「こうすれば宅配便の再配達は減る!」55人の関係者と消費者が考えた再配達削減策
「再配達はどうすれば削減できるのか?」。EC業界だけでなく一般消費者も注目しているこのテーマについて、配送キャリア、コンビニチェーン、マンションデベロッパー、宅配ボックス事業者、消費者などが熱い議論を交わした。
再配達問題に対するさまざまな視点からの解決策やアイデアなどがディスカッションされた「COOL CHOICEできるだけ1回で受け取りませんかキャンペーン~みんなで宅配便再配達防止に取り組むプロジェクト~」(3月13日、東京霞が関の中央合同庁舎で実施)の模様をレポートする。
ライフスタイル別に有効な施策を考える
ディスカッションのテーマは2つ。
- 消費者が取り組むことができる再配達防止策
- 再配防止のための消費者への有効な呼びかけ方法
これらを「消費者の視点で考える」ことを前提に、ディスカッションを実施。消費者のモデルは下記の3つに分けた。
- 公共交通機関で通勤する共働き世帯(都市部)……A~Cの3チーム
- 自動車通勤の共働き世帯(三大都市圏以外)…D、Eの2チーム
- 一人暮らしの若者(学生や一人暮らし)……F、Gの2チーム
ライフスタイルが異なるそれぞれのモデルに対し、「このモデルにはどんな施策が有効か」「どんな呼びかけが有効か」意見を出し合った。
参加者55人からの意見とは?
ワークショップ終了後、各グループの代表者による結果報告が行われた。ボードに貼り出された参加者の意見をテーマ別にまとめてみる。
再配達防止策に関する意見
・1回での受取にインセンティブを与える
- 1回の受け取りで各配送キャリア共通の「エコポイント」(Tポイント、楽天ポイントなど)を付与する
- 平日指定で送料値引き
- 自宅以外での受取で送料が安くなる
- 早く受け取れればポイントをより多くもらえる
・再配達にペナルティーを与える
- 2回目以降の配達の有料化
- 再配達を有料のチケット制にする
・受取場所・受取方法のバリエーションを増やす
- 職場での受取を会社が認めるよう、行政から働きかける
- 職場に宅配ボックスを設置する
- 敷地内、建物内の留め置きを増やす
- 家から駅の間にコンビニがない人は多い。ドラッグストア、ガソリンスタンド、コインランドリー、クリーニング店、新聞配達所、ネットカフェ、地域の集会場、地域のごみステーション、空き家など、宅配ボックスの設置場所のバリエーションを増やすべき
- 子育て世代は保育園で受け取れると便利(対応できる保育園には国から補助金)
- 居酒屋などを対象に「COOL CHOICE加盟店」を募り、受取場所になってもらう(クーポン配布でリピート施策につなげる)
- 近隣の人(集合住宅の管理人、在宅勤務の人など)に「地域の宅配ハブ」になってもらい、代理で受け取ってもらう。→地域の活性化につなげる
- 宅配事業者がハブ作りを促進する(Airbnbのように登録制で希望者がハブになれるようにする)
・アプリの機能を拡充する
- 各配送キャリア共通のアプリで、受取の日時や場所を指定する
- アプリでポイントの管理やクーポンなどのインセンティブも受け取れると良い
- 受け取れる場所は日々変わるため、配送日時と、自分のスケジュールのすり合わせが大変。受取の時間と場所と自分のスケジュールをすり合わせられるようなWebサービスがほしい
- 宅配ボックスやコンビニ受取に指定した場合、最寄り駅の改札を出た時点でプッシュ通知がほしい
・EC事業者側からも再配達削減の呼びかけを強化する
- 購入画面で受取場所を選択できるようにする
- 自宅以外で受け取った時、箱が邪魔になる。パッケージレスな発送方法が必要
- そもそも時間指定や宅配ロッカーについて何も知らなかった。もっと告知してほしい
消費者への呼びかけ方法
- 不在票に環境負荷、労働者の負荷を認知させる
- TVCM、YouTubeなどで、有名人を起用した告知を行う
- 周知・教育を目的として、配達を体験させる
- 目からの情報は飽和状態。耳に訴えるために配送車に再配達削減をアナウンスしながら配達してもらう
その他(ワークショップ中の意見から)
- 集合住宅の宅配ボックスはすぐ埋まってしまう。荷物を引き取らない利用者への注意喚起も必要
- 宅配ボックスの設置に対して自治体から補助が出れば、戸建て住宅における宅配ボックスの設置が促進されるかもしれない
- 宅配ボックスを設置できるかどうかには、建築の際の容積率が関わってくる。規制緩和の検討も必要
現在行われている再配達削減策とは?
