竹内 謙礼 2019/12/9 8:00

BtoB事業を始めるEC企業が増えている。ホテルに寝具を卸したり、日用品を百貨店に卸したり、今まで個人客にネット販売していた商品を、法人企業に売り込む動きが以前よりも活発化している。最近では自社のITノウハウを、企業に提供するケースも多く見受けられるようになった。ホームページ制作やリスティング広告の運用代行をはじめ、コンサルティングなどを手掛けるネットショップも増えてきている。

背景にはeコマース事業の頭打ちがある。大手企業が参入して価格競争が激しくなると、中小のネットショップは売上や利益の確保が難しくなる。新たな収入源として、自分たちが持っているリソースを法人企業に提供しようという動きが出てくるのは、むしろ自然な流れと言ってもいいだろう。

MAは中小ECの救世主?

しかし、そう簡単にBtoBを展開できない事情がネットショップにはある。最大の問題は人材不足だ。ネットショップ運営に時間と手間が取られてしまい、新しく取引先を切り開いていく人的リソースを割くことができない。展示会で見込み客と接触したり、DMで資料請求をさせたりすることができても、人手不足でその後のアプローチがおろそかになってしまい、ビジネスチャンスを逃してしまうのである。

そこで注目されているのが「MA(マーケティング・オートメーション)」である。わかりやすく言うと「自動にマーケティングを行い、顧客のスコアリングやWebトラッキングなどを駆使して見込み客を掘り起こし、ホットなお客様にアプローチするためのツール」である。

そんなうまい話、あるわけないだろ!

そう思われるかもしれないが、実はこのMA、ネットショップ運営者の間では馴染みがないが、世間一般の企業の間ではここ数年で急成長しているサービスの1つだ。仕組み的にはオートステップメールで見込み客をファン化していくやり方に近い。つまり、今までBtoCでやってきた優良顧客の育成方法を、BtoBに転用したのがMAなのである。

営業や展示会でお客様と接触し、そのリストを元にメールでアプローチする。有益な情報を定期的に配信して、見込み客を育て上げ、そのお客さんを「商談したい」という気持ちにさせ、最後は営業が乗り込んでいく……というのが、MAの大ざっぱな流れである。ネットショップの運営経験がある人ならイメージしやすいはずだ。

MAはすでに390億円市場

見込み客へのアプローチや優良顧客への引き上げだけではなく、AIを用いて適切なコンテンツを配信したり、セミナーや展示会などのオフラインとデータをリンクさせたり、最近のMAは非常に優秀だ。国内外の大手IT企業も次々に参入しており、矢野経済研究所の調査によると、MA市場は2024年には940億規模に成長すると言われている。

2018年	49700
2019年(見込み)	66800
2020年(予測)	83800
2021年(予測)	94600
2022年(予測)	109000
2023年(予測)	120500
2024年(予測)	133000
MA市場規模推移・予測(事業者売上高ベース)
矢野経済研究所の資料をもとに編集部で作成

しかし、初期費用で数百万、月額利用料で数十万円という高額なものが多く、中小企業では手が出しにくい料金がネックだ。また、顧客を育て上げるまでのストーリー作りや、コンテンツを制作するスキルが伴わず、「MAは導入したけど、うまく使いこなせない」という企業も少なくない

MAの課題を解決するサービスとは?

そんなことを考えていたときに、ラクスの「配配メールBridge」を知った。2007年から運用しているメールマガジンの配信スタンド「配配メール」をBtoBに特化させて、MA化したサービスだ。クラウド事業本部マーケティングクラウド事業部石川太郎さんによると、「配配メール」のユーザーが他社のMAを導入してみたものの高機能過ぎて使いこなせず、「やっぱり配配メールの運用1本に注力する」と言って戻ってきたことがあったそうだ。

そこで、従来の配配メールをカスタマイズし、メール配信で見込み顧客を簡単に見つける機能に特化してプラン化したところ、非常に使いやすくてコスパも良い簡易MAになったという。さらに「本格的なMAに準じた機能も増やして欲しい」という要望を受け、リリースしたのが「配配メールBridge」だそうだ。

目指したのは初心者向けのMA

「配配メールBridge」が目指したのは、中小企業でも使いこなせる初心者向けのMAだ。ほとんどの中小企業はマーケティング部という部署すらなく、片手間でマーケティングをしているのが実状。機能が多すぎても使いこなせない。「コレとコレだけやれば、もうOK」というシンプルな仕組みの方が使いやすい。

「配配メールBridge」の主な機能は「見込み客のセグメント」と「適切なタイミングでアプローチ」の2つだ。「見込み客のセグメント」は、複数のメールの配信結果から横断して顧客をリスト化する機能だ。これにより、どのくらい“アツい客”なのかを可視化できるようになり、案件の検討度合いによってステータス分けしたリストも簡単に制作できる。

「適切なタイミングでのアプローチ」は、自社のホームページやオウンドメディアに見込み客が来訪した際、自動でメールを配信することができる機能だ。例えば、料金ページにアクセスしたお客様には、キャンペーンのステップメールを配信し、比較コンテンツを閲覧したお客様には、資料請求の案内メールを出す……といったことが可能だ。お客様のその時の心理状況や環境をデータから読み取り、自動的に適切なメールを配信できるのだ。

また、指定したページに顧客が来訪したことを営業担当やリード管理者にメールで通知することもできるので、見込み顧客の検討意欲が上がるタイミングを検知し、適切なアプローチができる。

◇◇◇

モール側の規制が年々厳しくなり、大手企業が次々に参入してくるEC業界の将来は、決して明るいものではない。自社サイトの運営に舵を切る企業も多いが、SEOとリスティング広告を使いこなせるのも、やはり大手企業やスキルの高いIT企業に限られる。

そのような背景の中、中小規模のネットショップにとって、BtoBの攻略は、1つの突破口と言えるのではないか。少人数で大きな金額を動かせるし、安定した取引先を見つけられれば、価格競争にさらされるネットショップ運営よりも売上は安定する。

ネットショップで培ったITスキルを用いてMAを使いこなせば、アナログなBtoB企業よりも高いパフォーマンスを発揮できる可能性は高い。少人数のネットショップで、BtoB事業を展開しているけれども「もうちょっと効率よく営業できたら」と思っている企業にとって、MAの導入は急務と言って良いだろう。

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