー』などプライム会員のメリットを体験できる場所になっている」(同)とした。

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