業務量オーバー、仕組み不足、過剰在庫…ネット通販に潜む落とし穴
業務量オーバーによる失敗
以上は製造業にしろ小売業にしろ、規模の大きな企業でよくある失敗パターンだ。一方、仮想モールに出店している個人商店などの場合は、別の失敗パターンがみられる。
現在、「楽天市場」に出店しているショップは約4万2000店舗といわれている。そのほとんどは零細な個人商店であり、月に1000件以上の出荷をしているのは約5%、2000店ほどである。
こうしたショップは経営規模こそ小さいが、基本的に事業主が自らサイトをつくり、メルマガを配信し、問い合わせがあればメールですぐ返事も出している。「マーケティング」は手づくり的なやり方だが、日々いろいろ創意工夫しており、楽天側のサポートもあるのでさほど困ってはいない。
問題は、受注数が増えてきた際の在庫管理やピッキング、出荷などの物流業務だ。一般に1日50件、月に1000件の出荷数になると、自社(事業主一人)だけでは処理しきれなくなる。家族やパートを動員することも可能だが、件数が増えるにつれて問い合わせやミスも増え、効率が悪くなる。それでも無理をしてこなしているうちに、事業主が怪我や病気で倒れたり、連休明けに受注が集中したりしてついにパンク。出荷停止、一時販売中止といった事態に陥ってしまう。
1日50件、月1000件は、物流業務をアウトソーシングし、自社は商品化計画(マーチャンダイジング)や販売促進(プロモーション)などの「マーケティング」に専念するタイミングなのである。
商品が壊れやすいので丁寧な梱包が必要な場合や複数ある商品から何通りかのセットをつくらないといけない場合、あるいは時計のように出荷前に秒針を合わせなければならないといった特殊なケースでは、1日50件、月1000件よりもっと少ない段階からアウトソーシングを検討したほうがいい。
仕組み化の不足による失敗
ショップの成長にともない物流がネックになるのは、業務量の問題だけではない。キャンペーンなどで通常とは異なる形で商品が動くときの対応力が問題になることも多い。
たとえば、出店しているモールのイベントセールへ参加することにして目玉商品を大量に買い付けたが、受注管理システム上のセール用商品名とメーカーから入荷してきた商品名が一致せず、倉庫での検収業務が混乱して出荷の大幅な遅れとなることがある。
事前に両方の商品名を統一しておけばいいのだが、メーカーに出荷伝票などの商品名を自社向けのみ変えるよう依頼することはまず無理だ。自社の受注管理システム上の商品名を変更するしかないが、そうするとモール内の検索順位が下がってしまう。
そこまで気が付いていればまだいいほうで、実際には商品が入ってきてから不一致に気づく。慌てて2名がはりつき、段ボール箱をひとつずつ開けて、中の商品と自社サイトの商品写真を見比べて確認し始める。これではせっかくの販売機会を逃してしまう。
物流のサービスレベルが不安定だとトラブルになることもある。あるショップは、サイト上では「受注から2日以内に発送」としていたが、早く届けたほうが喜ばれるだろうとスタッフ総出で当日発送に励んでいた。しかし、年末に受注が集中した途端、1週間ほどかかるケースも出てきて、いままで翌日着が当たり前と思っていたリピート客から「遅い!」とクレームの嵐。せっかくの上得意が一斉に離れてしまった。
自社での物流業務はどうしても自己流、無手勝流になりがちだ。注文数が少ないうちは、倉庫や事務所に商品をとりあえず並べ、注文があれば記憶を頼りにピッキングして発送するのでも問題ない。
あるショップでは、ベテラン担当者が棚を熟知しており、出荷数が1日100件を超えても商品名を聞いただけで「それはあそこの棚」「これはこっちの棚」と瞬時に理解し処理していた。社長は「これでやっているんです。すごいでしょう」とおっしゃるのだが、もしその担当者が病気で長期間休んだり、何かの都合で退職したらどうするのだろう。また、出荷量が2〜3倍になったとき、もう一人同じような担当者がいないと処理できないことは明らかだ。
これらの失敗はすべて、ネット通販が成長していくある段階で、物流業務の仕組み化、ルール化が必要なことを示している。物流のアウトソーシングは、そうした仕組み化、ルール化という意味も持っているのである。
過剰在庫という失敗
過剰在庫が発生してしまうのも、「マーケティング」と「フルフィルメント」の両方にまたがる失敗パターンだ。
化粧品や健康食品のネット通販の場合、同じ商品を継続して販売しているので、在庫の残りが一定量まで減ったら新たな仕入れを行う。こうすれば過剰在庫はほとんど発生しない。
これに対し、商品点数が多く、流行による商品の入れ替わりも多いアパレルや雑貨のネット通販の場合、しばしば過剰在庫が生まれる。
過剰在庫がなぜ発生するかといえば、事前の見込みほど注文がなかったか、適正在庫より発注が多すぎたかのいずれかだ。そして、実際によくあるのは後者である。
商品を買い付けるバイヤー(特に専任スタッフ)としては、欠品による売上の機会損失を嫌う。大きなブームになっている商品ほど「このチャンスを逃したくない」という気持ちが働き、大量に買い付けがちだ。ところがブームが去った途端、急に売上が落ち、大量の在庫が残ってしまうのである。もともと売れていない商品の在庫より、こうした売れ筋商品が不良在庫になるほうがインパクトは大きい。
もうひとつよくあるのは、仕入れにあたって60個注文しようと思ったところ、100個まとめて仕入れてくれたら単価を下げるという条件提示をメーカーやベンダーから受け、それに乗ってしまうケースだ。実際には60個しか売れないのに100個仕入れてしまって40個余る。それを繰り返しているうち、在庫がだんだん増えていってしまうのだ。
経営的には、100個仕入れて40個余らせ3割値引いて処理するより、原価が多少高くても60個の適正在庫を仕入れて売り切るほうがいい。こまめに発注すると1回あたりの単価は多少上がるかもしれないが、無駄な倉庫スペースや値引き処分などの手間暇が省け、その分、売れ筋商品に集中できる。トータルでみた効率は確実に高いはずだ。
こうした過剰在庫の問題で相談を受けたとき、私たちがよくアドバイスするのはバイヤーの業績評価の基準を見直すことである。売上と粗利だけで評価するのではなく、「残在庫」という指標を加えるのだ。
スクロールの場合、バイヤーの評価基準には期末の在庫金額の予算が入っている。アパレル商品であれば、来年も売れる在庫と来年になったら売れない在庫に分け、期末に次シーズンに持ち越す商品は評価減処理、持ち越せない商品は在庫処分をする。一定のルールを決め、バイヤーに目標を与えることで、バイヤーは過剰発注に敏感になる。
売上が順調に伸びているときは、在庫を積み残してもバランスシート上あまり気にならないが、売上がストップもしくはダウンした時に、在庫は大きな重荷になる。キャッシュが寝てしまい、さらに利益を生まない倉庫代が毎月のしかかってくるからだ。
在庫の問題は、売上と粗利だけチェックしているとつい見逃してしまう。在庫処理による損失や倉敷料などもきちんと計算に入れないといけない。そういう意味でも、「マーケティング」と「フルフィルメント」の連動が大事なのである。
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