尺田 怜 2020/9/14 8:00

ここはD2C(Direct to Consumer)やサブスクリプションの事業に進出しようとしているEC事業者のための相談室。菓子製造・卸を手がける企業の木村部長と、化粧品メーカーの石井社長が、ファシリテーターの尺田さん、アドバイザーの吉村さんからレクチャーを受けています。今回は「獲得した顧客をいかに維持するか」 についてディスカッションするようです。

木村部長 顧客になっていただいてからのリピート施策ということですが、メール配信くらいしか思いつきません。私自身は通販会社から来るメールはほとんど読みませんが……。

石井社長 弊社でもメールの開封率は決して高くはないです。それでも、ここに課題と可能性があると感じています。顧客とのコミュニケーションを充実させることで、クロスセルなど効果を実感できることもあります。一方で、CRM(Customer Relationship Management/顧客関係管理)にどんな効果があるのかが見えないことや、新規顧客の獲得よりはコストは低いものの、それなりの費用は発生しているので評価が難しいなと感じています。

アドバイザー吉村 そうですね、顧客としてお付き合いが始まってからのコミュニケーションであるCRMには、皆さん苦心されていると思います。特にサブスクリプションモデルでは解約率がKPIになるので、新規顧客は解約(=離脱)させないことが目標になります。ECシステムで扱うCRMに必要なデータは下記の通りです。

●顧客管理機能
  • 顧客マスター
  • 顧客マスター変更履歴
●受注管理機能 受注データ、受注明細データ
  • 出荷履歴
  • 返品履歴
  • 定期・サブスクリプション契約ヘッダ(マスター)、定期・サブスクリプション契約明細
  • 請求履歴
  • 入金履歴
  • 督促履歴
●コミュニケーション管理機能 媒体マスター
  • オファー履歴
  • コミュニケーション履歴(メール・メッセージ・DM発送・同梱など)履歴データ
  • ポイント履歴
  • カタログなどの請求履歴
  • (2ステップなどでは)サンプル請求履歴
●商品管理機能
  • 商品マスター

注意事項としては、どんなカテゴリーと項目で登録、保有しているかによって、連携データから導き出だされるデータに差異が出ることです。

尺田 CRMのシナリオ実行に必要なデータを、ECシステムからどれだけ取得できるかということですね。ECシステムの機能では対応しきれないコミュケーション設計にはMA(マーケティングオートメーション)ツールやBIツールも必要になってきます。

  • 顧客購買履歴にまつわるデータ集計・抽出……ECシステム
  • コミュニケーションにまつわる集計・抽出、分析……MAツール
  • 広告配信も含めた顧客体験フルファネルでのデータ連携、集計・分析、抽出……BIツール

というように、ツールを使い分ける必要があります。また、データ連携のための顧客キーを何にするかは、SNS系のプラットフォームへの出稿やメール以外でのコミュニケーションを展開する場合、システムの仕様面での確認が必要です。連携方法はAPIがベストだと思います。IDをどう保有しているかは、将来的にOMO(Online Merges with Offline)に取り組む際にも重要な基盤になります。

石井社長 ECシステム、MA、BIの3つのシステム、もしくは、広告配信システムを連携するためのメインのキーは、顧客管理機能のユニークIDで大丈夫でしょうか? その場合、ECシステムでのSNSのIDとの連携はどうなるのでしょうか。

尺田 はい。ECシステムで保持している顧客IDをメインにすることをお勧めします。顧客はECシステムを意識して購買しているわけではないので、顧客になるまでの履歴も含めて見える化できるとベターです。顧客IDの統合の仕方としては、ID情報を個別に保有してIDをつないでいくという方法なら、IDプラットフォームが増えた場合でも対応できます。

「マイページ」をどう考えるか

石井社長 弊社ではCRM事例を勉強するために、10数社のサービスを利用して社内で共有しています。その中で、コミュニケーションメールでコンタクトした際、マイページに行くと、私向けにパーソナライズされていたサイトがありました。これはとても嬉しい機能ですね。弊社では解約率を抑えたいのでマイページ機能を顧客に公開していないのですが、自分が感動したサービスなので、SNSなどでのコンタクトが増えた際にはぜひ提供したいと感じています。

また、サイトのWeb接客ツールで各種情報の変更や商品お届けの確認などが対話形式でできると、やりたいことがすごく簡単にできたように感じます。SNSのチャットを利用して、選択肢を表示した状態で指示してくれるのも、負荷が軽く感じます。

アドバイザー吉村 マイページ機能は、心理的負荷のない購買体験を提供するというカスタマーエクスペリエンス(CX)の視点からもとても大切です。顧客が自身の希望の通りにストレスなく操作できるって重要ですよね。

そもそも、都度購入するより便利で簡単で、顧客にとって価値のある購買体験だからこそ、定期購入という購入形態を提供しているわけです。事業社側にも運用面でのメリットがあるからお得価格で提供しているのですから。「双方にとってハッピーなのでご利用ください」というのが出発点のはずです。であれば、スキップや解約も、顧客がやりやすいようにするべきです。

マイページで実施できる商品やキャンペーンなどの内容を運用管理側で設定、変更できれば、さまざまな施策のテストができます。マイページはECシステムの中でも重要な機能ですね。

CRMで何をするの?

