黄文波(Huang WenBo)[執筆], トランスコスモスチャイナ(transcosmos China)[執筆] 2023/1/6 7:30

ライブ配信は中国EC市場の重要なコンテンツとなり、爆発的な消費拡大を牽引しています。モバイルインターネットにおける「ライブ配信元年」は2016年。その3年後の2019年にはライブ配信とECが初めて融合し、2020年にはコロナ流行により爆発的な成長を遂げました。「抖音(Douyin)」「快手(Kuaishou)」といった大手プラットフォームは、独自のECプラットフォーム構築のための投資を増やし続けています。

EC市場の拡大をけん引する中国ライブコマース市場のいま

中国インターネットネットワーク情報センター(CNNIC)が発表した「第48回中国インターネット発展状況統計報告」によると、2021年6月時点で中国のインターネットユーザー数は2020年12月時点比2175万人増の10億1100万人となり、インターネット普及率は71.6%に達しました。

そのうち、オンラインショッピングの利用者は8億1200万人に拡大。インターネット利用者全体の80.3%を占めています。

オンラインライブ配信サービスの利用者は6億3800万人で、インターネット利用者全体の63.1%。ライブコマースの利用者は3億8400万人でインターネット利用者全体の38.0%を占めました

中国のEC利用者など
中国のEC利用者など(出典:第48回中国インターネット発展状況統計報告書、画像はtranscosmos Chinaが作成)

ECポータル「網経社」によると、中国のライブコマース市場は急速に拡大。2019年の成長率は227.7%、2020年は189.5%と、3ケタの成長率を記録しています。

2017年から2020年の中国のライブコマース普及率(=ライブコマースの市場規模/ネット通販の市場規模)は、0.27%から8.6%に拡大。今後も高い成長率を維持する見込みです。

ライブコマース市場の拡大は、中国のEC業界全体に新しい活力と大きな可能性をもたらしています。

中国ライブコマース市場をけん引するショートムービープラットフォーム「Kuaishou」「Douyin」

コロナウイルスの影響で、中国人のライフスタイルは大きく変化しています。ライブストリーミングという新しいマルチメディアで買い物をしたいという消費者が増加。「タオバオライブ」に加え、ショートムービープラットフォーム「Kuaishou」「Douyin」などのプラットフォームもEC事業を強化しており、ライブコマースはECビジネス上の重要な販売チャネルになっています。

中国では「南の抖音(Doyin)」「北の快手(Kuaishou)」と呼ばれています。「Doyin」は一般人が投稿した共感を呼ぶ動画やリアリティのある動画がバズりやすく、中国の地方地域で多く利用されている共感や親近感を感じやすい人重視の「コミュニティ」。一方、「Kuaishou」はインフルエンサーの投稿がバズりやすいコンテンツ重視の「メディア」と言えます。

「網経社」は、2021年に「Kuaishou」のライブ配信を通じたGMV(流通総額)は8000億元(1元17円換算で約13兆6000億円)に達し、「Douyin」のライブ配信経由のGMVは1兆元(約17兆円)に達する予測しました。

「Kuaishou」「Douyin」という2つのショートムービープラットフォームは、それぞれの特性に合わせてライブコマースへの投資を増やし、それぞれ「興味関心型EC」(ユーザーの潜在的な需要を刺激し、生活の質を向上させる電子商取引)と「信頼EC」という発展戦略を打ち出しています。

Douyin(中国版TikTok)は「興味EC」を推進する3つの支援プログラムを開始

「Douyin」は、日本版「TikTok」と同様に若者へ焦点を当てたショートムービーSNS。EC、ライブ配信、ファンコミュニティー形成などの機能を搭載しています。女性ユーザーが約60%、30歳以下のユーザーが93%。購買力やCVRの観点から見ると最も質の高い消費者が集まっているプラットフォームです。

その「Douyin」のEC部門TOPの康沢宇総裁は、「Douyin」を「興味関心型EC」(ユーザーの潜在的な需要を刺激し、生活の質を向上させる電子商取引)であると説明。ショートムービーやライブストリーミングの普及、レコメンデーション技術の革新、優秀なコンテンツクリエイターの登場という3つの大きな要因が、興味関心型ECの形成に寄与しているとしています。

