Digital Commerce 360 2020/10/22 8:00

「Lululemon(ルルレモン)」と「Nike(ナイキ)」は、新型コロナウイルス時代の課題に取り組むため、優先順位の見直しに成功したブランドです。2社の事例から、スピーディーな戦略転換でコロナ禍を乗り切る方法を探ります。

小売事業者が追求する「DX」

新型コロナウイルスの影響で、ほぼすべてのマーケティング担当者が戦略変更を余儀なくされ、未知の領域へ迅速に適応しなければいけなくなりました。

コロナ禍が収束し始めても、全てが元に戻るわけではないでしょう。ではこの非常事態を乗り切るにはどうしたらいいか。変化の波にいち早く適応できた小売り業と、そうじゃない企業との違いを見ていきましょう。

大規模な変革は「大きなクルーズ船」を動かすようなもの

ここ数年、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という言葉が多くの企業に注目されてきました。この組織的な進化の目的は、企業をアナログ時代からデジタル時代へと移行させることです。

オンラインとオフラインにおけるすべての消費者のタッチポイントで、デジタルの足跡が残るようにしたいのです。店頭でのチェックアウト体験の向上から、カスタマーエクスペリエンスを考慮してデザインされたWebサイトまで、小売事業者はデジタルトランスフォーメーションを追求し、これらのすべてに対応できるよう努力してきました。

しかし、多くの組織変革、特に大規模な変革の場合、機敏で軽いジェットスキーではなく、昔ながらの大きなクルーズ船を動かす感覚に近いという事実に気づきました。一方で、世界的に新型コロナウイルスが拡大し、私たちの「普通」の定義を揺るがしています。

市場変化への対応で、ブランドの明暗がわかれた 

新型コロナウイルスは世界的に大きな影響を与え、無傷で済んでいる市場やビジネスはありません。その中で、途方もない苦難に直面している業界の1つが小売業でしょう。

世界中で店舗が閉鎖される中、小売ブランドは新しい市場を迅速に生き抜くために変化しなければいけませんでした。その中で、多くのブランドが、危機によってもたらされた課題に対応する際、困難な問題に直面しました。

「我々の組織インフラは、消費者の新しい消費習慣に対応する準備ができているのだろうか?」という問いが浮かび上がったのです。

米国商務省によると、多くの小売事業者にとって売り上げの大半を占めるのが店頭での販売(84%)で、オンライン販売は16%となっています。毎年着実に成長しているにもかかわらず、オンライン販売はまだ二番手なのです。

米国小売市場におけるEC化率
米国小売市場のEC化率(画像は『Digital Commerce 360』の「A decade in review: Ecommerce sales vs. retail sales 2007‑2019」より編集部が作成)

世界的なコロナ禍で、企業は販売戦略を再考し、店頭販売の84%をオンライン販売に転換しなければならないと考えました。ブランドの中には、この挑戦を素直に受け止め、新しい市場のニーズに迅速に適応したブランドもあれば、過去にとらわれて、時代に素早く適応できなかった、不幸なブランドもあります。

コロナ危機を乗り切った「ルルレモン」「ナイキ」

この新たな時代のビジネスで成功したブランドの例として、「ルルレモン」と「ナイキ」の2ブランドがあげられます。

世界中でロックダウンが起こり、アスレジャーウェアの需要は飛躍的に増加しましたが、この2つのブランドは、嵐をうまく乗り切るための要素を備えていました。

その要素は、強力なブランドロイヤルティと、優れたデジタル体験です。グローバル総合金融サービスの「J.P. Morgan」が実施した調査によると、アスレジャーが景気刺激策の支出のトップであったことも影響しているようです。消費者は、ブランドのミッションと顧客へのコミットメントをより重視しているため、「ルルレモン」と「ナイキ」商品の価格の高さを気に留めませんでした。

完全なEコマースへの移行に伴い、「ルルレモン」は自社商品がどの季節にも適しているという機能性を活用し、多様化を求める消費者のために購入の選択肢を増やしました。さらに、「ルルレモン」が商品開発から販売までを自社で行う垂直型の小売事業者であることが、在庫と商品の流れをコントロールすることを可能にしました。

Lululemonのサイトトップページ
「ルルレモン」のサイトトップページ(画像:サイトよりキャプチャ)

「ナイキ」は屋内でできるエクササイズを展開し、クリスティアーノ・ロナウドやラファエル・ナダルに商品をさりげなく使ってもらうなど、セレブリティの影響力を活用したマーケティングを行いました。

「ナイキ」のサイトトップページ
「ナイキ」のサイトトップページ(画像:サイトよりキャプチャ)

「ロナウドの腹筋トレーニングに挑戦してみませんか? そんなときに履くべきショーツをご紹介します」といったプロモーションです。

ブランドに関連の高い、意味のあるタイムリーなコンテンツに焦点を当てることで、「ナイキ」は瞬く間に見事なマーケティング戦略を展開し、売り上げを伸ばし、最終的には顧客のエンゲージメントをさらに高めることに成功しました。

苦戦しているのは「アンダーアーマー」と「ユニクロ」

一方、新しい市場環境に苦戦しているのは、「UNDER ARMOUR(アンダーアーマー)」と「UNIQLO(ユニクロ)」です。

「アンダーアーマー」は主に、実店舗閉鎖に伴い苦戦を強いられているサードパーティの流通網に依存しています。また「アンダーアーマー」は、サードパーティ販売事業者の進化のないオンラインエクスペリエンスに翻弄されているのです。

「UNDER ARMOUR」のサイトトップページ
「UNDER ARMOUR」のサイトトップページ(画像:サイトよりキャプチャ)

「ユニクロ」は、フットフォール(客数)を重視するブランドですが、世界的な店舗閉鎖の影響で売り上げが大幅に減少しています。

また、「ユニクロ」が消費者に提供しているオンラインエクスペリエンスが店頭での体験と比べて見劣りするため、売り上げの大幅な減少につながっています

◇   ◇   ◇

新型コロナウイルスの世界的な大流行が、小売りにおけるオンラインとオフラインの売上比率を変化させたことは間違いありません。そしてまた、実店舗が再開した後も、その傾向は続くでしょう。

デジタルエクスペリエンスとオンラインコミュニティを構築できるブランドは、今後の小売業界で確実に消費者を獲得するでしょう。将来、小売業の歴史の中で極めて重要な時期を振り返った時、「あなたの会社のデジタルトランスフォーメーションを主導したのは誰ですか?」との問いへの回答は、CEO(最高経営責任者)でもCMO(チーフマーケティングオフィサー)でもCTO(チーフテクノロジーオフィサー)でもなく、新型コロナウイルスになるでしょう。

この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア『Digital Commerce 360』(旧『Internet RETAILER』)の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

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