内山 美枝子 2017/7/21 7:00

フューチャーショップ主催のセミナーイベント開催(6月15日)され、「売上の自社EC比率を高め続けているEコマース事業者によるパネルディスカッション ~ SHIFT:あの時の決断、それぞれのターニングポイント ~」と題したトークセッションが行われた。

水上浩一EC実践会」の水上浩一氏がモデレータを努め、EC実践会の受講者たちがパネリストとして登壇した。パネリストたちが扱う商材は時計、コスメ、安全靴とさまざま。ECのベテランからまったくの初心者まで、キャリアもさまざま。

彼らが何を学び、どのように実務に生かし、どんな成果を得たのか。恩師と生徒のトークセッションをレポートする。

水上 浩一氏
モデレータを努めた株式会社ドリームエナジーコンサルティング 代表取締役 水上 浩一氏
株式会社NUTS 代表取締役 沼尾 保秀氏、株式会社ドクター津田コスメラボ 取締役 津田 麻里絵氏、株式会社下本商会 専務取締役 野々村 有城氏
左から株式会社NUTS 代表取締役 沼尾 保秀氏、株式会社ドクター津田コスメラボ 取締役 津田 麻里絵氏、株式会社下本商会 専務取締役 野々村 有城氏

モールと自社サイト。運営上の違いは?

モール運営20年・沼尾氏の場合

水上:沼尾さんは独自ドメインを始める前に、楽天で20年くらいやっていらっしゃいましたが、EC実践会で初めてお会いしたときに「独自ドメインの集客の仕方がわからない」とおっしゃっていました。日本のECの初期からやっていたベテランの方でもプラットフォームの違いに戸惑いがあるのかと、びっくりした記憶があります。

北欧時計専門店のトップページ
北欧時計専門店のトップページ

沼尾:ずっと楽天でやってきて、数年前から自社サイトもやらなきゃいけないなと思っていたものの、どうやって集客するのか二の足を踏んでいました。

水上:独自ドメインで店を出すのは、離れ小島に店を出すようなものだなんて話もありますからね。でも、実はそうじゃない。橋をかけることも定期連絡船を作ることもできる……そんなようなイメージを私は持っています。

当初はSEOで苦労して、ブランド名のキーワードでいくらやっても上がらなくて半年くらいで原因がわかったのですが、原因究明したとたん、すーっと順位が上がって、今では主要ブランドキーワードでは1ページ目に上がっています。直近は3か月連続で月商記録を更新していますよね。

沼尾:やるべきことをきちんとコツコツやっていくと、SEOの効果が出てきて、そこからお客さんが来てくれるのを肌で感じました。

最初に転換率が上がるページを作って、次にアクセス数を上げる施策をする。その順番が大事だと教わりました。その転換率を上げるページを作ることに取り組んでいたら、思わぬ副産物がありました。教わったページ改善施策をまずは楽天に応用したら、楽天の売上が上がっていき、半年くらいで売上が5倍くらいになりました。SEOのために作ったページが、実は転換率を上げることにもなった。集客と転換率の両方の効果を兼ね備えているノウハウだったのです。ちょっとそれは想像していませんでした。

ゼロからの出発・津田氏の場合

水上:津田さんは失礼ですけど、Webマーケティングについては、最初は本当に何もできなかったですよね。

津田:そうですね、まずパソコンがわからない。メールを送るのがやっとという状態で。

水上:すごいのが、当時のショップ、なんと店舗名がなかったんです。店舗名があるべきところにお母様で商品開発者の津田攝子さんの名前が書いてある。津田攝子さんの名前と顔写真が入っていて店舗名がなかったから、ネットショップではなく、津田攝子さんのオフィシャルサイトみたいでした。

津田:そもそも店舗名を付けなきゃいけないって知りませんでした。

水上:オフィシャルサイトっぽいのに、指名検索でも上に上がってこない。それくらいSEOもできていなかったのですが、EC実践会に参加されて、2016年は1年間に5回も月商記録を更新されました。今年に入ってからはGINZA SIX(ギンザ シックス)にも商品が置かれて、実店舗でも露出を高めています。ブランド化を意識した施策だと思います。

津田コスメのトップページ
津田コスメのトップページ

型番商材・野々村氏の場合

水上:野々村さんは楽天とYahoo!ショッピングに出店していた金物店がネットショップの最初だったんですよね。金物店って何を販売していたのですか?

