送料値上げに通販・EC企業はどう対処する? 経営&業務への影響は?
通販新聞社はこのほど、ヤマト運輸の運賃値上げに関し、主要通販企業に緊急アンケート(約30社へアンケート用紙を送付)を実施した。値上げについては人手不足やドライバーの労働環境改善など致し方ないと一定の理解を示す一方、最大荷主と思われるアマゾンジャパンとヤマト運輸の問題とした上で、それに他社が巻き込まれることに当惑しているところが少なくない。
また時間帯指定の見直しは、顧客サービスの低下になりかねないと懸念するところが多い。通販業界に大きな影響を及ぼす今回の値上げの動きだが、通販各社は今後の同社の動向に注視していくと見られる。
自社の経営努力でのコスト吸収は難しい
ヤマト運輸は既に通販企業などの大口取引先との値上げ交渉を始めたという。今回のアンケートの回答企業で値上げ要請を受けた1社は「見積額の提示はないが、5~8%の値上率になるのでは」と回答。値上げ要請を受けたもう1社は「交渉するが、最終的には受けざるを得ないと予測している」と回答し条件付きながら値上げ受け入れる姿勢だ。ただ回答企業の大半は、今(3月半ば時点)のところ値上げ要請がないようだ。
これからヤマト運輸側が広く取引先に要請することは確実と見られる。そこで値上げ要請を受けた場合への対応を尋ねた。「交渉する」や「内容次第」との回答が多い中、ある通販企業は「引き上げに応じる方向」とし、「以前他社に変更した際、顧客からサービス品質についてクレームが多く寄せられた」とヤマト運輸の配送品質は変えがたいようだ。
値上げへ応じる意向を見せる通販企業は「コストが上がることは厳しいことだが、人材確保が難しくなっていたり、配達量が急激に増加していることなどを考えると理解できる」との意見を寄せている。
引き上げ額に応じて対応などを協議するとの考えの通販企業が多く「ネット販売の成長により宅配便の荷扱い量も飛躍的に増加していることで、配送ドライバーの労働環境は悪化していることが窺える。その上で人材不足の問題も併せてあがっているとなると、値上げは苦渋の判断」と見ている。
ただ、理解を示しつつも「従来の料金に基づいたサービス設計となっているため、事業収益上のインパクトが大きく自社の経営努力でのコスト吸収は難しいと考えられる」と対応策への苦慮を訴えるところもある。
ある程度値上げに理解を示す企業があるものの、一方で「他の宅配便会社へ変更することを検討する」や「他社との併用も踏まえ思案中」との企業もあり、ヤマト運輸の利用の取り止めや削減を検討するところも見られる。コストアップを避けたいとの考えだ。
ヤマト運輸が今回値上げの方針を決めたことに対しては、アマゾンなど大手ネット販売企業の影響を指摘するところが多い。「アマゾンによる影響と他通販企業による影響については本来、個別に切り分け、経済合理性に基づいての構造説明がなされることが交渉における前提として必要」や「総量の抑制が目的であるならば、まずアマゾンと交渉するべきだと考える」との意見だ。
また他の宅配便会社の値上げ追随を懸念する声もある。ヤマト運輸以外と取り引きしている通販企業は「ヤマト運輸(が値上げるすることは宅配便業界へ)の影響は大きいので、他社を使う当社にとっても大きな課題」という。
再配達削減の協力は肯定的
時間帯指定については顧客サービスとして重要なものと位置付けているところが多く、見直しに賛同できないとの意見が多い。
「ユーザーにとって明らかにサービスダウンになる」「弊社のサービスにも影響が出るので、見直しはして欲しくない」「顧客が求めるサービスの中でも優先度が高いだけに見直ししてもらいたくない」など顧客サービス低下を招きかねないことを理由としている。さらに「サービス低下になり当社通販の利用を止める顧客も予想されるため、何らかの代替案の提案が必要となる」と顧客離脱に向けた対策に追われることになるとする意見もある。
