MARK STYLERのECサイトで新規会員登録率が上昇。買い物体験の向上を実現したアプローチとは?
20代~30代女性をメインターゲットとしたアパレルブランドを展開するMARK STYLER(マークスタイラー)は、「RUNWAY channel WEB STORE」など3つの自社ECサイトを運営している。直近の課題は、主要KPI(重要業績評価指標)としている新規会員登録率の向上。広告以外の有効な手段が見つからないなか、着目したのが“決済”からのアプローチだった。「Amazon Pay」の導入によってお客さまの利便性向上と安心感の提供が可能になり、新規会員登録率は向上している。MARK STYLERのEC本部フルフィルメント事業部ロジスティクスソリューション部長の與儀貴志(よぎ たかし)氏に取材した。写真◎吉田 浩章
EC事業はオムニチャネル化やDX推進の軸となる重要なポジション
オリジナルブランドの婦人服や服飾雑貨の企画・販売・直営店の運営などを手がけるMARK STYLERは、2021年で10周年を迎えた「RUNWAY channel WEB STORE」、「ELENDEEK ONLINE STORE」「UN3D. ONLINE STORE」の3つの自社ECサイトを運営している。
ECの注文数拡大に伴い、2015年頃に店舗向けの商品配送とEC商品を分ける形でEC物流を取りまとめる専門部署を開設するなど、物流機能を強化。ECサイト開設以降、利便性を向上させるための取り組みに努めてきた。
システムは開発企業の協力を得つつ、EC業務はほぼ全てを内製化。ECビジネスを強化する体制を整備してきた。
ここ数年は、オムニチャネル化やDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が求められる状況にある。ECはその軸となる事業として位置付けられ、社内での注目度もよりいっそう高まっているという。
広告費をかけても簡単に新規会員が獲得できない状況で着目したのが“決済手段”
MARK STYLERは、自社ECサイトにおける新規会員登録率の向上を大きな目標に掲げていた。しかし、20代~30代の女性がメインターゲットのブランドを展開しているMARK STYLERにとって、少子高齢化が大きな課題に。一昔前のように、広告費さえかければ簡単に新規会員が獲得できるという状況ではなく、新規会員登録率の改善に課題を抱えていた。
そんな状況下、広告で新規顧客へアプローチするという従来の発想を転換。決済手段の拡充による「利便性向上」「使い勝手の向上」というアプローチへと舵を切った。
4年ほど前、Amazonアカウントを用いたID決済サービス「Amazon Pay」の導入の検討をスタートした。しかし、それまでID決済を導入したことがなく、また当初は社内で「Amazonはメンズ色が強いのではないか?」「自社サイトに『Amazon Pay』のボタンを表示するのはどうなのか?」といった疑問の声が数多くあがったという。
この4年で、キャッシュレス化の流れからさまざまな決済手段が市場に登場。だが、「Amazon Pay」の導入に向けた社内の動きは一向に進まない。「Amazon Pay」導入の検討を続けながらも、キャリア決済や後払いなどの他の決済手段の導入を優先してきたのだ。
新しい決済手段を導入することは、投資に近いものだと考えている。4年間でいくつかの決済手段を導入して、実績も見えてきていた。これまで、お客さまの利便性を高めるためにEC部門が投資してきたことには結果がついてきたので、社内からの信頼も得られるようになった。「Amazon Pay」も大事な投資の1つだという考えの下、2020年の導入に至った。(與儀氏)
利便性が高く、お客さまと導入企業の双方に安心・安全が提供される「Amazon Pay」
「Amazon Pay」は、Amazonアカウントに登録された情報を利用することで、購入時の配送先や支払い情報の入力をすることなく、Amazon以外のECサイトで買い物ができるID決済サービスだ。「Amazon Pay」を導入しているECサイトであれば、顧客はAmazonアカウントのIDとパスワードを入力して、簡単な3ステップで購入が完了できる。
「それぞれのECサイトでクレジットカード情報を入力したくない」という消費者ニーズに応え、なおかつ商品をカートに入れてから購入が完了するまでの手間が大幅に削減できることから、多くの導入企業で「カゴ落ち」の防止やCVRの改善に効果を発揮しているという。
顧客にとっての安心感が大きいことはもちろん、導入企業にとっても、セキュリティや保証が手厚い「Amazon Pay」は、安心・安全に販売するための決済サービスとなっている。クレジットカード情報はAmazonの堅固なセキュリティシステムで管理されているほか、販売事業者にクレジットカード情報を共有しない仕組みとなっているため、安全性の高い決済環境を担保。また、「Amazon Pay」で購入した商品には、商品のコンディションや配送を保証する「Amazonマーケットプレイス保証」※が適用されるようになっている。
※Amazonマーケットプレイス保証とは、Amazonにおいて顧客に販売事業者の出品商品を安心して購入してもらうために、購入商品のコンディションや配送を保証するもので、一定の条件を満たす場合、配送料を含めた購入総額のうち、最大30万円まで保証を受けられる制度。「Amazon Pay」を利用した購入においても、同等の保証対象となる(ただし、一部の条件の場合は対象外となる)
「Amazon Pay」の手数料は3.9%(デジタルコンテンツは4.5%)。顧客の利便性・安心感からつながるCVRの改善や、安全に販売できる環境が提供されていることを考えると、手数料以上の導入価値があると実感する企業は多い。MARK STYLERもその1社だ。
手数料を割高に感じる人もいるかもしれないが、アカウント連携や「Amazonマーケットプレイス保証」、不正検知などセキュリティ観点でもサービスメリットは大きいと思う。お客さまの利用率も高いので、導入して満足している。(與儀氏)
