「EC市場は拡大するけど10年後はどんなマーケットになっているのか」「生き残っていくためには何が必要なのか」。こんなテーマで開かれた、ヤフー執行役員の小澤隆生氏GMOメイクショップ代表の向畑憲良氏によるパネルディスカッション(独立行政法人中小企業基盤整備機構が開催した「ECフェス2015で実施)。市場は拡大するが、競争が激しくなるEC業界について、将来のECマーケットを予測し、生き残るための方策を、小澤氏と向畑氏による対談から考えてみたい。

将来的には50兆円が新たにECで創出されるが、奪い合いが始まる

小澤隆生氏(以下小澤) ネット業界の10年は他の100年に近しいため予測はしづらい。だが、2015年までの変化を見ることで、2025年に何が起きるかある程度予想できる

1つは、ECのマーケットサイズは“でかくなる”ということ。日本経済は停滞しているといわれているがEC市場は右肩上がり。小売市場は300兆円といわれるなか、3%超がネット経由。2019年にEC市場は20兆円程度のマーケットになると予測されている。現在3%だったEC経由の消費は、将来的には20%になるのではないのか。小売市場が横ばいだった場合、60兆円がEC経由になる。つまり、将来的には新たに50兆円がEC経由で創出される。これから始まるのは、50兆円を奪うための戦いだ

あらゆる業種でネット経由の取り引きが発達するなか、購入者の目線で見た場合、その中心となるのは都心に住んでいる人。地方はECの利用率が低いですよね。しかし、今後はこの差が縮まっていく。スマートフォンの台頭で、すぐに注文できる環境が整備されていき、高齢者中心にマーケットは広がるだろう。

10年前ってどんな商品がネット経由で購入されていたか? 米や水など重い商品だった。でもいまは、身の回りの商品はネットで購入される時代。物流網の整備も進んでいく。10年前は注文から手元に商品が届くまで3日程度かかっていた。でもいまは、ヤフーグループのアスクルでは当日に商品を届けるようになった。配送という側面では、当社も「すぐつく」という実験を展開していたが、今後、注文から商品が届くまでの時間は、1時間後、2時間後とさらに短くなっていくと予想される

ECが身近になると、商品をいかに早く届けるかが重要になってくる。でも、すぐ届けるために、各注文者の家の近くに物流網を作ることはできませんよね。

でも、10年後は違うかもしれない。自宅近くの商店の商品をネットで買い、それをすぐに届けてもらうといった取引が増えるかもしれない。これまでとは違った概念が出てくるだろう。つまり、“距離の概念”が持ち込まれるのではないのか。全国のショップに等しくチャンスが訪れる。“安ければいい”という時代から、“付加価値と時間”が重要になるかもしれない

10年後にはいろんな未来がある。新たに50兆円の需要が生まれるわけですから。

ヤフー執行役員の小澤隆生氏
ヤフー執行役員の小澤隆生氏

向畑憲良氏(以下向畑) 10年後はこれまでECに遅れをとっていたリアルの流通企業がどんどんECへ進出・積極展開していくでしょうね。これまで顧客を食われていた企業が、黙っていないということです。

今後のEC市場はネット企業だけが作っていくのではなく、イオンなどリアル店舗を持つ企業、いわゆる流通企業のEC化が加速度的になる。この1~2年、オムニチャネルという文脈で語られているが、やっぱり店舗を持っていると接触面が強い。今後、ウェアラブルなどの台頭で、購買の接触面がマルチになっていく。そんななか、接触面の多様性を持つ大手プレーヤーの動きが活発化していくでしょうね。

EC業界は今後どうかというと、決して甘くはない。しかし、市場はでかくなるので、チャンスはある。一般的なEC企業は、先進的なテクノロジーや物流などを作っていくプレーヤーにうまく乗っかっていくことが重要になる

GMOメイクショップの向畑憲良社長
GMOメイクショップの向畑憲良社長

モデレーター(船井総合研究所・大山広倫シニア経営コンサルタント) 顧客との接触頻度を増やすことで、より優れた商品を啓蒙できるようになる時代がくる。そして、EC市場が大きくなる。今後のEC市場を“分散と拡大”というキーワードで見ると、違った見方ができるのではないでしょうか。そんな市場で、どのように攻略していこうと考えていますか。

向畑 当社のネットショップ構築・運営ASP「MakeShop」でいうと、カスタマイズ性を強化していきたい。同じアパレル企業でも、仕事の仕方は1社1社違う。シニア向け扱ってたり、メンズを販売していたり。だから、機能の要望も異なってくる。私たちができる支援は、本気の商売をやりたい企業が、望んでいることをソリューションとして提供できるように、全力で取り組んでいきたいと思っている。

小澤 ヤフーは2013年までと、2013年以降、取り組みがガラリと変わった。eコマース革命」を発表し、ネットで物を売りたい人に対して、無料でシステムを提供するというわかりやすい戦略を採用した。物を売りたい法人、個人は増えていく。そのとき、やり方がわからないという人が出てくる。だから、わかりやすいサービスを、わかりやすい料金体系で提供することにした。売り手を多くした方が、市場の拡大も早くなる。ヤフーは広告で利益が出ている。だから、いまは無理にEC事業で利益を出さなくて言い。だから無料。できるだけ多くの人が利用できるようにしていく所存です

