ガリバーのサイト刷新で起きた「表示スピード遅延」の悲劇。解決に導いたSpelldata社の対策と「SmartJPEG」導入の効果
中古車の販売と買取で知られる「ガリバー」を展開するIDOMは、全国に約500店を構えるガリバー店舗への送客、新規顧客の集客媒体としての役割を担うWebサイト「221616.com」を運営している。2016年のサイトリニューアル後、複数の要因で「表示速度の遅延」や「サイト流入量の減少」というトラブルに見舞われた。
Webサイトの致命的な問題をどのように洗い出し、改善につなげたのか。表示速度の遅延発生理由から解決に至るまでの道筋を、サイト責任者を務めるIDOMの村田創氏(マーケティングチーム)に聞いた。写真:吉田浩章
サイトリニューアル後、表示速度の遅延トラブルが発生
非機能要件が固まらないままのプロジェクト進行が引き金
IDOMが運営する「221616.com」は、全国に約500店あるガリバー店舗への送客や、新規顧客の集客媒体として機能するWebサイト。店舗送客の約半分を占めるIDOM最大のWebサイトだ。
「221616.com」の責任者を務める村田創氏(マーケティングチーム)は、22年前に前身のガリバーインターナショナルに入社。企画部門などを経て、2015年に現在のポジションに就いた。
順調に運営が続いていた「221616.com」だったが、2016年のサイトリニューアル後、「ビックリするくらいサイトが遅くなった」(村田氏)トラブルに見舞われる。
以前はデータベースから直接コンテンツを引っ張ってきていたため、画像を含むコンテンツの表示スピードは速かった。2016年、サイトの利便性向上とさらなる発展をめざしRDB(リレーションデータベース、関係データベース)の構築、CMSを導入するリニューアルを実施。マーケティング部門が中心となりプロジェクトを率いた。
だが、社内のIT部門との連携不足などもあり、外部の開発企業との間で要件定義が難航。ローンチ日が決まっているなかスケジュールの変更は効かず、不安定なままプロジェクトが進行したことで、リニューアル後、「表示スピードが遅くなる」トラブルが発生した。
「クロールバジェットの悪化」とどう向き合ったか
「表示スピードが遅くなる」現象は、いくつかの致命的な問題につながった。その1つが、クロールバジェットの悪化だ。
クロールバジェットとは、ある一定の与えられた時間内にGooglebotがクロールしインデキシング(※編注:データ検索エンジンデータベースに登録されること。「インデックス化」とも呼ばれる)するページ数を指す。
Googleは、登録されているWebサイトを巡回してチェックするGooglebotという「クローラー」を使っている。このクローラーが、登録サイトの内容をチェック。検索エンジン側で内部アルゴリズムと照らし合わせて、サイトの順位付けを行う。
「221616.com」では、表示速度が遅くなったことで、ページが表示しきらないままクロールが上限に達するという問題が発生。上限に達すると、ボット側が「新たにクロールする必要がない」と判断し、さらに検索結果に悪影響が出る状況に陥った。
2018年9月7日に開催された「Google Webmaster Central office-hours hangout」で、GoogleのJohn Muller(ジョン・ミュラー)氏は、「HTMLは100~500msで送信されるべきで、1秒を超えるとクローラーがタイムアウトする」と説明している。しかも、そのクローリングのほとんどは米国のシカゴから行われているので、日本国内ではなく、米国で1秒以内にHTMLが配信されなければならない。
日米間の物理的な距離のために、日本国内でHTMLが200~300msで配送できなければ、米国のシカゴでは1秒を超えてしまうのだ。
遅延とクロールバジェットの削減が繰り返されることで、「221616.com」のコンテンツが上位表示されず、既存顧客が検索しても再訪問できない、新規顧客の流入が減るなどの問題につながった。「負のスパイラルに陥っていた」と村田氏は当時を振り返る。