少数派の意見だが、「ある程度(の見直し)は仕方ない」や「サービスレベルの悪化については通販企業も横並びで顧客に対して説明を行う必要のある局面と感じる」との回答も見られた。
また時間帯指定サービスに対し別の観点から問題点の指摘があった。「現行の2時間単位で指定できる指定サービス自体に無理が生じているのではと考える」というもので、確実に指定した時間帯に届けられないケースもあるため現状でもサービス提供が難しくなっているとの意見だ。
再配達削減についてヤマト運輸が通販企業などへ協力を要請することや、協力を得られなかった場合に料金へ反映する可能性も示唆していることに対しては「再配達はどう考えても時間と資源の無駄なので、協力できることは協力していきたい」などの前向きの意見が多かった。
既に時間帯指定を行えるようにして再配達抑制に取り組んでいるとする通販企業は「協力要請についてはコスト削減が見受けらえると判断した場合は是非協力させてもらう」という。
ただ時間帯指定との関連では「『聞かれたからとりあえず時間指定した』というお客様もかなり存在すると思われ、通販企業サイドでどのように協力できるかは未知数」と再配達の一因とも考えられる時間帯指定の運用に課題を挙げる企業もあった。
また「エンドユーザーに請求すべき」と受益者負担の考えから通販顧客への負担を求める回答もわずかながらあった。
ヤマト運輸はネット販売市場の拡大などに伴い荷物量が増加し、さらにそこへ人手不足が加わったことでサービス維持のため値上げが不可避と判断した。同時にここ数年問題視されるようになった再配達の発生も大きな負担になっていると見られる。
ヤマト運輸は宅配便会社の中で配達以外での宅配便の受け取り手段に幅広く取り組んでいる企業だが、それでも負担軽減が追い付かない状況にあるようだ。
通販物流代行イー・ロジット社長で宅配便の配送状況通知アプリを提供するウケトルの代表でもある角井亮一氏は再配達の実情を次のように語っている。「私がドライバーに話を聞いたところ、体感では再配達の荷物が3割ほどと思われる」とし、国土交通省の調査結果の2割よりも高い比率になっている。
【再配達が大きな負担に】受取手段の拡充必須
また「昨年12月はヤマト運輸の宅急便個数が前年比5.6%増とそれほど大きな伸びではない。しかし、再配達が負担になった」(角井氏)と見ている。「再配達を含めBtoCは手間が数以上に増えている」(同)ことが問題のようだ。
同氏の言動を裏付けるように、年間宅配便取扱全体の個数は2011年度以降を見ると、2~5%台の伸びになっている(下図参照=14年度は4月の消費税増税による影響で減少)。11年度の5.6%増が最も伸びが大きいが、15年度は3.6%増となるものの前年度に減少していることを勘案すると、それほど大幅な伸びとも言えない。角井氏はヤマト運輸が苦慮する再配達を「ゼロにしていけば同社は利益を大幅に増やすことができるはず」と指摘する。
ヤマト運輸は昨年半ばから、仏ネオポストシッピングとの合弁会社を通じて宅配ロッカーの設置を本格的に始めた。駅や商業施設、小売店、駐車場、オフィスビル、公共施設などに設置し、受取手段の多様化に対応することと再配達削減にもつなげようとの取り組みだ。現在のところ1都3県が中心だが、徐々に関西圏、東海圏への設置も進み始めている。
現在、設置数は200台を超えていると見られる。当初目標は2022年度までに全国で5000台を掲げたが、この目標を前倒しして設置を急ぐという。
ヤマト運輸の宅配ロッカーは現状、原則として個人会員「クロネコメンバーズ」会員が荷物配達予定の通知が来た際に宅配ロッカーを指定したり、また再配達時の届け先を宅配ロッカーへ変更したりする場合に限定。非会員がネット販売サイトで商品を購入し、その商品の受け取り場所として宅配ロッカーを指定することはまだできない。
ただネット販売サイトの初回配達時荷物の受け取りサービスも当初から予定しており、現在システム開発を進めている模様。このサービスについてもスタートを早めるとの一部報道もあり、再配達の負担軽減に大きく寄与すると思われ、早期のサービス提供が望まれる。