木村部長 CRM施策の展開はどうしたら良いのでしょうか。

アドバイザー吉村 まず視点を整理しましょう。顧客管理データの活用には以下の2つがあります。

  • マーケティング要素(顧客個人に焦点をあてたペルソナや顧客体験)
  • 戦略要素データ活用(事業全体の顧客構成、顧客セグメント)

購買後の顧客セグメントは「新規顧客」「既存顧客」「優良顧客」「離反顧客」で視点を変える必要があります。顧客セグメントごとの特徴をまとめると、

  • 新規顧客からは利益は短期的には創出されない
  • 顧客は離脱する
  • 優良顧客に育成するには時間がかかる
  • 顧客増加には限界が訪れる

ということが言えます。CRMで何をするかですが、第一に自社の事業構造を見える化することですね。見える化はこれまでの経緯、現在、そしてこれからを俯瞰し、診断できるようにすることです。まずは売り上げの基盤となる顧客数を見える化し、次に顧客数の増減の原因を探ります。それができたら増減の原因に対してコミュニケーション施策を実施します。ここで言うコミュニケーション施策とはキャンペーン施策ではありません。

顧客との接触タイミングは、顧客の心理的なポジションが異なる下記のタイミングから考えます。

  • 購入後、商品お届けまで
  • 購入後、商品お届けで、開封、初めてのご利用の際
  • 初めてのご利用から、1週間まで
  • 次回、購入、お届けの、一定期間
  • 購入後、28日もしくは、30日
  • 毎月、定期的な日程(初のお届けの日と同じが良い)
  • 90日後まで
  • 240日(8か月後)まで
  • 365日まで

コミュニケーション施策の内容としては、手紙/DM、メール、メッセージなど。適切なチャネル(SNS、Web接客など)を選んで実施します。時間帯についても購入時間帯に合わせてみたり、顧客行動時間(通勤時間帯、昼休憩時、就寝前)に合わせてみたり検討が必要です。

コミュニケーション施策を考える上で大切なのは「顧客が嫌がることをしない」ということです。例えば、採算が悪い顧客を差別したり、顧客の単価を無理やり上げたりといったことです。CRMの基本は顧客の購買体験を維持向上させること。コミュニケーションを考えることであり、心理学的な分野です。いろいろと書籍も出ているので、お読みになると良いでしょう。

木村部長 そこまできめ細やかに展開する必要があるのですね。一斉メール程度かと思っていました。

石井社長 弊社も一斉メール配信で良かった時もあったのですが、顧客の反応がどんどん落ちてきていきました。フォローメールは開封すらされなくなってきたので、ついついキャンペーンオファー的な過剰な件名になってしまいます。

フォロー施策の7つのシーン

アドバイザー吉村 次に、顧客行動からのフォロー施策ですが、次の7つのシーンでコミュニケーン設計をすると良いと思います。

  1. 会員登録フォロー
  2. 購入顧客フォロー
  3. 休眠・離脱顧客フォロー
  4. 顧客パーソナルイベントフォロー
  5. ポイント顧客フォロー
  6. カゴ落ち顧客フォロー
  7. 閲覧後離脱フォロー

木村部長 石井社長の会社では、こういった施策はどの部署で設計運用していますか?

石井社長 マーケティングは社内で行い、カスタマーサポートについてはファーストコンタクトを協力会社にお願いし、重要な案件のみ社内で対応しています。例えば、定期縛り後の解約については電話のみで対応しています。解約防止率をKPIにして、協力会社とシナリオを見直したりオファーを変えたり毎月工夫しています。ここでも、顧客態様がECシステムで見える化できていると対応に役立ちますね。

あとは顧客の解約の理由を登録できて顧客の声として活用できると良いのですが、ASPシステムでは登録するのもデータを抽出するのもとても大変です。

アドバイザー吉村 そうですね、顧客の声を活用するのは1つのシステムではなかなか実現できません。電話の音声やチャットの履歴をECシステムに保存できないので、他のシステムと連携する必要があるからです。連携においてはコミュニケーションチャネル毎に顧客IDを連携できること、履歴管理とカテゴリー設定の自由度が高いことなどが必要です。これは、カスタマーサービスだけではなくヘルプデスクでも同様です。

尺田 音声系のCRMについてはチャットやメッセンジャーの話題もありますので、フルフィルメントのカテゴリーと捉えて、次回、ディスカッションしていきましょう。

 

この連載の登場人物

●相談者

木村部長 菓子の製造、小売店舗への卸販売企業の新規開発部長。年商は約100億円。売り上げの伸び悩みからD2Cビジネスへの参入を検討中。

石井社長 女性向けスキンケアコスメの単品通販事業者。年商10億円。次の目標は30億円の壁の突破。

●アドバイザー

アドバイザー吉村「やずや式EC通販基幹CRM」「やずや式顧客診断分析システム(CPM/顧客育成ポートフォリオ)」の考え方を伝える伝道師。

●ファシリテーター

尺田 GMOシステムコンサルティングでオムニチャネル対応のEコマースシステムのエバンジェリストとして活躍している。

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