竹内 謙礼[執筆] 2022/12/21 8:00

ネットショップ運営は情報やノウハウに目が行きがちだが、実は労働集約型のビジネスモデル。そのため、経営者、管理職、スタッフの時間の使い方が売り上げを大きく左右するところがあるのだ。また、原材料費と人件費が高騰するなか、コスト削減、売価調整などあの手この手で利益確保に動く事業者さんは少なくないだろう。そこで、皆さんに提案したいのが“時間管理”だ。仕事の時間を最短化し成果を最大に引き上げる時間管理術は、最もシンプルなネットショップの売上アップ、利益拡大の施策と言えるだろう。読了した北の達人コーポレーション・木下勝寿社長が執筆した新著『時間最短化、成果最大化の法則』(ダイヤモンド社)から、そのヒントをお伝えしたい。

「北の達人コーポレーション」の木下勝寿社長が執筆した書籍『時間最短化、成果最大化の法則』(ダイヤモンド社)
「北の達人コーポレーション」の木下勝寿社長が執筆した書籍『時間最短化、成果最大化の法則』(ダイヤモンド社)

北の達人・木下社長から学ぶ「経営者向き」「中間管理職向き」「スタッフ向き」のの時間管理術

ネットショップ運営の時間管理術は、一般のビジネスと比べて大きく事情が異なる。営業や販売の仕事は限られた空間のなかで業務が行われるため、時間のコントロールが比較的やりやすいところがある。たとえば、1日に3件の営業先を回ったり、午後1時から5時まで店頭で接客をしたり、やらなくてはいけない仕事が空間によって制限されるため、時間の管理が苦手な人でもスムーズに業務をこなすことができる。

一方、ネットショップの運営は無限に広がる仮想空間のなかでの仕事になるため、油断すると時間の歯止めが利かなくなってしまう。より良い商品ページを作ろうとしたり、エンゲージメント率の高いSNSを運用しようとしたりすると、どこで仕事の区切りをつければいいのかわからなくなり、長時間労働を強いられる

そんなネットショップ運営での時間管理の課題を解決に役立つのではないかと、読了したのが木下氏執筆の『時間最短化、成果最大化の法則』(ダイヤモンド社)だ。

木下社長は時間管理術を45の法則にまとめている
気づきが多く付箋だらけに

たった1人で創業してプライム市場に上場、一代で時価総額1000億円企業を育てた経験から、『売上最小化、利益最大化の法則』(ダイヤモンド社)『ファンダメンタルズ×テクニカルマーケティング』(実業之日本社)など、立て続けにベストセラーを輩出している。今回もネットショップ運営の具体的な時間管理術が学べると思い、熟読した。

本書は木下社長が今まで実践してきた時間管理術を45の法則にまとめて紹介している。1時間半もあればサラリと読めてしまうシンプルな構成のため、本を読むのが苦手な人でも苦もなく読めるだろう。

木下社長は時間管理術を45の法則にまとめている
木下社長は時間管理術を45の法則にまとめている

ここでは、紹介された時間管理術の法則を、個人的に「経営者向き」「中間管理職向き」「スタッフ向き」の3つに分類し、そのなかでもネットショップ運営に“今すぐ”役に立ちそうな法則だけをピックアップして、紹介していく。

【経営者向き】「つい、こだわりすぎて――」。期限に絶対遅れないための対策3つ

まず、経営者向けの時間管理術としてユニークだと思ったのは、「期限に絶対に遅れない人の法則」である。一見、現場スタッフ向けの時間管理術のように思われるが、ネットショップの経営者は他人に任せにくい仕事が多いため、スケジュール管理がおろそかになってしまう傾向が強い。

ネットショップ運営は業務の遅れが生じてしまいやすい(画像はイメージ)
ネットショップ運営は業務の遅れが生じてしまいやすい(画像はイメージ)

「こだわり過ぎて商品開発が遅れてしまう」「商品ページに納得がいかず、指示を出すのが遅くなる」など、ネットショップ運営は経営者の判断に遅れが生じると、売り上げに大きな影響が出てしまうケースが多いのである。

