あなたのECサイトには“こだわり”はあるか? 売り手に必要なのは商品を研究することだ
私が運営しているブログ「海外ECサイト事例に学ぶ 売上アップのノウハウ」では、これまで多くのECサイトをご紹介してきた。それを踏まえてECを手がける皆さんにアドバイスできることは、成功しているECサイトに共通している点はそのECサイトを運営している創業者のこだわりや価値観と販売しているモノやサービスが一致していることがほとんどであるということだ。成功しているECサイトの中身や形だけを真似したところでうまくいかない理由はこのあたりにあるのかもしれない。
今回ご紹介する「Kaufmann Mercantile」も、創業者が質の良い道具に対する強いこだわりを持っていたことから生まれたECサイトだ。
販売している製品は家庭用品、オフィス用品、アウトドア、キッチン、文房具など多岐にわたるが、一生涯使える質の良い道具であることをコンセプトとしている。そのための情報をブログで発信したり、良い製品のアイディアがあれば自社で生産を行うほどのこだわりぶりを見せている。
同サイトは2009年10月、米国ニューヨークを拠点に設立。2014年時点で18万の製品を売り上げ、600万ドル(約7億5000万円)の収益を得るなど、大きな成長が見込まれるECサイトのひとつだ。
まともなホッチキスがロサンゼルスに売っていないことへの憤り
創業者のSebastian Kaufmann(以下、カウフマン)氏はドイツのミュンスター大学でビジネスマネジメントを専攻し、1999年の大学卒業後はドイツでミュージックビデオやコマーシャルなどの映像制作に携わった。2003年に米国ロサンゼルスに移った後も映像製作に従事し、2005年には自ら映像制作の会社を立ち上げている。
そんなカウフマン氏が起業をすることになったのは、消費スタイルへのこだわりがきっかけだったようだ。同氏は自分で使う文房具やガーデニング、キッチン用品などの物を購入する際には「無駄なものは買わない。しかし買うときは値が張っても良質なものを選ぶ」という、ミニマリズム(最小限主義)的な消費スタイルを持っていた。
ところが、オフィス製品でなかなか質の良い製品が見つからない。カウフマン氏はホッチキスを頻繁に使っていたが、すぐに壊れてしまってゴミ箱行きとなる。ロサンゼルスの街に新しいものを探してみても、“安さを売り”にしているスーパーやホームセンターはたくさんあっても、質の良いホッチキスを売っている店が見当たらない。
このことが、カウフマン氏に強い鬱憤を感じさせていた。
この問題は、ホッチキスに限ったことではない。世の中は安いが質の悪いものであふれ返っていて、質の良い道具は端に追いやられ、見つけにくくなっている。そんな現状にイライラさせられている人は「自分以外にもいるのではないか」とカウフマン氏は思っていた。
そこでカウフマン氏は、2009年から自身が発見した質の良い文房具、キッチン用品などの情報をブログでシェアし始めた。このブログが予想以上に多くの人に読まれ、質の良い道具に対するニーズが高いと確信するに至った。
当時は、カウフマン氏の映像制作への情熱が薄れはじめていた時期でもあった。そこで同氏は新しいことを始めようと、自分の作っているものに誇りを持ち、熟知している昔の職人の良さと、現代のITの利便性を組み合わせた、一生涯使えるような質の良い道具だけを販売するECサイトを設立したのだった。
日常に役立つ情報ブログと紐づけられた商品ページ
「Kaufman Mercantile」は“一生涯使える道具”を商品としてセレクトし、販売している。対象としている顧客層は安いものを買いたいという人ではなく、少々高くてもいいので長持ちする良いものを買いたいという人たちだ。
サイトに掲載されているメーカーは20か国超、300社以上。「Kaufman Mercantile」が製造している商品も自社ブランドとして多数販売している。製品のジャンルは家庭用品、オフィス用品、アウトドア、キッチン用品などの日用品。美しく機能的で、耐久性のある製品であることが要件だという。また環境への影響を軽減できる、自然由来の材料で作られた製品を積極的に選んでいるようだ。
