鳥栖 剛[執筆] 8:30

炭酸水など飲料品の低価格販売を手がけるライフドリンクカンパニーのEC事業が急成長している。2020年に「楽天市場」に出店しEC事業を開始、翌年には「楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー」(SOY)の新人賞を獲得。その後もSOYのジャンル賞を連続で受賞している。売上規模もすでに数十億円規模に達しているという。ライフドリンクカンパニーの成長の秘訣は「楽天ハック」「自社EC」「脱付加価値戦略」にあるという。ライフドリンクカンパニーの執行役員SCM本部長・橋本知久氏が解説する。※2024年9月19日時点の情報です

全社売上高は約382億円、EC化率は2ケタ%超

ライフドリンクカンパニーは大阪に本社を置く飲料メーカー。主事業としては、低価格の水やお茶などのペットボトル飲料をスーパーマーケットやドラッグストアにプライベートブランドで卸している。2024年3月期の全社売上高は前期比26.4%増の382億3600万円。EC売上高は非公開ながらEC化率は「全体の2ケタ%は超えている」(橋本氏)としている。EC売上高は40億円を超えるとみられる。

「楽天市場」からECスタート、1年目からSOY受賞

そんなライフドリンクカンパニーのEC事業が始まったのは2020年。同年2月、「楽天市場」に「LIFE DRINKオンラインストア」を出店してEC事業をスタート。その能登、「Yahoo!ショッピング」「Amazon」「Qoo10」「au PAYマーケット」など主要モールに出店。自社ECは2022年4月に立ち上げ、現在は全7店舗運営体制だ。

低価格で打ち出したオリジナルの無糖炭酸飲料「ZAO SODA」(現:OZA SODA)が大ヒット。EC事業開始1年で楽天SOY(楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー)の新人賞とジャンル賞を受賞した。2021年は「楽天市場」の「水・ソフトドリンク」における年間総合ランキング1位を獲得。2022年のSOYではジャンル賞、2023年のSOYではジャンル賞の大賞に輝くなどし、EC事業は毎年2ケタ成長が続いている。

「楽天市場」からEC事業を開始。現在は7店舗を運営
「楽天市場」からEC事業を開始。現在は7店舗を運営

ライフドリンクカンパニーがECスタートを「楽天市場」にした理由は、①国内有数の市場規模を持っている、②店舗・商品の個性をしっかりとPRできる、③買い物を楽しむユーザーが多い――ことから決めたという。

Amazonは商品画像と価格が中心のすっきりとしたデザインであるのに対し、「楽天市場」は自社や商品をPRできる。自社の商品を見たことがないお客さまにも自社の商品の魅力度をきちんと伝えることが可能だ。ライフドリンクカンパニーでは、無糖炭酸飲料という差別化が難しそうな商品について、「水」「炭酸」「安全性」や人気商品であるという点を丁寧に記載している。実際、参入当初に競合リサーチをしたが、売り上げの上位商品を見ても、Amazonは大手型番商品が多い。一方、「楽天市場」はあまり見かけない商品が数多く上位にランクインしており、後発でもしっかりとシェアを取っていける土壌があると感じた。(橋本氏)

「楽天市場」で成功するための6つの秘訣

「楽天市場」での戦いについて、次の6つに重点的に取り組んでいる。

  1. ECに特化した商品作り
  2. 競争力のある値決め――脱付加価値戦略
  3. 変化し続ける物流網
  4. 買ってみようと思わせるサムネイル・ページ作り
  5. 柔軟な広告宣伝費投入
  6. 少ないSKU・少数精鋭で①~⑤を徹底的に行う

①ECに特化した商品作り

ヒット商品「ZAO SODA」は「楽天市場」の主要購買層である30~40歳代の家庭を持つ女性をターゲットに商品を開発。従来型の無糖炭酸飲料は「男性向けのゴツゴツしたデザイン」「赤黒のシンプルな色合い」などで展開されていたことから、ターゲット層に合わせカラフルな色合いとポップな表現をパッケージやクリエイティブに採用した。

パッケージは商品にすべての情報を盛り込むのではなくEC上で商品情報を補完することを前提にしたシンプルなデザインにした。こうした戦略的開発からヒット商品を生み出した。

「楽天市場」の顧客層をターゲットあわせたに商品デザインに
「楽天市場」の顧客層をターゲットに合わせた商品デザインに

またライフドリンクカンパニー全体の商品戦略として、「ZAO SODA」をはじめECで販売する商品は全てEC専用商品として販売している。BtoB顧客との競争を避け値決めしやすいことが狙いだ。このように、ライフドリンクカンパニーはECの特性を考慮の上、売れる商品開発を進めている。

②競争力のある値決め――脱付加価値戦略

ライフドリンクカンパニーは「脱付加価値戦略」を掲げ、本質的な価値を追求するという戦略を採っている。たとえば「ZOA SODA」の場合、「喉を潤す」「炭酸ですっきりとした味わい」、販売価格が顧客にとって本質的な価値であると考える。付加価値ではないこうした本質の部分の徹底に注力することが、ヒット商品を生む秘訣になっているという。

販売価格を低価格化するため「小品種大量生産」「内製化」「工場の全国展開」に取り組み、低価格な飲料を全国的に安定提供する体制を整えた。「小品種大量生産」としては容量バリエーションを2リットルと500ミリリットルに絞って展開。バリエーションを抑えることで“無駄”の極小化を実現している。

