尺田 怜 2020/10/28 8:00

ここはD2C(Direct to Consumer)やサブスクリプションの事業に進出しようとしているEC事業者のための相談室。菓子製造・卸を手がける企業の木村部長と、化粧品メーカーの石井社長が、ファシリテーターの尺田さん、アドバイザーの吉村さんからレクチャーを受けています。今回は最終回。決済、フルフィルメント業務、カスタマーセンターなど、顧客とのコンタクトポイントとしても役割が大きい部門について語ります。

①決済─クレジットカード、後払い、ID決済、代引きは?

尺田 はじめに決済サービスについてディスカッションを進めていきましょう。木村部長は普段、ECでお買い物するときの決済は何をお使いですか?

木村部長 一番よく使うのはクレジットカードです。妻も楽天市場にクレジットカードを登録していて、楽天以外では後払いを選択してコンビニで支払うことが多いようです。大学生の娘はZOZOTOWNでよく買い物していますが、家族カードを持たせていないので後払いを利用しています。返品することも結構あるようですし、使用額を管理しやすくて良いと言っていました。

尺田 娘さんは「ZOZOツケ払い」を利用していらっしゃるんですね。石井社長のECサイトでは、どの決済方法の利用が多いですか?

石井社長 一番多いのはクレジットカード決済です。次がコンビニで支払える後払い決済です。後払い決済は新規顧客にも有効かなと思っています。以前は代引き決済も導入していたのですが、受取拒否の発生が多くなってきているので止めています。今後はID決済を導入してみたいのですが、システム面と決済代行会社を移行しなくてはいけないようなので迷っています。

尺田 EC事業者やサブスクリプション事業者としては、顧客体験の視点と運用面からクレジットカード決済は外せません。ECシステムに不正検出サービスを連携できれば安心です。後払い決済については歴史のある通販会社では自社で実施されていますが、自社でやるとなると当然督促や回収の手間がかかります。後払いの決済代行ならAPIリアルタイム与信(オーソリ)が充実してきて手間も削減されていますので採用しない理由はないですね。消し込み作業が実質的に発生しないので、運用面でもかなりの工数が削減できます。ただ、後払い決済代行の手数料率は、クレジットカード決済と比較すると高めです。

逆に最もおすすめしないのは代引き決済です。お話のとおり返品や受取拒否の発生頻度が増加しており、その際の決済手数料と返品送料は事業者負担になるので、配送費用すら回収できないことになります。

木村部長 決済手段が多いほどコンバージョンが改善するという情報をよく目にしますが、ID決済サービスはどうでしょうか。

アドバイザー吉村 ID決済サービスが自社のユーザーの利用シーンに合うのであれば、可能な限り導入すべきです。決済手段は利用者にとって身近で利用しやすいものが選ばれます。クレジットカードの情報を登録するのが手間と感じる人でも、ID決済が利用できることで心理的ハードルが下がることが期待できます。また、一部のID決済では、事業者の負担なしで購入者にポイントを付与するところもあるので、顧客にとってはお得感もあります。

これから各SNSがショッピング機能を持つようになると思いますので、SNSのID決済にも注目してもらいたいですね。SNS ID連携や決済を導入することは決済の利便性を高めるだけでなく、CRMの面でも有意義です。ただし、ECシステムのバックオフィスの機能面、運用面から言えば、プラットフォーム系のID決済は、顧客のID決済管理メニューとステータスの連携ができないことがあるので注意が必要です。

また、各ID決済のEC事業社側の管理画面の仕様やUIが使いにくいことがあります。改善要望を出しても改善されることは期待薄なので、決済会社次第になりますが、API連携でECシステムのバックエンド機能から連携するのが現実的です。

一方で、決済代行会社でサービス連携できていれば、管理画面は統一されているので大丈夫ですが、決済代行会社のゲートウエイ分の手数料は追加で加算されます。スタッフがバックオフィスで2つのシステム(=UI)の運用管理画面を操作すると間違いが発生する可能性が高くなるので、少々費用が高くても組み込まれたものを導入すべきです。