野々村:家の基礎を作るときに、コンクリートの型枠を接続するための「セパ」という器具とか。実店舗で売れていた商品をとにかく販売していました。

水上:「セパ」? そもそもなぜ「セパ」を売ろうとしたんですか?

野々村:会社の実店舗の金物屋で、一番売れてたのが「セパ」だったんです。当時、キーワードのボリューム数なんて調べることもなく、「実店舗でセパが売れてるからネットでもセパを売ろう」という短絡的な思考で。ちょっとだけ売れました。1回売れると金額が大きいのですが、工事現場で使用する商品なのでリピートのリードタイムが非常に長く、売上はまばらでした。

水上:自社ドメインは2010年頃にスタートでしたっけ?

野々村:はい。モールでは安全靴以外にもいろんな商品を扱っていたんですが、自社サイトについては専門性を高めようと考え、安全靴1本で行こうとコンセプトは決めていました。だから安全靴の品揃えでまず一番になろうと思ってました。

スタートしてそこそこ売り上げが立って順調だったのですが、なんか違うな、と。僕がやりたかった感じとは違っていたんです。

モールのときは型番商品でもただカタログ情報を載せるだけじゃなく、「僕はこう思ってる」とか面白い情報を載せていたんですが、自社サイトを始めてみて、トップページで面白さを伝えられなかったんです。品揃えを重視していたから、どうしても商品を羅列することになって、言ってみれば小ぎれいなカタログ店舗みたいになっていました。なんか面白くなかったんですよね。

田舎の父親がモールの店をよく見ていて、「お前の店は面白いな」ってたまに長靴を買ってくれたりしていたんですけど、自社サイトの無機質なトップページを見て「お前の店は面白くなくなった。温かみがなくなった」って電話がかかってきた。

そのときは「素人に何がわかるんだ」って思ったけど、水上さんの話を最初にセミナーで聞いたときに「ファーストビューの共感って大事だよ」とか「店の人の顔をバンバン出しましょう」とか「店長のプロフィールを掲載しましょう」と聞いて、「ああ、俺がやりたかったのはこれだ」って思いました。それでEC実践会に参加したんです。

ワークストリートのトップページ
ワークストリートのトップページ

カートの機能で気に入っている機能は?

クーポン機能

沼尾:うちは3万円から4万円の時計が中心で、最初に買っていただくハードルが高いので、会員登録で1000ポイント、それプラス1,000円分の割引クーポンをお渡ししています。合計2000円のオファーで、最初のハードルを少し低くしたいと思っています。あと、クーポンも期間を区切って、「もうすぐ期間が終了しますよ」とメールしたりしています。

水上:今のお話を聞いて「なんだ値引きか」と思った方もいるかもしれませんが、4万円の時計で2,000円分のクーポンを使うとしたら5%引きでしかない。でも「2,000円分プレゼント」って言ったら割引率以上のインパクトがあるというところに着目してほしいですね。しかも、クーポンなので商品金額を下げるわけではない、実際に新規獲得効果が高い

津田さんのお店がブレイクするきっかけになったのは、去年の4月に発売した「スキンバリアバーム」でしたね。そのときに行った施策はなんですか?

津田:スキンバリアバームは4月に5,400円で発売したんですが、3月中旬から先行販売をして、8,000円以上お買い上げの方に1,000円オフのクーポンを出しました。もともと1万円以上で送料無料なのですが、スキンバリアバームはリピート商品でもあるので「2個購入すれば、1,000円クーポンも利用できるし、1万円以上になるから送料無料になる」ということで、最初から5,400円の商品を2つお買い上げいただく方も多く、ヒットにつながりました。

水上:沼尾さんのところと同様「クーポンも使えて送料無料にもなる!」というものすごいお得感があるのですが、結果的には売上金額10,800円で1,000円クーポン利用、送料無料は元々の設定だったので割引と考えなければ、実質的にはほんの9.2%オフという、非常に低い割引率の販促企画だったということになりますね。

Amazon Pay

水上:沼尾さんの店舗ではいかがでしょうか? 効果があった自社ドメイン店の機能はありましたか?

