ECビジネスとサスティナビリティの成功例。商品パッケージでCO2削減&追加料金を払っても選ぶ「サステナブル配送」とは
ヘアケアブランド「Davines」は、環境のサステナビリティをビジネスの最前線に置いています。EC利用客の平均20%は、商品配送に伴うCO2排出量をオフセット(編注:自身でCO2の排出を減らす代わりに、さまざまな手段により地球上のどこか別の場所で行われているCO2を減らす活動に貢献すること)するため、配送料を30セント上乗せすることを選択しています。
目標は「2030年までに事業すべてのCO2排出量をオフセットする」
「Davines」は2005年にCO2排出量をオフセットするプロジェクトを開始。2011年からサステナビリティに関するガイドラインをパッケージに取り入れました。2016年には米国ペンシルバニア州に本拠を置く非営利団体「B Lab」が定めるBコーポレーション(編注:B Corporation認証。企業の社会的および環境的パフォーマンス全体を測定する唯一の認証)に認定されました。
2018年からは全商品のパッケージをカーボンニュートラル包装(編注:ライフサイクル全体で見たときに、CO2の排出量と吸収量がプラスマイナスゼロの状態になること)にしています。最終的な目標は、「2030年までに事業のすべてのCO2排出量をオフセットすること」。DavinesのEコマースコーディネーターでサステナビリティのスペシャリストであるアリン・アイケン氏はこう述べています。
「Davines」は最近、商品配送に伴うCO2排出量をオフセットするため、ECサイト上に、配送料を増額できるツールを導入しました。2020年4月にこの機能を追加して以来、「約1万件の注文がCO2の影響をオフセットして出荷されている」とDavinesは発表しています。
「Davines」は1983年にイタリアで創業したブランドで、現在もイタリアで商品を製造。世界中で販売を行っており、売り上げの大部分はBtoBが占めており、ヘアサロンへの卸売りもしています。自社ECサイト、大手百貨店「Nordstrom」のECサイト、Amazonを含むオンライン販売が、ビジネスの一部として成長しているとアイケン氏は話します。
「カーボンニュートラル包装」はCO2排出量を団体への寄付で相殺すること
Bコーポレーション認定を受けている「Davines」には、労働者、顧客、サプライヤー、地域社会、環境に与える影響を報告し、考慮することが求められています。「Davines」が取り入れている「カーボンニュートラル包装」とは、商品製造に伴うCO2排出量を、CO2排出量削減に取り組む組織への寄付金で相殺することを意味します。「Davines」はエチオピアの土地と森林の再生に力を入れている非営利団体「EthioTrees」に寄付しています。
CO2排出の影響を計算するプラグインを導入
「Davines」は、ニューヨーク州北部にある倉庫から消費者の玄関先までの配送に伴うCO2排出量をオフセットするプログラムの寄付先にも「EthioTrees」を選びました。「Davines」が採用している「Cloverly」(編注:Sustainability as a Serviceのプラットフォームで、カーボンオフセットを計算するためのAPIなどを公開している)のプラグインは、「Davines」も使用している「Shopify」などのECプラットフォームと統合することができ、さまざまな活動の環境への影響とカーボン・オフセットを計算します。
「Cloverly」は、荷物の重さと倉庫から配送先までの距離などから、「Davines」の配送にかかるカーボン・インパクト(編注:CO2排出の影響)を計算。「Davines」はこの金額を「EthioTrees」に寄付する一方、消費者にはメッセージを明確かつシンプルに伝えるために一律料金を請求しているとアイケン氏は言います。チェックアウトページで、消費者はチェックボックスをクリックして「カーボンニュートラル配送のために0.30ドル(30セント)を追加」できます。
これは、私たちの価値観をEC利用者にアピールするための1つの方法でした。(アイケン氏)
18万6000ポンドのCO2をオフセット
アイケン氏によると、追加の30セントにはカーボンオフセットと「Cloverly」の手数料のみが含まれており、その他の料金は発生しないそうです。注文ごとの配送距離と荷物の重さの違いはわずかのため、定額料金で請求した方が消費者に伝わりやすいとアイケン氏は言います。
30セントはそれほど大きな金額ではありません。消費者がオフセットしているのは自身がオーダーした1つの小さな荷物だけであり、配送するトラック全体の荷物ではないことをアイケン氏は強調しています。「Davines」の物流チームは、環境への影響をさらに減らすために、航空輸送ではなく地上輸送のみを使用するように努めているそうです。
