米国の最新調査と小売企業13社の事例に学ぶオンラインギフト戦略と施策
2022年の年末商戦(編注:米国ではクリスマスから年末年始にかけての期間)に向けて、小売りのトップ企業がギフトのネット販売に工夫を凝らしています。
オンラインギフトの目新しさは何でしょうか? 実際のところ、本当の意味で「新しい」モノを提供している企業はほとんどないと言えるでしょう。
米国の大手EC専門誌『Digital Commerce 360』のトップ100社に選ばれた小売事業者を調査。Webサイト上で確認(2022年11月時点)できた、オンラインギフト体験の取り組みにフォーカスしました。
ホリデーシーズンに向けて戦術の変更は難しいかもしれませんが、ギフトは年間を通じてのビジネスであることを忘れてはいけません。
ギフトカード体験の進化
ギフトカードはどのホリデーシーズンにも欠かせないモノなので、ギフトカードから見てみましょう。調査会社のAllied Market Researchによると、2019年の世界のギフトカード市場規模は6192億5000万ドル。2027年には2兆7600億ドルに達し、2020年から2027年までのCAGR(年平均成長率)は16.2%と予測しています。
ほとんどの小売事業者は、物理的・デジタルでオプションを提供。購入者はギフトカードのデザインをカスタマイズでき、写真やビデオを追加することもできます。そのため、購入者とカードを受け取るユーザーの両方の体験を向上させることが可能です。
『Digital Commerce 360』と調査会社のBizrate Insightsがオンライン通販利用者1088人を対象に行ったホリデーシーズン前のアンケートで、ホリデーシーズンに期待するショッピング体験に関する調査を実施、回答者の29%がギフトカードの購入を予定。15%がデジタルギフトカードの購入を予定しています。
ギフトカード購入者に対し、さらにギフトカードをプレゼント
米国の美容チェーンUlta BeautyのECサイトでは、ギフトカードのポータルサイトを展開しています。これは、優れたリテンションツールとなります。ビューティーといったカテゴリーでは、毎年同じカードを使いたいユーザーがたくさんいるためです。
サイトにログインすると、残高の確認、ギフトを見たりすることが可能です。過去にギフトカードを贈った相手に再び贈ることも簡単。配送状況も確認できます。
小売業がレストラン業界を手本にした傾向も増えています。シカゴを中心に120店舗以上のレストランを展開するLettuce Entertainment Youは、ホリデーギフトカードの購入者に対し、100ドル購入ごとに25ドルのギフトカードを提供。ホリデーシーズンの需要を獲得しています。
この仕組みを、小売業に活用し始めた企業もあります。
書店チェーンのBarnes and Nobleが100ドルのギフトカード購入者に10ドルのギフトカードをプレゼントを実施。ファッションアクセサリーのDSWは、100ドル分のギフトカードに、25ドルのボーナスカードを提供しています。
スポーツライセンスのアパレル商品・グッズの製造や販売を手がけるFanaticsも好事例の1つで、消費者の行動をよく理解しています。ギフトカードを25ドル購入するごとに、5ドルのドミノ・ボーナスカードを消費者に提供しています。ただし、上限は10ドルです。
ギフトカードの最後の事例は、アウトドア用品大手のBass Proです。1つの戦略として、感謝祭(アメリカでは毎年11月の第4木曜日)前に購入した10%引きのホリデーギフトカードはクリスマスまで使用できないようにしています。ホリデーシーズンまで割引適用のカード利用を延長することで、ホリデーシーズン時の買い物増を狙っています。
歓迎される顧客サービスの向上
現在の経済情勢に対応するため、小売事業者はどのような対策をとっているのでしょうか?
『Digital Commerce 360』が小売事業者70社に行った調査では、回答者の54%がカスタマーサービスを強化したいと答えています。コスト管理に次いで第2位でした。
小売事業者は既成概念にとらわれず、イノベーションを実行していくことが重要です。その1つが、タペストリーのファッションブランド「Kate Spade」のカスタマーサービスです。
カスタマーケアからオンラインでの購入、店舗での受け取り(BOPIS)、プライベートショッピングの予約、電子ギフトカード、従来のギフトカード、パーソナライズされたギフト、GiftNow(デジタルギフト)まで、さざまざなサービスを取り入れています。
どのような戦術がホリデーシーズンのビジネスを向上させるかという重要な取り組みにもフォーカスしました。上位の回答を見てみましょう。小売事業者がギフトに関して行っている、いくつかの取り組みがわかります。
進化するウィッシュリスト
ウィッシュリストを使用すると答えた小売事業者はわずか11%にとどまりました。これは、ウィッシュリストの戦略が長い間変わっていないためかもしれません。ただ、Lululemonの取り組みは注目に値します。なぜなら、ECサイトのかなりの部分をこの戦略に費やしているからです。
ウィッシュリストの作成と共有は標準的な機能です。注目したいのは、モバイルアプリでマルチリストなどのウィッシュリスト専用機能をチェックするよう消費者に勧める機能。Lululemonユーザーにとっては、興味深く、理想的な機能になっているのです。
バーチャルアポイントのその先へ
バーチャルアポイントは、ホリデービジネスの改善に関しては小売事業者の13%しか重要度が高いと感じていませんが、実際のところ、小売事業者はこのサービスから恩恵を受けています。
ジュエリー&アクセサリーのChico'sは、バーチャルアポイントからヒントを得て、さらに一歩進んだ取り組みを行っています。消費者は都合の良い時に、都合の良い場所で、バーチャルアポイントを予約ことができるようにしているのです。これは顧客体験の向上に大きく貢献しています。
Amazonのインフルエンサーによるギフト選び
若い顧客層ではインフルエンサーが大きな役割を担ってきています。
Amazonでは、インフルエンサーの選んだギフトをカテゴリー別に表示し、社会的関心の高いユーザーたちを取り込んでいます。
プロモーションのポップアップ
オンライン通販利用者の5人に1人は、カートに入れた商品の割引が記載されたEメール/テキストを受け取ることで購買意欲が高まったと答えています。より目に留まるポップアップが継続的に表示されれば、パフォーマンスが高くなると考えるのが妥当でしょう。
ギフトサービスのKendra Scottも他の小売事業者同様、Eメールやテキストの代わりにポップアッププロモーションを利用しています。
会員のみが購入できる限定商品
小売事業者のロイヤルティプログラムによる特典やポイント、リワードが、年末年始の購入の動機になると27%のユーザーが回答しています。
アウトドア用品などのREIは、会員に特別な気分を味わってもらうためのサービスを提供しています。セール企画「REI's Gear Up and Get Out Sale」では、どの商品が最大50%オフの会員割引の対象となるかを確認することが可能です。
究極の顧客利便性
最後の例は、オンラインで見ていたものが実際の店舗に移行することです。今回初めて、モバイルアプリを利用したセルフレジを導入するアパレル企業が現れました。
ファッションブランドのAmerican Eagle Outfittersは、アプリのセルフチェックアウトでレジの行列をスキップできる仕組みを構築しました。限られたスタッフでのオペレーション、消費者の利便性向上を実現する取り組みです。
ギフトで新しいトレンドを巻き起こすのは簡単ではありません。しかし、小売業にはギフトカードや現場での戦術を通じて、イノベーションを起こすチャンスが残されていると言えます。そこでは、クリエイティブな発想が不可欠です。理想的なのは、消費者が様々なプロモーションに引き付けられ、ホリデーシーズン以外でも、年間を通じてギフトカードを購入する気になることでしょう。