沼尾:自社サイトはまだ一年弱位なので、ほとんどのお客さんが新規顧客。Amazon Payは最初から導入していて、いま6割から7割がAmazon Payです。導入していなかったらと思うとゾッとしますね。

ステップメール

水上:津田さんのお店では新規ユーザーが初回購入されると、自動で設定されたメールが送信される「ステップメール機能」を上手く活用されていますね。

津田:先生の講習の中で「1回目のステップメールはこういう内容で、2回目はこういう内容で送るといいですよ」と教わりましたが、もともとど素人でユーザー目線なので、たとえば「アンケートって回答するかな? 面倒くさいんじゃないかな?」「私だったらこういう内容の方がいいな」と考えて、「肌診断テスト」を実施しました。「肌診断テスト」は、結果だけ読むこともできますが、肌トラブルを解決しようと思ったらメールのリンクをクリックして商品を見られる設計にしました。

あとは一番読んでもらえるステップメールの1回目に、弊社のコンセプトを書きました。母が皮膚科医で「困っている患者さんのために、院内で処方していたものを化粧品にしました」というのが弊社の出発点なので、最初のメールには絶対に掲載しようと設計しました。

データ分析と効果測定

水上:野々村さんは、「モールでは実現できない自社ドメイン店の強みを再確認した」とおっしゃっていましたが。

野々村:はい。モールと自社ドメイン店では成功法則が異なります。当店の場合、特に安全靴や作業服という「超ド型番商品」を販売していて、トレンドや季節イベント、セールなどでの売上の波が激しく、経営的にはかなり予測しづらいところがあります。さらに、モールでの販売となれば、「同じ商品であっちが10円安いならあっちで買う」みたいなことになります。

でも、自社ドメイン店ではまだまだやれることがあるなと思いました。モールでもデータは取得できますが、独自ドメインの方がデータが細かい。 自社ドメイン店の運用ではモールにはできない分析や、効果測定ができることを改めて認識しました。

苦戦していた自社ECの状況が好転したきっかけは?

水上:モールのみの運営から自社ドメイン店の出店を決断されたターニングポイントについて沼尾さんにお伺いします。

沼尾:弊社はそもそも、「値引き販売になる可能性のある商品は扱わない」「正規品を取り扱う」「他店で安売りをしていない商品を取り扱う」ということを決めていました。

ある海外のニッチな商品を取り扱っていたのですが、なかなか売れませんでした。でも、「こういう商品こそ思いを伝えてコツコツ売っていくのがウチのスタンスだ」と辛抱して販売していました。努力の甲斐あってだんだんと広まっていき、ついに楽天のカテゴリジャンルで1位を獲得したんです。

その結果どうなったかというと、あっという間に同じ商品を他店が並行輸入で安く売り出してきたんです! その瞬間、モールのメリットとデメリットを同時に痛感しました。あれはまさにターニングポイントになりました。

nuts online storeのトップページ
「nutscollection.jp」の中に「北欧時計専門店」(/hokuotokei/)と「クニルプス公認専門店」(/knirps/)がある。

水上:津田さんはいかがでしょうか? 美容系のショップさんはリスティング広告のクリック単価などが高い印象ですが、津田コスメさんは、非常に優秀なCPAで運用されていますよね? その要因を教えていただけますか?

津田:売上が上がりだしてから、ちょっと欲を出してコスメ関連のキーワードでリスティング広告を運用してみました。ところが結果は惨敗。結果的に弊社の場合は、指名検索を含めたベーシックなキーワードでの運用が一番費用対効果が高いということがわかりました。

水上:開発者の津田攝子さんもメディア露出が多いので、指名検索キーワードは非常に効果があると思います。「ブランド化」というのは、Webマーケティング的に言うと、「どれだけCPAを下げられるか? LTVを上げられるか?」ということに集約されると思うんです。 その観点からいうともっともCPAを下げられるキーワードこそが指名検索キーワードだ、ということになります。

