店舗とECの「併用顧客」の来店頻度・購入金額は2倍以上。パーソナライズされたUXでロイヤリティ向上を実現する青山商事の事例
店舗とECの両方を利用する「併用顧客」の拡大を目指す青山商事。展開するブランドのひとつである「THE SUIT COMPANY(ザ・スーツカンパニー)」では、戦略的に併用顧客を拡大すべくOMO型店舗の展開・運営や、ECサイトでは消費者視点を重視したパーソナライズされたUX実現のための改善に取り組んでいる。
「ネットショップ担当者フォーラム 2022 春」に青山商事の小島蘭野介氏と、同社のマーケティングを支援するRepro(リプロ)の三田裕寛氏が登壇。店舗とECの両方で購買を後押しするためのポイントについて語った。
店舗とECの両方を利用する「併用顧客」の拡大へ
青山商事は「洋服の青山」のセカンドブランドとして、2000年11月から「THE SUIT COMPANY(ザ・スーツカンパニー)」を展開している。出店戦略もそれぞれ異なり、「洋服の青山」が郊外のロードサイドを中心に約700店舗を出店しているのに対し、「ザ・スーツカンパニー」は都心部を中心に64店舗を出店。また、64店舗のうち6店舗は、青山商事の展開する4ブランドを集結したブランドミックスのOMO型店舗「TSC SQUARE」として運営している。
ビジネスウェア事業で今期もっとも力を入れているのが、店舗とECを相互利用する「併用顧客」の拡大に向けた施策だ。2022年3月期時点で約1400万人にものぼるデジタル会員数を最大の強みとして生かし、今期も引き続き会員数の拡大を図りながら、戦略的に併用顧客を拡大していきたい考えだという。
「店舗の接客×ECにおけるパーソナライズされたUX」でブランドロイヤリティを向上させる
青山商事がOMOを推進し、併用顧客を拡大しようとする背景には、自社の店舗とECがそれぞれどういった役割を持っているのか、消費者の視点で整理したことにあった。
スーツはカジュアルなアパレル商材に比べて特にサイズが気になる商材であり、採寸や裾上げなども必要となりやすい。このため、店舗は消費者に寄り添った接客が大事なポイントとなる。
一方のECはデジタル会員にパーソナライズされた顧客体験(UX)を提供するワン・トゥ・ワンマーケティングが可能となる。そこで消費者に店舗とECの双方を利用してもらえれば、「消費者に寄り添った接客」と「パーソナライズ」が掛け合わさり、併用顧客の増加とともに、ブランドロイヤリティのさらなる向上につながると考えたという。
5年前の併用顧客の比率は5%ほどだったので、店舗とECの両方を利用するお客さまは確実に増えている。今期はユニークユーザーの10%が併用顧客になることを目標としている。(小島氏)
店舗スタッフの接客を受けながらオンラインショップで注文できる「DIGI-lab試着室」
OMO推進施策の一例が、「TSC SQUARE」で実施している「DIGI-lab試着室」だ。「DIGI-lab試着室」は、“店舗とECが融合した新しいお店のかたち”として展開。店舗スタッフの接客を受けながら、サイネージやiPadを用いてECの豊富な在庫からスーツをオーダーでき、出来上がったスーツは自宅で受け取ることもできるサービスとなっている。
青山商事が展開する4ブランドはそれぞれ個別に店舗を構えているが、「DIGI-lab試着室」を利用すれば1店舗で全ブランドから選べる点もユーザーメリットとなる。また、青山商事にとってもコストの削減と在庫の抑制に効果を発揮しているという。
「DIGI-lab試着室」の導入により、店舗スタッフの接客業務にもよい変化が起きているようだ。
スーツは仕立て直しが必要となる商品のため、お客さまには受け取りのために再度来店していただかなければいけなかった。それが自宅で受け取れるようになればお客さまにとってのメリットになるだけでなく、店舗スタッフにとっても新しくスーツを買いに来店しているお客さまの接客や採寸に集中できるようになる。新生活が始まる時期など店舗の繁忙期にも、お客さまを待たせずに対応できることは当社にとっても大きなメリットだ。(小島氏)
パーソナライズされたUXの実現に向けた施策と課題
OMOを推進するため、ECの機能改善にも取り組んだ青山商事。ECに求められる役割「パーソナライズされたUX」を実現するため、マーケティングソリューションを提供するRepro(リプロ)とともにさまざまな施策を実施した。その一部を紹介する。
施策①サイズの不安を払しょくしてCVRアップ
スーツは購入に際して特にサイズが気になる商材だが、カジュアルなアパレル商材に比べて独特なサイズの表記がされているもの。このため、ECでスムーズに検討・購入する上ではサイズに対する不安の払しょくが不可欠だ。
青山商事のECサイトは従来からサイズの表記を確認できるガイドページを設けていたが、商品ページからクリックして別ページに移動する仕組みだったため、ユーザーの離脱を誘発してしまうことが課題となっていた。
そこで、サイズ表記の確認画面をポップアップで表示させる仕組みに変更。最終的に購入に至るコンバージョン率は、従来に比べて約107%改善したという。