本書ではそのような業務の遅れを防ぐために、以下の3つの対策を提案している。

1. スタートを早める

ネットショップ運営は想定外の出来事が常に発生するため、時間に余裕を持ったスケジュールで仕事をする必要がある。

2. 順番を入れ替える

スタートを早めた場合、他の仕事のスタートを遅らせる必要が出てきてしまう。「タスクが来た順」で漠然と仕事をするのではなく、「締め切り順」にして仕事のスタート時期を入れ替える必要がある。

3. 分割して進行する

スタートを早めたり、順番を入れ替えたりしても間に合わない場合は、タスクを分割して同時進行で仕事を進める。

ネットショップ運営の仕事は、「このくらいで終わるだろう」という時間の読みが大幅にオーバーしてしまうことが多い。クリエィティブな仕事が多々あるため、考える時間も長く、考えがまとまらなければ必然的に仕事の時間は伸びてしまう。

想定よりもスタートのタイミングを早めたり、仕事の順序を入れ替えたりする工夫は、ネットショップ運営の効率化を図るうえで、経営者に求められる効果的な業務の改善策と言える。

【中間管理職向き】めざすべき「後天的リーダー」とは

次に中間管理職向けの時間管理術としてオススメなのが「後天的リーダーの法則」である。

リアルのビジネスの場合、上司となるリーダーの仕事ぶりを目の前で見ることができるので、昇進する頃には「上に立つ人はこんな風に仕事をすればいい」という自分なりのリーダー像が自然とできあがっていることが多い。

一方、ネットショップ運営は自分の業務に没頭してしまう仕事が多いため、リーダーの仕事ぶりを目の当たりにする機会が少ない。いわゆる“自然に覚える”という経験がしにくい環境にあるため、リーダーに昇進したとたんに戸惑ってしまう人が少なくない。

たとえば、仕事を部下に任せることができなかったり、コミュニケーションを取る上で誤解を招いてしまったり――。ネットショップ運営においてリーダーとしてチームを取りまとめることは、他のリアルな仕事と比べて難易度が高いと言える。

本書では、実務レベルで仕事ができる人を「エース」、メンバーを引っ張っていくリーダーを「キャプテン」、作戦を立ててメンバーの人選を行う人を「監督」と、3つに分類して解説している。

木下社長は著書で、「エース」「キャプテン」「監督」はそれぞれ性質が異なると指摘(画像はイメージ)
木下社長は著書で、「エース」「キャプテン」「監督」はそれぞれ性質が異なると指摘(画像はイメージ)

その上で木下社長は、「それぞれの仕事の特性が違うのだから、『エース』→『キャプテン』→『監督』で順番に出世していく流れ自体に問題がある」と述べている。

そもそもリーダーの役割が果たせる「キャプテン」は、先天性の才能を持ち合わせている人が多い。学生の頃に部活のリーダーを任されたり、率先して人の上に立つ仕事を引き受けたりするのは、先天性のリーダーの素質を持ち合わせている人の特徴と言える。

実務に強い「エース」と「リーダーの素質」は全く別物

一方、実務レベルに強いエース社員で、リーダーの素質に恵まれなかった人は、表面的な「キャプテン」の部分でリーダーとしての働き方を学ぶことしかできない。

たとえば、部下をうまく束ねることができないのに「俺についてこい!」と意気込んでしまったり、仕事ができない部下を見て「なんでこんな簡単なことができないんだ」と問い詰めてしまったり、ネットショップの運営において、“後天性”のリーダーは学習する場が少ないため、一般のビジネスよりも人の上に立った時に苦労するケースが多いのである。

本書では、後天性のリーダーに「縁の下の力持ち」になることを推奨。たとえば、メンバーが取りこぼした仕事を黙ってフォローしたり、メンバーが嫌がる仕事を率先して自分でやったり、「誰もやりたがらない『面倒な仕事』を自分でやる」という業務を率先してやることが、周囲の信頼を勝ち取ることにつながる。

このような縁の下の力持ち的な仕事は、周囲からすぐに賞賛を浴びることはない。しかし、時間が経つにつれて「あの人がいるから組織が回っている」と気づく人が増え、次第にリーダーとして認められるようになるのである。

