顧客満足度を向上させながら売上・利益もアップ! 「パーソナルプレシジョンCRM」を徹底解説
「データを活用したいがよくわからない」「顧客にレコメンド情報を送りたいが手間がかかり過ぎる」「施策の企画立案が思うようにできない」といった課題を抱える事業者は多いのではないだろうか。「EC Intelligence」を提供するシナブルの曽川雅史氏が、複雑な分析をしなくても顧客の行動データを活用して、LTVを向上させる「パーソナルプレシジョンCRM」について解説する。
行動をベースにした、自分に合った購買体験が求められている
購入履歴の把握は非常に大事。買う立場になればわかることだが、「自分が何を買ったかをわかった上で対応してほしい」と思っているユーザーが多い。お勧め商品は、購入履歴や興味のある商品を見た上で、各顧客に合わせて提案してほしいということだ。実店舗の接客では当然のようにされていることだが、Webでも同じことが求められている。(曽川氏)
ECサイトでは商品の品ぞろえや品質と同様に、ユーザー自身に適した商品やサービスをお勧めされる体験が重視されている。しかし、顧客の行動を理解していなければ、それぞれの顧客に合った購買体験は提供できない。
博報堂が「EC通販ですごいと感じたサービス・機能」について聞いた調査(2023年)によると、多くの機能やサービスと並んで「自分に合った商品をお勧めしてくれる」「自分に合うお得情報を提供してくれる」「商品を自動的に再注文してくれる」といった項目があがっている。これらは、顧客データや行動データから実施したCRMやOne to Oneマーケティングで実現できるパーソナライズサービスである。
また、シナブルが20歳代と60歳代に「ネットショッピングをするときにあると便利だと思う機能」などを聞いた調査(2024年に実施)によると、20歳代では3位に、60歳代では2位に「お気に入りに登録した商品が値下げされたら通知が来る」がランクイン。どちらの年代でも30%以上が便利だと感じている。この通知機能はお気に入りに登録したという顧客情報・行動情報がなければ実現できない。
自分の行動をもとにサービスを最適化してほしい、「自分だけの」ということがうれしいと感じる消費者が多いことがわかる。顧客行動をベースにすると、満足度が向上すると言える。しかし、購買行動や興味を無視したコミュニケーションは嫌がられるとわかっていても、行動をベースにしたマーケティングの実施は難しく、なかなか取り組みが進んでいない状況だ。(曽川氏)
行動を基にしたショッピング体験を実現する「パーソナルプレシジョンCRM」とは
EC特化型のオールインワンMA/CRMツール「EC Intelligence」を提供しているシナブルが提唱するのが「パーソナルプレシジョンCRM」。「顧客に対して最適なキャンペーンと商品を最適なタイミングとチャネルで自動レコメンドを行って、顧客満足度を向上させながら売上・利益も向上させるCRM手法」と定義している。
一般的なCRMは、新商品や売れ筋商品など、売れ行きの良い商品をさらに売るアプローチを採ることが多い。一方の「パーソナルプレシジョンCRM」は、あまり売れ行きが良くないニッチな商品に対してもデータを使い、買う可能性が高い顧客にアプローチする。
ここで、「パーソナルプレシジョンCRM」で実際に成果を上げた事例をいくつか紹介しよう。
1つ目は、カートに入れたまま買っていないという行動をベースにしたカゴ落ちメール施策。通常のカゴ落ちメールは、定番メッセージとして「お買い忘れはございませんか?」という内容が多い。商品をカートに入れたまま吟味している場合は忘れているわけではないので、このメッセージに違和感を感じることもあるだろう。
そこで顧客が興味を持ちそうな、カートに入れた商品とよく一緒に見られている商品をメールで提案、件名も「◯◯さまへのおすすめ」に変えた。これだけで売り上げが30%伸びたという。
2つ目は、アパレルECでよく実施されている「あなたのためのパーソナルセール」だ。まず、売れ筋ではない商品や滞留在庫の商品をリストアップ。次に商品閲覧やカートイン、お気に入り登録といった情報から、その商品に興味を持っている顧客を抽出し、パーソナルなクーポンを送る。サイト全体でセールをしないので、利益率は大きく下がらない。在庫商品と興味のある顧客をマッチングさせ、利益率を大きく悪化させることなく在庫をさばく取り組みである。
「パーソナルプレシジョンCRM」のメリット・デメリット
ここで、「パーソナルプレシジョンCRM」のメリットとデメリットを押さえておきたい。
