消費者がECで買う理由とは? 注目すべき“10の事実”
消費者は、「最安値で購入したい」「すぐに届けてほしい」「洗練されたショッピング体験をしたい」と考えています。しかし彼らがECサイトでの購入に踏み切るのは、そのような明確な理由だけではありません。それ以外にもあまり知られていない理由もあると、『Digital Commerce 360』の消費者インサイト・アナリスト、ローレン・フリードマン氏は言います。注目したい10の事実についてご紹介します。
1,047人への調査からわかった「消費者がECを選ぶ理由」
オンラインでもオフラインでも、コンバージョンの成功事例は似たような内容になります。消費者は、価格、配送スピード、洗練されたショッピング体験に期待しています。『Digital Commerce 360』が2021年に調査会社の「Bizrate Insights」と共同で実施した調査では、対象者となった1,047人のEC利用者から予想通りの結果が得られました。
今回の記事では、すでにわかっていた結果すべてを取り上げるのではなく、小売事業者にとって興味深い、隠れたインサイトとその理由を紹介します。調査で得られた結果のなかには、環境問題への関心のように高まりを見せるものもあれば、カーブサイドピックアップ(車中受け取り)のように、今後も続くであろう行動の変化をもたらすものもあります。
質問1:オンラインで買い物をする際に、どのような条件がそろうと注文をする可能性が高いですか?
【回答1】自分にとって重要な課題(環境、政治など)を支援している場合:13%
気候変動が政治的な問題となり、これが喫緊の課題であると認識されているため、消費者は購入を検討する企業の行動にますます注意を払うようになっています。そして、伝統的な企業とデジタルネイティブなブランド両方が、この問題に取り組んでいます。ウェビナーやネットを見ると、環境問題に関するメッセージの発信がこれまで以上に積極的になっていると感じます。
靴のD2Cブランド「Allbirds」はその一例で、2021年12月に発売予定の新しい植物性レザーを事前発表、消費者は事前登録することで、詳細を通知してもらうことができます。環境への配慮は、これまで以上に重要になっているのです。
【回答2】分割払いで注文できる場合:13%
2020年は誰にとっても厳しい1年であり、購入した商品の代金を一度に支払える消費者ばかりではありませんでした。購入資金を調達しなければならない消費者も増えました。クラウドコンピューティングサービスを提供する「Salesforce」によると、オンライン注文での「今すぐ購入、後払い」の利用は、ホリデーシーズンに109%増加したそうです。
ファッションブランド「Urban Outfitters」のECサイトでは、消費者に後払いサービスの「Afterpay」が紹介されるとともに、利用方法が明確に説明されています。『Digital Commerce 360』発行「北米EC事業 トップ1000社データベース」によると、40.7%の小売事業者が「Affirm」や「Klarna」などの、後払いサービスを採用しています。
【回答3】商品のデモンストレーションを含む動画がある場合:13%
(調査結果では)コンバージョンに対する動画の影響度合いは限定的でしたが、動画はニッチな性質だからこそ、実はとても価値が高いと言えます。動画への投資はカテゴリーごとに行うべきで、商品やカテゴリーに関する情報提供やイメージ訴求を動画で行います。
動画は消費者の商品選定に役立つと同時に、購入後に活用できるツールにもなり得ます。住宅リフォーム・建設資材の小売りチェーン「The Home Depot」のDIY動画の事例は、消費者にいかに素晴らしい体験を提供できるか、そしてそれがいかにブランドの差別化につながるかを表す素晴らしい例です。
【回答4】他では手に入らない限定商品の場合:17%
限定商品はマージンがより高い傾向にあるため、小売事業者にとってメリットがあります。調査対象の消費者の17%が、限定商品を注文しています。また、『Digital Commerce 360』の「2021年のパフォーマンスとコンバージョン」の調査では、33%の小売事業者が「コンバージョンを最適化するために限定商品が非常に重要である」と回答しており、独自の商品を持つことは常に良い取り組みであると言えるでしょう。
コモディティ商品を避けることで、消費者が価格で比較することがなくなり、結果的にコンバージョン率を高めることができるため、限定商品を用いたウィン・ウィンの関係と差別化は、常に考えておくべきです。高級デパートの「Neiman Marcus」は、限定商品である旨を商品ページに表示し、消費者にわかりやすく知らせています。
【回答5】カスタマーサービスに簡単にアクセスできる場合:26%
消費者は、自分の質問に答えてくれる小売事業者を高く評価します。高級百貨店の「Nordstrom」はそんな消費者の願いを叶える機能を提供しています。商品のトラッキングから返品、残高の支払いまで、消費者のニーズに合わせたサービスを展開しています。
また、「Nordstrom」はフリーダイヤルやライブチャットでの問い合わせ機能を提供しており、カスタマーサービスの対応が残念な企業が多い中、同社は顧客中心のサービスを展開しています。
質問2:サイト内での体験以外で、オンライン注文につながる可能性が高いのは次のうちどれですか?
