通販新聞 2016/12/21 9:00

顧客の不便を解消する視点でオムニチャネル戦略を推進し、成果をあげている有店舗アパレル企業が増えている。ネットとリアルでの在庫融通会員データの統合マーケティングの共通化などを積極的に図り、実店舗とネットを併用するロイヤリティの高い顧客の育成に成功しているようだ。最新のITツールも活用しながら、顧客目線で売り上げに直結する仕組みを作る注目小売り企業の事例に成功のヒントを読み取っていく。

青山商事、小型店舗にネットの「入り口」

紳士服販売を手がける青山商事はオムニチャネル戦略の強化に向けて、通販サイトと融合した新形態の実店舗「デジタル・ラボ」を10月6日に都内に開設し、ネットとリアルの相互送客への足がかりとしている。

秋葉原駅前に開設した同店舗はタブレットを持った接客スタッフに加え、通販サイトの在庫にアクセスして注文できるタッチパネル式の大型デジタルサイネージを店内に複数台導入した。小型店舗でありながら、通販サイトで扱う全ラインアップから選ぶことができ、商品を持ち帰る手間も省ける新コンセプトの実店舗となっている。

これまでCM動画やイメージモデルの着用シーンを見せたりするなど商品ディスプレイとしてサイネージを利用したことはあったが、注文ツールとしての活用は今回が初めて。基本は店頭での現物販売を優先するが、顧客が希望する商品の在庫が置いてない場合はネットでの注文を促す接客導線となっており、今後もその接客ノウハウを積み上げていく考え。

同社のようにスーツ販売を行う実店舗は、大通り沿いで在庫を豊富に積んだ大型店舗で展開していくイメージが強い。しかしながら、アパレルの中でもスーツ商品はかさ張るため他のカジュアル衣料のように店内で重ねて大量に平置きすることができず、必然的に陳列スペースが大きくなるという課題を抱えている。同じ柄のスーツを何着も展示できず、1つ売れると同商品の在庫が店から無くなってしまうことも珍しくないという。

小型店舗の場合は特にそういったケースに陥りやすいことから運営が難しいと思われていたが、同社では今回のコンセプトを採用したことで「品ぞろえで不利な条件の敷坪でも、ネットとつながったサイネージが全てクリアしてくれる。ほぼ100%近くの商品が扱えるので、秋葉原店が最大級の品ぞろえの店になると言ってもいい」(同社)と説明。今後の広がりにも手応えを感じている。

実際に同店舗のスタッフによるとネットと在庫連携したことで、店舗内に置く在庫数を現時点よりももっと少なくしても顧客対応が成立できる余裕があるとしている。同店舗の立ち上がりの状況としてネット経由の注文率は想定以上で、希望する商品が店頭になかった来店客を接客の途中で離脱させないツールとして効果的に機能。同店舗での1~2割程度の売り上げを作っているという。

また、実店舗側のもう一つのメリットとしてはスソ上げといった商品の補正作業について、従来は店舗内で行って完成品を上下組み合わせてバックルームに保管するという一手間があったが、ネット在庫で注文を受けた場合は通販の物流センターがそれらの作業を全て行うため、店舗内作業の省力化にもつながるという。

なお、同店舗でネットを経由した商品の売り上げについては同店舗に帰属する仕組みとなっている。

あの有名店がオムニ戦略を進める理由。ナノ・ユニバース、ベイクルーズ、青山商事の3事例 青山商事はオムニチャネル戦略の強化に向けて、通販サイトと融合した新形態の実店舗「デジタル・ラボ」を10月6日に都内に開設
デジタル・ラボに置かれたデジタルサイネージ

取り置き機能も導入

また、同社では10月よりブランドサイトと自社通販サイトを統合し、実店舗検索やブランド情報発信機能とショッピング機能を一本化した。その際に、実店舗に商品取り置きを申し込める機能や近隣店舗・利用頻度の高い店舗を「マイ店舗」として登録できる機能も導入。通販サイトから実店舗に送客できる一つのきっかけとしても期待している。

