EC売上約2倍! ecbeingが支えるナノ・ユニバースのオムニチャネル
2014年に本格的なオムニチャネル戦略を開始した大手アパレルセレクトショップ「ナノ・ユニバース」は、ECサイトのリニューアルから1年以上が経過した2015年秋時点でも、EC売上高は前年同月比約2倍の成長率を維持しているという。ナノ・ユニバースがオムニチャネルで高い成果を上げ続けている理由は何か。同社のECサイトやオムニチャネルシステムの構築を受託しているecbeingの布田 茂幸 執行役員が解説した。 写真◎Lab
セミナーのポイント
- オムニチャネルの本質はCRM
- アプリこそオムニチャネル時代の顧客インターフェイス
- ︎「3Dスキャン」「メディア化」未来を見据えたあくなき挑戦
オムニチャネルの本質はCRM
ECサイトの企画から構築、運用までワンストップで手掛けているecbeing。EC機能を主軸としたソリューションパッケージシステム「ecbeing」は、1999年の発売以来、大手や中堅企業を中心に900サイト以上の導入実績がある。
布田氏は冒頭、オムニチャネル化に取り組む企業の多くはECシステムやインフラを作ることに注力し、肝心のサービス強化が果たされていないケースが散見されると指摘した。
一方、ナノ・ユニバースは、リピーターやロイヤルカスタマーといった「ファン」への満足の提供、つまりCRM(顧客リレーションシップ管理)をオムニチャネル戦略の軸に据えているという。
ナノ・ユニバースが高い成長率を維持できている理由の1つは、オムニチャネルの目的と戦略をしっかり描いた上で、実店舗とECの在庫連携や顧客統合といったインフラ構築に取り組んでいることにあると布田氏は指摘した。
ナノ・ユニバースのオムニチャネル戦略において、ECと店舗のシステム統合はあくまでも手段であり、その本質はサービス強化によるCRMの実現にある。「ロイヤルユーザーのために」が徹底されている。
ナノ・ユニバースは、直販サイトのターゲットを「ロイヤルユーザー」に特化し、この層に対するサービス強化をオムニチャネル戦略のベースとしている。布田氏によると、ナノ・ユニバースはオムニチャネル化に取り組む上で、「店舗とECのサービスレベルを合わせる」ことを前提として施策を考案しているという。実店舗で商品を購入したことがある顧客をECサイトでも同様に満足させることができなければ、オムニチャネルは成功しないと考えているためだ。
会員特典をECと実店舗で共通化したほか、実店舗の持つ世界観をECで表現するため、ECサイトの商品画像は店舗のディスプレイをイメージしてレイアウトしている。ECサイトに商品のディテールや着心地を伝える写真や説明文を豊富に掲載し、店舗スタッフによる接客にも負けないような利便性の提供に取り組んできた。
商品が体のサイズにフィットしているかどうかを調べるシステムを構築し、試着せずに自分にフィットする商品を探せるようにするなど、先進的な取り組みも目立つ。いずれも2014年に開始し、成果を上げた施策だ。
ナノ・ユニバースのECサイトの特徴
- 会員特典を店舗と共通化
- 店舗の持つ世界観をECで表現
- 優れた検索機能とレコメンド
- 商品のディテールや詳細を伝える接客レベルの説明文
- 体のサイズにフィットした商品を検索できる
- 商品のフィット感をビジュアルで確認できる(マイサイズとの差を可視化)
- 会員情報の登録項目(性別、年齢等)に応じてポイント還元率が上昇
アプリこそオムニチャネル時代の顧客インターフェイス
ナノ・ユニバースは2015年、オムニチャネル化の取り組みを一層加速させた。
まず、それまで当たり前であった物理的なメンバーズカードを廃止しスマホアプリに一本化した。思い切った決断だが、これによりスマホアプリが必然的にオムニチャネル戦略の軸となった。
アプリには「会員カード機能」のほか「チェックインスタンプ」「実店舗の来店履歴」「店舗ECの購入履歴」「お気に入り商品の管理」「新着ニュース」などの機能も備えている。新着ニュースはもちろんプッシュ通知で届き、高い反応率となっている。また、新規客層とつながることも重視し、会員でない方については氏名などの個人情報を入力せずにアプリを使えるようにして裾野を広げることにも成功している。
スマホアプリはすべての顧客にとってのナノ・ユニバースとの最初のインターフェイスになると定義したからこそ、機能だけでなくビジュアルとユーザビリティには細心の注意を払って設計されている。これを格好良くない、使いづらいと思われてしまったら戦略の肝が崩れることになる。そのくらい重要なツールとして今でもビジュアルとユーザビリティ、そして機能を強化し続けている。
スマホアプリにはWebにはない魅力がある。例えばLINEの台頭でも分かる通りプッシュ通知は今やメルマガよりも効果が高い。これをアプリ内に持つことで会員の直販サイトや店舗、ECモール等への誘導を自社でコントロールできるようになる。アプリこそ、すべての客層や販売チャネルを網羅的につなげることを可能にするオムニチャネルツールだ。