施策②ECの在庫がない場合に「店舗在庫を見る」に促す
欲しいサイズの商品がECの在庫になかった場合、「再入荷のお知らせ」が受け取れるボタンが表示される。この「再入荷のお知らせ」ボタン付近のひと目でわかる位置に、店舗の在庫が確認できる「店舗在庫を見る」のボタンも設置した。
ECで商品を探すユーザーの多くは、EC上に在庫がないとわかったときに店舗在庫からも探せることを気付いていないのではないかという仮説のもと、この施策を実施。「店舗在庫を見る」ボタンの押下率は、従来に比べて約149%改善した。店舗の在庫を調べられる機能の認知も広がっているという。
施策③「店舗在庫を見る」のページで、在庫のある店舗を上位に表示
「店舗在庫を見る」をクリックすると在庫がある店舗とない店舗の一覧が表示されるが、以前は在庫の有無で店舗の並び順が整っていなかったため、ユーザーはスクロールしながら近くの店舗の在庫状況を確認しなければいけなかった。しかし、これでは探す手間が発生してしまうため、購入に至らないユーザーが増えることが懸念される。
この課題を解決するため、Reproのツールを用いて在庫がある店舗だけを上位に表示するようにした。その結果、店舗在庫の取り置きを依頼する比率が約148%改善。取り置きを依頼する分、購入に近いところまで誘導できていると考えられる。
私たちはスーツのプロなので、Reproとの取り組みによってサイズ表記の確認方法1つを取っても、お客さまの視点がまだまだ抜けていたところがあるということに気付かされた。また、「店舗在庫を見る」ボタンをわかりやすくすれば店舗に誘導できる可能性が高まり、「併用顧客」の拡大にもつながると期待できる。
今まではEC上で最後の購入まで至りやすいような導線設計を意識していたため、こうした細かなところでも店舗と連携できる施策を提案していただけたことはありがたかった。施策を実施した結果、EC売り上げも拡大している。(小島氏)
「店舗とECの壁」をどう取り除いてきたのか?
OMOを推進する中で、店舗とECの壁が多くの企業で課題となりがちだ。壁を取り除くためには「店舗とECの双方向のコミュニケーションが大事」(小島氏)とし、青山商事では“実施している施策の丁寧な共有”と、“施策効果の理解促進”に努めてきたという。
データをもって併用顧客を拡大させる重要性を共有
まず、「なぜ事業全体として併用顧客の拡大に力をいれなければいけないのか」を、具体的な数値をもって説明した。下の図の通り、店舗のみを利用する消費者と、店舗とECを併用する消費者では、年間の来店頻度が約2倍、年間購入金額は約2.8倍もの差が生じている。
これまでは数値や詳細なデータを店舗に公開する機会が少なかったというが、「店舗とECで一緒に売り上げを構築していこう」という考えのもと、現在では定期的にしっかりとデータを共有するようになっているようだ。
店舗とECの相互送客施策に理解を深めてもらう
店舗側と共有している具体的な相互送客の施策は次の4つだ。店舗とECが連携した施策は双方に効果をもたらし、事業全体の成長につながっていることを常に共有するようにしている。
①Google Map戦略
Google Mapに表示される店舗情報をEC側で定期的に配信。
②デジラボ戦略
ネットとリアルが融合したシステム「デジラボ」。利用場所は店舗で、運営はEC側が担う。
③コンテンツマーケティング戦略
SEO対策の一環として、サイト内に記事コンテンツコーナーの「ザ・スタイルディクショナリー」を設置。フォーマルスーツのマナーやビジネスウェアの悩みなどを解決する記事を掲載しており、閲覧した消費者が店舗に来店している実績も出ている。
④Web広告で営業店支援
Web広告をクリックしたユーザーが店舗に訪れているデータが、ロケーション履歴から明らかになっている。
店舗側からも、併用顧客を拡大させるメリットと、そのための施策について、深く理解をしてもらえている。詳しいデータをとるまでは、ECのショッピングに特化したWeb広告からも店舗への送客につながっているとは想定もしていなかったが、その辺が明らかになったことでますます「全体で売り上げを築いていこう」という気持ちになれていると思う。(小島氏)
「ツール×プロのマーケティングチーム」で収益最大化を支援するRepro
ReproはWebサービスの売上向上を目的としたマーケティングプラットフォーム「Repro」を提供している。“リプロはツールにプロがつく”のキャッチコピーの通り、ツールだけでなく、導入各社に対して分析・戦略設計・施策立案・効果検証までを一貫して行うプロのマーケティングチームを組織して支援することが特徴だ。
現在、世界66か国、7,300以上のサービスでReproが活用されている。国内でもECのほか、金融、エンターテインメント、人材などの幅広い業界で導入が進んでいる。
Reproは1つの業界に特化したサービスではないため、多業界の知見を持ったマーケティングのプロが在籍していることが強みだ。EC・OMOを深掘りしたノウハウはもちろん、ほかの業界から得た知見をEC事業者が有効的に活用いただける点も、導入メリットとして提供できていると思う。(三田氏)