実はネット通販の初心者だらけだった? ネット消費率17%からみるECビジネスの今後
みなさんは「ネットライフ1万人調査」という調査をご存じでしょうか。全国の16歳~80歳の男女1万人にアンケートを実施し、毎年10月中旬に『日経MJ』で公表されているデータのことです。今年も10月18日に調査結果が公表されました。今回で6回目を迎える調査ですが、過去のネット消費率を比較したら面白いトレンドが発見できるのではないかと思い、2013年頃からの集計結果を引っ張り出して、検証してみることにしました。
私は仕事柄、この「ネットライフ1万人調査」の調査結果を毎年ウォッチングしており、中でも特に、1年間の個人消費のうちネット経由で消費された金額を示す「ネット消費率」に注目しています。理由は、インターネットで買い物する消費の割合を知ることで、ネット通販が私たちの生活にどのくらい入り込んでいるのか把握できるからです。
下の表は、個人が1年間の消費に使った「平均消費総額」と、ネット経由で買い物やサービスを利用した「平均ネット消費額」、そして、消費総額における「ネット消費率」の3点について、2013年から2017年までの推移を示したものです。
平均総消費額 | 平均ネット消費額 | ネット消費率 | |
---|---|---|---|
2013調査 | 1,415,100円 | 215,600円 | 15% |
2014調査 | 1,256,200円 | 179,200円 | 14% |
2015調査 | 1,300,100円 | 210,400円 | 16% |
2016調査 | 1,261,700円 | 197,000円 | 16% |
2017調査 | 1,266,600円 | 212,500円 | 17% |
この数値を見て最初に驚かされたのは、総消費額全体に占めるネット消費率が、5年前と比較しても“ほぼ横ばい”という点です。14%~17%と数値の変動がほとんどありません。
経済産業省が2016年に行った電子商取引に関する市場調査によると、2013年のBtoC市場が11兆1660億円で、2016年には15兆1358億円となっており、5年間で市場規模は約1.35倍になっています。
にも関わらず、ネット消費率にさほど変動がないのはどういうことなのでしょうか? そこで、私は改めてネットライフ1万人調査のデータを検証してみることにしました。調べていくうちに、調査段階で“誤差”が生じやすい事情があることがわかりました。
1年間にネットで使った金額、覚える?
まず、1つの大きな問題は「ネットで1年間買い物をした金額を正確に答えられる人はいない」という点です。アマゾンや楽天市場、さらには書籍や動画、チケット購入など、今の時代、ネットで商品やサービスを利用する機会が増加しています。さらに、スマホによるネット通販の利用により、気が付かないうちにネットサービスを利用しているケースも増えていると思います。
そうなると、消費者側は何にお金を使ったのか細かく覚えていない可能性が高く、ましてや年間使用額となると、かなりアバウトな金額しか答えられないのではないでしょうか。何にお金を使ったのか覚えていない人も多いと考えられますし、ネットで使った金額を回答する際、ほぼ毎年、同じ金額を答えてしまっている可能性もあります。
しかし、その誤差を考慮したとしても、EC市場が1.35倍に成長している中で、ネットの消費額の比率が「ほぼ変わらない」というのは まだ納得できないところがあります。たとえアンケートにアバウトな金額を回答したとしても、私たちの生活の中で、ネット経由で購入しているサービスや商品はもう少し多いように思えます。
「ネットに不慣れな人」を見過ごしてはいけない
そこで私は、1つ仮説を立てみることにしました。それは、「ネット通販二極化説」です。
ネット通販やネットビジネスに関わる私たちにとっては、ネットを通じて頻繁に商品を購入することは当たり前です。しかし、ネットにさほど関わっていない一般の消費者は、私たちが想像するよりもずっと、ネット通販に対して距離を置いているのではないかと思います。
総務省の調査では、2年前の時点で「全年代で7割以上の人がネットショッピングの経験者」と発表されていますが、ネットショッピングを「したことがある」のと「よくしている」とでは、状況が大きく変わってきます。つまり、EC市場1.35倍の成長率の中には、ネット通販のヘビーユーザーが買い物した数よりも、年に数回しかネット通販を利用しない不慣れな人の数の方が圧倒的に多く存在しているとも考えられるのです。
事実、ネットライフ1万人調査では年齢の人口分布にあわせて調査を行っているため、比較的ネットに不慣れな高齢者に調査結果が偏ってしまうところがあります。その結果が15%前後という低いネット消費率につながっていると考えられます。しかし、見方を変えれば、ネット通販に不慣れな人は、世の中にまだまだ多く存在しているとも言えます。
「新しいお客様」のためのショップ作りを
Eコマースでは、私たちネットショップ運営者が想像している以上に、たくさんの初心者のユーザーが買い物をしているのではないでしょうか。
検索キーワードから商品を探したり、カード決済で商品を購入したりできるのは、我々がネットショップ運営者という特殊な仕事に携わっているからであって、これだけネットが普及した今の時代でも、一般の人にとっては、ネット通販で商品を購入するというのは、非常にハードルの高いことなのかもしれません。この業界に携わる人は、こうした一般の人とネットに対する考え方に大きな開きがあることを、もっともっと強く自覚する必要があると思います。
日頃からわかりやすい導線のホーム―ページ作りを心がけ、ネット通販初心者の不安を解消するコンテンツ制作を行っていく必要があります。
ネット通販初心者への施策は「もうこれで十分」ということはありません。新しいお客様が毎日ネットショップにやって来ることを想定し、ページや戦略の改善を繰り返していかなくてはいけません。
自分たちがネットビジネスにどっぷりとつかってしまうと、初心者の気持ちをついつい忘れてしまうこともあり、いつの間にかページ作りが乱雑になってしまった……そんなネットショップも少なくありません。そういった事情を考慮すると、ネット消費率「14%~17%」という低さも、納得できる結果と言えるのではないでしょうか。
筆者出版情報
SDGsアイデア大全 ~「利益を増やす」と「社会を良くする」を両立させる~
竹内 謙礼 著
技術評論社 刊
発売日 2023年4月23日
価格 2,000円+税
この連載の筆者 竹内謙礼氏の著書が技術評論社から発売されました。小さなお店・中小企業でもできる、手間がかからない、人手がかからない、続けられそうな取り組みを考える64の視点と103の事例を集大成。SDGsに取り組むための64の視点と104の事例をまとめています。