「Douyin」が掲げたEC売上アップに関する方針では、高品質な商品の提供とGMVをKPI(重要業績評価指標)として公表。加盟店1000店舗が年間売上1億元(約17億円)以上、インフルエンサー10万人が年間売上10万元(約170万円)以上、高品質な100商品が年間1億元(約17億円)以上売れるような支援策を発表しました。

「Douyin」のEC戦略(出典:Douyinの公式ECアカウント)

「Douyin」のECビジネスに関するコンセプトは、ユーザーが即座に購入できるための商品情報を多く提供すること。そのために、コンテンツとレコメンデーションといった技術を強化。「あなたが偶然見つけたいいものは『Douyin』で買える」ことを訴求しています。
「Douyin」の強みは、強力なトラフィック、コンテンツ、レコメンデーション技術です。一方で、品質管理、カスタマーサービス、物流、決済など一連のバックエンドサービスの強化が課題になっています。

「Douyin」が2022年1月にパートナーへ送った公開書簡では、過去1年間に260万人以上の出品者が「Douyin」のEC機能でビジネスを展開。加盟店860以上の累積GMVが1億元(約17億円)を突破し、サービスプロバイダー300以上と代理店1万4000以上が「Douyin」のEC機能を活用したというデータを開示しました。

2021年の1年間で、「Douyin」に投稿されたEC関連のショートムービーの月間平均投稿量は1億8000万本、ライブストリーミングの月間平均視聴回数は498億超、コンテンツの月間平均インタラクション数は1382億超、ユーザーの累積購入アイテム数は117億超となりました。

「Douyin」は2020年、2019年比で3倍以上となる1000億元(約1兆7000億円)超のGMVを達成。2021年の年間GMVの目標を1兆元(約17兆円)に設定し、メディアの報道によると最終的な達成率は8割程度だったそうです。タオバオは10年、Tmallは7年、JDは13年でGMV1兆元(約17兆円)を突破しましたが、「Douyin」の成長はそれらEC大手のスピードを大きく上回ります。

「Kuaishou」は信頼を基軸に「コンテンツ+プライベートドメイン」へ注力

2018年に誕生した「Kuaishou」のECビジネスは、2021年上半期にGMVが2640億元(約4兆4880億円)に到達しました。

GMV急増の背景には、「Kuaishou」がユーザーとコンテンツ制作者の信頼関係を効果的にマネジメントしていることがあります。

「Kuaishou」は2021年5月、「真宝倉庫」というバックヤードセンターを立ち上げ、広州などのジュエリーやヒスイの主要産地に「鑑定倉庫」を設置。ユーザーが購入したアイテムはすべて鑑定し、本物であることが確認できるようにしました。

2018年12月には「コンテンツ+ソーシャル」でGMVを伸ばす「麦畑プロジェクト」を立ち上げ、「Kuaishou」のさまざまな機能を開放。「人」「モノ」「場」の軸でユーザーの商品購入につなげています。

そして、2021年3月に打ち出した戦略が「信頼EC」です。これは、ユーザーとECコンテンツ制作者の間に強い信頼関係を構築することで、プライベートドメインのトラフィック(自社ECやアプリなどの自社運営プラットフォームに顧客を流入させること)を増やし、ECのコンバージョン率を向上させることを目的としています。

大手モールや有料広告を使わず、信頼関係を軸に顧客を自社ECサイトなどに流入させ、コンバージョンさせる取り組みを強化しているのです。「Kuaishou」は、数千億人(個々のショップのフォロワーの合計人数)のプライベートドメインファンを抱えており、自社ECを拡大するための戦略を進めています。

また、「Kuaishou」の宿華CEOは、2024年頃までにデイリーアクティブユーザー(DAU)を4億人に伸ばし、2024~2025年のECに関するGMVを2兆元(約34兆円)にまで拡大する中期目標を発表しています。

「Kuaishou」のECロジック
「Kuaishou」のECロジック(画像はtranscosmos Chinaが作成)
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ライブコマースの進展は企業にブランドの販売機会増加など新たなビジネスチャンスを創出しています。筆者の所属するトランスコスモスチャイナでも、ほとんどのクライアント企業のライブチャネルアカウントを開設し、ライブ販売をしています。

今後、中国のEC市場はEC、コンテンツ、エンターテインメントなどの融合がトレンドになるでしょう。そんな環境下、「Kuaishou」「Douyin」のライブコマース戦略が明確り、両プラットフォームの今後のビジネス展開が今後の中国のライブコマース市場の方向性を示していると言えます。

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