あなたの職場は働きやすい? 「働き方」の工夫で効率・生産性のUPを実現した事例5選
昨年の電通社員の過労自殺問題を受けて、「働き方」が注目されている中、通販実施企業の間でも従業員が働きやすい環境を整えるための様々な対策を講じる動きが出始めている。効果的な労働環境整備策は優秀な従業員の確保や退職の抑制につながるだけでなく、労働効率を高めることにつながり、業績面にも大きく寄与する可能性もあるようだ。すでに手を打ち始めている通販実施企業はどのような対策を講じて職場環境を整えているのだろうか。各社の労働環境整備策について見ていく。
オフィス内で「木」と「睡眠」
寝具やインテリアなどのネット販売を行っているエムールでは、2015年末に本社を移転した際、新社屋のオフィスインテリアに自社製品でも使用しているヒノキ素材をふんだんに取り入れるなど、空間デザインから社員の働きやすさを追求している。
オフィスっぽくないオフィス。以前はコンクリートだったので少し暗かったが、今はなるべく自然なものを使うようにしている。全体的にかなり明るくなった」(同社)と説明。パーテーション、仕事用の机、会議室のテーブルなど椅子を除いた見える範囲のオフィスインテリアがすべて天然木素材を使用したものになっている。見た目の柔らかさや触り心地だけでなく、保湿性のあるヒノキを使っていることから風邪をひきにくくなる効果もあるようだ。
また、寝具通販事業者ならではの取り組みとして昼寝休憩も実施。マッサージチェアのある休憩室やショールームの一角に自社商品のクッションなどを置いて、社員が好きな時に自由に睡眠できるようにスペースを開放。以前より専門機関などと共に睡眠の調査研究を続けている同社によると、学会データなどでも日中の15分~20分程度の昼寝が脳の働き方を大きく左右するという。
「一回休むことで脳のワーキングメモリーがまた増えるので、混乱していた情報が整理されるため脳が活性化して効率的になる。昼寝はなるべくするように伝えている」(同)とした。
寝具とインテリアという自社商品から培った知識やそのメリットを社員にも最大限還元することで、作業効率のアップにつなげている。
“出張休暇”でリフレッシュ
アパレルのネット販売を手がけるスパイスライフでは15年2月から、「リモートライフ制度」を開始した。1年のうち1週間程度を目安に社員が好きな場所で遠隔勤務でき、その諸経費を最大10万円まで会社が負担するもの。
元々は花粉症だった社員が本社のある東京から飛散量の少ない沖縄に“疎開”することから始まった制度だが、最近では「ブリージャー(出張休暇)」の意味合いでも活用されるように変化。出張時にリモートライフ制度を合わせて申請することで、現地で仕事をして週末はそのまま観光を楽しむというケースなども出てきた。
これまで15年に2人が台湾とサンフランシスコ、16年は6人がそれぞれシアトル、ラスベガス、台湾、沖縄、大阪などで活用している。16年にシアトルとラスベガスに行った事例は、現地でのカンファレンスに参加した開発スタッフが出張も含めてそれぞれ7日間、9日間ほど滞在。「現地での生活を楽しみながら仕事をすることで刺激になり視野が広がった」(同社)という。社内にこもりがちなエンジニアにリフレッシュを促す効果として機能しているようだ。
また、同社の場合は海外出張自体についても役員やマネージャークラスではなく、現場レベルの若手社員を積極的に派遣して現地の最先端のトレンドを学ばせるなど社員の能力育成に関して重点的に投資を図っている。
関連して「クラウド補助金制度」も以前より導入。エンジニアが自身でウェブのサービスを立ち上げたりする際にクラウド利用の費用を年間6万円を上限に会社で負担するという。自分で立ち上げることが一番の勉強になることから、例え趣味の時間で作る内容のものであっても対象としている。「勉強や成長のために必要な経験や参考書、ガジェットの購入を節約したり自腹を切らせたりすることは意味がない」(同)とした。
そのほかにも音楽を聴きながらの作業の許可や休憩室での昼寝など働きやすさにつながる工夫を随所で取り入れている。
残業ゼロ社員に“手当”を支給へ
紳士服大手のはるやまホールディングスは4月から、「No残業手当」制度を開始する。月間の残業時間ゼロを実行した社員に対して、月ごとに1万5000円を一律に支給するというもの。対象は課長未満の社員1267人で、各店の店長は係長に相当するため、店長らも対象になる。
同社によると、小売業は長時間労働におちいりやすい側面があるという。店舗の営業時間は長くなり、年中無休の店も増えている。こうした社会のニーズに合わせる中で就労時間も長くなる傾向がある。同社ではこれを改善するために機械化などの措置をとってきた。結果、13年に月平均15時間だった残業時間が、15年には12.3時間になり、直近の9カ月では10.5時間まで削減した。
