直井 聖太[執筆] 8/5 8:00

2024年6月の訪日外客数が単月過去最高を記録するなどインバウンドが急速に増加しています。それに伴い、インバウンド取り込み施策の1つとして越境ECに注目する事業者が増えています。そこで今回は、越境ECサービス「Buyee(バイイー)」ユーザーに行ったアンケート調査結果を中心に、インバウンド復活と越境EC活用の可能性を探りました。そこから見えてきた、インバウンド客を取り込むカギは、「旅マエ」「旅ナカ」「旅アト」需要の理解・把握です。

訪日旅行の目的1位は「買い物」。買い物予算は日本人国内予算の2倍以上

訪日観光客の消費意欲を見てみましょう。訪日経験がある「Buyee」ユーザーに「訪日の目的」を聞いたところ、「買い物」(78.4%)が1位となりました。

越境EC インバウンド消費 日本旅行の主な目的 BEENOS Buyeeユーザーへのアンケート調査
日本旅行の主な目的(n=2191/複数回答可)

日本発の越境ECの特徴には、「安さや物量ではなく、日本でしか購入できない独自性や品質の高さに対する需要がある」がありますが、(詳細はこちらの記事を参照)アンケート結果からもこうした日本商品の独自性や品質が、観光の目的になるほど魅力があると言えます。

そのため、帰国後も「再びその商品をほしい」「その文化を再体験したい」と思った時に、それを実現できる環境を整備していることは非常に重要なのです。

訪日時の買い物予算は、「10万以上」が50.7%で半数以上を占めています。2023年における日本人1人の国内旅行1回あたりの旅行支出は6万3212円でした。この旅行支出には宿泊費や交通費なども含まれることを考慮すると、訪日外客の買い物予算は国内旅行者の2倍以上になると考えられ、旺盛な消費意欲があることがわかります(参考:観光庁 「旅行・観光消費動向調査 2023年年間値(確報)」)

越境EC インバウンド消費 日本での買い物の予算 BEENOS Buyeeユーザーへのアンケート調査
訪日時の日本での買い物の予算(n=706)

「旅マエ」の情報収集はSNS&ECサイトを活用

「旅マエ」の情報収集としては、SNSや情報サイトの活用がイメージされますが、アンケートからは意外な結果も見えています。「ECサイト経由で知った海外のブランドや販売店の実店舗を旅行で実際に訪問したことはあるか」という質問に対して、「はい」と回答したユーザーは49.4%、約半数という結果になりました。

越境EC インバウンド消費 ECサイト経由で知った海外のブランドや販売店の実店舗を、旅行で実際に訪問したことはあるか BEENOS Buyeeユーザーへのアンケート調査
ECサイト経由で知った海外のブランドや販売店の実店舗を旅行で実際に訪問したことはあるか(n=733)

調査時期と対象国は異なりますが、下の表は「日本の製品を購入する際に参考にしている情報がある場合は、何を参考にしているか」という質問の結果をまとめたものです。アメリカ(29.9%)、台湾(19.0%)、イギリス(18.9%)はX(旧Twitter)、マレーシア(35.4%)はFacebookが最も多い結果となり、海外消費者がSNSを活用して日本の情報を得ていることがわかります

越境EC インバウンド消費 日本の製品を購入する際に参考にしている情報がある場合は、何を参考にしているか BEENOS Buyeeユーザーへのアンケート調査
日本の製品を購入する際に参考にしている情報がある場合は、何を参考にしているか

越境ECの認知獲得手段としてまず候補にあがるのがSNSの活用です。SNSを通じて認知を獲得し、越境対応しているECサイトに流入させるのは理想的な導線の1つですが、実はECサイト自体も「旅マエ」の認知獲得に寄与しています

ECサイトのメディア化が進み、単に商品を購入する利便性だけではなく、商品を使用するライフスタイルの提案や、ブランドの世界観を表現することを重視するECサイトも増加していることから、ECサイト自体が実店舗への訪問を促す役割を持つようになったと考えられます。

「旅ナカ」での課題は「価格以外の理由で購入を断念」

「海外旅行中の買い物で困ったこと」を聞いたところ、「商品自体の大きさ・重さ」に起因する回答が大半を占めました。

これまでは商品の購入を諦めるしかなかったかもしれませんが、越境ECを活用することで帰国後の購入を叶えることもできます。また、海外からのユーザーに対して複数の選択肢を提供できることは、店頭での体験価値向上にもつながります

