ECサイト構築・運営で起きた5つの失敗事例に学ぶ担当者が事前に把握すべきこと
これからECサイトの構築や運営を考えているEC担当者であれば、「ECサイトで失敗した事例を事前に把握して、必ずEC事業を成功させたい!」と考えると思います。
確かに、失敗事例を事前に把握しておくことは、ECサイトの構築や運営経験がない担当者であれば、必ず役に立ちます。なぜならEC担当者に必要なこととは、ECサイトの構築をベンダー任せにせずに「情報を集めて、主体的に行動すること」だからです。失敗事例を事前に知ることでベンダー選定や打ち合わせでの「自分の行動」を変えることができ、ECサイトの構築や運営で失敗せずに済む可能性が高くなるからです。
本日はインターファクトリーでWEBマーケティングを担当している筆者の経験も踏まえて、5つの失敗事例を解説いたします。
失敗事例 ①凝ったデザインのECサイトを作った
デザイン力のある知り合いのベンダーに、ECサイトのリニューアルを依頼した。その結果、凝ったデザインのトップページになったり、商品画像がグラフィカルに動いたり、印象に残るようなカッコいいECサイトになったが、ECサイトの売上は激減した。
ECサイトをリニューアル(あるいは新規構築)するときに、上司や経営者が気にするのは「デザイン面」であることが多いと思います。しかし、あまりに見た目のデザインに凝り過ぎると使い勝手が悪く、ECサイトの売上が下がることがあるのです。
こういった失敗は筆者自身も過去に経験があり、ECやインターネット業界ではよくある失敗事例と言えるでしょう。ユーザーがECサイトに求めているのは「カッコよさ」よりも、下記のような、
◆ユーザーがECサイトに求めているもの
「ECサイトの使いやすさ」
「情報の分かりやすさ」
「明確で安心な決済完了までのステップや信頼性」
といった要素であり、デザインにこだわり過ぎたECサイトへリニューアルした結果、購入率(CV率)が大幅に下がり、ECサイトの売上が下がるケースが多いのです。そのため、ECサイト作成を承認する立場の上司や経営陣には、見た目のデザインだけに凝り過ぎると売上が下がることもあるということを事前に伝えておく必要があります。
「ECサイトの使いやすさ」とは具体的に言えば
- トップページを見て「何を売っている会社」なのか明確に分かるか?
- 購入ボタンの視認性の高さ(パッと見て、購入ボタンを認識できるか?)
- PC、スマートフォン、タブレット、それぞれのデバイスに最適なデザインになっているか?
- ユーザーはそのECサイトで安心してクレジットカードの番号を入力することができるか?
- 商品の写真は十分にあるか? 写真が拡大できるか?
- 他のユーザーのレビューが掲載されているか? レビュー数は十分か? 役に立つレビューはあるか?
こういった要素となります。これらの要素を入れずに、凝ったデザインのECサイトを作ったからといって、売上が伸びるとは限らないということを覚えておきましょう。
失敗事例② リニューアル前のECサイトと全く違うURL構造でECサイトをリニューアルした
ECサイトのSEO状況を把握せずに、ECサイトをフルリニューアルした結果、アクセス数が激減した。アクセス解析ツールで分析すると、リニューアル前のECサイトでSEOの強かったページURLが新しいECサイトでは消えており、そのページURLへの自然流入数が激減していた。
ECサイトをリニューアルする際は、現在運営しているECサイトのSEO状況を把握してからリニューアルに取り組まないと、大変なことになります。特に
自然流入数が多い商品ページのURLを把握すること
が最も大切です。なぜなら、自然流入数が多いページを調べると、実は特定のSEOキーワードで上位のケースであることが多く、リニューアルの際は、そういった強みを継承しなくては、売上低下につながってしまうからです。
そして、その自然流入数が多いページURLを把握し、SEOキーワードが判明した場合は、リニューアル後のサイトでも、その商品ページのURLを必ず利用するか、それが新しいECサイトでは不可能であれば、しっかり
商品ページの301リダイレクトの設定
を行わなくてはなりません。
リダイレクトを設定することで、古いURLにアクセスしたユーザーを、強制的に新しいURLに飛ばすことができます。リダイレクトの手法はいくつかありますが、「301」とは恒久的にURLを変更することを意味します。
