ニューバランスの「EC戦略」「オムニチャネル戦略」とは
ニューバランスジャパンは、顧客に寄り添ったサービス設計で公式通販サイト(画像)の会員数を大きく伸ばしており、自社EC売上高も2ケタ成長を続けているようだ。
顧客視点でサービス拡充、ワンクリック購入や電話注文など、チャットもテスト導入
同社は、顔の見えない販売チャネルであってもメーカーとして“信頼されるEC”を目指した運営体制を構築。公式通販サイトに対する顧客の声を直接聞く機会の多いコールセンターは全社のお客様相談室が対応するのではなく、Eコマース部の専用コールセンターを構えており、VOC(ボイスオブカスタマー)レポートを部内で共有できるようにしている。
公式ECには「お客様からの声」ページを設け、ユーザーの声から生まれた新しいサービスを当該ページに掲載することをカスタマーケアチームのKPIのひとつに設定。改善事例を見える化し、事例が増えれば増えるほど利便性が高まっていることの指標となるようにした。
また、倉庫にはECの専任スタッフを常駐させ、目検による出荷品質の確認や返品商品の分析などを行うことで、物流品質の改善や新たなサービス立案につなげているようだ。
公式ECは売るだけのサイトではなく、正確なブランド情報を届ける場として運営。ECはコンバージョン率を重視する企業もある中、「メーカーの公式ECはブランド好きな人にとってのファーストデスティネーションであるべき」(牧嶋琢実Eコマース部シニアマネージャー)とし、購入目的ではない人が来ても楽しいサイト作りに切り替えてからトラフィックが格段に増えたという。
著名人を起用した大型キャンペーンなどを実施するとトラフィックが急激に増え、コンバージョン率は下がるが、キャンペーンなどで初めてECとの接点を持つユーザーも大事にする。一方で、購入目的のユーザーに対するコンバージョン率は決済サービスの充実などで補完していく考え。
昨年夏頃には多様化するユーザーに対応し、公式ECで電話注文をスタート。ネットリテラシーが高くなくても「ニューバランス」の商品に興味がある人には買い物が楽しめる環境を整備している。最近では、有人対応によるチャットサービスもロイヤルカスタマー向けに試運転中で、半年ほどテストを行った後、少しずつチャットを表示する対象顧客を増やしていく。現状、AIによる返信は行っておらず、FAQが貯まった段階で想定質問と自動回答を用意することは検討しているが、現時点ではすぐに回答できない質問がどれくらいあるかも含めて傾向を把握しているところだ。
買いやすさの面では、昨年秋口から事前にクレジットカード情報を登録しておくことで、ワンクリックで注文できる「1ステップde注文完了サービス」を開始。電車に乗って目的地に着くまでの間に決済まで完了できるスピード感を目指した。例えば、前に座っている人の靴を見て欲しいと思った時に電車内でカード情報を入力することなく買える。同サービスは購入後10分間程度のキャンセル可能時間を設け、衝動買いをしてしまったユーザーが再考できるようにしている。
また、公式ECではコンシェルジュ機能のひとつとして、ウェブ接客ツールを活用してトップページに「カテゴリーサーチはこちら」というポップアップを表示。ショッピングセンターや百貨店の入り口にあるフロアガイドのイメージで、買い物の目的に合わせて探している商品がどこにあるのかをガイドする。今後はさらに検索まわりを強化して利便性の向上に努める考え。
また、人気スニーカーのカスタマイズサービス「NB1」は、ロイヤルカスタマー向けのサービスとしてスタートしたが、最近では贈答品として利用してもらう仕掛けをしている。例えば、Aさんが定年退職するときに、同じ部署の人たちが1パーツずつAさんを思いながらデザインしていける”デザインリレー”のコンテンツを用意。1パーツをデザインして保存するとデザインIDが付与され、当該IDを次にデザインする人が入力してデザインしていく流れで、デザインリレーを続けていくとひとつの靴ができあがる。かかと部分にメッセージ刺繍を入れることもできる。
同社では、「贈る人をイメージしてデザインするような使い方であれば、もっと幅広い層がターゲットになる」(牧嶋シニアマネージャー)としている。
オムニチャネルを推進、店舗と自社ECの会員情報統合、ECに店舗在庫表示も