クルマの買い替え検討タイミングは、7-8年に1回しかない
クルマは商材の特性上、買い替えまでに7-8年を要する。数年に1回ある車検の前が主な買い替え検討タイミングになるが、7-8年間で検討期間は計3か月程度にしかならない。さらに7-8年も経つとライフステージの変化などもあり、必要とされるクルマにも違いが出るなど、同じ顧客でも都度、求める商品が変わってくる。
こうしたさまざまなシチュエーションやニーズの変化に対応しながら、クルマの買い替え時に既存顧客が「思い出す場所」としてガリバーを挙げるか、またクルマの購入を検討する新規顧客の“3か月間の検討期間”におけるクルマ選びのメインサイトになれるか――。
新規顧客と既存顧客、双方のサイト訪問を促す必要があるなかで、サイトの表示遅延という壁が大きな問題として立ちはだかった。
Spelldata竹洞氏との出会いで課題解決に向け前進
サイトの表示遅延に手を打つための対策を探していた頃、村田氏が出会ったのが、Webサイトパフォーマンスチューニングサービスを提供するSpelldata の竹洞陽一郎代表だった。竹洞氏はWebサイトのパフォーマンス分析の専門家で、年間100以上のWebサイトの計測データの分析に携わっている。ソフトウェア工学の一分野であるパフォーマンスエンジニアリングに定評があるという。
竹洞氏に絶対的な信頼を置く村田氏はこう言う。
Webパフォーマンスを改善するには、海外のツール含め外部サービスを使うことが多い。竹洞氏のように専門家と名乗る人は多くいるが、自身の言葉で「なぜこのツールを使うべきなのか」「なぜ今これをするべきなのか」と統計的品質管理のやり方やパフォーマンスチューニングの理論に基づいて語れる人は少ない。その点竹洞氏はご自身なりの解釈があり、一本筋が通っている。 (村田氏)
村田氏は、高度で具体的な専門知識を持つ竹洞氏なら、当時IDOMが抱えていた課題を解決できるはずだと考えた。だが、竹洞氏の知見はITのプロフェッショナル集団である社内のIT部門も凌駕し、「我々が知る世界から思いっきり逸脱していた」(村田氏)。
そのため、最初はなぜ外部のSpelldataに依頼をするべきか、社内の理解を得るのに苦労したという。
竹洞氏に依頼後、すぐにWebパフォーマンスが改善されたわけではないが、さまざまな施策を施したことで徐々に解決に近づいていった。
村田氏は竹洞氏との出会いにより、「計測し続けることの重要性」を学んだという。
複数の担当者がそれぞれ任意のタイミングで計測し、「速い」「遅い」と結論を出すのではなく、一定の基準を設けて計測し続ける。「血圧や体重のようなもの」と村田氏は表現する。
そうして正しくサイトの表示スピードの計測を続けながら、最適解を探っていく。
最近社内で、「作用、反作用」という言葉を使って説明することがある。良かれと思って行ったことが、実は反対側のところで悪影響になっていることもあるという意味だ。自身では「最適」と思ったことでも、実はそれは「部分最適」に過ぎず、「全体最適」になっていないこともある。サイトは常に手入れをしながら、全体最適をめざして改善していくものだと教えてもらった。(村田氏)
SmartJPEG導入から1年で画像容量が98%減
そんな竹洞氏がIDOMの支援開始後、サイトのパフォーマンス改善に役立つと村田氏に提案したのが、ソフトウェア開発を行うウェブテクノロジの画像軽量化ソフトウェア「SmartJPEG」だ。
村田氏が表示スピードの遅延問題に直面していた頃、携帯網は上限30Mbps程度の4G。「画像も含めて、素早くコンテンツを読み込む改善が必要」(村田氏)と考え、自身でも画像軽量化ソフトを探していたという。だが、「他社はすごく金額が高く、コンテンツの作り方をゼロから見直さなければ、導入しても割に合わなかった」(村田氏)。
「221616.com」では、全国約500店舗の店長が、自身のスマートフォンなどで撮影した「重い画像」を使用する。さらに中古車という特性上、傷やボンネットの中まで含め、1車体あたりの掲載枚数は30枚近くにもなる。