Googleは301リダイレクトであれば、SEOの評価を新しいページに引き継ぐと発表しています。詳しくは下記のページをご覧ください。
ただ、リダイレクトを正しく設定するだけでは、SEOの引き継ぎとしては不十分です。なぜなら、検索エンジンの評価を新しいURLで引き継げたとしても、新しいサイトの商品ページが
「文字が既存ECサイトより見にくくなった」
「情報が既存ECサイトよりも不足している」
と、ユーザーが感じるとSEOの順位は保てないからです。既存ECサイトの商品ページでSEOの強いページがあるのなら、競合サイトと比較してなぜSEOが強いのか、現在の強みを把握する必要があります。
例えば、分析の結果「商品の説明文が細かくて丁寧」であることが強みならば、新しいECサイトの商品ページでもその強みを失わない、あるいはより強化することが必要なのです。
失敗事例③ ベンダーにECサイト構築を丸投げした
ECベンダーに、ECサイトで実現したいことだけを伝えて、開発に着手してもらったが、出来上がったECサイトは運用業務と相性が良くなかった。追加改修を重ねることでどうにかリリースできたが、結果として開発費用が当初の予定より膨大にかかってしまった。
システム連携が必要なECサイトを構築する場合や、BtoBでの複雑な業務フローをECサイトで実現する場合は、どんなに優れたベンダーであっても、丸投げで成功させることは困難です。
初期費用が数千万円もかかるような、大規模ECサイト構築の場合は、発注側にも責任者を置いて、ベンダーとともに開発していく体制にしないと、業務フローや現場スタッフの意向に沿わないシステムが出来上がってしまいます。
そうならないためにも、発注前には、現場スタッフにヒアリングを行った上で、現状の業務フローチャートを分析・作成することが重要です。その上で「ToBeモデル(理想である業務フローチャート)」を自分たちで作成できる、もしくはコンサルティング会社の力を借りて作成する、くらいの業務理解が必要となります。
こういった分析を行わずにベンダーにECサイトの構築を丸投げした場合、改修を加えないと使いにくいシステムが出来上がり、最悪リリースできないことも実際にあるのです。
筆者が過去に聞いた事例では、1億円をかけて作ったBtoBのECサイトが、2年間放置された後に現場スタッフに利用されずに廃止されたという話もありました。
失敗事例④ コスト削減に注力し、開発費用を抑えてECサイトを構築した
ECベンダーからカスタマイズやシステム連携の提案を受けたが、費用がかかるため、なるべく低コストでECサイトをリリースした。しかし、注文数が多く、スタッフの労力や負担が大きいECサイトになってしまった。
ECサイトは少人数で運用していることが多いため、1日あたりの注文数が100件を超えるような注文数の多い事業者では、受注処理にかけられる手間・作業を極小化する必要があります。
しかし、ECサイトのカスタマイズ費用やシステム連携費用が高いからといって、最小限の形でECサイトを構築すると、労力が増え、ミスが発生しやすい業務フローになりやすく、人件費などを考えると、中長期的にはかえってコストがかかるケースがあります。例えば、ECシステム以外に他の社内システムを使っているケースでは
- ECサイトの受注データを基幹システムに取り込む
- 倉庫側へ出荷指示をするためにWMSにデータを渡す
これらの作業は、日次で必要なものですが、双方異なるシステムであるため、手作業でデータを変換した後でアップロードするような運用になることが多いのです。ECサイトとシステム連携して自動化することで効率化できますが、手作業となると非常に大変な作業であり、ヒューマンエラーも発生しやすくなります。
例えば、ECサイトの受注データを、基幹システムやWMSに取り込む用のデータに自動変換し、そのデータファイルをシステム連携により、WMS側に自動でアップロードする連携などです。もしも、基幹システムやWMS側に自動で取り込む機能がない場合には、それらのシステムに、ファイルアップロードで取り込むためのファイルレイアウトが出力できる機能だけでもカスタマイズできれば、スタッフの労力も軽減され、ヒューマンエラーも少なくなります。
注文数が多いECサイトを構築する場合は、事前に運用後のスタッフの人件費や業務効率化を視野に入れて、カスタマイズやシステム連携により自動化もある程度検討する必要があるのです。
失敗事例⑤ ECベンダーをプレゼン力だけで選定してしまった!