越境EC インバウンド消費 海外旅行中に困ったこと BEENOS Buyeeユーザーへのアンケート調査
海外旅行中に困ったこと(n=1594/複数回答可)

「旅アト」のリピート購入意向は92%以上、実際の購入経験は35.4%

下のグラフは、コロナ禍中に実施したアンケートで「訪日後に越境ECを活用して気に入った商品のリピート購入をしたいか」という質問に対する回答です。対象国すべてで8割以上が「越境ECを活用したリピート購入をしたい」と回答しています。

訪日できない時期に行ったアンケートのため、より積極的な回答が集まったという傾向はありますが、「良い商品・気に入った商品であれば繰り返し購入したい」という意志があることは確実でしょう

越境EC インバウンド消費 越境ECでリピート購入したいか(米国、台湾、マレーシア、イギリス) BEENOS Buyeeユーザーへのアンケート調査
越境ECでリピート購入したいか(米国、台湾、マレーシア、イギリス)

それでは、実際に越境ECを活用した「旅アト」の購入実態はどうでしょうか。「これまでに訪日時に購入した商品や発見した商品を、帰国後にECで購入したことはあるか」という質問に対しては、35.4%が「はい」と回答しました。

越境EC インバウンド消費 これまでに訪日時に購入した商品や発見した商品を、帰国後にECで購入したことはあるか BEENOS Buyeeユーザーへのアンケート調査
これまでに訪日時に購入した商品や発見した商品を、帰国後にECで購入したことはあるか(n=741)

調査の実施時期・対象の違いはあると思いますが、既に越境ECサービスを利用したことがある「Buyee」ユーザーでも、「旅アト」の越境購入意向の高さと実際の購入経験に差が生まれている要因は何でしょうか。

上記の質問で「購入したことがない」と回答したユーザーに、越境ECで「旅アト」購入をしなかった理由を聞いたところ、商品自体の魅力やコストの課題もありますが、「その商品が越境ECで購入できるかわからなかった」(28.8%)「欲しい商品が越境ECに対応していなかった」(14.9%)と、リピート購入の意向はあっても、越境ECの対応環境が整備されていないことで、購入を諦めたユーザーがいることがわかります

越境EC インバウンド消費 「旅アト」で商品を購入しなかった理由 BEENOS Buyeeユーザーへのアンケート調査
「旅アト」で商品を購入しなかった理由(n=537/複数回答可)

これは、海外ユーザー、日本企業の双方にとって残念な機会損失です。一方で、越境ECを導入し商品が購入できることをECサイトに訪れたユーザーに伝えることで、持続的な関係性作りにつなげられるでしょう。

「旅マエ」「旅ナカ」「旅アト」、それぞれで越境EC活用を

「Buyee」ユーザーへのアンケートを通して、「旅マエ」「旅ナカ」「旅アト」各場面でのECサイト、越境EC活用の可能性を探りました。

ボーダレスにアクセスできるオンライン空間では、ECサイト自体がSNSのようにブランドや商品の魅力を海外に伝え、訪日時の来店を促す場として機能することがあります。旅行中は長距離移動などで購入が制限される場面もありますが、「旅アト」購入を可能にすることで、訪日海外ユーザーに「諦める」意外の選択肢を提示することも可能です。

越境ECによる「旅アト」の商品購入実態は3割ほどですが、購入意欲は高く、日本企業側の環境整備によってそのニーズを取り込める可能性があります。

コロナ禍をきっかけに越境ECを導入する企業が増加したことで、訪日外客の消費は店頭とオンラインに広がりました。訪日外客を一時的なインバウンド消費ではなく、ブランドのファンである海外の「お客さま」として持続的な関係性を築ける環境が整備されつつあると言えるのです。

アンケート概要
  • 調査タイトル:「海外旅行および訪日旅行における消費行動と越境EC」に関するアンケート調査
  • 調査対象:海外向け購入サポートサービス「Buyee」のユーザー(アメリカ、台湾、韓国、マレーシア、イギリス)
  • 調査人数:749人
  • 調査期間:2023年7月~8月
  • 調査方法:オンラインアンケート
  • 調査主体:BEENOSグループ
  • 調査タイトル:海外のお客さま約1900名に聞いた越境ECの利用意向調査
  • 調査対象:海外向け購入サポートサービス「Buyee」「Buyee Connect」利用ユーザー(アメリカ、台湾、マレーシア、イギリス)
  • 調査人数:1894人
  • 調査期間:2022年7月22日~28日
  • 調査方法:オンラインアンケート
  • 調査主体:BEENOSグループ
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