その意味でも津田コスメさんが、早いうちに指名検索キーワードの効果に気付いたというのは、マーケティング的なセンスを感じますね。

津田:ありがとうございます。メディア露出についてはオファーがあったら断らないというだけで、メディア露出がブランド化とは考えていません。

それより力を入れているのは、できるだけ自社サイトで買ってもらうということです。どこで買うよりも買いやすいページにしようと思っています。EC実践会で教えていただいたようにトップページを充実させて、「あ、ここで買いたい」「ここで買えるんだ」って思ってもらえるようにページ作りをしてきました。

ホスピタリティを重視しながらのページ作りを心がけています。ブランド化というのはホスピタリティの発露だと考えています。

水上:いや、それは十分理解していますよ。津田さんの想像を絶する努力は、毎月の実践報告でわかっていますからね。ブランド化は1日にしてならず。血と汗と涙の結晶の成果、それこそがブランド化だと思います。メディア露出はそのきっかけに過ぎないのだということを津田さんはおっしゃっているのだと思います。

津田コスメの商品は女性ファッション誌やコスメ専門誌に多数掲載されている。

水上:野々村さんは型番商品で差別化が難しいと思いますが、ブランドについてはどうお考えですか?

野々村:楽天と自社ドメイン店は同じインターネット通販ですが、まったく違っていて、売れ筋商品も異なります。当店のオリジナル安全靴に「チャーリー」というブランドがあるのですが、これが今売れています。でもやはり、楽天と自社ドメイン店では売れ方も売り方もまったく違います。

こういった独自性の高い商品を販売したり、接客を重視したりしながら、 楽天市場店では「楽天で安全靴を買った」ではなく、「ワークストリートで安全靴を買った」と思ってもらいたいのです。そのために、店舗名を覚えてもらえるような接客を心がけています。ここがワークストリートが接客を重視してリピーターさん作りを最優先にしている理由であり、それこそがワークストリートのブランディングだと考えています。

自社ドメイン店でも最近嬉しいことが起こっています。 「チャーリー安全靴」での検索による訪問や販売が増えているのです。 ここは先ほど水上さんがおっしゃっていた「指名検索はブランド化の重要な要素」ということだと思います。

トークセッションの様子

スタッフとの情報や意識の共有は?

水上:では最後の質問になります。これまでのお話の内容はかなり重要で深いと思います。こういったブランディングやマーケティングについての情報をどのようにスタッフさんと情報共有しているのでしょうか?

沼尾:EC実践会に参加して一番良いと思ったのは、講義を聞いてやってみてわからないことをもう一度質問できることです。それを繰り返さないと運営はできない。繰り返しをどんどんできるから実践的だと思いました。

あと、1社から4名出席できるのも良くて、普通は1名か2名だから、行った人が会社に戻って別のメンバーに伝えないといけない。4名が同時に同じレベルに行けるので時間的に効率が良いと思いました。

水上:津田さんがすごかったのは、講義の中から課題を見つけて、次回「できました。見てください」って僕に見せてフィードバックをもらうところまでをゴールにして、それを毎月実直にやってましたよね。

津田:私は受講していた半年以上の間、上司も仲間もいなくてほんとに1人だったので、相談できる相手もなく、心が折れてやめたくなるときもあったんです、でも、次の月に先生の講義が入っていると「わからなかったのでやめました」とかっていうのはどうしても自分的に許せない。次の月までには絶対に課題をクリアしようと決めていました。

だから毎月、休憩時間に「ページを見てください!」とか、懇親会でも「このシステムを導入しようと思っているのですがどう思いますか?」みたいに、隙あらば先生に質問していました。

水上:たしかに受講中の迫力はすごかったです。講師としても使い倒してくださるのは嬉しいことでもあります。野々村さんは高山から名古屋まで、車で2時間かけてチームで通っていたと聞きましたが。

野々村:そうです。勉強会の会場まで距離的に遠いは、通常はデメリットですが、それが弊社ではものすごいメリットになりました。 行きの車中はなんでもない話をしていますが、帰りの車中はその日の講義についての振り返りを行っていました。4時間の授業を受けた後で、帰りの車中で2時間のミーティング。すごく疲れますけど、その場でやることとスケジュールを決めれば、あとは翌日からやるだけです。

その2時間の車中ミーティングこそが、EC実践会を受講して成果を上げることができた最大の要因だと思っています。いかにスピーディーに情報共有して具現化するかが成否を分けるポイントだと考えています。

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