古くて新しい広告キャラクターで受講者3割増! 「日ペンの美子ちゃん」復活の舞台裏
1972年に誕生した広告キャラクター 「日ペンの美子ちゃん」が、10年のブランクを経て復活。すると、通信教育講座の受講者があれよあれよと3割も増えました。
一度でも認知を得たキャラクターは企業の財産。とはいえ、昭和のキャラクターが現代に舞い戻ってきただけで話題になったのか? キャラクターはどう育てる? 運営はどうする? 担当者に話を聞きました。
日ペンの美子ちゃんとは?
「日ペンの美子ちゃん」(にっぺんのみこちゃん)は、株式会社学文社が運営する「ボールペン習字講座」の広告漫画。「りぼん」や「なかよし」といった少女漫画雑誌の裏表紙(表4)に掲載されていました。
初代美子ちゃんが登場したのは今から45年前の1972年 (昭和47年)。以降、描き手の漫画家が代替わりしつつ1999年まで雑誌に掲載されました。
株式会社学文社の浅川貴文さんによると、美子ちゃんの歴史はボールペンの歴史と切り離せないとのこと。
日本製のボールペンが誕生したのは50年代。60年代にテレビCMが流行すると広く一般家庭に普及し、ちょっとしたボールペンブームが起こります。
それまで万年筆で書かれていた履歴書や申請書などもボールペンで書かれるようになり、「美しい文字が書けることは就職や実生活に有利」ということで、若い女性を中心にボールペン習字を学ぶ人が増えていきます。学文社のボールペン習字講座と美子ちゃんが誕生したのもこの時代。
しかし80年代に入るとワープロが普及。90年代にはパソコンが登場し、美しい文字に対する人々の優先度は次第に低下。99年を最後に美子ちゃんは雑誌広告から姿を消します。2006年〜2007年にWebの企画で少しだけ復活したものの、以降10年間、美子ちゃんが表舞台に出ることはありませんでした。
「新しい美子ちゃんを作ってほしい」
そんな美子ちゃんが今年1月に突然復活したのです!
日ペンの美子ちゃん、記念すべき一発目!正月気分で可愛いでしょ?#日ペンの美子ちゃん pic.twitter.com/bAFlcCvSea
— 日ペンの美子ちゃん【公式】 (@nippen_mikochan) 2017年1月6日
ここ数年の“美文字”ブームで受講者が上昇し、社内でこのタイミングで何か仕掛けてボールペン習字を広めていけないだろうかと検討する中で、「美子ちゃんを使わない手はないのでは?」という案が出たんです。(浅川さん)
当時、社内には美子ちゃん担当が存在しませんでした。2003年に入社した浅川さんは、リアルタイムでは美子ちゃんを知らない世代。でも、社内では美子ちゃんに詳しい方でした。というのも、2004年に発売された単行本の準備に関わっていたのです。
「来年こういう本が出るから、美子ちゃんの原稿を整頓しておいて」と言われた浅川さんは、棚に無造作に積まれていた原画の山を整理し、きれいにファイリングしました。そのおかげで美子ちゃんに詳しくなっていたのです。
社長から言われたのは既存の考え方を捨てること。「今までやってきた美子ちゃんがただ戻ってくるだけじゃなく、新しい美子ちゃんを作って欲しい」って言われたんです。(浅川さん)
美子ちゃん復活が決まったものの、しばらく美子ちゃんを掲載していなかったため、漫画家とのコネクションはない。一般公募にしようかという話も出ていた頃、スタッフの女性がたまたまpixivに掲載されていた服部昇大先生による美子ちゃんのパロディ漫画「日ポン語ラップの美ー子(びーこ)ちゃん」を発見。
パロディ作品を発見して企業としてはどうするべきか。やめてくださいって言うほどのことじゃないし、それよりこの人はどうして美子ちゃんを知っていて、どうして使ってみようと思ったんだろう? それを聞きたくて、「美子ちゃんについて教えて欲しい」くらいの気持ちで、 返事が返ってくるとも思わず、ダメもとでメールしてみたんです。(浅川さん)
実際会ってみると、服部先生はもともと70年代の少女漫画が好きで、美子ちゃんのファン。倉庫にあった美子ちゃんの原画を服部先生に見せると、時間を忘れて夢中になっていた。そんな姿を見て、浅川さんたちスタッフは「本当に70年代の少女漫画が好きなんだな、この人が書いたらきっと面白いだろうな」と思い始めます。
でも、会社では「パロディ漫画を描いていた人で大丈夫?」「面白いからってそれで良いの?」というような意見も。
「こうだから大丈夫です」なんてはっきりしたことは言えない。でも、「服部先生はこういう人です。新しい美子ちゃんを作っていきたい。そのために服部先生はベストだと思う」と説得しました。(浅川さん)
それが2016年9月のことでした。
決まらない、動けない。塩漬けの3か月間
漫画家は決まった。服部先生は喜んですぐに2、3作描いてくれた。しかし、そこから先が決まらない。
美子ちゃんをどこに出すべきか。「やっぱり漫画の裏表紙?」「まったく別なところはどうか」と議論は紛糾。「早くやりましょう」と言う人がいれば、「10年ぶりなんだから慎重にやろう」という人もいる。とにもかくにもなかなか決まらない。
東京メトロ6駅の電飾看板に、美子ちゃんの漫画を1コマずつ掲示するイベントを5月にやったのですが、その企画も最初からやりたかったんです。漫画雑誌とかだけじゃなくて、新しい美子ちゃんが街中に出て行くような企画をやりたいねっていうことで。
でもそれもボツになってしまい、このまま年をまたいだら、絶対いつまで経っても決まらない。美子ちゃんが登場できないと思い、社長に直談判に行ったんです。「話を聞いてください。Twitterだけでも始めさせてください」って。(浅川さん)