ニューバランスジャパンは、公式通販サイトが好調を維持している。今春からはオムニチャネル化に向けた取り組みにも着手しており、顧客の利便性を高めてブランドのファン獲得をさらに進める。
同社ではECチャネル好調の要因として、「メルカリ」などCtoCアプリで服や靴を購入する消費者が増え、オンラインでの買い物に抵抗を感じなくなったことがブランドの公式ECなどへの波及効果を生んでいると見ている。
加えて、数年前のスニーカーブームのときはスニーカーを履くこと自体が新しくておしゃれという風潮があったが、今は通勤時も含めて履いていて疲れにくいスニーカーの実用性が支持されており、トレンドとしてではなく、消費者の潜在的ニーズの高まりを受けてスニーカーが見直されているという。
「ニューバランス」の公式ECでもウォーキングシューズなどがよく売れているほか、高単価の米国製スニーカーも好調で、スニーカーが楽で履いている生活者と、スニーカーのコアなファンとが融合し始め、売り上げ拡大につながっているようだ。
一方、サイズや履き心地を試したいというニーズも確実にあるため、「まずは実店舗で確かめてもらい、自分に合うサイズが分かった段階でECを利用してもらえればいい」(牧嶋琢実Eコマース部シニアマネージャー)としている。
足もとでは顧客とのロングタームリレーションシップ構築に向けた取り組みを本格化している。同社は4月16日に実店舗と公式EC、アウトレット店(ファクトリーストア)で分かれていた会員情報を公式ECの会員ロイヤリティプログラム「myNBRewards(マイエヌビーリワード)」に統合した。
統合前はECで貯めたポイントが実店舗では使えず、その逆も同じで、どちらもブランドの公式な売り場にもかかわらず利便性が悪かったことから、顧客情報を統合することで満足度を高める。
今後はどのチャネルでの買い物も同じ会員ランク、ポイント付与率で利用できるようになり、リアルとネットの相互利用客数を把握して次の打ち手に反映させる。ECチャネルでは、これまで実店舗で「ニューバランス」の靴を買っているユーザーに対してはリテンションができていなかったが、今後はECのリテンションスキームに合わせたアプリのプッシュ通知やメルマガなどを通じて2足目、3足目の提案をしていく。
また、会員統合に合わせて公式EC上で実店舗の在庫状況を確認できるようにした。各商品の詳細ページで「取り扱い店舗」ボタンをクリックしサイズを選択すると、前日時点の選択店舗の在庫状況が表示され、公式ECで気になる商品をチェックしてから実店舗に行くユーザーの利便性を高めた。また、利用者の増加で公式ECは人気商品が完売したりサイズ欠けするケースが増えているが、その時に実店舗に在庫があれば直営店に顧客を誘導することが可能になる。
次のフェーズでは店舗受け取りやEC予約サービスなどを検討しているが、これらの実現には物流面や基幹システムも含めてハードルがあるため、全社を挙げてスキームを考えている段階で、近い将来には実現したい意向だ。また、リアル店舗のオペレーションも増えるため、人事評価制度も一緒に整備することになりそうだ。
同じく4月中旬からは会員情報ページに子どもの誕生日を入力する項目を追加し、子どもの誕生月にはキッズ商品の購入時に利用できる特別クーポンを付与する取り組みを始めた。最大5人分の誕生日を登録でき、子どもが12歳の誕生日までを対象とする。これまでユーザー本人にバースデークーポンを付与していたが、今後は本人と子どもだけでなく対象範囲を広げる可能性もあるようで、家族の歳時記やイベントの中にニューバランスの公式ECが思い浮かぶようにしたい考え。
今後はカスタマージャーニーの設計に力を注ぐ。実店舗のユーザーが「myNB」会員となったことで、ブランドとの接触の仕方や買い方などがECチャネルだけのときとは変わってくるため半年程度をかけて分析し、例えば、運動会シーズン前に子ども用のシューズを提案するなど、配信時期も含めて“気の利いたEC”を目指すという。
※画像、サイトURLなどをネットショップ担当者フォーラム編集部が追加している場合もあります。
※見出しはネットショップ担当者フォーラム編集部が編集している場合もあります。
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