売上アップにつながるブランディング術とは? I-ne、ランクアップ、DINETTEが語る自社の成功事例
売れるネット広告社が6月13日に都内で開催した通販事業者向けイベント「D2Cの会フォーラム2024」で実施したセミナーのなかから、I‐ne執行役員CSOの伊藤翔哉氏、ランクアップ取締役副社長の日髙由紀子氏、DINETTE代表取締役CEOの尾﨑美紀氏とモデレーターのofficeK代表取締役の田岡敬氏によるトークセッション「売上をアップする『ブランディング』」を紹介する。D2Cに欠かせないブランディングについて、有力各社の取り組みを見ていく。(内容の一部を抜粋・要約)
I-neはブランド理念を部門間で共有
I‐ne・伊藤翔哉氏(以下、伊藤):当社はクリエイティブには強いこだわりを持っており、約350名の社員の中でブランディングに関わるメンバーは約80名。メーカーにしてはかなり人件費をかけている方だと思う。ブランドの世界観を統一するため、SNSもブランディングチームで動かしている。
officeK・田岡敬氏(以下、田岡):ブランド数は。
伊藤:当社のなかで100億を超える主力ブランドは、ボタニカルライフスタイルブランド「ボタニスト」、ナイトケアビューティーブランド「ヨル」、ミニマル美容家電ブランド「サロニア」。それ以外は成長中ブランドという位置づけで現在は約15ある。
田岡:具体的なブランディングの方法は。
伊藤:ブランディングの定義として、意図した連想をできるだけ多くのBOSS(お客さま)の頭の中(社内外全て)にイメージとして創り出すことを重視している。
最初にブランドディレクターとブランドマネージャーが中心になってブランドアイデンティティ(BI)を作り、その後からこの定義を意識するという流れになる。ブランドに込められた思いや意味、使用シーンのイメージなどをビジュアル化し、ブランドディレクターが勉強会を通じてチーム全員に共有している。
たとえば「ボタニストはこういうブランドだ」と定義しても、さまざまな関係者が増えていく中でBIは次第に薄れていくので、全員で認識を統一することが重要。昔から続く当社の文化でもある。
田岡:チーム間のコントロールは難しくないのか。
伊藤:ブランドローンチ時など、各部門が一斉に動くと必ずズレが生じる。特に広告。セールス部門からすると、広告の手法や内容をブランドディレクターに逐一チェックされるのでストレスになる部分も多いが、当社が数字を伸ばしている理由は、ブランディングへの強いこだわりがあるから。セールス部門には、ブランディングチームがベースとなるCVRを作っていることを伝えている。ブランドの勝ち方の一つの重要な強みとして、どの部門もその点を認識しなくてはいけない。
ただ、成長中のブランドなどではあまりガチガチに(施策の方針を)固めず、チームで議論することも大切にしている。
田岡:社員数が多いが、ブランドごとのコミュニケーションはスムーズに取れるのか。
伊藤:取れている。自分が所属するブランドの会議と同じくらいセールスの会議もあり、どちらも非常に数が多い。「振り子の思想」で具体と抽象を行き来しながら、メンバー全員に両方の脳みそを使ってもらっている。
パブ要素は内製中心
伊藤:創業時からブランディングやクリエイティブは内製化している。D2Cマーケターの方は広告のクリエイティブをメインに語ることが多いが、当社はコアを社内で考え、(制作を一部外注する場合も)全てのアウトプットを包括してディレクションしている。総合クリエイティブエージェンシー的な動きだ。
田岡:ブランドの再現性については。
伊藤:入社時にブランディングについて深堀した動画を視聴する機会を設け、理解を深めてもらっている。ブランディングチームだけではなく、アルバイトも含めた全社員が対象。実際、ブランドを作る時には各部門がいろいろな意見を言うわけだが、ここでの学びが生き、結果的にブランド構築はスムーズに進む。
田岡:ブランディング広告の考え方については。
伊藤:投資額に対するオーガニック売上の比率を見ている。年間で同じ広告費を投下しても全く違う結果になることもあるので難しいが、現在は全国でバス停広告を展開するほか、メディア向けの発表会やメディアとの対話などにも投資している。雑誌への出稿など、ある程度効果が見込めるなら「一旦やってみよう」という文化のもとで進めている。
ランクアップは顧客コミュニケーション重視の「会える通販」
ランクアップ・日髙由紀子氏(以下、日髙):当社は主に「マナラ」という化粧品ブランドを展開している。このブランドは代表の岩崎の肌悩みを解決するために誕生した。
私自身も肌にコンプレックスがあり、自分たちが理想とする化粧品を作りたいという思いで創業した。主力製品の「ホットクレンジングゲル」を発売した頃は、価格が4000円代で(市場では高額のため)絶対に売れないと言われたが、今は世界中で販売しており売上額は65億円。総売上の半分を占めている。
田岡:ブランディングの取り組み事例は。
日髙:私たちが考えるブランディングとは私たちの創業、開発ストーリーなど「想いを伝える」こと。2022年9月からは「熱狂的なファンに支えられる化粧品会社になる」という3か年計画を定め、今期は特に「想いを伝える」という視点で各部署がアクションプランを考えて取り組んでいる。
