瀧川 正実 2015/7/7 8:00

ファッションECサイト「GRL(グレイル)」を運営するGioの塚原大輝社長ら2人が、6月末に不正競争防止法違反容疑で逮捕された事件。人気ブランド「スナイデル」のデザインを模倣した商品をネット販売したとして、ファッションブランドの模倣品販売に不正競争防止法違反を適用して逮捕に至ったのは、初のケースとなった。この事件を受け、警察の動きに身構えるファッションアパレルECが増えているという話があがる一方、ブランド側は今回の警察の動きを歓迎しているという。長きにわたって問題となっていた模倣品販売問題。手を染める企業の実態、浮き彫りになった課題を探った。

アパレル業界では模倣は当たり前?

ファッションブランド商品の形態模倣での告訴が受け入れられ、その当事者が逮捕されるに至ったことは日本では初めてのことです

マッシュスマイルラボの「株式会社Gio等に対する刑事告訴について

Gioの代表取締役を記事告訴していた、人気ファッションブランド「スナイデル」を展開するマッシュスタイルラボは6月30日、このようなコメントをホームページに掲載した。

ファッションブランド商品の模倣品販売で、不正競争防止法違反(商品形態模倣)によって逮捕に至ったのは日本初のケース。この模倣品販売の問題が表面化したことで、特にファストファッション系のアパレルを販売するネット通販企業は戦々恐々としているという。

今回のグレイルは(模倣を)やり過ぎていた。だが、どこのアパレル企業でもやっていること

アパレルECに長く精通するAさん(希望により本名は伏せています)はこう説明する。Aさんの証言を示すように、特許庁がまとめた資料でも、アパレル業界ではデザイン模倣が常態化していると指摘している。

特許庁の「模倣被害調査報告書」資料
特許庁の「模倣被害調査報告書」資料にはこのような記載がある

もともとファッションや家具といった商品は「類似商品が販売されて当たり前の世界」。近年はデザインに関する創作性への評価、権利意識が高まっているものの、季節ごとに商品が入れ替わるアパレル商材を「意匠登録」(物品あるいは物品の部分における形状・模様・色彩に関するデザインを保護するための登録制度)するという意識は低い。

意匠を守るためには登録が必要だが、ブランド側がこうした取り組みを商品を企画・販売するごとに行っていくのは現実的ではない。商品サイクルが早いという商材の性質上、都度登録することは大きな手間とコスト増に直結するためだ。

意匠権の侵害は当該商品の販売停止、在庫商品の破棄や損害賠償請求の対象となる。だが、実際は多くのアパレルブランドが「意匠登録をしていない。だから、ネット通販会社などは模倣の対象にしている」(Aさん)。

高級ブランドのような品質を求めないニーズ、そして市場があるという現実

そもそもの問題として、自社でブランド展開などを行うEC企業では、ゼロからデザインを生み出すような創造性に欠けているケースが多いという。Aさんは実情をこう説明する。

(多くのネット通販企業には)大手アパレルブランドのようにデザインをゼロから考えて商品化する人はほとんどいない。OEM会社の提案を受けたり、商業ビル施設に行ってそこで売っている商品を参考にしたり。ほとんどがそんな状況だ。

ネット通販会社の多くは“売る力”で成長してきた。売る力はあるけど、デザイン力ってほとんどない。だから、自社でブランドを立ち上げて、デザインをゼロから手がけるようになると、その商品自体はほとんど売れない。“売る力”はあっても、それにともなう“商品力”がないから。売れないから、じゃぁ、どうする? 売れているブランドの模倣に走ってしまう。たとえば、今シーズン流行っている商品を、来シーズンに自社のブランド商品として模倣商品を投入したり……

特許庁によると、ブランドを抱える企業などが模倣商品を発見した場合、販売差し止めを求めて文章による警告を行うケースが最も多いという。警告後も改善されない場合は法的処置に至るケースがあるが、大半が警告で解決するようだ。模倣された企業は、スピーディーな対応で被害を最小限にとどめたいという意向があるためだという。

特許庁の「模倣被害調査報告書」資料②
日本での販売提供被害がある企業におけるインターネット上の権利別模倣被害率(出典は特許庁の「模倣被害調査報告書」)

ただ、今回のマッシュスタイルラボのケースは異なる。再三警告をしたとし、刑事告訴に踏み切った。そして、結果的には代表取締役の逮捕に至る。Aさんはこう指摘する。

アパレルを扱う多くのネット通販企業は戦々恐々だ。刑事告訴が受理され、初めて逮捕に至ったのだから。模倣品販売が当たり前になっていた業界にくさびを打ち込んだ。次はうちかも……そう考える企業も多いだろう。今回のような先例ができたので、弁護士たちはコピー対策チームのようなものを作り、デザイン模倣に関する相談ビジネスを強化していく可能性もある

逮捕に至った前例のない刑事告訴による逮捕劇は、模倣される立場にあるブランド側にとっては追い風だ。マッシュスタイルラボも模倣品排除に向けて継続的な活動を続けていくと、次のように宣言している。

模倣品はアパレル企業の存続すら脅かす重大な問題だと考えます。模倣品により被る経済的損失は計り知れません。当社にとって今回の告訴は、自社への影響のみを排除する為ではなく、アパレル業界の正義と秩序を守る為の戦いでもあります。ファッションブランド商品の形態模倣での告訴が受け入れられ、その当事者が逮捕されるに至ったことは日本では初めてのことです。本件は、本日一つの節目を迎えましたが、今後も模倣品排除に継続的に取り組んでいく所存です。

マッシュスマイルラボの「株式会社Gio等に対する刑事告訴について」

特許庁の「模倣被害調査報告書」資料③
インターネット上の模倣被害に対して講じた対(出典は特許庁の「模倣被害調査報告書」)

ただ、こうした前例が作られることで、「告訴をすれば解決できる」という風潮がはびこることに、Aさんは危機感を抱く。たとえば、大きい企業が中小企業“つぶし”にかかるといったことが容易になったり、顧客ニーズを無視することにもつながりかねないからだという。

実際は大きい企業を含めてどのアパレルブランドもやっていることかもしれない。特にファストファッションは大手ブランドのコピーをすることで、成長してきた(東洋経済の「ZARAやH&Mが、これほど成功した理由 ファストファッションのしたたかなコピー戦略」を参照)。記事内にあるように、実際の消費者には、大手ブランドまでの品質を求めず、ファストファッションのように手軽な価格で購入できる商品を求めているというニーズがある

上述した東洋経済の記事内では次のような記述がある。

忘れてならないのは、消費者の存在です。消費者も値段重視で、そこまでのクオリティを要求していないという点です。ゆえに、ニーズが存在し、マーケットとして成り立っているのが、現代の特徴です。これはどちらがよい、悪いという話ではありません。消費者がファッションに何を求め、どういうニーズで服を選ぶか。それが完全に個人に委ねられた時代なのです。

ZARAやH&Mが、これほど成功した理由 ファストファッションのしたたかなコピー戦略」―(東洋経済)

大手ブランドと、ECを含めたファストファッション企業は、それぞれ異なる顧客ニーズを獲得しているのは事実だろう。こうしたことを含め、Aさんは「このような問題について、議論していく必要があるのではないか」と訴えている

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