それが12月8日のこと。浅川さんは社長に「Twitterで4月までに3,000フォロワーを突破したら、東京メトロの企画もやらせてください」と伝えました。
社長は「やるなら最初から全部やっていいよ」くらいの反応でしたが、浅川さんは社員みんなに納得して欲しいと考え、3か月という目標を自ら課しました。
Twitter開始から3日で目標達成
実際にTwitterアカウントの運営を始めたのは2017年1月。6日にアカウント開始し、なんと3日ほどで目標だった3,000フォロワーを突破! 美子ちゃんを「懐かしい」と思った人たちから、あっという間に反響が広がりました。
その後の3連休も間をあけずに飛ばして行こうということで、毎日漫画を掲載。半月ほどで5,000フォロワーを突破しました。
最近は週1回、水曜日に漫画を掲載。新作が出たら次の作品のネームが来て、1週間ですべての作業が完了。ストックはありません。
男性向けだとか女性向けだとか年齢層はこれくらいだとかってことを考えるよりも、Twitterでやるからとにかくスピード感を大事にしたい。今話題になっている時事ネタを入れたい。
漫画の内容についても服部先生にほぼおまかせ。
やるなら面白い作品を出すことに集中した方がいい。こういうことってプロがやった方がいいし、企業が考えないほうがいい。広告として考えたらどんどんつまらなくなる。 服部先生がこういう作品を描くってわかってお願いしているんだから、あれこれ口出ししたら服部先生の良さが出なくなる。(浅川さん)
そう思い切れない企業も多いのでは? いろんな人に見せるといろんなことを言われるし……と聞くと、「社内の誰にも見せてないです。見せに行ったらきりがない。ほとんど他の人に見せることはないです」キッパリ。
最近は美子ちゃんのあまりの自由さに、「これホントにOK出たの?」「こっちがハラハラする」など、フォロワーから心配されることもしばしばあるとか。
美子ちゃんプロジェクトに社長も参加
もちろん浅川さんだけが運営しているわけではありません。
「Twitterアカウントの美子ちゃんの“中の人”は僕じゃありません(笑)。メインは1人の女性に担当してもらっていますが、楽しそうに生き生きとやってくれています。アカウントの運営は結構大変ですが、上手くやっていただいているようです」(浅川さん)
さらに、漫画の中の美子ちゃんの文字は、なんと社長が書いているそうです!
もともとそんなに字が上手ではなかったのに、社長就任後からペン習字の練習を始め、今では社内でもダントツの腕前だとか。やれば効果が出るって本当なんですね……!
男性の受講者が増えた!
Twitterで「美子ちゃんを見ていたらやってみたくなった」と言ってもらえることも増え、気がつけば美子ちゃん復活前と比べて受講者が3割増。サイトへのアクセスも5割増。
しかも、今までは30代〜40代の女性の受講者が一番多かったのに、今年になって増えたのは20代と50代の男性。美子ちゃんはこれまでリーチできていなかった層を獲得したのです。
取材に伺った「日ペンの美子ちゃん原画展」では、グッズ購入者を対象に服部先生のサイン会も開催されました。
意外と言えば意外なんですが、6代目美子ちゃんは男性ファンの方が多いんです。サイン会も男性が6割で女性が4割くらい。初代は完全に女性向けで、女の子の憧れみたいなキャラクターでしたが、6代目は恋愛ネタもまだないし、ネタ的に男性の目にとまりやすいのかもしれません。(浅川さん)
服部昇大先生は「日ポン語ラップの美ー子ちゃん」も引き続き執筆。学文社的にも「まったく問題ありません。両方話題になれば」(浅川さん)。
企業間コラボも進行中
実は美子ちゃんの復活に一役買っていたのが、封筒や紙袋などの製造販売を行うムトウユニパックのTwitterアカウント「封筒女子部」。ムトウユニパックと学文社はもともと取引先同士でした。
「封筒女子部」は部署も業務も異なる有志が集まり、コツコツとTwitterを続けてきました。最初の頃は「そんなこと、やる意味あるの?」と言われることもありましたが、3,000フォロワーを超えたあたりから「今度こんなことをやってみませんか?」と他社から声をかけられるようになったそうです。
封筒女子部さんの話を聞いて、「これだ! Twitterでやろう!」と思ったんです。いまは封筒女子部さんに日ペンを体験してもらっていています。美子ちゃんも封筒に関する何かをやってみたい。Twitterアカウントを通じた企業コラボですね。(浅川さん)
【#日ペンの美子ちゃん チャレンジレポート!】やってしまったぁぁぁぁ!『シ』ってわかってたのに、緊張からか?集中力がなかったのか?『ツ』と書いてしまった。
— 封筒女子部☆ペン習字講座チャレンジ中☆ (@futoh_joshibu) 2017年5月22日
((((;゚Д゚)))))))#美文字 以前の問題に猛反省。 pic.twitter.com/baAYEZH2kS
「あなたの熱いメッセージ」コーナーに、まわりの空気を読まずに自社宣伝をしてきたよ。背後に目線をビシバシ感じてたので、絵に自信がないね(泣) #墓場の美子ちゃん #日ペンの美子ちゃん pic.twitter.com/C0jKzXMLre
— ぺぺ【ぺんてる公式】 (@pentel_pepe) 2017年5月22日
5月にはLINE@も開始。「これだけの方が応援してくださるので、どんどんいろんなチャレンジをやっていきたいですね」(浅川さん)