一番大事にしているのが会報誌。紙面は48ページで、全て社内で制作している。1年前からは新たにロイヤルカスタマー向けの会報誌も発行した。顧客からは毎日社長室にハガキやアンケートが返ってくる。
田岡:会報誌は何人で制作しているのか。
日髙:販売促進部の営業企画チームで、企画立案が約10名、制作が約5名。企画からデザインまで全て内製化している。会報誌以外にもDMやメルマガなどさまざまな業務をこなしながら制作している。
以前、会報誌はリソースもコストもかかり、作業が大変な割にレスポンスが確認しにくいため、ページ数を削減してコミュニケーションツールに特化したことがある。その分、DMを追加して売り上げを補完しようとしたが、2号連続で定期人数、売り上げともに大幅減少となり、慌てて元に戻した。
日髙:会報誌に加えて大事にしているのはお客さまに会って直接思いを伝えること。オフライン、オンラインイベントや座談会など「会える通販」を掲げ、対面することでお客さまの熱狂度が上がることを実感している。
田岡:成果は。
日髙:目標数値はあえて設けていないが、指標として「ロイヤルカスタマー人数」の推移を追っている。2022年から会員制度を作り、年間購入額ごとに「マナラブ様」、その上が「レジェンド様」と分けているが、24年9月の達成率見込みが「マナラブ様」で174%、「レジェンド様」で306%と、過去最高のアップ率となった。さまざまな施策の効果が総合的に効いている。
日髙:社員の「マナラブ」率は41%。定番商品は社販もあるが、その分を除いても高い率で社員がロイヤルユーザーであることも当社の特徴。
顧客サービスは費用対効果を度外視
田岡:その他の取り組みは。
日髙:今年5月にお客さまの肌診断やお肌のカウンセリングを目的とした「ビューティールーム」を会社の近く(中央区銀座)に開設した。全て社員で運営している。
会社全体では売り上げ、稼働顧客人数など、もちろんKPIを設定し、経費についても投資対効果を厳しく見ているが、このビューティールームなどの顧客サービスにおいては費用対効果を追求せず、割り切って進めている。そうしなければ目的が代わってしまい運営できない。
リアルの場で顧客と社員が会うとオフ会のようなノリで非常に盛り上がる。発見や気づきも多く、顧客の熱量も高まるので非常に価値があると考えている。
DINETTE、ブランディング施策で高いCVRに成功
DINETTE・尾﨑美紀氏(以下、尾﨑):コスメブランド「PHOEBE BEAUTY UP(フィービービューティーアップ、以下フィービー)」など複数のブランドを展開している。当社は総フォロワー数が約80万人の美容メディア「DINETTE」を運営しており、フィービーに関しては、そこで収集した顧客の声や悩みを元にプロダクトを作り、オンラインとオフラインで展開している。
田岡:ブランディングの取り組みは。
尾﨑:社員約30人の規模なのでブランドマネージャーはおらず、私を中心にクリエイティブなどを決めている。フィービーは19年に新商品を発表した直後から売り上げを伸ばすことができたので、ブランドローンチ3年目にガイドラインを策定した。ロゴやブランドカラーのトーンなどを店舗やリテール、オンラインなど複数のチャネルで統一し、一貫したコミュニケーションを届けるという点を重視している。
田岡:SNSの施策は。
尾﨑:当社はSNSのコミュニケーションが活発なので、UGC広告と相性がいいようなブランドの作り方をして、接点を増やすためにもプレゼント施策やサンプリングなどを展開している。
顧客の流れとして、入り口はデジタル広告やインフルエンサー施策、自社SNSが中心。コアなファンはユーチューブ経由が多い。
購入しやすいECサイト作りを強化
田岡:オフラインでの取り組みは。
尾﨑:直営店イベントやメディアを招待した新商品発表会のほか、ブランディングのため美容雑誌の出稿やブランドイメージに合うインフルエンサー起用などには特に注力している。顧客に実際に会う機会を設けるなど、小規模ながらいろいろな施策を継続してきた。
ただ、現状ではECの売上比率がまだまだ高いので、自社ECの改修も定期的に行い、より購入しやすい導線作りを意識している。
田岡:ブランディングの成功事例は。
尾﨑:ブランドスタート1年目からブランドの世界観醸成という点を強く意識してきた。SNSの投稿や細かいクリエイティブに関しては今も私が全てチェックしており、かなり認知は取れたと思う。オンラインとオフラインのさまざまな取り組みが総括され、オーガニックCVRは300%と伸びている。
田岡:課題は。
尾﨑:ブランド名の「PHOEBE」という表記が読みづらく、英字検索されることも多い。ブランド名は変えられないので、今はPRなどもカタカナ表記を併記しているが、もう少しわかりやすい名称にしておけばよかったとは思っている。
また、初期段階から獲得広告メインで伸びてきたので、オーガニックやカスタマージャーニーの分析が甘かった。今はオーガニックをかなり強化している。
尾﨑:ブランドのファンやロイヤルカスタマーの定義が曖昧になり、コアなファンの育成があまりできなかった点も課題だと考えている。
今後はコミュニケーション設計の見直しを図り、コスメブランドとしての確立を進める。また、購入金額に応じたランク制度を設け、ブランドのコアなファンの育成にも投資していく。
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