高山 隆司 2015/6/9 9:00
この記事は『ネット通販は「物流」が決め手!』(ダイヤモンド社刊)の内容を、特別に公開しているものです。

ちぐはぐな情報システムによる失敗

現在のネット通販では情報システムが不可欠であり、多くのショップでは必要に応じていろいろなシステムを導入している。

しかし、この情報システムにも問題がある。受注、決済や商品管理、在庫管理など業務ごとに情報システムがバラバラで、各システムの連動・連携がちぐはぐになりがちなのである。

この点、個人商店は事業規模が小さく、シンプルなシステムから始めるし、事業主のITリテラシーももともと高い。たとえば、大学を卒業後、一般企業に勤めていた老舗の後継者が家業を継ぎ、「うちの店もネットで販路を拡大しよう」ということでやり始める。最初からインターネットで商品を売ることに専念しており、システムに関してのトラブルは意外に少ない。逆にいえば、システムに詳しくない個人ショップは早めに消えてしまうのである。

注意しなければならないのは、むしろ大企業だ。ネット通販への参入にあたり、しっかりした準備や戦略が整わないうちから、自社のシステム部門がシステム開発を行ってしまうのが典型である。

たとえば、システム部長が「うちのシステムはすべてA社でやっているので、ネット通販の受注・決済システムもA社でつくろう」となる。大手ベンダーに外注してオリジナルのシステムをゼロからつくり、さらに「ここを直して」「あれを直して」となると、コストはどんどん嵩んでいく。

ところが、サイトをオープンしても年間売上は想定の数分の一で減価償却費さえ賄えない。そういう本末転倒のことがあちこちで起こっている。

大企業であっても、はじめてネット通販事業を立ち上げるのであれば、まずはパッケージ型ソフトを利用するのが合理的だ

いまやASP(ネット経由でのソフトウェア提供事業者)が提供しているネット通販向けのパッケージ型ソフトウェアは数えきれないほどある。自社開発よりコストははるかに安くてすみ、可変性も高い。

情報システムについては、データの互換性の問題もある。ある大手専門店チェーンは、ネット通販の受注・出荷システムとして、リアル店舗と同じB社のシステムをカスタマイズして使っている。

ところが物流代行会社は、出荷効率を高めるためにオリジナルのWMS(ウェアハウス・マネジメント・システム)を使うのが一般的で、上位の受注システムからデータを受け取って、物流業務を遂行するようになっている。それに対し、B社のシステムは出荷に必要なデータを送り出す機能がなく、出荷効率の悪い=コストの高いB社システムでの出荷を余儀なくされてしまった。

ネット通販は多種多様である。物流もそれぞれの商品の特性に応じて、棚入れからピッキング、配送、そして情報システムまでトータルに組み立てないと、無駄や非効率が起こりやすい。

物流をアウトソーシングするにしても、そうした商品の特性に応じた業務プロセスを組み立てられるかどうかで、サービス品質には大きな差がつく。コストだけの問題と考えていると、大きなトラブルが発生し、結果的にショップの評価が下がってしまうのだ。

自動化による失敗

システムということでは、アマゾンのような最新鋭の自動倉庫も注目されているが、ロボット化すればそれですべて解決というわけではない。

なぜなら、自動倉庫やロボット化のためには、扱う商品の大きさや1日の処理数などをあらかじめ仕様決定して設計しなければならない。しかも、それなりの設備投資が必要になる。

一方、いま扱っている商品やその売り方がそのまま続くかどうかはわからない。ネット通販は市場が成長している分、新規参入も多く競争は激しい。商品はもちろん販売手法もめまぐるしく変化している。5年後に主力商品が全く入れ替わったり、販売手法が現在とは違っている可能性は否定できない。せっかく自動倉庫やロボット化に投資しても、数年後には役に立たなくなっているかもしれないのだ。まさに「今日の“便利”は明日の“不便”」である。

むしろ、ローテクではあるが、商品の変化に合わせて棚の仕切りを変えたり、受注数に応じて作業員を増減させ、チラシなどの同梱も手作業で行ったほうが、コストを抑えつつ、質の高い物流業務を実現できる。

もちろん、1日何万件も同じようなサイズの商品を出荷するのであれば早急に自動倉庫にしたほうがいいだろう。だが、月間1万件ぐらいまでは手作業で処理できる。

当社ではこれまで、ひとつのネット通販企業の出荷を月間20万件行ったこともある。通常は月間10万件のところ、消費税アップ前の駆け込みで20万件になったが、作業員を増員することで対応できた。もし、自動化していたら、1〜2ヵ月のためだけに装置を増やさないと処理できなかっただろう。

宅配便料金の値上がりによる問題

物流にかかるコストのうち、全体の5割前後を宅配便料金が占める。残りの3〜4割が倉庫での入出荷作業、その他が梱包資材や事務経費、倉庫のスペース代だ。

ここからも分かるように、物流のコスト面でいま、大きな問題になっているのが宅配便料金の値上げだ。

たとえば、ヤマト運輸は最近、法人顧客に対して順次、値上げ要請を行っており、上げ幅もかなり大きい。きっかけは2013年の夏、冷凍品や冷蔵品の温度管理ができていなかったため、商品が溶けていたりして大問題になったことである。

本来、冷凍品や冷蔵品は引き受けられる量に限界があるのに、ヤマト運輸では各地の営業所で全国一律500円、冷凍品も一律700円といったやり方で荷受けしていた。それを本来の形に戻し、距離やサイズ別に数量を把握して引き受けるよう徹底し始めたのだ。そのため、料金も本来の距離、サイズ別に課金することになり、北海道や九州、離島などで上げ幅が大きくなっている。

他の宅配便業者も、値上げの動きは共通する。

佐川急便は一足先に2013年から法人顧客向けの値上げを実施してきた。従来、同社を利用していたアマゾンが、ヤマト運輸に切り替えたのもその影響といわれる。佐川急便はもともとBtoBを得意としており、宅配便のシェア拡大のため値下げ競争を仕掛けていたのだが、その戦略を見直したためだ。

さらに、日本郵便が「ゆうパック」の法人向け運賃を引き上げる方針を打ち出した。不足する現場スタッフ確保のため人件費を引き上げたことや、ガソリンなど燃料費の値上がりが主な要因という。値上げ幅は顧客により異なるが、平均で数%程度とみられる。

国土交通省のデータによると、2013年度の宅配便の取扱件数は前年度比3%増の約36億個となった。ネット通販の拡大で今後さらに宅配便の総取扱件数は増えるとみられる一方、社会全体で人手不足が深刻化しており、燃料費の高止まりもあり、宅配便の値上げはさらに続きそうだ。

これまで北海道や九州からの宅配便料金は、輸送距離に比較して割安だった。その分、こうした値上げでは大きな影響を受ける。

対応策のひとつは、関東などに配送拠点を確保してコンテナなどで商品をまとめて送り、そこから注文に応じて顧客へ発送することだ。ネット通販における受注エリア(配達エリア)は北海道や九州のショップにしても、基本的には人口に比例し、関東から関西までで全体の70%を占める。

北海道のある通販ショップでは、コンテナで週に1回、北海道からスクロール360の拠点がある浜松まで商品をまとめて運び、浜松から出荷する方式に切り替える予定である。 コンテナ代や浜松での倉庫費用が新たなコストとなるが、1日数百件の出荷にかかる宅配便料金が1件あたり100円以上違うので、トータルでの物流費はむしろ下がる。また、配達時間も従来より短縮でき、物流サービスの向上につながる見込みだ。

こうした動きは今後、さらに広がるだろう。

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