ワークショップに先立って、国土交通省 物流政策課長の英 弘道氏より、宅配の現状と最近の物流政策についてのプレゼンテーションが行われた。
まず宅配業界の人手不足について。有効求人倍率はドライバー・運転手が2.72倍。全産業の平均が1.35倍なので、2倍程度人手が足りていない。特に特に年末の繁忙期の有効求人倍率は3.09(全産業平均は1.52)と、かなり厳しい状況。
そんな中、2016年には約40億個の宅配便が配達されている。この内、2017年10月の調査では再配達率は16%(都市部住宅街、郊外の住宅街、地方の住宅街の3か所でのサンプル調査)。これを2020年度までに13%程度までに削減する目標。今後は同様の調査を半年に1回行い、発表する。
再配達の削減に向けた具体策としては、まず再配達による社会的損失を広く消費者に知ってもらうことが必要(意識調査では7割がこの問題を知らない)。在宅時間と配達時間を合わせることが難しいため、時間に拘束されない非対面の受取方法を追求していく。これを実現するには、業者間の枠組みを取り払い、連携しなければならない。
駅などの公共スペースにおけるオープン型宅配ボックスの設置は、平成28年の44か所ら650か所へと速いペースで増えているが、現在は首都圏が中心なため、地方にも増やしてく。地方ではどういったところに設置するのが効果的か、モデルを2018年度に作る予定。
新しい事例として、藤沢SSTや東京スカイツリータウンでの共同輸配送や、北陸急行ほくほく線や宮崎交通バスにおける貨客混載の試みについても紹介した。
参考資料
今後の政策にどう生かされるのか?
環境省 地球環境局 地球温暖化対策課の加藤 聖氏は閉会に際し、「最初は事業者を集めてワークショップをしようと言っていたが、若い担当官が“消費者や若者の声を聞きましょう”と言った。なるほど、ユーザーに直接話を聞く方が良いと思い、今回やってみた。なかなかない機会だった」と語り、各リームのワークショップを下記のように総括した。
AチームからCチームまではインセンティブ、受取場所の多様化、ペナルティと、三者三様で面白いなと感じた。DチームとEチームは地域の課題となっている空き家の問題、地域の立ち寄り場所に言及していた。保育園での受け取りは子育て支援という新しい切り口で新鮮だった。
Fチームの意見には発想の転換があった。家にいない若者にどう届けるかでなはく、いる人に届けてハブになってもらう「宅配ハブ」という斬新な考え方だった。IKEAの家具の組み立ての件など(編注)、世界的にもシェアリングエコノミーが広まっている。ハブになる人を募るのはあり得ると感じた。
GチームはアプリやWebのサービスと連携させることで、新たな地域コミュニティがきっと出てくる。 Hチームではそもそも「この問題を知らない」という意見が出た。それをどう広めるか。石焼き芋の販売のように耳で届ける提案があった。確かに視覚で情報を追いかける人が多い中、耳に届けるのは新しい。
※IKEAは米国の家事代行マッチングサービス「TaskRabbit(タスクラビット)」を買収し、IKEAの家具を組み立てて欲しい人と組み立てる人のマッチングを行う
「このワークショップでいただいた意見を国土交通省や経済産業省と連携しながら、再配達削減の新しい取り組みや国民のみなさんにどう届けていくかを検討する。今日の参加者は引き続きインフルエンサーとしてご協力お願いしたい」と語った。
今回のワークショップでEC関連事業者に一番伝えるべき発言は、「買い物するときに時間指定ができると知らなかった。オープンロッカーの存在も知らなかった」という、学生の何気ない発言だと思った。ヤマト運輸はAPIの提供しており、ECサイト内で購入者が配送先や配送日時を設定・変更できる。EC事業者の皆さんにはこうしたサービスを積極的に利用してもらい、購入者への認知を広めていって欲しいと思う。
もう1つ、EC事業者側でできることは荷姿。個人的に衣類をコンビニ受取したときの経験から「箱が邪魔」という意見に同意する。店側が大きな紙袋を用意してくれたが、店に負担をかけるのも利用者としては心苦しいもの。袋での配送が広がれば、自宅外での受取はもっと楽になるはずだ。
各配送キャリア共通の「エコポイント」の導入や、「COOL CHOICE加盟店」を募るといったアイデアも面白いと思った。深夜までやっている飲食店などが加盟して、クーポン配布などの集客施策を行えば、“宅配の受取と地域の活性化”という一見結びつかなさそうな2者が結びつくかもしれない。