高城 雄大 2/9 8:00

今回のテーマは「業務の効率化」。ラクスルは業務効率化に向けたプロダクト開発に注力してきました。業務の効率化を望むユーザーのニーズを把握し、とにかく現場へ足を運び、理想の状態を追求してきました。その結果、入稿データをシステム上で自動チェックする機能を開発し、データチェックにおける待ち時間を大幅に短縮することに成功しました。

ラクスルが課題をどのように乗り越え、業務効率化の実現に向けて取り組んできたのかについて解説します。

事業拡大に伴うマンパワー不足。リピート率の低下が大きな課題に

ラクスルではDTPデータ(お客さまから受け取ったチラシなどのデザインデータ)を印刷可能なデータに修正・変換する作業をマンパワーで行っていました。しかし、当時は2つの課題感を持っていました。

1つは事業の拡大と共にDTPに携わる人員が不足していること。そして2つ目はデータ変換の平均待ち時間が15時間を超えて、納期遅延等の要因になっていたことです。特に後者はリピート率の低下を起こす原因になるため、経営的なインパクトも大きいものでした。

急速な事業成長に労働集約型で対応していましたが、オペレーションの改善がおよばず、とにかく必死で業務を回す状況が続いていました。業務改善に向け、スプレッドシートやオペレーションフローの見直しなどを行ったものの、小手先で変えられることでは抜本的な解決にいたりませんでした。

専門領域の異なる人員でプロジェクトチームを組成

転機になったのは、購入時間の長さが納期の遅れにつながり、リピート率の低下につながっているという事実に気付いたことでした。サービスの離反原因が経営層にも伝わり、オペレーションの抜本的な改善を図ることを意思決定したのです。

既存の業務の延長線上にはない新たな解決策を見出すためには、デザインやエンジニアリングの力も必要になるため、エンジニア、デザイナー、オペレーションなど各専門領域から人員をアサインしてプロジェクトチームを組成しました。

加えて、解決策の決定から実行までの旗振り役となるプロジェクトリーダーも専任で1名配置し、具体的に課題解決に向けてアクションを始めました。

具体的に課題解決のアプローチを考える上で留意したいのが、「業務効率化」と「顧客価値向上」を分離して考えないことです。

日々の業務に追われてしまうために、目の前の業務の延長線上にある微々たる改善しか行えないことはよくあります。また、業務の効率化だけが目的になってしまうと、単純な人員削減や顧客にとって価値がある業務の整理をしてしまいがちです。一歩間違えれば顧客体験の低下、ひいては事業価値の棄損を招いてしまう恐れもあります。

つまり、企業価値向上という本質的な目的を見失わず、顧客への提供価値向上とコスト削減がトレードオフにならないように改善していくことが大事になってきます。

業務や顧客、市場を徹底的に分析して解像度を高める

プロジェクトチームを立ち上げた後、注力したのは下記の3つの側面から、徹底した分析や調査を行うことでした。

  1. 自社の提供するサービスの業務理解
  2. 顧客が抱える課題を抽出するための顧客理解
  3. 競合が提供しているサービスや顧客理解を通じた市場理解

1.業務理解

業務務理解については実際に現場の業務を体験し、担当者がラクスルをどのように使っているかなどを確認していきました。デモンストレーションはチーム全員で体験し、業務内容の定義や所要時間、必要な専門性を整理しました。

注文を受ける前から印刷物の生産に入るまでの工程を細かく分解し、それぞれの工程に潜む課題は何なのか、納期の遅れはどこまでなら許容できるのかといった分析を行い、課題解決の方向性を定めていきました。

2.顧客理解

顧客理解については納期遅延を経験した顧客を含む、数十人の顧客インタビューを実施し、課題の特定を行いました。インタビューから課題を抽出し、解決につながる仮説を立て、UI/UXや改善案に対する意見をいただきながら、何度も検証を繰り返しました。

ある程度の方向性が固まった段階で、新しいサービスプロセスを顧客にデモンストレーションするための「ペーパープロトタイプ」を作成しました。

いきなりシステム開発に入るのではなく、PowerPointや手書きのイラストベースのイメージ画像を使うペーパープロトタイプであれば、フィードバックをすぐに反映でき、改善のPDCAをスピーディーに回すことができます

3.市場理解

市場理解については海外のDTPにおける最先端の知見を取り入れるべく、 欧米やアジア各国で同じ業務に携わる企業についてのリサーチを実施しました。

その中で最も発展しているドイツに渡り、最先端のオペレーション・テクノロジーを学習しました。そこで得た知見を国内に持ち帰ってサービスへ実装すると共に、現地企業と顧問契約を締結して継続的にレビューや助言を受け続けられる体制を構築しました。