Amazonアカウントの情報は鮮度が高い
ID決済の導入には、そのアカウントに登録されている会員情報を顧客がタイムリーに更新しているという“情報の鮮度”は重要なポイントになる。
Amazonは総合オンラインストアをはじめ、生活に密着したサービスを多岐にわたって展開しているため、住所やクレジットカード情報などに変更があった際も高い頻度で更新されているのが特長の1つ。MARK STYLERでも、鮮度の高い会員情報を持つアカウントと連携できることが、導入する上で大きなポイントになったという。
私やスタッフが使ったときのケースだが、他の決済手段の場合は会員登録から決済が完了するまでに3分程度かかってしまったが、「Amazon Pay」を利用すれば最短で1分弱、平均しても1分30秒程度しかかからないこともあった。顧客とサイトの双方にとってのメリットになった。(與儀氏)
セール期や福袋の発売時期など、集中的に消費者が来訪するタイミングでも、「サイトに来てすぐに買い物ができ、スムーズにショップから出られる」という状況であれば、来訪者のストレスもなく、サイト側の負荷も少ないまま販売できるからだ。
「Amazon Pay」導入後、繁忙期の新規会員登録率は前年同月比120%に
「Amazon Pay」の導入を決めてから4か月後の2020年12月、3つの自社ECサイトで「Amazon Pay」が稼働した。
3サイトとも新規会員登録率が向上。特に12月と1月の繁忙期における「ELENDEEK ONLINE STORE」と「UN3D. ONLINE STORE」の新規会員登録率は、前年同月比約120%に達した。
コロナ禍の影響でEC自体の売り上げが拡大していたため、より正確な上昇率を計測するために利用率なども加味してはじき出した数字だったにもかかわらず、120%を記録したことは驚きだったという。
「ELENDEEK ONLINE STORE」と「UN3D. ONLINE STORE」は、アパレルの中でもやや高価格帯の商材を取り扱っており、客単価は1万円台後半~2万円台が多い。「Amazon Pay」で新規会員登録をした人の多くは20代後半~30代で、クレジットカードを所有し、収入が安定している年代と考えられることから、「Amazon Pay」の導入が利便性の向上だけでなく、客単価の押し上げにもつながっていると推測する。
3サイトとも、「Amazon Pay」の利用比率はすぐに上位へ。全決済手段のうちの2~3番手となり、なかでも「RUNWAY channel WEB STORE」は導入の翌月早々から利用率を伸ばした。これは想定を超える早さだったと與儀氏は振り返る。
新規会員が「Amazon Pay」を利用するケースは特に多いが、既存会員でも月平均2000人以上が「Amazon Pay」に移行している。Amazonアカウントを持つお客さま数は大きいだろうと思っていたが、それが現実に表れてきた形だ。クレジットカード決済の利用率は高いものの、さまざまなサイトでクレジットカード情報を残したくないと思うお客さまも多いのではないかと以前から推測していた。実際にお客さまから「クレジットカード情報をサイトに登録したくないため代引きを利用していたが、『Amazon Pay』が利用できるようになってよかった」という声も寄せられている。(與儀氏)
予約注文に力を入れるMARK STYLER。リスクの高い「代引き」利用率を減らしたい
MARK STYLERは、予約注文による販売に力を入れている。注文から商品が届くまで1か月程度のものから、長いものでは3か月以上を要する商品もあり、その間に商品への気持ちが冷めていたり、注文したことを忘れていたりすることも起こり得るという。
代引きを選んだ顧客が受け取り拒否をした際のリスクとコストは特に大きいため、代引き以外の決済手段を選んでもらう施策は急務だった。
現在、予約注文では代引き、クレジットカード、「Amazon Pay」の3つから決済方法が選べるようになっているが、「Amazon Pay」の利用が進んでいることから、代引きの利用率が徐々に下がってきているという。
また、「クレジットカードの再与信が発生した際の対応も、お客さまと当社の双方にとって『Amazon Pay』のメリットは大きい」(與儀氏)と話す。
クレジットカード決済を選んだお客さまが再与信になった際、利用額(与信額)が足りずに再与信処理ができなければ注文情報がエラーとなり、その段階でカスタマーセンターから代引きへの変更を提案せざるを得ない。
一方、「Amazon Pay」の場合、与信が通らなかったお客さまにはAmazonアカウント内で利用するクレジットカードを変更すれば与信処理が再度実施できるため、即座に代引きに変更しなくても済む可能性が高い。変更できるクレジットカードがない場合には、最終的に代引きを提案することになるが、受け取り拒否のリスクが大きい代引きへの変更を極力避けられることが安心につながっているという。
クレジットカード決済で再与信となった際に、別のカードに切り替えられればと以前から思っていた。「Amazon Pay」では別のクレジットカードに切り替えられるため、カスタマーセンターからも代引きとカード変更という複数の選択肢でご案内でき、買いやすさは向上していると思う。再与信になってもお客さまに代引き手数料の負担をかけることなく商品を届けられるので、とても重宝している。(與儀氏)
キャッシュレス化が進むなか、玄関先で代引きの支払いをするにも、そのときに現金が手元にない状況は十分に考えられる。配送会社との契約を変更すれば、代引きの支払いでもクレジットカードが使えるようになるが、そうするよりもECサイトの決済時に代引き以外の選択肢を用意することが有効だとMARK STYLERは捉えている。
加えて、コロナ禍では人と対面しながら時間をかけて現金の支払いをする必要のない、簡単に決済ができるサービスが増えたため、その利便性を求める人はより増加すると考えられる。與儀氏は、「『Amazon Pay』の利用促進を図り、顧客満足度の向上につなげていきたい」と話している。