ECベンダーを選定するために、ベンダー3社を呼んでコンペを実施した。その際、圧倒的にプレゼン力の高い「ベンダーA社」に選定したが、発注するとベンダーA社は技術力が低い会社であることが分かり、ECサイトリリース後も障害が多発して、不安定なECシステムとなってしまった。
EC業界に詳しくなければ、発注側の事業者がECベンダーに技術力があるかどうかを見極めることは、非常に難しいことです。また、EC業界に限りませんが、大きなコンペの際は「エース級の営業がプレゼンする」ケースが多々あります、それは、仕事を取りに行く企業として当たり前の行為ではあるのですが、発注側には注意が必要です。
なぜならコンペに参加する発注側の役員や、決定権を持つ部門長が、プレゼン力に満足して発注してしまうケースが多々あるからです。
そしてプレゼンが上手い会社は「大きなビジョン」を持ち出したり、「過去の成功事例を誇張」してアピールします。しかし、発注後はプレゼンした社員がプロジェクトに関わらなかったり、あるいはベンダーの技術力が低い企業で、障害が多く不安定なECシステムになることもあるのです。
ビジョンも実績も大切な要素です。しかし、数千万円規模のECシステムを発注する際に最も大切なポイントは、開発を行うベンダーの技術力や経験です。この要素が満足の行くレベルに達していなくては、ECサイト運営に多大な影響を及ぼします。
では、技術力のあるベンダーを見極めるためにはどういったポイントがあるのでしょうか?一番良いのは、そのベンダーを利用したことがある人に評判を聞くことですが、そういった人がいない場合は、筆者自身が過去に利用していた、5つのチェックポイントを参考にしてみてください。
◆技術力のあるベンダーを見極めるための5つのチェックポイント
①自社開発したECシステムであるか?
②開発を担当するエンジニアのほとんどが外注ではないか?
③打ち合わせの際、ベンダーの営業に同行しているSEの業務理解が早いか?
④ベンダーはエンジニアを大切にしているか?転職サイトの口コミはどうか?
⑤情報漏えいなどを起こしていないか?
まず、自社開発であるかどうかは、大事な要素です。なぜなら、海外のオープンソースを利用してECシステムを販売する企業もありますが、複雑な開発や大規模システムを依頼する場合は、自分たちでゼロからECシステムを作っている会社の方が、技術力も当然高くなるからです。
また、外注状況や担当SEなどは、打ち合わせの際にチェックしてみましょう。そして、担当者の言葉を裏付けするために、インターネットを使って、その会社の評判を調べてみるべきです。また、過去に情報漏えいなどを起こしていないか、その際の対応や対策なども確認しておくと良いでしょう。下記サイトのような、サイバーセキュリティに関する情報ポータルサイトで調べることができます。
ECサイトの失敗事例のまとめ「大切なのはEC担当者の主体性」
本日はECサイトの代表的な失敗事例を5つにまとめてみましたが、どの失敗にも共通しているのがECサイトの構築を「ベンダー任せ」にしている点です。
確かにECサイトを構築するとなると、ITリテラシーも必要で、専門知識がないと打ち合わせの話にもついていけませんが、たとえ専門外であっても、主体的に仕事に取り組む姿勢が大切です。
ECサイトのデザインにしても、SEOにしても、ベンダー選定にしても、今の時代はインターネットである程度の情報が公表されており、自分で情報収集することが可能なのです。それを怠り、担当者がベンダーに全て任せたり、状況を把握していないと失敗につながることになります。
また、ECサイト構築においては、自社と同じ業界のECサイト構築事例があるかどうかも大切な要素です。なぜなら同じ業界を経験しているのなら、業務理解が早いため、質の高いECサイトを構築できる可能性が高いからです。
掲載記事のオリジナル版はこちら→ EC担当者が事前に把握すべきECサイト5つの失敗事例 | ebisumart Media(2020/12/25)
この記事はインターファクトリーが運営するオウンドメディア『ebisumart MEDIA』の記事を、ネットショップ担当者フォーラム用に再編集したものです。
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