ビジネス全体を見るとEコマースの影響は大きいですが、1つひとつの注文がCO2排出に与える影響はそれほど大きくありません。(アイケン氏)
「Davines」は、数か月間「Cloverly」を試した後の2020年4月、正式にシステムを統合しました。プログラムを開始して以来、「Davines」は1万件の注文を通じて、18万6000ポンド(8万4,368キログラム)のCO2をオフセットしてきました。平均して約20%の顧客が購入時にオフセットを選択しており、アイケン氏は結果に満足しています。
「Davines」がサステナブル配送を追加した理由
「Davines」が最初にサステナブル配送のオプションを開始した際、ホームページにこの新プログラムに関するバナーを表示し、メールマガジンにも関連するメッセージを掲載しました。立ち上げ以来、2020年のブラックフライデーまで、このプログラムのプロモーションは行っていません。
「Davines」は通常、ブラックフライデー(「Davines」は「グリーンフライデー」と呼んでいます)にはEC売上の1%を環境に焦点を当てた団体に寄付しています。2020年も1%の寄付を継続したと同時に、注文ごとに30セントを負担してサステナブル配送を行いました。そのため、「当日出荷された注文による環境への悪影響はなかった」とアイケン氏は説明。11月27日には、5.1トン分のCO2をオフセットしたと「Davines」は発表しています。
この新しい取り組みは、現在まで上手くいっています。さらに強化するために、2021年にはWebサイトやマーケティングでこの取り組みの認知を広げ、より多くの消費者にサステナブル配送を選択してもらいたいと「Davines」は考えています。
「Davines」がこの機能を追加したのは、ブランドの価値観に合致しているからだけでなく、消費者がサステナビリティに関心を持っていることを知っているからです。
サステナブル配送機能は当社の価値観に沿ったものです。私たちは将来、カーボンニュートラルとネットゼロエミッション(編注:温室効果ガス排出を実質ゼロとすること)を実現するためにコミットしてきました。我々の価値観を伝える方法として、この機能は本当に重要なのです。(アイケン氏)
多くの消費者が、サステナブルなビジネスを行っている企業を探し、その企業から購入するようになっています。1,113人の消費者を対象にした『Digital Commerce 360』とBizrate Insightsの調査(2020年12月実施)によると、サンクスギビングからサイバーマンデーまでの5日間、消費者の11.1%は、「サステナブルなビジネスを行っているからという理由でオンライン小売事業者を選択し、購入した」と回答しています。
また、同じく『Digital Commerce 360』とBizrate Insightsが989人の消費者を対象に行った調査(2020年3月)によると、消費者の30%が「環境に配慮した配送や梱包のために、より多くの金額を支払うことを望んでいる」と答えました。
プラスチックの代わりに再生紙で商品を梱包
「Davines」のサステナビリティへのもう1つの取り組みは、出荷用の箱の中に環境に配慮した素材を取り入れていることです。たとえば、商品のほとんどはプラスチックの代わりに再生紙を使用して梱包しています。さらにアイケン氏は次のように言います。
「Davines」のパッケージは、輸送時の二酸化炭素排出量を削減し、必要な原材料を削減するために軽量化されています。(アイケン氏)
「Davines」は今後、取引のあるサロンとのリサイクルプログラムを実施したいと考えています。サロンに特化したリサイクルプログラム「グリーンサークルサロン」では、サロンが集めた空の商品ボトルを「グリーンサークルサロン」に送付できるよう、リサイクルコンテナを提供し、集まったボトルを適切にリサイクルしています。「Davines」は、EC利用者が商品を使い切ったときに、地元のサロンでDavinesの商品を回収できるよう、プログラムを拡大したいと考えています。
2020年中にこのプログラムを実施する予定でしたが、新型コロナウイルス拡大のため、「Davines」は予定を遅らせました。コロナ禍で多くのサロンが一時閉鎖しましたが、店舗を再開した後も、多くの場合、安全上の理由のために個人的な商品を持ち込まないように顧客に依頼しています。今は消費者の外出を奨励する時期ではありません。「Davines」は、コロナ禍が収束した時に、このプログラムが再開できることを期待しています。