「アンジェ」の拡大には集客力が必要だ~セレクチュアー洞本氏が語るクックパッド傘下入りの真相
有力通販・ECサイト「アンジェ web shop(アンジェ)」を運営するセレクチュアーは8月1日付で、クックパッド傘下に入った。セレクチュアー社長として「アンジェ」の舵取りをしていた洞本昌明氏は保有株式の80%を5億5000万円で売却。代表権のない会長に就き、今後も「アンジェ」の運営に携わるという。14年間、「アンジェ」のトップで指揮を執り、EC業界の有力サイトまで育て上げた洞本氏はなぜバイアウトという選択肢に至ったのか。洞本氏が語るクックパッド傘下入りの背景とは――。
課題が解決でき、多様な可能性があるクックパッド傘下入りという選択肢を決断
EC業界に衝撃が走ったのは7月29日。クックパッドがセレクチュアーを子会社化すると発表。クックパッドは発行済み株式の80%を8月1日に取得し子会社化し、残り20%の株式も2015年12月期中に取得予定。完全子会社化を目指すという方針を打ち出した。
「アンジェ」は、は楽天市場やヤフーショッピングなど各種モールでECを展開。特に楽天では楽天市場ショップ・オブ・ザ・イヤーで9年連続インテリア部門ジャンル賞を受賞するなど、有力店として長らくEC業界で活躍してきたサイトとして知られる。
洞本氏が「アンジェ」を立ち上げたのは遡ること14年前。セレクチュアーの前身である、ふたば書房の雑貨事業部のオンラインショップとしてスタート。2005年にEC事業部がセレクチュアー株式会社として独立した。一から手塩にかけて育ててきた「アンジェ」を、セレクチュアーを売却したのはなぜか。
「ECが成熟し、さらなる成長を遂げるには集客エンジンが必要で、お客様が訪問する太い道が重要だと感じていた。昔からメディアを作ったり、異業種企業とアライアンスを組んで集客効果を高めようとしてきたが、今回のクックパッド傘下入りはその一環。『アンジェ』が拡大するには集客が必要だった」
クックパッドを利用する月間延べユーザー数は4400万人以上。「集客を拡大したい」という洞本氏の思惑とは一致する。業務提携という枠に留まらず、一気に資本関係までに至った。
「『アンジェ』を拡大し、長い将来に渡ってユーザーに利用してもらいたい。ECの業界の変化が激しくなり、これまでのようにスタンドアローンで事業展開していては、『アンジェ』がなくなってしまう可能性もある。だからこそ、大手と組むという決断をした。私が考えていた課題は『アンジェを拡大路線に乗せるための集客』だった。これまでの中堅企業としての立ち位置よりも、一気に課題が解決でき、いろいろな可能性が生まれる選択肢を選んだ。その結果として、この数カ月で買収という結果に至った」
クックパッドを利用するのは主に主婦層で、インテリア雑貨などを取り扱うセレクチュアーとはシナジーが高いと洞本氏は言う。クックパッドから「アンジェ」へユーザーを誘導するといった連携方法が考えられるが、具体的な連携策については今後詰めていくという。
「受け皿は自社サイトになるだろう。当社としても課題だった自社サイトを伸ばしていけることになる。今回の傘下入りはクックパッドユーザーに商品を売るというところが一番の要。『幸せの瞬間と空間を創造する』という当社と、『毎日の料理を楽しみにすることで心からの笑顔を増やす』という理念を抱える両社は、企業体として同じ方向性、つまり顧客満足度を高めるという目的を共有している。例えば、クックパッドユーザーが喜ぶお皿を販売したり、さらなる付加価値を提供していけるだろう。そうなると、キッチンジャンルは強化していくことも考えられる」
青天井で次のステージに成長できる時代ではなくなった、トップランナーで走り続けてきたから感じる変化
「アンジェ」の運営に携わって14年。洞本氏は「アンジェ」を「自分の娘」と例え、今回のクックパッド傘下入りは、「『アンジェ』の嫁入り」と説明する。「いいお婿さんに迎え入れてもらう状況」と話し、自身の進退について語り始めた。
「セレクチュアーの取締役だった私と服部真明氏は役員を退いた。私は代表権も役員でもない会長。クックパッドの役員がセレクチュアーの社長に就任している。私はこれからも『アンジェ』の事業を継続的に見ていく。今後は新社長とともにどのような融合を生み出していくか。二人三脚で取り組んでいくことになる」
セレクチュアーの2013年7月期業績は、売上高が前の期比10.3%減の14億5800万円と減収だったものの、営業利益は同74.1%増の5900万円と利益は堅調に伸びた。「利益確保」という経営を目指して安定経営を継続してきたセレクチュアーがクックパッド傘下に入った理由の1つとし、競争環境の劇的な変化も上げた。
「1990年代後半は大手がECに参入して失敗。2000年代は中堅企業がEC市場の拡大をけん引してきたというステージ。2010年以降は大手が再びECに注目し、中堅企業が作ったECのビジネスモデルを、資金力を武器にECのノウハウなどを自社に組み入れようとしてきている。セレクチュアーはこれまで、さまざまな大手企業とアライアンスを組んできたが、そんな思惑がひしひしと伝わってきた」
「EC化率がどんどん伸びる中、パイの食い合いが始まり、大手企業が台頭してきている。そんな環境下が進むと、結局は大手だらけの市場になっていってしまう。ただ、中堅企業はキャッシュを手に入れなければならないので、赤字覚悟でもどんどん価格競争で物を販売していく企業が増えていくのではないか。その間に大手企業は、資本力を武器にブランドを作ったり、中堅規模の企業ができないことを加速度的に進めていくことが考えられる」
「全ての中堅企業が難しいということではない。ただ、例えば、月商100万円のパパママストアは生き残ってはいけるが、その次の中規模サイトへのステージに上っていくのは難しくなる。中規模から大規模サイトへのステージ移行もそれ以上に難しい。ネットショップがどんどん増え、大手が入ってくる中では、ステージアップへの環境が厳しさを増している。昔のように青天井で次のステージに成長できる時代ではなくなった。全体を総合的に見た場合、誰もが次のステージへ簡単に成長できる環境ではなくなったと思う。能力があるサイトしか大きなステージに到達できない時代になった」
2000年代後半から現在まで、EC専業企業が大手企業に買収されるケースが増えている。ただ、「成功」と言えるような買収効果を生み出したケースは少なく、むしろ買収数年後には「失敗」と周囲で声が上がるようなケースが多く見られる。そこで上がる問題が「企業文化の違い」などだ。
「クックパッドからは企業文化を尊重してもらっている。今まで通りお客さまために頑張ってと声をかけられている。クックパッドはだからこそ子会社という形態にしているのだろう」