石井社長 ECシステムのリプレースに合わせて、決代行済会社も再検討した方が良さそうですね。

尺田 決済手段の多様化という観点ではそうですが、既存のクレジット決済代行会社の変更は余程のことがない限りおすすめしません。決済代行会社によって異なりますが、基本的に取引データに連携しているクレジットカード情報の移行は可能ですが、現在の決済代行会社との交渉やそのコスト、スケジュールの調整などが意外と大変です。できれば決済代行会社を追加する形で、カードの有効期限が切れた際に新決済代行会社へデータを再登録いただくのがスムーズかと思います。

②配送・フルフィルメント─サブスク事業ならではの要件も

尺田 次に配送・物流にお話を進めていきましょう。木村部長の娘さんはZOZOTOWNをご利用だそうですが、商品の受取と返品はどうされているんですか?

木村部長 自宅に届くときもありますが、友人と一緒に買うこともあるらしく、一人暮らしの友人宅近くのコンビニで受け取ることもあるようです。試着して気に入らなければ迷わず返品しているようです。私たちの世代は店舗に行って試着するのが当たり前でしたが、便利になりましたよね。

尺田 そうですね、アパレルはこれからもいろいろな購入の仕方が提供されていくので、進化のスピードが速いと思います。また、サブスクリプションモデルで、消費型ではなくレンタル利用型の場合は、返品物流が基本になるので、返品回収時期の告知と調整、新規商品の発送と回収、回収後の検品・クリーニング、在庫への反映などなど、ECシステム側にも必要な機能が多くなります。石井社長は発送や在庫管理で現状とお困りのことはありますか?

石井社長 一番は返品ですが、同梱物についても悩んでいます。同梱物はオウンドメディアとして重要度が高いと考えているのですが、今のシステムだと配送時の同梱物のセット指示の自由度が低いです。現在は購入回数別にセグメントを分けて、3PL会社で同梱物を事前にキット化して入れてもらっているのですが、もっと細かく、その時々で「このお客様にはこのセットを」というようにアレンジできたら良いなと思っています。

木村部長 プレゼントやギフト需要にはどのように対応していますか? 弊社の卸先ではお中元やお歳暮、母の日などのギフトキャンペーンを実施しているので、ECサイトでもその機能は必要だと思っています。

石井社長 弊社では熨斗(のし)やラッピングサービス、名入れは実施していないですが、御社の商材はお菓子ですから検討された方が良いですね。他社さんの事例だと、誕生月などにお名前を入れたメッセージカードを同梱する施策が好評のようです。個別で印字する機能はギフトならより一層欲しいですね。

木村部長 弊社は自社発送で対応できないか検討しています。実際の運用管理にはどんなコストが必要でしょうか。

石井社長 弊社は創業当初から3PL会社(サードパーティー・ロジスティクス/第三者企業に物流業務を委託すること)にお願いしています。見積項目はこちらを参考にしてください。

商品の入庫と発送に関する見積もり項目
  • 入荷料(ケースまたは員数)
  • 検品料(外観検査)
付帯作業(使用した場合)
  • 追加商品ピッキング作業料
  • エアーパウチ梱包材料
  • プチプチ緩衝材料
  • 商品などシール貼り料
  • ダンボール資材費(60サイズ/80サイズ)
  • 自社資材の場合は保管料

弊社は、オリジナルの梱包用パッケージを納品して利用しているので、資材の保管料が追加になっているのと、資材の発注や在庫管理は自社内業務として発生します。こちらも発注ロットでコストが大きく変動しますし、デザイン変更などあるときは指示や管理が大変です。共有資材であればコストは安くなるそうです。

配送運賃
  • 出荷料(60サイズ)宅配:梱包、納品書、配送料
  • 出荷料(60サイズ)宅配:梱包、納品書、配送料
  • 出荷料(80サイズ)宅配:梱包、納品書、配送料
  • 出荷料(80サイズ)宅配:梱包、納品書、配送料
保管料
  • PL/月(PLサイズ:最大 縦110cm×幅110cm×高110cm)

保管料にはこれ以外に、ラックスペース(棚)の利用料がかかりますが、1日あたりの出荷件数とSKUで利用スペースが変動します。商品の発注ロットと納期に応じて利用スペースの最小限化が可能なので、3PL会社と相談しながら運用しています。