宅配ロッカーはヤマト運輸以外にも日本郵便も積極的だ。「はこぽす」との名称の宅配ロッカーを郵便局はじめ、鉄道駅、商業施設などに設置し、将来的には1000台の設置を目標にしている。同社の宅配ロッカーは既に一部通販企業や仮想モールでの初回配達時荷物受け取りにも対応している。
ヤマト運輸、日本郵便とも他宅配便会社の荷物の受け取りにも対応するオープン化を目指して宅配ロッカーサービスに取り組んでいるが、現状、一部を除き、2社ともオープン化していない。オープン化の進展も再配達削減に大いに寄与するはずで、早期の実現が待たれる。
配達以外の荷物受け取りで宅配ロッカーとともにニーズが高いコンビニ受け取りは、宅配便会社ごとに連携するコンビニチェーンが決まっている。つまり宅配便会社により異なり、通販顧客はコンビニチェーンの選択肢が限られてしまう。そして最大手のセブン-イレブンが宅配便会社と連携した受け取りサービスを行っていないことも大きなネックとなっている。
宅配ロッカーにしても、コンビニ受け取りにしても、より広範なサービス展開が必要となっている。値上げは致し方ないとの理解を示す通販企業は多いが、それだけに受け取りサービスの充実もヤマト運輸は求められている。
他大手2社も追随か ともに基本料金値上げは否定
ヤマト運輸が運賃値上げへ動き始めたことから、他の宅配便会社も値上げに踏み切るのではとの憶測が出ている。ここに来て値上げ要請を受けたという佐川急便と取り引きしている通販企業もあった。他の大手2社はヤマト運輸に追随して値上げを実施するのだろうか。
佐川急便は値上げ要請していることについて「おそらく基本料金と法人契約とを一緒に捉えられているのでは。基本料金を改定するとの決定は現時点ではない」(経営企画・広報部)とし、料金全般の値上げを否定している。法人契約を結ぶ取引先とは契約更新時などに料金見直しを要請。2012年から始めた料金の適正収受に向けた一環として毎年料金の改定について取引先と協議するのが慣例となっている。
日本郵便も一部で値上げするとの報道があったが、佐川急便と同様に値上げを否定。「運賃には(主に一般ユーザーに適用する)基本料金と、(法人を対象に)相対で決めるものとがある。法人と新年度の料金について改定を協議するのが今の時期(年度末)で、値上げではない」(広報室)という。日本郵便は15年8月に宅配便「ゆうパック」の基本料金を値上げしている。2年弱での値上げへ動く可能性は低いと思われる。
ただし、佐川急便、日本郵便とも法人の料金については、取引先の個数や市場の状況、自社の経営状況を勘案して決定している。今回のヤマト運輸が値上げの理由として挙げる人手不足や労働環境の改善など、2社とも同様に抱える課題でもある。そのため通販企業などの大口顧客の値上げに動き出す可能性は高いと言えるかもしれない。
一方、ある物流関連事業者は今回のヤマト運輸の値上げの動きと関連して「アマゾンの荷物を扱う大手2社のうちの1社である日本郵便は、もう1社のヤマト運輸がアマゾンへどう対処するかを注視していくのでは」と推測している。
アマゾンに関しては13年に佐川急便が同社の荷物の配送業務を取り止めた。その後はヤマト運輸と日本郵便の2社がアマゾンの主要な配送業者として続けてきている。しかし今回、ヤマト運輸がアマゾンを含めた荷物量の大幅な増加などから、労働組合側に荷物の総量抑制を求められ、値上げを検討する事態となっている。
同氏はこうした状況などから日本郵便がアマゾンからの引け受け数量を増やす方向に動きだす可能性があると指摘している。また「日本郵便はまだキャパシティがあり、物量の増加には対応できるはず」とも付け加えている。ただし、日本郵便側も料金の引き上げなどを条件に対応していくことになると同氏は見ている
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