【回答1】バーチャルアポイントメントを含むカスタマーサービス担当者と対話ができる場合:7%
現在、これを購入理由に挙げる消費者の数は少ないですが、実はこれが小売事業者にとって変革をもたらすツールになると確信しています。
過去数か月間、10以上の小売店でバーチャルアポイントメントを試しましたが、そのほとんどがポジティブな経験でした。サービスレベルが高く、実店舗での忙しなく知識のない店員とのやりとりでは得られなかったブランドとのつながりを築くことができました。私のニーズに焦点を当てた情報が提供され、実験目的でなければ、私は確実に商品を購入していたでしょう。
中には、連絡先を登録しておくことを勧めてくれたスタッフもいて、一歩進んだ対応をしてくれました。アウトドア用品店「REI」のバーチャル・アウトフィッティングでは、消費者がオンラインで予約すると、知識豊富な販売員がショッピングのシナリオを専門的に案内してくれます。「REI」のサービスは、最高のカスタマーエクスペリエンスの1つでした。
【回答2】興味のある商品がソーシャルメディア広告に掲載されている場合:9%
成長しているソーシャルメディア広告は、特にInstagramのようなサービスを頻繁に利用する若いオーディエンスにとっては最適です。オンライン購入につながる可能性の高い広告に関して聞いたところ、14%が「Instagram」と回答しました。
最近私は、Instagramでオンデマンドフィットネスサービスの「Mirror」のスポンサー広告を見つけましたが、以前にヨガウェアブランド「lululemon」(※編注:Mirrorは2020年lululemonに買収され傘下に入った)のサイトで同じ商品を見たことがあったので、特に気になりました。
『Digital Commerce 360』が105社の小売事業者を対象に行った「2020年デジタルマーケティング調査」によると、76%の小売事業者が5段階評価で最も効果があったのは「Eメール」で、次いで61%が「ソーシャルメディア」と回答しました。つまりソーシャルメディアで、コンバージョンの向上も期待できるということです。
【回答3】カートに残っている商品をお知らせするメールがある場合:16%
調査対象者の97%が「かご落ちしたことがある」と回答しています。小売事業者は長い間、このような消費者にアプローチして、購買に結び付けようとしてきました。すぐに購買に結びつかないことも多いですが、消費者の28%が「ショッピング中に気が散って購入を完了できなかった」と答え、44%が「後で購入するために、カートに商品を残しておきたい」と考えていることからも、かご落ちした消費者へのアプローチは役立つと思います。
週末私は、化粧品や香水などを取り扱う専門店「Sephora」で複数の商品を「予約」注文しました。翌日、店舗で商品をピックアップする予定だったのですが、「かごに商品が入っています。注文しますか?」というメールが届きました(なぜ私の予約注文が反映されていないのか不明ですが)。Sephoraのメールで私が注目したのは、Sephoraのロイヤルティプログラム「Beauty Insider」のポイントが注文に使えることでした。
これまでは、ポイントを商品と交換することはできても、ギフトカードのように利用することはできませんでした。商品を店舗に受け取りに行ったとき、新人の店員の場合、ポイント交換をするのに時間がかかっていため、ギフトカードのように使える割引とリマインドのメールは助かりました。Sephoraにとっても、オーダーが増える良い施策です。
【回答4】ライブチャットでのやりとりがある場合:16%
ライブチャットは、消費者がオンラインで購入する理由の上位には入っていないかもしれませんが、リアルタイムの情報にアクセスできることは非常に重要です。急いでいるとき、最終的な決断をするために、小売事業者に連絡を取るのにこれ以上の方法はありませんし、プロモーションコードがいつ、どのように使えるのかも理解することもできます。
ファッションブランド「Aldo」 の例は、ライブチャットを積極的に提案し、消費者にライブチャットが「最も早く連絡が取れる方法」であることを知らせている点が新鮮です。また、カスタマーサービスの真摯な姿勢を示すと同時に、消費者にも節度を守った態度を依頼している率直な案内は、称賛に値すると思います。
【回答5】注文した商品を店頭で受け取ることができる場合:19%
「オムニチャネルのオプションが購入につながった」と答えたのは5人に1人でしたが、コロナ禍ではこのオプションの存在が特に重要で、消費者に新しいショッピング方法を提供したのは事実です。ペット用品店の「Petco」が良い例です。
私は、ペット用の塩を買うときは通常ホームセンターチェーンの「Menards」を利用しますが、「Petco」でカーブサイドピックアップを利用すると、25%オフという大きな割引があったので、これを利用してある時、「Petco」での購入を試してみました。今後、さらに多くの小売事業者がカーブサイドピックサービスを提供し、私のように時間に追われる消費者にとって、定番サービスになることを期待したいと思います。
『Digital Commerce 360』発行「北米EC事業 トップ1000社データベース」によると、実店舗を持つ398の小売事業者のうち、40.7%がカーブサイドピックアップを提供しています。
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もちろん、消費者を納得させて購入してもらうには、価格や配送などの基本的な要素は常に大切です。同時に、カスタマーサービスや充実したコンテンツも購買に結びつくため、小売事業者の方々には常に注目していただきたいと思います。
さらに、これらの取り組みをモニタリングすることで、環境に配慮した商品の購買、バーチャルアポイントメントへの要望、郊外でのピックアップの利便性など、消費者の行動の変化が見られるかもしれません。今現在のコンバージョンにはインパクトが少ない要素でも、将来的に重要な収益の原動力になる可能性があります。