結構高額になるのが返品に関する費用です。

返品処理費用
  • 返品作業料(商品検品は除く/運送途中の戻り品のみ)
  • 返品着払い運賃(実費)  
実棚(実在庫数)カウント費用
  • 実在在庫数カウント報告費用(個別見積 /作業時間単価計算)※半年に1回程度
WMS費用
  • WMSシステム使用料・事務管理手数料(出荷件数に対して課金)
  • システム管理料(WMS月額使用料 固定+従量課金)

尺田 木村部長は自社物流で対応予定とのことですが、個別発送はB向けより工数がかかりますので、この見積項目に従って工数やコストを算定してみると良いと思います。また、月次や年次で繁閑の波がありますので、繁忙期に他の部門からの応援や臨時のパートを確保できるかどうかや、その際の教育やチェック体制についても検討しておくと良いですね。

アドバイザー吉村 この他にも受注の指示と確認、納品書や発送伝票などの突き合わせをどうするかなど、事前に細かい調整が必要です。プリンターから発送伝票、納品書、メッセージカードなどが受注発送番号順にセットで出力される仕組みにすると間違いが少ないでしょう。ダイレクトメールの発送なども一緒に引き受けてくれる3PL会社であれば、さらに運用上のメリットがありますね。

また、売上10憶〜30億円以上を目指すなら、物流費削減の観点からお届け先に応じて複数倉庫(発送元)の管理ができること、お届け先に応じて配送会社を選択できることなども3PL会社選びに必要な視点です。配送会社については消費者からの指定もありますし、自宅以外での受け取りや再配達など、受け取り方法の多様化に対応する上で重要です。他には「荷合い」と言って複数の梱包をまとめて出荷する方法や、定期購入商品への追加や休止、在庫のある商品から優先的に発送する「荷分け」といった機能もサブスクリプションビジネスには必要です。

ECシステム機能面では荷姿(ポスト投函、60サイズ、80サイズなど)の自動計算などが必要で、CRMカスタマーセンター側では配達完了になっていないアラートの見える化対応など、発送配達状況が追えることが必要です。発送完了や返品といった情報を3PL会社とスムーズに情報共有できるようにしておきましょう。マイページやメールのリンクから配送状況を確認したり受け取り方法を変更できたりする機能は、顧客視点でもコールセンターの業務を軽減する意味で必要です。

3PL会社には1か月〜2か月先の出荷予定数を伝えたり、ECシステムから1週間前、2日前、前日の出荷予定データを確認できるようにしておいたりすると、作業工数が算定できるのでコスト低減の提案をもらえるし、安心感をもって業務にあたってもらえると思います。双方が運用しやすいルールにしないと、コストメリットも出てきませんので、定期的に情報交換して運用上の問題点を明確にした方が良いですね。今後、人件費は上がることはあっても下がることはないので、コストは上がることを想定して事業計画しておくべきです。

③カスタマーセンター─固定費や初期費用にも注意

石井社長 木村部長の会社はお客様相談室などがあるそうですが、今回のECコマース事業でも自社運用ですか?

木村部長 お客様相談室はあるのですが、普段は滅多に顧客対応が入ることがないので、管理部門で兼任業務状態なのです。石井社長のところは自社ですか?

石井社長 弊社では商品に関するお問い合わせは「カウンセリングセンター」へ、定期スキップや解約、配送に関することは外部のコールセンターをご案内しています。「カウンセリングセンター」で得られた顧客の課題や悩みは商品開発に活かせますし、お客さまの声を聞くとスタッフもやる気が出るようです。

木村部長 お客さまの声は大切ですからね。コールセンターにはどんなコストがかかるのでしょうか。

石井社長 パートナー会社の見積項目をお伝えします。弊社では可能な限り対応時間を長くしたいと考え、土日休日も含めて全日9時~20時、1L稼働時想定(平日20日、土日祝日10日想定)で見積もりをお願いしました。

立ち上げ時に必要な費用
  • 導入研修費
  • オペレーター受講費
  • 研修講師(=人日数 × 時間 × 日数 × 単価)