展開バリエーションは2リットルと500ミリリットルに集中
展開バリエーションは2リットルと500ミリリットルに集中

飲料工場は東は岩手、西は宮崎まで全国12拠点に工場を展開。各地から出荷することで配送コストの低減につなげている。そのほかペットボトルの原材料の調達から販売までを内製化、こうした取り組みで生産効率の最大化などを図りコストを極小化、低価格を維持する。

値決めは毎朝アナログな方法で競合価格をチェックして、決めている。ツールでは取得しきれない、クーポンやポイントなどの影響も考慮し、ライフカンパニーの商品が実質的な最安値になるように調整している。(橋本氏)

③変化し続ける物流網

飲料は費用に占める物流費の割合が高い。そのため、ライフドリンクカンパニーは配送条件に応じて配送会社の切り替えを細かく実施。こうした取り組みや工場拠点の強靭化で商品を低価格での提供を維持している。

短期間で細かく配送会社・3PLの並行利用や変更を実施
短期間で細かく配送会社・3PLの並行利用や変更を実施

物流費は採算に直結し、ライフドリンクカンパニーとしてはかなり死活問題となる部分。常に最適な物流を模索し複数の配送会社・3PLを並行利用かつ変更している。(橋本氏)

④買ってみようと思わせるサムネイル・ページ作り

市場にある炭酸飲料は型番商品の主となるため、競合店は商品ページなどの作り込みが限定的になる傾向にあるという。そこでライフドリンクカンパニーは差別化として商品ページなどの作り込みを徹底した。

モールに並ぶ炭酸飲料の商品ページは白背景に商品といったサムネイルがほとんどだった。これを逆手にとって背景色をつけたり目に止まるように見せ方にこだわっている。(橋本氏)

競合はシンプルなサムネイルが多いことから目立つデザインを用意し差別化
競合はシンプルなサムネイルが多いことから目立つデザインを用意し差別化

⑤柔軟な広告宣伝費投入

ライフドリンクカンパニーはあらかじめ広告宣伝費予算を設定してはいるものの、売上・成果状況に応じて、予算の増額・抑制を柔軟に実施しているという。

広告予算が限られていると、枠内で運用しなければならず、そのためやりたいタイミングで効果的に広告宣伝費を投入できないといったことが起きてしまう。そうなると露出が増えず、負のループに陥り、売上高広告宣伝費率が改善しないということが起こりうる。

ライフドリンクカンパニーは売上高や収益、ROASに応じて月次や日次で予算増額の判断を実施。セールタイミングなどで広告宣伝費を大きく投入して短期間で露出を増やせるようにしている。これによって売り上げはもちろんコメントも伸び、ランキングや検索結果にも好影響、結果的に広告宣伝費を抑制でき売上高広告宣伝費率を改善できるという好循環を実現している。(橋本氏)

柔軟な広告宣伝費投入で好循環を生み出している
柔軟な広告宣伝費投入で好循環を生み出している

⑥少ないSKU・少数精鋭で①~⑤を徹底的に行う

ライフドリンクカンパニーのECチームは、問い合わせや出荷対応も含め9人体制という少数精鋭だ。一人一人の裁量を大きくしスピード感重視で運営にあたる。商品開発から販売、出荷まで一気通貫で業務を把握しているためスピード感が出せているのだという。

ECのチームは、担当ごとに専門の部分とお互い協力する部分が柔軟に動いている。例えば商品開発の責任者も1人いるが、開発の過程では全員で話し合って進めている。またモールの大型セールの後に問い合わせが増えるようなタイミングも全員で協力して対応にあたるなどもしている。メインの業務を決めながらも決めすぎないような運用をしている。またメンバー同士がチャットやメール、電話と密にコミュニケーションをとっているためスムーズにことが運んでいると思う。(橋本氏)

自社ECはどこよりお得な定期便でリピーターを囲い込み

ライフドリンクカンパニーのEC売上の比率はモールが9割、自社ECが1割という。そのなかで自社EC戦略はどうなっているか。ライフドリンクカンパニーはモールと自社ECはそれぞれ顧客のニーズが違異なるため、自社ECへ集約するといった戦略は採っていない。

モールと自社ECはそれぞれ特長がある。モールではポイントを使いたいといったニーズがあり、自社ECの方では常にライフドリンクカンパニーの飲料をストックしておきたいといったリピーターのニーズがある。自社ECでは定期便のお客さまが中心となるため、定期価格がどこよりも安くなるようにするなど囲い込みを図っている。モールから自社ECへ無理やり寄せようとは考えていない。お客さまのニーズごとにそれぞれ利用いただければと思っている。(橋本氏)

自社ECではどこより安い価格としリピーターを囲い込んでいる
自社ECではどこより安い価格としリピーターを囲い込んでいる

自社ECならではの取り組みとしては、Web広告だけでなくオフラインイベントの参加やYouTuberへの商品提供やInstagramでの情報発信などといった認知向上施策に取り組んでいる。Instagramでは商品名を募集する取り組みなどユーザー参加型のキャンペーンなども打ち認知向上へつなげているという。

ライフドリンクカンパニーでは「ZAO SODA」のEC販売で得た知見やノウハウを元に取扱商品の拡大も図っている。

「ZAO SODA」の販売から得た知見などから商品展開を拡大
「ZAO SODA」の販売から得た知見などから商品展開を拡大

今後の展望としては自社ECではいかにユーザーが注文に手間をかけないかといったようなUI/UXの部分の改善を続け、長く利用いただけるように取り組んでいく予定としている。

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