商品を探すときには「キッチン/テーブル」から「コーヒー・紅茶関連」というようにジャンル別に探すこともできるし、各国の地域性の出た商品も多く取り扱っているためか、「米国」「日本」「英国」「ドイツ」などのように国別に商品を見ることもできる。ちなみに日本は「材料の選別と細部へのこだわり、機能性を追求しており、ものを無駄にしない精神も伝統的な特長のひとつ」と紹介されていた。
個々の商品ページでも国の紹介と同様、製品のコンセプトと特長を引き出す文章の工夫がなされている。面白い試みとしては、同サイトが行っている日常に役立つ情報ブログ「Field Note」と情報を連携していることがある。
たとえば、日本のはさみメーカーである多鹿家が1928年から4世代にわたって手作りで製造している銅ばさみだが、銅でできたはさみは手入れが少々難しい。
そこで同サイトでは、「手入れにはミシンのオイルかベジタブルオイルを使うこと、はさみの色が変わることはあるが、ダメージによるものではなく銅素材の特徴からそうなること」「変色を防ぎたい場合は柔らかい布でこすると良い」など、銅の取り扱いの注意点をあげるとともに、より詳細な銅の手入れ方法を記したブログのページへのリンクを掲載している。
「Field Note」ではこの他にもさまざまな道具のレビューやケア方法、プロダクトデザインの情報を日々発信しており、各記事には「役立つ情報ありがとう」「その道具ほしい」などのコメントが数十件以上寄せられている。読者はこのブログを見ることで新しい商品を購入する“とっかかり”を見つけることもできるし、今回のように購入後のケア方法を学ぶこともできるのだ。
この「Field Note」の下地となったのはおそらく、創業者であるカウフマン氏のブログだ。創業当初から書いていたというブログは残念ながら発見できなかったが、カウフマン氏自身が良い道具を見つけてはその詳細について書き綴っていたという。その試みが、現在の商品紹介の熱心さや読者が得られる情報の質量の高さにつながり、それが信頼度の高さの理由となっているのだろう。
売り手に必要なのは、商品を研究すること。
「Kaufman Mercantile」は製品の選考のためにかなり時間と労力をかけていることも特色のひとつだ。同サイトは美しく機能的で、耐久性のある製品を調達・販売することをミッションとしており、競合する会社よりできるだけ多くの判断基準を得られるように努めているという。
そのためにまずはよく勉強して商品知識を身につけた上で直接メーカーと話し合って製造方法、材料、包装、その他環境的な配慮がどうなっているかを評価。さらに自分たちで製品をテストし、デザイン、機能、使い勝手、耐久性を評価している。
ここまでは「良い売り手」としての側面が強いが、「Kaufmann Mercantile」ではさらにもう1つ、ユニークなチェック項目が設けられている。それは作り手が商品をより良くするため、どのような工夫を行っているのか詳細を聞くことだ。同サイトではここで得た知識と経験を、自分たちのユニークな製品開発に生かしているのだそうだ。
「Kaufman Mercantile」は多彩な活動を行っているサイトだ。ただ良い製品を見つけてキュレーションを行うだけでなく、ブログで日々日常に役立つ知識を発信する情報誌的な役割も果たしているし、自社ブランド製品を開発・販売する、開発者の一面もある。そして商品のキュレーションのための努力が開発に役立つように、それぞれの活動が高い相乗効果を見せている。
「Kaufman Mercantile」から得られるヒント、実践したいこと
「Kaufman Mercantile」のような本格的な活動を行うのはかなり難しいだろう。しかしヒントは多い。利用者、ライター、開発者になったつもりで、違った目線から製品を研究して、発信する。この姿勢を少しだけでも取り入れることができれば、あなたのECサイトは想像以上に変貌するかもしれない。
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