こうしたアプリができることで、オンラインから実店舗へ誘導する「O2O」を積極的に進められるようになったほか、会員の行動履歴や購買履歴に基づくレコメンドやプロモーションも開始した。
ECと実店舗の顧客データ統合は、ECだけに留まらない、実店舗も含めた一人ひとりの顧客に対して最適なプロモーションを実施するワン・トゥ・ワン・マーケティングの実現を可能にした。
店内にiBeaconを設置し、スマホにアプリをインストールした会員が入店すると、店舗スタッフが持つタブレット端末に顧客情報が表示される仕組みを導入した。店舗スタッフは、顧客毎のリアル・ネットを横断した購入履歴や来店履歴を確認しながら接客することができる。さらに店舗スタッフが口頭で話した内容は自動でテキスト化されるため接客メモも簡単に残すことができる。
こうしたワン・トゥ・ワン接客はこれまでも売上を上げる店舗スタッフが当たり前に行っていたことであるが、統合システムの構築でそれが全射的に仕組化されることにつながった。布田氏は、ナノ・ユニバースのこうした取り組みがオムニチャネルの目指すべき方向の1つの答えになりうると指摘した。
多くの企業は、そのデータをマーケティング・オートメーションなど主にネットのために活用する。しかし、ナノ・ユニバースではこのデータを実店舗での接客にも積極的に活用できるようにした。このことはECと店舗のデータを統合する上で、各社が考えるべき1つの答えと言えるのではないか。
「3Dスキャン」「メディア化」未来を見据えたあくなき挑戦
ナノ・ユニバースは2015年10月、業界初となる「3Dスキャンサービス」を開始した。実店舗に設置された3Dスキャナーで全身30か所をわずか2秒で測定し、3D画像・データとしてアプリに登録できるサービスだ。今後は、アプリに登録されたサイズに基づいて商品を提案する「サイズマーケティング」に力を入れていくという。
これからの未来、オムニチャネルが進めば進むほど、ショールーミング化が進んでいくとナノ・ユニバースは考えている。企業がどんなに実店舗だと言おうが、時代の流れには逆らえないと。だからこそ、ネットでも安心して買い物ができるサイズマーケティングはこれからのアパレルに必要だろうと考えているのだと布田氏は語る。
ナノ・ユニバースが生業とするセレクトショップというのは、その名の通り国内外から良いものをセレクトして提供する小売を指すが、ここ数年は利益率の高いセレクトオリジナル商品のシェア拡大により、各社とも業績重視の経営を行っている。そんな中、ナノ・ユニバースはセレクトショップの原点に帰りたいと願った。ナノ・ユニバースの藤田社長は布田氏に語ったという。
「1999年の創業当時、自分たちは国内外の最先端の服(モノ)ではなく情報を提供していることにプライドがあったし、顧客もそれを求めていた。オリジナル商品で溢れるようになった今だからこそ、今また原点に戻りたい。そうならなければセレクトショップの未来はない。これからも次々チャレンジする」
その結果、今現在最も注力しているのがECサイトのメディア化(Webマガジン化)だ。今のナノ・ユニバースのECサイトを見ると、Men's、Women'sなどのアパレルとして一般的なカテゴリの下に“Magazine”というカテゴリがある。
その下層には「旅行」「車」「音楽」「映画」「アート」さらには「日本」など、10以上のライフスタイルに関連するサブカテゴリがあり、それぞれに数十の記事が存在している。これは、今よく言われるコンテンツマーケティングの領域を超えている。
コンテンツを使ってECの売上を上げようとしている訳ではないのだ。今ある商品を良く見せるためのコンテンツを掲載している訳ではないのだ。現時点ではそれぞれの記事は記事として存在しているだけでそこからモノは買えない。しかし、いずれはそれも考えている。こうしてナノ・ユニバースは真のセレクトショップへの道を歩みはじめている。今年の夏までには予定されているECの越境対応も含めもはやオムニチャネルの先を見ていると布田氏は語る。
ナノ・ユニバースは3Dスキャン、メディア化に代表されるように、経営者自ら目的に向かって時代を深く読み解き見据えた上で、次々と新しいことに本気でチャレンジしていく。オムニチャネルは手段であり通過点と言っているのが印象深い。
ナノユニバースはオムニチャネルや未来戦略の担当部署(EC部署)を社長直轄とし、ECを全社的な経営戦略の中に組み込んでいる。オムニチャネルの先を見据え、考え抜いたさまざまな施策を他社に先駆けて実現する実行力も、EC事業で成果を上げ続けている理由の1つだろう。
布田氏はナノ・ユニバースの成功事例を引き合いに出し、国内企業はオムニチャネル化への取り組みを「“本気”でやるか、やらないかが勝負の分かれ道」と強く訴えていた。
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