実際に発生した受講費は2日 × 8時間 × 2名でした。信頼関係を構築する上で重要ですから、立上げ時は事前にパートナー会社からヒアリングシートを提示してもらったり、研修前に商品を利用してもらったりといったことも実施しました。

通常の基本業務にかかる費用
  • CSRオペレーター稼働費(平日9時〜18時)=人日数 × 9時間 × 日数(20日) × 単価 +(平日18-22時)人日数 × 4時間 × 日数(20日) × 単価
  • CSRオペレーター稼働費(土日祝日9時〜18時)=人日数 × 9時間 × 日数(10日) × 単価 +(土日祝18-20時人日数 × 2時間数 × 日数(10日) × 単価

時間帯によって費用が変動します。18時以降は高くなるのと、22時以降は深夜加算が入ります。できればサービス提供したいのですが、コストとの兼ね合いで今は選択をやめています。同様に、土日祝日も単価は高くなります。

コールセンターの肝は責任者であるSV(スーパーバイザー)さんの業務品質です。

  • SV管理者稼働費=(平日9時〜18時、平日18時〜22時)+(土日祝日9時〜18時、土日祝日18時〜20時)

繁忙期やキャンペーン時の受注の急増や災害時など、突発的な外部要因でオペレーターが増えると、SVさんの人日数も「オペレーター稼働5人以上で人日工数1人日増」というように増加します。相互で納得いく体制になるよう調整が必要です。

  • 品質管理者稼働費 = オペレーター稼働費の20%

品質管理費というのは当初よく理解できなかったのですが、コンタクト分析やレポート、スクリプト作成などの費用が含まれています。弊社ではこの結果をもとに2か月に1回ミーティングを実施し、改善をしてきました。

ここからは自社で実施しても発生する費用です。電話の回線管理費やフリーダイヤル(0120、0800など)やナビダイヤル(0570)に月額費用が発生します。その他にも、

その他の費用
  • PC使用料(1台/月)
  • 電話機使用料(1台/月)
  • 通話録音装置使用料(1台/月)
  • ブース使用料(1台/月)
  • 電話回線通信費 基本料、通話料(NTTへ支払い・実費)
  • 電話回線設定費/NTT回線工事費(NTTへ支払い・実費)
  • 電話交換機設定作業(ベンダーへ支払い・実費)
  • NTTカスタマーコントロール回線設定費(1拠点)
  • 初期準備費(受注システム設定費、PC設営費、ネットワークセキュリティ設定費)

などが発生します。事業展開するにあたって一番困ったのが初期費用の数々です。見積もりに「対応範囲によって金額が変動します。詳細は別途ご相談ください」と書いてあったのですが、実際に導入するECシステムやCRMシステムによって費用が変動するようです。ほぼ言い値なのと、実費で請求が来ますので概算と実費の違いが結構響きました。算定根拠もよくわからなかったです。パートナー会社の乗り換えや追加の際には同様のコストが発生しますから、長く付き合えるパートナーとめぐり会えることが大切だなと感じています。

木村部長 フルフィルメントやコールセンターの見積項目と算定の計算式はとても参考になりました。弊社でもパートの時給が1,000円から1,200円に上がり、それでも採用が難しくなってきました。いただいた見積項目を参考に、採用や人材育成の計画を勘案しつつ、インハウスで実施する業務とアウトソースする業務を、成長フェーズで計画していきます。

 

この連載の登場人物

●相談者

木村部長 菓子の製造、小売店舗への卸販売企業の新規開発部長。年商は約100億円。売り上げの伸び悩みからD2Cビジネスへの参入を検討中。

石井社長 女性向けスキンケアコスメの単品通販事業者。年商10億円。次の目標は30億円の壁の突破。

●アドバイザー

アドバイザー吉村「やずや式EC通販基幹CRM」「やずや式顧客診断分析システム(CPM/顧客育成ポートフォリオ)」の考え方を伝える伝道師。

●ファシリテーター

尺田 GMOシステムコンサルティングでオムニチャネル対応のEコマースシステムのエバンジェリストとして活躍している。

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