ただ、「これ以上の削減はなかなか難しいというのが本音。残りは本人の“意識の問題”」(経営企画部)だと会社は判断。意識改革を行うにあたり、単に個々の社員に任せるのではなく会社として制度にしようということで、No残業手当の実施に至ったようだ。
手当の開始により、生産性を高めて時間内に仕事を終えた人が評価されるようになる。一方で、どれだけ頑張っても残業せざるを得ないケースもあるため、残業手当もこれまで通り支払う。
そのためNo残業手当では、残業がゼロだった人に一律1万5000円を支給するが、残業した場合も残業手当が1万5000円未満であれば、1万5000円になるようNo残業手当も支給する。例えば残業手当が1万円ならば、それにNo残業手当が5000円プラスされるというわけだ。そして残業手当が1万5000円を超えれば、残業手当だけを支払う(=㊤図参照)。
この仕組みは単に1万5000円のベースアップとも言えそうだが同社はあくまで“残業ゼロ”を掲げた手当であることが重要だとする。残業をしないということを名目にした手当だとすることで、各自の意識の変化を促すのが狙いだという。
利益還元賞与を導入
靴とファッションのネット販売を手がけるロコンドは1月から、利益還元賞与の導入や副業解禁などを含む新たな人事制度をスタートしている。同社は15年10月に単月黒字化を達成して以降、順調に業績を伸ばしていることから“会社の利益を社員に還元する”という原則に基づき新たな人事制度を決定。採用強化と社員のモチベーション向上につなげる狙いだ。
新制度の目玉のひとつが利益還元賞与「プロフィット・シェア・インセンティブ(PSI)」の導入だ。PSIは会社全体の業績に応じて支給される賞与で、国内の通販企業では初の試みという。
正社員の場合、職位と事業計画の達成度合いに基づいて営業利益の0.01%~0.1%をプロフィットシェア賞与として支給する。計算式のベースとなる職位については、年4回、田中社長と他の取締役、マネージャー職のスタッフが集まって人事評価委員会を開催し、従業員それぞれの成果に基づいて職位を決定。「3カ月ごとにさまざまな意見を聞くことで、各スタッフに対する評価の精度を高めている」(田中裕輔社長)とする。
PSI導入から間もないが、社内ではいかに営業利益を高めるかという会話が増えており、「各自が当事者意識を持って利益を上げようとするのは会社の正しい姿」(同)とし、意識改革にもつながっているようだ。
新人事制度では副業も申請不要で認めるほか、従来からあった飲み会の補助費用、社割クーポンの支給などに加え、新たに「引っ越し手当」や「外部研修制度」「慶弔金制度」なども導入。引っ越し手当は本社もしくは倉庫のある区に引っ越す場合、5万円までの補助を出すもので、社員同士のコミュニケーション活性化を意識したものだ。外部研修制度は業務のスキルアップを目的に社外のセミナーなどに参加する費用を負担する。また、本社と倉庫のある区に住む従業員への家賃補助制度「同じ区手当」は従来の月2万5000円から同3万円にした。
一方、規律も重視。何時に出社してもいいというような働き方や在宅勤務は原則、認めておらず、「チーム力の最大化を目指すには同じ時間に同じ場所にいて意思疎通をしやすくすることが大事」(田中社長)とする。
働き方を変えて育児制度を充実
フェリシモでは育児関連制度の充実に取り組んでいる。育児休暇は出産から2年間取れるほか、2時間の時短勤務は、子供が小学3年生まで可能。現在、育児休暇中の社員は16人で、時短勤務対象者は59人。結婚や出産を機に退職する女性社員はほぼいないという。
かなりの社員が対象となっていることから業務量の調整やミーティングの時間調整などには工夫が必要になってくる。ただ、最近は時短勤務の社員の働き方を参考にすることで全社での残業時間の短縮につなげている。
総務部の金水正部長は「時短勤務の社員に『どんなことを重視しているか』のアンケートを取った。帰る時間が決まっているので、『業務終了の時間』を意識して働くことが重要というのは一つの気づきだった。また、『だらだらと続く会議』にも問題があることが分かり、会議時間の最長を1時間に設定した」と話す。こうした取り組みが奏功し、平均残業時間は30時間から23時間まで減った。
もちろん、「自分しか分からない」という仕事を減らすことも重要だ。社内サーバーの共有フォルダーに資料を置いてチームでシェアしたり、各人の予定を皆が把握できるようにしたり、さらには優先順位をつけて作業するといった基本的なことも徹底。同社の場合、男性社員の育児休暇取得が多いのも特徴でのべ約20人が取得している。金水部長は「チームとしても育休取得に協力する雰囲気があることが大きい」と話す。
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