尺田 怜 2020/4/13 8:00
D2C&サブスク ビジネス相談室

「D2C」や「サブスクリプション」が話題です。「D2C」は「Direct to Consumer」の略でメーカー直販を指します。「サブスクリプション」は定額サービスのこと。これから「D2C」や「サブスクリプション」の事業に新規参入したい場合、何から手を付ければ良いのでしょうか? また、既存事業から切り替える際には、どんなことが必要になるのでしょうか? 

ここは、そんな疑問を抱えたEC事業者たちが集まる場所。参加しているのは菓子製造・卸を手がける企業の木村部長と、化粧品メーカーの石井社長。ファシリテーターとアドバイザーが、D2C、サブスクリプションの新規参入に必要なシステムやツールの紹介、運用上のポイント、売上を伸ばすための考え方などをアドバイスします。

相談者

木村部長 菓子の製造、小売店舗への卸販売企業の新規開発部長。年商は約100億円。売上の伸び悩みからD2Cビジネスへの参入を検討中。

石井社長 女性向けスキンケアコスメの単品通販事業者。年商10億円。次の目標は30億円の壁の突破。

アドバイザー

アドバイザー吉村「やずや式EC通販基幹CRM」「やずや式顧客診断分析システム(CPM/顧客育成ポートフォリオ)」の考え方を伝える伝道師。

ファシリテーター

尺田 GMOシステムコンサルティングでオムニチャネル対応のEコマースシステムのエバンジェリストとして活躍している。

そもそも「D2C」って何なの?

尺田 みなさんとのディスカッションを円滑に進めるために、ファシリテーターから、相談者のお2人のご相談の基礎となる事業モデルについて確認させていただきます。

木村部長が検討しているダイレクトに顧客との関係性を持つビジネスモデルは、日本では「D2C 」または「DTC」と呼ばれていますが、このビジネスモデル発祥の地である米国では「デジタル・ネイティブ・バーティカル・ブランド(Digitally Native Vertical Brands/DNVB)」と言われています。この言い方の方がビジネスモデルをつかみやすいと思いますが、ここでは、日本でよく使われている「D2C」で進めます。

D2Cのビジネスモデルの特徴はいろいろありますが、ポイントはサプライチェーンと顧客との接点です。自らが商品・サービスを企画・製造するメーカーとして、主にECを通じて顧客に直接販売すること。その後、ポップアップショップなどを通じて接点を増やしていくことも多いです。自社工場を有していない場合も多々ありますので、広い意味ではODM(製造委託)もカバー範囲となります。

また、顧客との接点と体験(CX)やCRM(顧客関係管理)について、顧客データを最大限活用することがこのモデルの特徴であり強みです。ECサイトやSNSを通じて、自社のコンセプトに共感してくれる顧客に対し、コンタクトポイントを活用します。その理由は、企業から発信するだけでなく顧客と価値を共有することで、自社商品やサービスの改善に最大限活用するためです。このためには、今まで以上にすべてが顧客視点で改善・提供されることが必要です。

木村部長 メーカーが顧客にECなどで直接販売できれば、それでD2Cだと捉えていました。今までの通販ビジネスとどう違うのか曖昧で、時代に即して言い方を変えているだけだと思っていました。

尺田 そうですね。昔からある製造直接販売とどう違うのかとか、ファストファッションのSPAとどう違うのかなど、ビジネスモデルの定義は難しいのですが、今後のディスカッションを経て自社のビジネスモデルとして定義していただければと思います。

サブスクリプション=頒布会?

尺田 次に、最近巷で話題の「サブスクリプションモデル」です。動画配信の「Netflix」、音楽配信の「Spotify」、ECのフルフィルメントサービスからコンテンツサービスへ拡張している「Amazon Prime」など、デジタル系のサービスの事例をよく目にするかと思います。一方でファッションや、車、家具、家電など耐久消費材系のサブスクリプションもあります。

今回のお2人の商品サービスは共に、食べたり使ったりするときにしかベネフィットを実感できないものですから、より一層、顧客視点が重要になってきます。

サブスクリプションサービスで気を付けたいポイント

ポイント① 商品・サービス
顧客のニーズに応じて商品・サービスの内容を絶えずバージョンアップしていく必要がある。また、一定の範囲で取り換えやアレンジを可能とし、多様な商品・サービスを選択できることが求められる。

ポイント② 費用、課金方法
基本は月額一定金額での課金でも、1つのメニューでは顧客ニーズを満たせないので、松・竹・梅のようなコース設定もLTVの向上には重要。

木村部長の業界で、これに近いビジネスモデルが昔からあるのはご存知ですか?

木村部長 頒布会でしょうか。毎月のお届けするという形態が似通っています。頒布会も3パターンほどありますよね。

頒布会の3形態
パターン① 毎月、同じ商品アイテムのSKU(味、色、デザインなど)を変えてお届けするパターン
集める楽しみがあり、コレクション化が期待できる。
パターン② 同じ商品カテゴリーをシリーズ化してお届けするパターン
届ける商品を毎月明示してお届けするパターン。ワインや日本酒などの頒布会がこれにあてはまる。
パターン③ 多くのアイテムからランダムにセレクトしてお届けするパターン
コンシェルジェがセレクトした旬の食材キット、お米や味噌、お菓子など。
頒布会のいろいろ

尺田 そうですね、そもそものビジネスモデルのヒントがそこにありそうですね。次に石井社長、現在の事業をサブスクリプションモデルとして捉えみるといかがでしょうか。

石井社長 お客様にお届けするコスメ関連の商品は、届け出認可や製造ロットの関係もあって、成分などの改訂がない限り、パッケージを含めて基本的にいつも同じですので、厳密に言えば定期購入であって、サブスクリプションではないですね。ただ、マーケティング的に「定期通販」という言葉はネガティブなイメージが強くなってきたので、「サブスクリプション」と言い換えれば顧客にも新鮮味を持っていただけてリブランディングできるかなと考えていました。

尺田 そうですね。サブスクリプションモデルというバズワードをコピーしても、顧客にとって便利で納得のいくサービス形態でなければ、お客様が当惑すると思います。サービスの伝え方が重要ですね。

それではビジネスモデルについて整理できたと思いますので、次回は事業計画と運用体制についてディスカッションを進めていきましょう。

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