この背景には昨年通販サイトに導入した、商品の「店舗在庫表示機能」の利用率の高さがあった。約1年間の運用の結果、在庫照会した商品のスマートフォン画面を持って当該店舗に訪れる来客が数多く見られ、そのほとんどが購買モチベーションも非常に高かったという。実店舗側としても購入希望商品が決まっている来客であることから、一から商品を提案する手間が要らず接客効率が高くなったようだ。

今回追加した「取り置き」はそれを更に進化させたもので、通販サイトからの予約によって当該店舗側は顧客がどの商品を見に来るかがあらかじめ分かるため、スタッフが事前に関連商品をコーディネートして合わせ買いを勧める準備ができるメリットもあるという。

両サービスのPRに向けては10月より来店者に専用のリーフレットを配布しており、ネットとの併用で実店舗での購入がしやすくなることを訴求。利用者数は順調に拡大しているようだ。

ベイクルーズ、会員や在庫を共通化

個人的にはスマホで顧客接点を作れなければアウトだと思ってい」。

セレクトショップを展開するベイクルーズでEC運営を行う上席取締役ICT統括の村田昭彦氏はこう述べる。「そのためにどうすればいいかを考えると結果的にオムニチャネルが必要」(村田氏)という判断に至ったようだ。

スマホで顧客接点を持とうとした場合、顧客が少しでも「不便」と感じればそのサイトを利用しなくなる可能性がある。そこで例えば店頭とECの会員IDを共通化する。あるいはスマホで買いたいときに在庫がないために他のサイトに行くことがないように、目当ての商品が引き当てられる状態を作る。こうしたオムニ化によって利便性を高めることが重要になる。結果的に新規ユーザーの獲得や、既存客の利用頻度が増えることで、顧客接点がより一層深まることが期待できる。

ベイクルーズのオムニ戦略では「会員」「在庫」「サービス」「コミュニケーション」の4つの統合を進めている。

あの有名店がオムニ戦略を進める理由。ナノ・ユニバース、ベイクルーズ、青山商事の3事例 ベイクルーズは会員、在庫、サービス、コミュニケーションの4統合を進めている
「スタイルクルーズ」では店頭在庫の引き当ても可能になった

最初の「会員」は今年3月に統合が完了した。会員IDを一元化し、ブランドごとにバラつきがあった会員プログラムを共通化したことで「既存のユーザーが一挙にウェブに流れてきた」と村田氏。

今年3月1日の統合前後を比較すると、ネット経由の新規購入客は統合前に比べて毎月5倍のペースで増加している。店舗とECを併用する客が増え、年間の平均購入金額を比較すると、併用客は店舗だけで購入する客の3倍の金額になる。統合した全体の会員数は直近で160万人となっている。

「在庫」の統合については首都圏に複数構えていた倉庫を8、9、10月で段階的に一カ所に集約した。倉庫にはECと店舗の在庫が保管されている。さらにこの集約した倉庫の在庫と、店頭の在庫のデータも一元化した。結果、商品が倉庫にあっても店頭にあっても「ほぼ当社で持っている在庫はインターネットから引き当てが可能な状態」(村田氏)になっている。

こうして「会員」と「在庫」は統合が完了した。3つ目の「サービス」は現在、進行中。在庫が一元化されたことで店舗の在庫を通販サイト経由で取り寄せることができるようになった。

11月末には自社通販サイト「スタイルクルーズ」を刷新する。これに合わせて店頭在庫の取り置きが可能になる。ユーザーは店頭の商品をサイト経由で取り置き、来店して当該商品を試着したり購入できるようになる。

「目当ての商品があってわざわざ店に足を運んだのになければがっかりする。比較的そういうケースが多い」(同)という。そこでネットで手軽に店の在庫をキープできる仕組みを整えることで顧客満足度を高めていく。

最後の「コミュニケーション」の統合はこれから進めていく。メール・LINE・アプリの3つを「最重要なコミュニケーション上のチャネル」(同)と位置付け活用していく意向で、顧客別に最適な情報を届けていく。

すでにメールのパーソナライズ化には着手している。LINEの公式アカウントも開設し、メッセージ最適化サービス「LINEビジネスコネクト」との連携もテスト的に始めている。来年早々にはアプリの配信も予定している。