【スタッフ向け】ネットショップ運営で“あるある”の欠陥とは

最後のスタッフ向けの時間管理術では、「3大欠落的欠陥の法則」が参考になる。普通の人に比べて、極端に欠落している欠陥を「欠落的欠陥」と言い、そのなかでもネットショップ運営で“あるある”だと共感したのが、次の3つである。

1. ケアレスミス
2. スケジュールの管理ミス
3. タスク漏れ

商品の販売個数を間違えて登録してしまったり、オンライン会議の時間を忘れてしまったり、ネットショップ運営は目の前でリアルな仕事の流れが見えないために、必要以上に慎重に業務に取り組まなければ、ミスを多発させてしまう環境にある。

しかし、これらのミスを犯したスタッフ本人は「なんでそんなに怒るの?」と、無自覚なケースが多い。ネットショップ運営は、多くの出来事がオンライン上で発生しているため、事の重大さに気付きにくい

没頭しやすい職場の環境もあり、ミスに対して罪意識が乏しい人が、他の業種に比べて多いといえる。結果、同じミスを何度も繰り返し、周囲のスタッフが右往左往して、組織全体の時間のロスにつながってしまうのである。

ミスに対する罪意識の低さが組織全体の効率ダウンにつながってしまう(画像はイメージ)
ミスに対する罪意識の低さが組織全体の効率ダウンにつながってしまう(画像はイメージ)

ミスを減らすために、まずは本人に自覚させる

ミスが多いスタッフとそうでないスタッフの差は「常識の違い」から発生すると本書では指摘。仕事でミスばかりする人は、ケアレスミスやスケジュール管理のミスを「たいしたことではない」と思いこみ、一向に欠落的欠陥を治そうとしない

そのようなスタッフに対して、本書では欠点に真正面から向き合わせることで、ミスを未然に防ぐことが可能になると述べている。世の中には「欠落的欠陥」というものが存在しており、「あなたのミスに対する『これくらいは普通』という感覚自体が、世間一般の感覚とは大きくズレている」と本人にしっかり伝え、自覚してもらうことが、欠落的欠陥の修正への第一歩となる。

その上で木下社長は、業務の「チェック時間」を仕事の中に組み込ませることが、ミスを大幅に減らすことに直結すると講じている。たとえば、メールの文書を書き終えたらすぐに送信するのではなく、再度、時間をかけて見直すことで、仕事のミスを最小限にとどめることができる。

今まで本人は「5分でメールを書くことができた」と思っていた業務も、そこにプラス5分のチェック時間を設けることで、「ミスのないメールを10分で書けた」というワンランク上の仕事ができるようになるのである。

ミスが気になる人はチェックの時間を設けて

本来であれば、この「3大欠落的欠陥の法則」は、中間管理職向けの時間管理術といえる。しかし、現在ネットショップ運営の現場で「上司が細かいミスに対してうるさい」「最近、ちょっとしたミスが増えた」と、少しでも思い当たる節がある人がいれば、ぜひここで紹介した「チェック時間を業務に取り込む」という時間管理術を実践してもらいたい。

チェックする時間を業務に取り込むことで仕事のミスを減らすことができる(画像はイメージ)
チェックする時間を業務に取り込むことで仕事のミスを減らすことができる(画像はイメージ)

そのような改善策を講じることで、大幅に仕事のミスが減り、組織全体が効率よく回るようになるはずである。

◇◇◇

本書ではネットショップ運営を熟知した木下社長が、現場に則した時間管理術を余すことなく紹介している。

Eコマースの事業はマーケティングの戦略が他の業務と比べても複雑なため、意識して時間を管理しなければ人件費が膨れ上がり、利益が出にくい企業体質に陥ってしまう

原材料費と人件費が高騰するなか、仕事の時間を最短化し成果を最大に引き上げる時間管理術は、最もシンプルなネットショップの売り上げアップの施策と言える。

年末年始の時間があるときに本書を熟読し、「時間」の管理方法から見直して新年から取り組んでみるのもいいのではないだろうか。

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筆者出版情報

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