ECモール「Qoo10」と出版社が組んだ「メディア+EC」――流通総額や新規客の増加などに効果あり
出版社の編集コンテンツ力とECの販売を掛け合わせて相乗効果を生み出す――。こんな取り組みがeBay Japanが運営するECモール「Qoo10」で始まった。タッグを組んだのは、学研プラスが運営するダイエット・健康情報Webメディア『FYTTE(フィッテ)』。コンテンツからECサイトへの購入を促すコンテンツECは一部事業会社や出版社で行われているが、“餅は餅屋”の視点での協業にはどんな狙い、効果があるのか?ECサイトと出版社のコンテンツ力の掛け合わせから、ビジネスとして生み出される新たな価値の可能性を探った。
ECモール×Webメディアの協業内容は?
協業内容は、『FYTTE』がWebメディアで行ったアワード「FYTTEダイエット&ヘルス大賞2020」をeBay Japanが活用。「Qoo10」内で「FYTTEダイエット&ヘルス大賞2020」受賞商品の一部を扱う特設販売コーナーを設けるというもの。
特設ページでは、「FYTTEダイエット&ヘルス大賞2020」でランクインした商品について、“コストパフォーマンス”などの観点から扱っている出店者の販売商品を掲載。クリックすると商品詳細ページに移動する仕組みとなっている。
「Qoo10」ではこれまで、モール内で販売している商品の売れ筋「ランキング」は掲載してきたが、第三者がさまざまな視点で評価するアワードをECモール内に活用し、販売につなげる取り組みは初めて。
『FYTTE』もECモールにコンテンツ企画を提供する協業を行うのは初めてとのこと。
『FYTTE』は1989年に女性向けの美容健康雑誌として創刊。2016年にWebメディアへ完全移行し、「ダイエット」「ヘルスケア」「ビューティ」を中心に20~40代の女性のライフスタイルを応援するコンテンツを配信している。
「FYTTEダイエット&ヘルス大賞2020」は、「野菜&フルーツジュース・スムージー部門」「健康茶部門」「プロテイン部門」など25の部門で、『FYTTE』の読者1000人と編集部が「これは使ってよかった!」「これをぜひ試してみたい!」と声の高かったアイテムをランキング形式で表彰するアワード。
今回の協業は学研プラスがeBay Japanに企画を持ち込んで実現。「健康ブームが盛り上がり、最近はテレワーク導入などによる生活リズムの乱れなどから、ダイエット・健康への関心が高まっている」(eBay Japan)という環境の変化、「Qoo10」でそれらのジャンル商品の売れ行きが伸びていることなどから、eBay Japanは協業を快諾した。
なぜECモールとの協業を選んだのか? その効果は?
受賞商品のセールスに関して店頭での販促施策を提案したりするのですが、ドラッグストアなどはもともとの棚割があるため、アワード用の棚を確保するのが難しい。アワード受賞商品のプロモーションはどうすれば実現できるのか? そこで浮かんだのがECサイトでした。
『FYTTE』の広告セールス担当者 は「Qoo10」との協業に至った背景についてこう説明。eBay Japanに企画を持ち込んだのは、「『Qoo10」は健康、美容系の取扱商品が多く、利用客は女性がメイン。『FYTTE』と親和性が高いと思ったからです」(『FYTTE』保母千佳恵編集長)
一方のeBay Japan。ダイエットやヘルス関連食品は流通総額全体から見るとシェアは10%程度だが、健康志向の高まりを受け、5月度は前年同月比で2倍近い伸び率という。
「2020年はフードカテゴリ、ダイエットサプリを最重点カテゴリとして強化する」方針を掲げており、『FYTTE』の持ち込み企画は渡りに船だった。
気になる効果はどうだったのか。まずは学研プラスの編集的な視点から。
これまでメディアの立ち位置としてユーザーがアワードを見た際に、商品を気に入って「これ、ほしい!」と思ったとしても、商品を購入するまでの導線を作ることができていませんでした。今回の施策で、商品への興味から認知、購入までを一気につなげることができ、ユーザーにとってもただランキングを楽しむだけでなく、便利に活用できるアワードに設計できたと思います。(『FYTTE』保母編集長)
営業面でも好影響があったようだ。広告セールス担当者の話。
メーカー側からのアワードへの取り組みに関する注目度が高くなりました。広告セールスという立場から、メーカー側との良好なコミュニケーションの構築につながっていると実感しています。メディアだけの取り組みでは、商品の認知拡大で終わっています。販売までつなげることができる取り組みは、積極的に実施していきたいです。(セールス担当者)
一方の「Qoo10」。商品の販促はもちろん、ほかにも効果を感じている。
既存出店者でアワード受賞商品を扱っている店舗のなかから、「Qoo10」のコンセプトである「コスパモール」に適した価格帯で販売している事業者の商品(この企画では、たとえばペットボトルの場合は1本ではなく1箱といったパッケージとして販売している)をピックアップして特設コーナーに掲載しています。パッケージとして販売していなかったり、アワード掲載商品を扱っていない出店者もいましたので、今後はこうした店舗に対しても重点を置いた取り組みを増やしていく予定です。(「Qoo10のフード責任者 沼沢士朗氏)
『FYTTE』としては、「Qoo10」でアワード企画が実施されたことでアワードや媒体の認知拡大に。「Qoo10」は、『FYTTE』で掲載されたアワードからのユーザーの流入があり、新規購入者の増加に貢献。今回の企画は「Win-Win」の関係を構築できたという。
メディア+ECの取り組みの可能性
メディア+ECという確かな感触を得た学研プラスとeBay Japan。
『FYTTE』ではメディア内でこうしたアワード企画を年に数回実施しており、ECモール&サイトとの共同企画を進めていきたい意向を示した。
一方のeBay Japanも、第三者の意見が入ったランキングという新しい切り口がモール内の活性化にもつながっていると評価しており、メディア社との共同企画をさらに実施してきたいという。
eBay Japanにとって企画力のアップのほか、出店者の売上増加、新規利用者増加などの成果につながりやすいメディア社とのタッグ企画。この取り組みは自社ECサイトにも応用できる可能性を秘めている。
世の中にはさまざまなジャンルでさまざまな専門誌・Webメディアが存在する。こうしたメディアが持つコンテンツという資産をECサイトに活用できれば、サイトの活性化などにもつなげることができる。
メディア社にとっては販売に直接つなげることができるという読者メリットのほか、組み方次第では新たなマネタイズポイントの創出にもつながる。今後、「メディア+EC」という異色のタッグが増えてくる可能性もありそうだ。