前期(2016年8月期)は会員の統合や在庫の共有化などを進めた結果、自社通販サイトの売上高は前期比5割増の95億円となった。EC全体の売上高も前期比31%増の216億円となっている。

同社ではオムニ化による在庫共有化の効果がひと段落するまでは「機会損失がかなり減らせるため、業績は伸ばせる」(同)とみている。

今期は自社通販サイトが前期比42%増の135億円、EC全体では同25%増の270億円を計画。足元の9、10月は自社通販サイトの売り上げは前年同期比54%増で推移しているようだ。

ナノ・ユニバース、購入履歴を把握した接客も

セレクトショップ運営のナノ・ユニバースは、ITを積極活用したオムニチャネル戦略を進めている。有店舗の大手アパレル各社が対応を急ぐ実店舗とECの在庫一元化や会員統合をいち早く実施。消費者目線でオムニ化を進めたことでEC化率は4割に迫るなど、アパレル業界では非常に高いのが特徴だ。

同社は14年10月、それまでスタートトゥデイの運営支援で展開していた直営の通販サイトを自社運営に切り替えたのを機にサイトを全面リニューアルした。同時に、実店舗とECで会員情報やポイントの共通化、在庫の一元化を実施したことで、実店舗に来店した顧客に対しては、店の在庫や商品展開の制限を受けることなく、他店や物流センターを含む幅広い商品群から買い物ができる店舗ウェブ注文システムを導入している。

同システムは、来店客が欲しい商品について、販売スタッフが持つ専用端末を使用してオンライン、オフラインで一元化された在庫からすばやく確認でき、その場で注文と支払いが可能で、購入商品は自宅に届けるサービスも行う。

オムニ化の要となる自社通販サイト「ナノ・ユニバース ライブラリ」ではブランドイメージを重視。EC部隊で15人のカメラマンを抱え、写真やコンテンツのクリエイティブには徹底的にこだわる。加えて、ECコンテンツはマーケティングの起点として店頭ディスプレイにも反映させ、店と通販サイトのイメージを統一している。

自社ECならではの機能も拡充しており、店頭在庫の表示機能はもちろん、手持ちのアイテムを採寸して気になる商品とのサイズの違いを表示する「FIT YOU」などの機能が会員限定で利用できる。

会員化に当たっては、顧客情報の登録内容に応じてポイント還元率が変わるユニークな仕組みを採用。メルマガ受信設定や、住所・電話番号の登録、サイズ情報登録、顔写真登録で各1%アップとなるなど最大6%まで還元率が上がる。

また、スマホアプリを活用して既存顧客のLTVを高める取り組みも強化している。同社では、全国の店舗にビーコンの発信機を設置し、アプリをダウンロードした顧客がブルートゥースをオンにして来店すると自動的にチェックインして来店ポイントが貯まる。

あの有名店がオムニ戦略を進める理由。ナノ・ユニバース、ベイクルーズ、青山商事の3事例 ナノ・ユニバースは、ITを積極活用したオムニチャネル戦略を進めている
自社通販サイトでは登録情報に応じてポイント還元率が高まる

ユーザーの来店情報は販売員のタブレットにも届き、来店客の名前や過去の購買履歴、嗜好性を把握した上で顧客の名前を呼びながら接客できるのがメリットで、会員化の際に顔写真登録を促しているのもこのためだ。現状、そうした接客は数店舗でテストしており、時間をかけて効果を検証していくという。

今後は、マーケティング面でも店頭と自社通販サイトのデータ共有を強化する。同社では、9月にオラクルのマーケティングツール「レスポンシス」を導入。今はカート落ちしたユーザーに再考を促すメールを自動送信するなどしているが、今後はアプリと連携し、実店舗に来店したものの商品を購入しなかったユーザーにシナリオメールを配信するなど、ECだけでなく店での行動も加味した精度の高いメール配信を目指す考え。

※記事内容は紙面掲載時の情報です。
※画像、サイトURLなどをネットショップ担当者フォーラム編集部が追加している場合もあります。
※見出しはネットショップ担当者フォーラム編集部が編集している場合もあります。

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