地方企業が語る「売れるために必要なこと」――ECで地方創生に取り組む楽天の戦略
約4.5万店舗が出店する「楽天市場」で、月商1億円を超える有力店舗は一握り。楽天では、1つのハードルとされる月商1000万円超えの実現をめざす中小規模の店舗に対するサポート「R-Nations(アールネーションズ)」によって、「楽天市場」全体の底上げを図っている。
「楽天市場」内で“稼ぐ”有名店舗がそのノウハウを他店に教えるもので、地方出店者向けに展開する地域版「Area-Nations(エリアネーションズ)」も2017年に始まった。
楽天は2018年、「Connect(つなげる)」を方針に掲げ、“稼ぐ”地方店舗とさらなる成長を目指す店舗を結び付け、ECを地域に根ざしたビジネスに、そして、ECを通じた地方創生の実現をサポートするという。ECで“稼ぐ”地域企業になるための取り組みとは──。
「R-Nations」は「楽天市場」内で売り上げを伸ばすことができていない店舗に対して、自店舗を成功に導いてきた店舗がコンサルティングを行い、1年以内に月商1000万円突破を目標としたサービス。「Area-Nations」は楽天の地方支社を拠点に、2017年は全国33都道府県で開催し、「短期的にも参加店舗の多くが、売り上げ成長を達成した」(楽天)。
「Area-Nations」はリーダー店舗が1グループにつき最大30店舗にノウハウなどを教えるうもの。期間は6か月で、売上目標は月商で前年同月比2倍。
今回、大阪エリアネーションズに参加した店舗(チャレンジ店舗)である山家漆器店の山家優一氏、講師(リーダー店舗)を務めた川口水産の川口泰史社長に話しを聞くことができた。
山家漆器店の山家優一氏(以下、山家):「Area-Nations」に参加して、月商は前年同月比で2倍に増えた。参加する以前は月商100~500万円といったところで推移。悩みだらけだったが、相談できる人がいなかった。「Area-Nations」で横のつながりができて、売り方のテクニックは参加店舗が参加するFacebookのグループなどを通じて共有している。参加店舗のジャンルはかぶっていないので仲間意識ができた。それと、「いくらキレイなサイトを作っても売れない。売るためのマインドが重要だ」という商いで必要なことを学んだ。
川口泰史社長(以下、川口):仲間ができるのは良いこと。実際のところ、半年間で実力的に月商2倍を売る力を身に付けるのは難しい。半年間で“売れる”きっかけをつかむことに重点を置いた。2倍に到達する店舗も、しない店舗もあった。結局、売り上げが2倍になるというのは、日頃の商売でやっている小さなことの積み重ね、積み上げの結果。講座では、参加者自身の実力を2倍に、3倍にしようというマインドを伝えることを心がけた。
川口水産は和歌山県に拠点を置き、うなぎ蒲焼きの加工業、通販業、卸しを手がける。2004年のECをスタート。「うなぎ屋かわすい・川口水産」は多くの消費者が利用する有力店舗だ。
今ではネット通販でも有名な川口水産だが、ECを始める以前は量販店への卸販売がメイン。「産業構造として量販店に依存していた。自分たちで末端のお客さまに売れるチャネルがなかった」(川口社長)。
国内産のうなぎを仕入れて自社で加工し、「香ばしさ」にこだわっているというタレも専用の自社工場で製造。自社で加工し、販売するうなぎの蒲焼きは、微妙に焦げたタレの匂いが食欲をそそる。川口水産の「きざみうなぎの蒲焼き」はモンドセレクション金賞を受賞した一品だ。
インターネットというインフラが普及。「きざみうなぎの蒲焼き」は全国の消費者の手元に届くようになった。
川口社長がネット通販に足を踏み入れてからはチャレンジの連続である。いまではうなぎ製品は多くの企業がネット通販を手がけるが、川口水産がECを始めた当時はニッチジャンル。うなぎの蒲焼きはリアルの世界で購入するもの――そんな先入観が消費者にはあった。
川口水産が楽天市場に出店した際、「マズかったら返金します!」という宣伝文句をサイトトップに掲示した。「食べてもらえればおいしさを理解してもらえる」。こう判断した上でのチャレンジだった。その結果、返金は皆無に近かったという。
2010年以降、ウナギの稚魚が不漁で、生産体制やコスト的にもダメージを受けたこともある。自然にはあらがえない。だが、川口社長は難題を乗り越えながら、会社を成長させてきた。
川口氏:チャレンジ店舗には、欲望を持ち続けてほしい。それは、「(今よりも)10倍の規模になる」「かっこいいと思われたい」――なんでもいい。欲望を持ち続けること。その欲望を心底やりたい目標にしよう。思ったことは実現できる。
山家氏:地方のEC実施企業の多くは横のつながりがないので、悩みや課題を共有することができずに“内にこもってしまう”ことがある。「Area-Nations」で横のつながりができたこと、そして、目標を持って取り組んでいくことの重要性を学んだ。テクニックよりもやっぱり、熱意が重要なんだ、と。
楽天が「Area-Nations」に力を入れる理由
2017年2月から2018年1月までに「Area-Nations」は全国33都道府県で実施。多くの参加店舗が、売上拡大を実現したという。楽天のECカンパニーCOO&ディレクター・野原彰人執行役員はこう話す。
楽天市場ではヒトとヒトをつなげることで、多くの店舗が成功してきた。この成功体験を次の世代に伝えていかなければならない。店舗規模の大小はあるものの、経営者や店長はある意味、孤独。環境の違いによってネットに関する知識の差も出てきている。だから、「楽天市場」が設定した2018年のテーマは「Connect(コネクト)」。店舗さんとユーザー、店舗さんと楽天、店舗さん同士などの“つながり”を強くする。そんなコミュニティ化を推進していく。(野原氏)
また、野原氏は「個人間のつながりが消費をけん引する時代になってきた」と指摘。ライドシェア、シェアリングエコノミー……新しい消費形態の台頭も、楽天、店舗の双方にとって刺激となっているという。
「楽天市場」が始まってから20年が経過し、成功店舗の中には「これまで経験したことを次の世代に伝えたい」という人が増えている。人と人をつなぎ、地域に根ざしたECコミュニティを育成していきたい。「一生懸命やっても売り上げが伸びない」「楽天に出ても売れない」という声があるのは事実。だが、「Area-Nations」を通じた成功店舗との出会いで解決できることを示すことができているし、もっと頑張ろうという店舗さんも増えている。(野原氏)
楽天は2018年春以降、関東地域、北関東地域、東海地域で「Area-Nations」を初めて開催することを決めた。これまで一地域最大30店舗での開催が基本スタイルだったが、規模を大幅に拡大するという。
たとえば東京エリア(東京都・長野県・山梨県・茨城県・神奈川県・千葉県)。講師数9店舗に対して参加店舗数は約270店舗に拡大。北関東エリア(埼玉県・栃木県・群馬県・福島県)では、講師数3店舗に対して、約90店舗が参加する。同様の規模で、東海エリア(三重県・愛知県・岐阜県・静岡県)においても初開催が決まっている。
楽天が開示した流通ランクによると、2017年6月時点で月商1000万円以上の店舗数は3130店(月商1000万円以上、3000万円以上、1億円以上の合算)。月商300店舗は6033店舗。
「Area-Nations」を通じて、“売れる店舗”の拡大を進めていくのが、楽天が2018年に取り組む1つの施策でもある。