ついにスピードチェック入稿が実現

こうしてさまざまな検証や分析、創意工夫を経て出来たものが、DTP業界では革命的な「スピードデータチェック」の仕組みでした。お客さま自身がサイト上でデータを修正・変換できるようになり、データ入稿の自動化やセルフサービス化を実現できました。

入稿からデータ確定までの所要時間 左:オペレーターチェック入稿(半日から1日程度) 右:スピードチェック入稿(数分から10分程度) 待ち時間が短いから早い
従来の入稿とスピードチェック入稿の違い

これによって、業務オペレーションは注文数のうち80%が自動化されただけでなく、顧客の購買体験も大幅に改善し、リピート率も向上しました。

従来は印刷物が到着するまで仕上がりイメージを確認できませんでしたが、サイト上で仕上がりイメージを立体的に確認できるようになったことで、ネット上で発注することの不安やトラブルの解消にもつながったのです。

これがもし、単純な業務効率の改善という課題設定だったら、オペレーション現場の業務の自動化にとどまり、DTPにおけるコスト構造の変化も起こせなかったと思います。DTP業務の結果によってもたらされている顧客側の課題も解決しようと、自社だけでなくバリューチェーン全体に向き合って取り組んだ結果、「自動化+顧客のセルフサービス化」というアウトプットに至ったのです。

事業や顧客価値向上に寄与する課題を優先して解決

一方で、サービス体験向上における別のアプローチとして、お客さまからいただくサービスや注文に関する問い合わせの削減にも着手してきました。

当時は3件の注文に対して1回以上の問い合わせが発生しており、問い合わせ率が40%近い水準にありました。

問い合わせ数の多さは対応の遅延や品質低下の原因となり、結果としてリピート率の低下につながります。問い合わせ対応を削減するため、チャットや電話といった問い合わせの動線ごとにお客さま自身で解決できるような最適なコンテンツを用意しました。

ラクスルのチャットの例
ラクスルの問い合わせ対応の例

また、カスタマーサクセスの成功事例を取り入れながらアプローチを実施したところ、顧客体験の向上に寄与したほか、直近の問い合わせ率が15%を下回る水準までに改善しました。

事業成長を実現するには常に課題と向き合わなければなりません。課題は探せばいくらでも見つかるため、事業価値や顧客価値をいかに高められるかに焦点を当て、優先順位を意識しながら解決策を模索していくことが大切です。

多くの企業でDXによる業務効率化などに取り組んでいると思いますが、最も重要なのは「そうした取り組みの結果、事業価値が上がるのか」という点です。

経営陣はチームの最大のサポート役になるべき

プロジェクトを成功させるには、まず専任のプロジェクトオーナーを立て、裁量を与えることをおすすめします。不確実性が高く具体的なイメージを持ちにくい中長期的な取り組みは心理的負荷が高く、確実性が高くやることが明確な短期の取り組みが優先されることを何度も見てきました。

だからこそ、非連続で中長期的に取り組むべきミッションについては、プロジェクトオーナーを立て、日々の連続的な業務から切り離し、チームを牽引する旗振り役として目標にコミットしてもらうことが極めて重要です。

また、デザイナーやエンジニア、オペレーションなどの複合的なチーム組成も鍵になります。異能多能の人材が集まり、さまざまな視点で既存のプロセスを見ることで、現場や顧客の課題に対する新しいアプローチの発見やイノベーションとも呼べる変革が起こる可能性が高まります。チームで現場の理解を高めつつ、事業をバリューチェーン全体で俯瞰し、あるべき姿を描き続けることが大切です。

そしてプロジェクトの実行フェーズでは、現場からさまざまな軋轢や抵抗が生じます。大きな変化を起こすには必ず困難な状況が訪れます。その際、経営陣はプロジェクトの意義をぶらさず、改善に取り組むチームにスポットライトを当て続け、苦難を乗り越える最大のサポート役に徹することが求められます。

◇◇◇

皆さんがいま取り組もうとしているプロジェクトは上記に挙げるほどの「やりきり」がなされているでしょうか? 今回は業務効率化という切り口でしたが、それに留まらず、本稿が非連続な変化を起こす挑戦を行う際の参考になれば幸いです。

次回はラクスルが取り組む集客支援やモバイルの拡張、デザイン領域への推進について掘り下げていきます。

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