高橋 敏郎 2016/2/5 8:00

第1回では、多くのEC事業者が悩む「新規顧客獲得の課題」について、本質的な原因は、ユーザーがサイトへ流入してから購入に至るまでの「検索 → 閲覧 → 比較 → カート投入」の各ステップで適切な施策が打てていないことだ、というお話をしました。

バケツの穴の話を例えに、「穴をふさぐ」=流入後のパフォーマンス(直帰率、離脱率、商品詳細到達率、カート投入率、PV/UU、滞在時間、CVRなど)を改善するために、ユーザスループット最適化(UTO)の考え方を紹介しましたが、「当たり前のことを今さら……」と思われた方も多かったかもしれません。

しかし、当たり前の話を改めてすべき理由があるのです。第2回では、なぜ“今”「ユーザスループット最適化(UTO)」が必要とされているのか、EC事業者の現在の意識やUTOが目指す方向などを取り上げます。

自社サイトの現状を把握できていない担当者は意外と多い

問題を解決するために「現状把握」は不可欠であり、まず取り組むべきことです。

現状把握をした上で、いわゆるPDCAサイクルを回して中長期的にプロセスを改善し、大きな課題をクリアしていくアプローチは、Webマーケティングに限らずもはや当たり前ですが、ユーザスループット最適化(UTO)の施策が同様のアプローチで取り組まれているかというと、残念ながら今はまだその段階にはありません

ECサイトを運営されている方で、例えば以下のような質問に即答できる人はどれほどいるでしょうか?

  • 新規ユーザーは、どのページを通過すると会員登録率が上がるのか?
  • 曜日と時間帯、デバイス、キャンペーンを掛け合わせ、コンバージョン率が高いのはどれか?
  • 商品詳細ページを見ているユーザーは全セッションのうちどの程度いるのか?
  • 人気商品から埋もれている商品まで、商品閲覧のロングテールの度合いはどの程度か?
  • サイト内検索の人気キーワード。および、そのキーワードでどんな商品が上位表示されているのか?

これらの問いはUTOの施策を的確に行って行くために把握すべき重要な情報ですが、実際には答えに詰まってしまう担当者が多いことでしょう。UTOの施策を行っていたとしても、現状把握を怠り、やみくもに行っていたとしたら、やはりまだまだ改善の余地があると言えます。

小さな改善の積み重ねが大きな成果を生む

例えば、月間の訪問者が10万人、1UUあたりのPVが10、全PVに対するCVRが1%、平均単価が1万円のアパレル通販サイトあったとします。訪問者数を据え置き、1UUあたりのPV、CVR、平均単価の3つがそれぞれ25%改善した場合、売上にどれくらいインパクトがあるのかシミュレーションしてみます。

訪問者PV/UUCVR購入者平均単価売上伸び率
現在100,000101.00%1,000¥10,000¥10,000,000
改善後100,00012.51.25%1,562¥12,500¥19,531,250195%

25%の改善が3箇所で発生したので、トータルでの改善は25%+25%+25%=「75%」と考えがちですが、実際には、1.25×1.25×1.25×=1.953125となり「95%」の改善効果が期待できます

これは、一般的には「複利効果」と言われるものですが、UTOはずばり、小さな改善の積み重ねが驚くべき成果を生む施策なのです。

具体的な成果も出始めたUTO

UTOの施策を実行するソリューションやツールは様々なものが登場し、その成果も出始めています。

古くからあるツールでは、アクセス解析ツールやヒートマップツールもサイト内を把握する上で欠かせないツールです。もう少し施策実行系のツールに近付けると、A/BテストやLPO、EFOがあり、近年はクーポン表示やチャット機能を提供するウェブ接客ツールも多数登場しました。

「サイト内検索」は、ユーザーの商品探しをサポートするものとして、UTOの施策の中でも優先度の高い機能ですが、以下のように具体的な成果も出始めています。

サイト内検索について下記のような取り組みを行いました。

  • 検索ボックスの設置位置変更、デザイン変更による視認性の向上
  • サジェスト機能導入、ゼロ件ヒットを参照した上での月1回の同義語登録を実施
  • 「ファセットカウント機能」を利用して、検索結果が何件になるかを明示
  • 検索結果を「キーワードの相関性」をスコア化した順位をベースに、アイテムの閲覧数が多い順にソートして表示
  • 検索結果表示スピードの平均を2.5秒から0.4秒に改善

結果は次のとおりです。

図 サイト内検索改善前と改善後の比較
サイト内検索改善前と改善後の比較

効果をまとめると次のようになります。

  • 利用率……31.7% → 35.3%(3.6%の増加)
  • 離脱率……27.1% → 23.2%(3.9%の改善)
  • PV/UU……7.05 → 8.44(1.39の改善)
  • CVR……1.33% → 1.75%(0.42%の改善)

改善の割合としてはそれぞれ数パーセントと、ほんのわずかの数値ですが、このケースでは売上が127.3%増、金額にして1,350万円増加しました。

売上が伸びたことはもちろん重要ですが、このケースにおいて特筆すべきは「UU数はほぼ横ばい(100.6%増)だったにもかかわらず」という点です。流入数(UU数)を増やさなくても、売上は伸びる。まさに、UTOが狙い通り成功した事例と言えるでしょう。

いきなり「売上を130%に伸ばす」という目標を立てても何から手をつけたらよいのか、またいきなりそんなに大きく売上を伸ばすことができるのか不安になってしまう方も多いかと思いますが、実際に小さな改善の積み重ねで大きな結果につながることが見えれば勇気がわきませんか?

UTOの施策を的確に行うために把握すべき、3つのKPI

UTOの施策を的確に実行するために、どのような視点で現状を把握しておくべきか。最後に3つのKPIを紹介します。

KPI① 商品詳細到達率

サイト全体のPVに対する、商品詳細ページのPVの割合です。

商品を買ってもらうためには商品を見せる必要があります。「売上を増やすために、より多くの商品を見せましょう」という非常にシンプルな考えに基づく指標です。

ユーザーにとって「探しにくい」「比較しにくい」サイトほど、商品詳細到達率は下がります。なぜなら、ユーザーはサイト内で迷ったり悩んだりした結果、商品以外のPVが増えてしまう傾向にあるからです。UTOの施策はサイト全体のPVの向上を目標とするのではなく、商品詳細到達率の向上を目指します

KPI② カート投入率

商品詳細ページのPVに対する、カート投入数の割合です。

商品詳細ページに到達したということは、その商品に興味を持ったということです。ユーザーが購入を取りやめる要因をUTOの施策により取り除き、カート投入率の向上を目指します

KPI③ 購入率

カート投入数に対する、購入数の割合です。

カートに投入してくれたら購入まであと一歩。しかし、商品をカートに投入したにも関わらず購入しない「カート放棄率」は、一般的に7割程度。カートに入れても結局買わない人が圧倒的に多いのが現状です。UTOの施策では、主に入力負荷などの阻害要因を取り除くことで、購入率の向上を目指します

◇◇◇

次回は、①の「商品詳細到達率」を向上させるための具体的なアクションについて、詳しくご説明します。

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