内山 美枝子 2017/12/4 7:00

海外から注文や問い合わせが増え続けている、どうすればいいのか? 海外ユーザーからの興味・関心が高まる東京オリンピックまでに、五輪特需の恩恵を受けるECサイトも増えるのではないだろうか。

越境ECの体制を整える前に訪れるかもしれない突然の注文に困らないためには、どんなことを押さえておけばいいのか。EC企業の事例をもとに、「物流」「決済」「顧客対応」の側面から、低コストで始められる越境EC対応をまとめてみた。

猫の肉球のマシュマロなどのECサイト「マシュマロ専門店やわはだ」を運営する、やわはだでは現在、米国や中国を中心に海外からの注文が増えている。

今では英語表記への対応なども行い、日常業務の一環として海外からの注文を処理しているが、ほんの数年前は海外からの受注に四苦八苦していた。

初めての海外注文は米国から。「コーヒーに浮かぶ猫」の商品が日本の大手Webメディアで掲載され、著名な海外YouTuberもTwitterも「やわはだ」のことをつぶやいた。すると、米国の消費者から突然、1件の注文が入った。

コーヒーに浮かぶ猫
海外からの人気も高い「コーヒーに浮かぶ猫」関連商品

1. 物流への対応

当初、EMS(国際スピード郵便)で物流は対処していたが、海外からの注文が増えるにつれて「人手が足りなくなっていった」(マーケティング任責任者の木鋪智史氏)。配送は1~2か月もの期間、購入者に待ってもらう状況が続いたという。「どうしようか?」。こう考えているときに見つけたのが海外向けの配送サービス「転送コム」だった。

やわはだのマーケティング任責任者・木鋪智史氏
やわはだのマーケティング任責任者・木鋪智史氏

「転送コム」は日本の通販サイトの商品を世界に発送代行するサービス。転送コムが用意したバナーを貼る(IPで海外からのアクセスを判別し、サイト上で海外配送対応のバナーを表示する)だけで、海外向け配送に対応できというもの。ECサイト事業者が負担する固定費はなしで、海外ユーザーに手数料と配送料をお支払いいただくという料金体系。手軽に利用できることも決め手となった。

「転送コム」の導入企業は1700社を超えており、86か国への発送に対応。消費者からの問い合わせには「転送コム」の現地スタッフが対応する。

①海外にお住まいの方が会員登録→②転送コムが国内住所付与→③海外ユーザーが付与された住所でお買い物→④日本の通販サイトが国内へ配送→⑤転送コム倉庫から海外へ発送
転送コムのサービスフロー
画像出典:https://www.tenso.com/jp/static/guide_flow_index

「転送コム」に登録した海外居住者には、専用の日本の住所情報(転送コムが活用する海外向けに商品を発送するための倉庫の住所)を発行。そして、専用の6桁の数字が割り振られ、登録ユーザー専用の日本向けの送り先住所として利用できるようになる。

ここで1つ知っておきたい落とし穴がある。転送コムユーザーが利用する住所は、「東京都足立区千住曙町42-4」(※この後に6ケタの数字などを入力する)。この住所を知らないEC事業者(つまり転送コムを利用していないEC事業者)は、「海外からの注文なのになぜ送り先が日本の住所なのか?」と不思議に感じることや、不正注文だと勘違いしてしまうケースがあるという。

「海外からの注文で配送先が倉庫になっているので、不正注文だと思って注文をキャンセル扱いにしてしまった」(あるEC事業者)という事業者もいる。

「マシュマロ専門店やわはだ」は現在も「転送コム」を利用して、海外からの注文に対応している。「『転送コム』を利用してからの海外向け配送はスムーズで、国内配送と同じように対応できている」(木鋪氏)。

越境EC専用の配送体制を作るのではなく、都度注文に対応できる「転送コム」で海外注文へ対応している「マシュマロ専門店やわはだ」。いわゆるスモールスタートで越境EC対応した方法は正解だったようで、「転送コム」を提供するtensoの浜田 祐輔執行役員は次のように話す。

越境ECは何が要因となって成功するかわからないので、最初は投資リスクを抑えた方がいい。1700社の導入企業と話してみると、海外からのアクセス状況を調べている企業が少ないことに驚いた。日本語サイトでも意外と海外からのアクセスが多いケースがある。

つまり、海外のECモールに出店しなくても、既存のECサイトを活用して海外向けに商品販売できるチャンスがある。まずは、海外からのアクセスがあるのかどうかを調査し、アクセスがあるのであればすでに訪問してくれる海外ユーザーをターゲットにスモールスタートをした方がいい