モデレーター やりたいことができるようにするというのが両者のキーワード。無料化の背景をもう少し詳しく教えて下さい。

小澤 できるだけ多くの人にECというフィールドに参加してもらえるか、を考えたら、障壁を下げるしかない。そうなると、無料が一番。そうした状況になったとき重要になるのが、「いくらで売るんだ」ということ。

ヤフーは、価格決定時にモールの手数料分を販売価格に上乗せしてほしくないと考えているヤフーは、価格決定時にモールの手数料分を販売価格に上乗せしてほしくないと考えているでも、粗利の悪化をまねかないようにしたい。そのためには、自らが身銭を切るしかないと決めた。1年間で20万店舗増え、1.5億商品ほど商品数が増加した。ネットでしか買えない物は売れている。住んでいる地域にしかない商品など、ネットで購入できない物は現実的にたくさんある。1品だけとか。そういうお客さま含めて「Yahoo!ショッピング」に出店してもらっているので、多様な売り場になった。

Yahoo!ショッピング」で探せば何でも手に入るという状況になってきた。売り手から見ると、無料だからリスクはない。ヤフーはネットユーザーが一番多い企業。そこが無料で売り場を提供している。それは、日本におけるECの市場規模を大きくできるという判断があったから

モデレーター 向畑さん、機能追加の考え方について聞かせて下さい。

向畑 当社の「MakeShop」は現在2万2000店舗が利用している。限られたリソースのなかで、機能の追加スピードを優先して取り組んできた。。そこは社長の私が決めるのではなく、私と他のスタッフをまぜた議論のなかから決めている。機能開発を進めるほど、使いづらくなっていくというジレンマがある。どうすればユーザーにとって使いやすいシステムになるか、知恵を絞りながら、機能開発にあたっている、先進的な機能を作っていくよりも、マーケットインの考え方で、ユーザーから求められた機能を優先順位を付けて開発している

10年後も支持されるショップになるには、“研究”と“本気度”が重要

ヤフー小澤氏とGMOメイクショップの向畑氏
ヤフー小澤氏(写真左)とGMOメイクショップの向畑氏によるパネルディスカッション

モデレーター 10年後、EC事業者としてお客さまに支持される店舗としてどんな要素があげられますか。また、注目しているネットショップがあれば教えてください。

小澤 ECで年商10億を売り上げたいと思っている人は多いことでしょう。ECで成長して行くには、ステップがあります。これからECを始めるという事業者は、月商1000万円をまずはめざしていくのがいいでしょう

扱っている商材で戦略は大きく変わる。家電などの型番商品は価格が勝負なので、値下げしなければなりませんよね。現実的に年商10億円を実現しようとするならば、価格勝負は避けるべきだ。非型番商品やプライベートブランドなど、商品力のある物が展開できる企業は、“商品力”で勝負しましょう。

「型番しかない。そんな商品力のある物は売っていない」。こんな店舗もありますよね。そのような店舗でも工夫次第でECで成功することはもちろんできます。DIYのECを手がける大都さんは型番商品を扱っていて、価格に関してはセンシティブ。どこが素晴らしいと思いますか? ネットに対する力の入れ方が違うんです。ウエブマーケティングをきっちりやって、ネットで成功し、いまでは実店舗を大阪市内に出すなど成長している。ECに対してどれだけ本気に取り組んでいるかで、商品力がなくても変わって いくことができるんです

私は別の会社で、弁当をネットで販売する事業を手がけている。この事業には、“配送”という概念が出てくる。つまり、配送する場所、いわゆる“商圏”がある。考え方を変えると、“商圏”のなかでNo.1になるという選択肢もある

皆さん、競合企業やサイトを研究してください。全カテゴリーには適用されませんが、カテゴリーごとに戦い方がある。売れているサイトを徹底的に研究してください。素晴らしいお店を研究してください。各カテゴリー、各地域で戦い方が変わる。研究することが重要です

向畑 小澤さんがおっしゃったように、ネットショップにはステージがある。月商10万円、100万円、300万円、1000万円といった売り上げ別ステージです。10億円を売るようにするには商品が必要となる。それには在庫確保、スタッフなど、単純に考えると簡単にはいかない。

当社の「MakeShop」は月商1億円を売り上げている店舗も、システム利用料は月額1万円。売れるか、売れないかは本気度だけ。本気のショップが私たちのターゲット企業であり、システム利用料1万円が適正価格といわれるように、私たちはノウハウなどを提供している。“1万円を払う”本気でECをやりたいというショップさんに利用してもらいたい。

「MakeShop」のデータを見ると、安定的に伸びている企業は、定期通販を展開している。すべてが定期購入に適した商材ではないが、安定成長するための1つの方法として、「定期購入」を検討してみるのもいいだろう

このコーナーは、独立行政法人中小企業基盤整備機構が主催するEC関連のセミナー・イベントの模様をレポート化したものです。

セミナー・イベント情報はこちらをご参照下さい。

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瀧川 正実

ネットショップ担当者フォーラム編集部 編集長

通販・ECに関する業界新聞の編集記者、EC支援会社で新規事業の立ち上げなどに携わり、現在に至る。EC業界に関わること約13年。日々勉強中。

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