メリットは何と言っても分析が不要であるという点。顧客の抽出は行動履歴を基に設定するため、分析して絞り込む必要はない。また、施策を打つタイミングや商品の提示の仕方といった改善ポイントが絞りやすく、「誰に向けて施策を打つか」などはあまり考えなくてもよい。また、「このように文章を書けば売り上げが伸びる」というクリエイティブなアプローチではなく、どの商品を提示するかといった提案のため、企画やコンテンツのライティングはあまり関係ない。
一方、デメリットはシステム投資が必要で費用がかかること。また、顧客のデータ収集などに時間がかかるので、すぐには実施できないことがあげられる。
「パーソナルプレシジョンCRM」を実施するための導入手順
パーソナルプレシジョンCRMを実施するにはどうしたら良いのだろうか。前提としてシステムは必要だが、導入には3つの手順がある。
- 行動履歴の収集。顧客IDをベースに、誰がいつどの商品を見たか、お気に入りに入れたか、カートに入れたかといった行動データを収集する
- 商品の相関情報の収集。商品と顧客のマッチングをするために、商品の相関情報を収集する
- CRMツールに商品情報を取り込む
そのため、「パーソナルプレシジョンCRM」では、データを見てレポートを作るといった分析は不要だ。
分析は不要だが、たとえば「商品をいつ見た人に送るか」といったセグメントが必要になる。これが行動をベースにした「パーソナルプレシジョンCRM」のポイントだ。(曽川氏)
実際に「パーソナルプレシジョンCRM」を行う「EC Intelligence」の設定画面を見てみよう。
商品の相関は自動で収集している。たとえば、「ベーシックTシャツ」を選んで「レコメンド」のボタンを押すと、常にトラッキングしている情報から相関性が高い商品を自動でリストアップ。この商品(この「ベーシックTシャツ」を購入した顧客が買う可能性が高い商品)をメールやLINEに差し込む。
「パーソナルプレシジョンCRM」で必須となるセグメント機能は、かなり細かく条件が指定できる。商品を閲覧した日をピンポイントで絞り込んだり、「今日から3日以内に見た人に絞る」といった指定も可能だ。
属性データとの掛け合わせもできる。たとえば、女性に男性用の商品を紹介するのを避けたい場合は、先ほどの行動データと属性データを組み合わせて顧客のセグメントを作っていく。このように柔軟な設定ができるため、行動をベースにした商品の提案がしやすい。
こうした過程で集めた商品情報を、顧客ごとに適したコンテンツでメールやLINEに差し込むことができる。内容は顧客によって自動で変わるため、コンテンツを考える必要はない。
施策の結果を確認し、PDCAサイクルを回して継続的に改善していくことが重要
このように、「パーソナルプレシジョンCRM」では、顧客の行動をベースに興味のある情報を提案するため、少なくとも嫌がられることはないという。顧客満足度の向上と売上アップに有効な施策と言える。
メールマガジンの大量一斉配信であっても、顧客が注文した商品とよく一緒に購入されている商品のレコメンドに置き換えたり、購入商品のカテゴリのランキングに差し替えたりといったパーソナライズも効果的だ。実際に、パーソナライズされているメールの解除率は低い。シナブルの調査では、EC全体が3%ほどであるのに対し、個別のパーソナルメールの解除率は1%以下となっている。
顧客がサイトをよく訪問するコンバージョンの多い時間帯に、興味のある件名で配信すると見られやすい。そのためには顧客の行動と関連性の高い情報を送るのが大きな鍵。(曽川氏)
「EC Intelligence」では、顧客の属性や購買データ、サイト内の行動やアンケート結果といった必要な顧客データを蓄積でき、顧客の検討プロセスに応じた施策をオールインワンで実施できるのが強みだ。
実店舗の場合は、どの商品が見られたかなどのデータはなかなか取れない。また、ECモールの場合は外部ツールではデータをトラッキングできないことがある。だが、自社ECならデータが活用できるため、ほぼすべてのサイトでパーソナルプレシジョンCRMを実施できる。
「分析は不要」と言ったが、施策を実施した後の結果の確認は大切で、思ったより数値が上がらない場合は、セグメントの仕方を変えるなどして改善する。PDCAサイクルを回して改善していくことが重要。シナブルではEC事業者の先にいる生活者が良い買い物体験ができるように、「EC Intelligence」を通じてサポートしている。(曽川氏)