コンテンツ制作フローを変えないまま、面倒な編集作業をしなくても大量の画像をアップするには? 見た目のクオリティを変えず、サイトの表示スピード遅延を避けるには? あらゆる面から考え、「SmartJPEG」の導入しかなかったという。
もちろん競合他社とも比較したが、圧縮技術をはじめ、価格面・導入時の負担が圧倒的に少なかったのが決め手となった。
Spelldataの試算では、「SmartJPEG」の導入により、「221616.com」に掲載している画像容量は60%程度減るのではと考えていた。だが、蓋を開けてみると、「1年後、98%減になっていた」(村田氏)。
サイト流入量が2倍に拡大
店舗送客量も順調に推移
画像容量が減れば、画質を落とさずに表示スピードが改善される。最近は格安SIMの普及などにより、「月末になるとスマホのデータ通信量が減って……」という悩みを抱える消費者も少なくない。
ジャストシステムが2020年1月に発表した調査結果によると、ECサイトやECアプリの応答速度の遅さが原因で離脱した経験がある人に、「離脱したときの平均的な時間」を聞いたところ(スマートフォンからのEC利用時)、「1秒未満」と回答した人は2.9%。「1~2秒未満」は6.1%、「2~3秒未満」は9.0%、「3~5秒未満」は18.4%だった。ECサイトやECアプリが反応しなくなってから5秒未満でも、36.4%が離脱している。
こうした状況下、昨今の消費者ニーズを踏まえると、月末の「ギガが足りない」状態でWebページに画像を大量に掲載していると、速度制限に引っかかってなかなか表示されない「イライラするサイト」になり、来訪者の離脱につながってしまう。
「SmartJPEG」の導入により画像容量を減らせたことで、「221616.com」の来訪者はストレスなく商品の検索や、サイト内の回遊ができるようになった。またページの表示速度が速くなったことで、クロールバジェットが改善。インデックス(※編注:検索エンジンがページをデータベースへ登録すること)量が増えたことで、検索結果が改善され、課題となっていた既存顧客の再訪問率が元通りになった。
再訪問率が改善されれば、IDOMとしてはリソースを「新規顧客開拓」に振り分けることができ、その分売上向上も見込める。
実際、リニューアル直後と比較すると、「流入量は2倍になった」(村田氏)という。サイトから店舗への送客数についても数値は非公開だが、「間違いなく増えている」と村田氏は自信を見せる。
ページの表示速度改善は直帰率にも影響を与え、従来70%程度あった直帰率が、「ここ2年で50%程度にまで下がった」(村田氏)。
データ転送料が半分に
コスト削減=次の投資に回せる
「SmartJPEG」の導入は、データ転送料にも劇的な効果を見せた。
データ転送量、転送コストが従来の半分程度になった。「SmartJPEG」の利用料をまかなって、さらにおつりが来るほど通信回線やCDNの配信費用の削減になっている。(村田氏)
データ転送コストの改善は、「想定外の嬉しい結果」と村田氏は笑顔を覗かせる。
固定費が下がればその分、次の投資に回せる。当社は現在、店舗への送客装置としてサイトを運営しているが、今後はオンラインだけでクルマの購入を完結できるようにもしていきたい。5Gの世界が来たら、静止画に限らずいろいろなソリューションを導入できるかもしれない。現在予算をあげて、次の一手を検討しているところだ。(村田氏)
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今後5Gが普及していけば、商品をつぶさに拡大表示して確認するための2Kや4Kの高解像度の画像の需要が高まる。携帯各社はすでに5G回線契約の容量無制限を打ち出しており、通信容量を気にせずに通信できる時代は遠からずやってくる。
その際、商品の魅力を伝えるため高解像度の画像を使いたいが、通信容量の増大に伴う通信回線費用が大きな負担になる事業者にとっては、IDOMのように、高解像度のまま通信費用を抑えられれば、さまざまなメリットを得られそうだ。