「転送コム」を提供するtensoの浜田祐輔執行役員
「転送コム」を提供するtensoの浜田祐輔執行役員

2. 決済への対応

日本のECサイト内にも英語の説明文などを入れるなどして、海外からのニーズに対応した「マシュマロ専門店やわはだ」。基本スタイルは、日本のECサイトでも海外ユーザーが購入できるようにすること。「転送コム」の利用も含めて、越境EC専用の体制を整えているわけではない。

海外ユーザーも簡単に決済できるようにと、「マシュマロ専門店やわはだ」に導入したのがオンライン決済の「PayPal」だった。「PayPal」は世界で2億人以上、1700万以上の店舗が利用。年間取扱高は約38兆円(2016年実績)、1件あたりの決済件数は193件というグローバル展開している大手オンライン決済サービス。

「マシュマロ専門店やわはだ」で最も多い海外からの注文は米国で、次は中国圏。利用しているショッピングカートは、「PayPal」に対応している「おちゃのこネット」のため、負荷なく実装できる環境にあった。

主要国越境ECユーザー向け 過去1年間で利用したことのある決済方法(複数回答可)
越境ECでのPayPalの浸透度

ユーザーアンケートでは、29か国中、22か国で「PayPal」が1位だったという。そして、越境ECの決済においてPayPalを選択した主な理由は、「安心・安全」である。

なお、米国と中国の越境ECサイト利用ユーザーによる商品の購入先国は、PayPalの調査によると次の通り。

越境ユーザー購入先トップ10 1位中国(14%)、2位イギリス(10%)、3位カナダ(7%)、4位日本(5%)、5位韓国(4%)、6位フランス(3%)、7位ドイツ(3%)、8位イタリア(3%)、9位スペイン(3%)、10位アイルランド(2%)
米国の越境ECユーザーの購入先国。「過去12か月、オンラインでどの国もしくは地域から購入しましたか」という問いに対し、日本は4位
越境ユーザー購入先トップ10 1位日本(13%)、2位韓国(13%)、3位アメリカ(9%)、4位フランス(4%)、5位オーストラリア(4%)、6位イギリス(3%)、7位タイ(3%)、8位シンガポール(2%)、9位ニュージーランド(2%)、10位ドイツ(2%)
中国の越境ECユーザーの購入先国。「過去12か月、オンラインでどの国もしくは地域から購入しましたか」という問いに対し、日本がトップ

海外からの注文には「PayPal」で対応し、越境ECニーズを捉えている。ユーザーが「PayPal」を海外サイトで利用する理由などを、PayPal Pte. Ltd. 事業開発の野田陽介部長は次のように話している。

「PayPalを使えば、ユーザーはID・パスワードだけで決済できるので、カード情報を入力する必要がない。海外ユーザーから見えると、海外ECサイトでの決済に不安がある。その不安を解消できるのもPayPalの特徴。世界の消費者は「安心・安全」と認識している。

PayPal Pte. Ltd. 事業開発の野田陽介部長
PayPal Pte. Ltd. 事業開発の野田陽介部長
「PayPal」の仕組み カード情報をペイパルが安全に保護 買い手はカード情報を売り手に渡すことなく決済できる。売り手はカード情報を扱う必要がなく、情報漏えいの心配がない。不正取引防止のため24時間365日監視
「PayPal」の仕組み

3. 顧客対応

「マシュマロ専門店やわはだ」は、ECサイトを海外ユーザーも負担なく利用できるように工夫している。たとえば買い物カゴの中。住所の入力欄には英語の説明分を入れ、海外ユーザーでも内容を理解できるようにしているのだ。

英語での説明分を記載している個人情報入力ページ
英語での説明分を記載している個人情報入力ページ
カートに入れるボタンも英字で説明
カートに入れるボタンも英字で説明

海外からの問い合わせについては、問い合わせテンプレートを作り、業務の負荷を軽減している。日本でも多い問い合わせ上位20個ほどを列挙。それに対する回答を外国語に翻訳し、テンプレート化して運用している。

「お客さまに不安を与えないことがまずは重要だと思った」(木鋪氏)。海外からの注文への対応は2人程度。ほとんどの問い合わせはテンプレートで対応できているという。

内容はいつ届くのでしょうか? といったものがほとんど。テンプレートで対応できない内容の問い合わせは僕がメインで応じるようにしている。テンプレートの作成には少し時間がかかったものの、作ってしまえば運用はスムーズになる。(木鋪氏)

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