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米国の小売市場では、モバイルを中心に消費者の買い物方法が多様化しています。それに対応するため、小売店やEC企業はオムニチャネルやモバイル対策、スマホアプリ対策などさまざまな手を打ち、顧客との関係性を作ろうとしています。日本でも今後、モバイル戦略が企業の命運を分けることになるかもしれません。米国の小売・EC市場におけるモバイル事情を紹介します。

eBay Inc. のCEOが指摘、「いかに顧客視点に立って考えられるかが企業の命運を分ける」

まずは、現状の日本の状況を考察してみましょう。重要な予算やKPIについて、PCはPC、スマートフォンはスマートフォンそれぞれを分けて考えている企業が多くないでしょうか。当社が運営する商品検索サイト「ショッピングサーチ.jp」を利用する企業からは、「とうとうスマートフォンの流入がPCを超えたが、売り上げはPCの方が高く、スマートフォンのCVRはPCと比べて3~4割低い傾向にある。スマートフォンの売上が伸びない以上、スマートフォンに広告費をかけるわけにはいかない」という意見が上がっています。

私が米国企業の取り組みを通じて感じたことは、モバイルが顧客との接点を広げるツールだと考えることが重要だということ。予算やKPIをそれぞれ分けて管理し、それぞれの指標によって広告費を考える、といったことはあまり意味がないのではないでしょうか。米国のEC企業では、より顧客が利用して楽しい体験をモバイルで提供し、クロスデバイス利用を促進するための施策を取り入れるといったことで成長を遂げている企業が多いのです。

世界最大級のECに関するカンファレンス「IRCE」メインデイ初日に行われた基調講演で、eBay Inc. のCEO、John Donahoe氏が「Commerce Revolution(コマース革命)」と題した講演を行い、生活シーンに合わせてデバイスを使い分ける「クロスチャネル」について言及しました。

近年のモバイルの急速な普及で消費者のメディアの利用の仕方は変化、メディア産業にも大きなインパクトを与えているとDonahoe氏は説明。モバイルの普及で、消費者は「いつでも」「どこでも」商品情報を検索し、購入することができるようになりました。そのため、「クロスチャネル」の利用が増えてきていると説明しました。

Donahoe氏が強調していたのは「いかに顧客視点に立って考えられるかが企業の命運を分ける」ということ。eBayを利用している人々を対象に、「なぜクロスチャネルを利用するのか?」というアンケートを実施した結果、回答は「「I'm just shopping.(ただ買い物をしているだけ)」」ということでした。

オムニチャネルやクロスチャネルが重要な戦略であると考えるのは米国も日本も同様です。Donahoe氏はリテーラー視点ではなく、顧客視点に立って考えることの重要性を講演の中で繰り返し述べていました。

ウェブサイトは2年半前に立ち上げたばかりで、現在700万アイテムを取扱い、2013年の北米売上ランキングで45位にランクインする家具などのEC企業、WayfairのCEO、Niraj Shah氏の基調講演でも、顧客視点が重要だと指摘していました。Wayfairは創業2002年の家具インテリアショップで開始4年間は全従業員がカスタマーサポートを経験し、顧客の声に耳を傾け商品設計やサイト制作に生かしてきたといいます。

急激な成長を支えてきたのは顧客を中心にした考え方を貫いてきたからだとNiraj氏は説明します。Wayfairを利用する顧客は35歳から60歳の女性顧客が中心。家事、育児、仕事の合間にサイトにアクセスするため、彼らとの最初のタッチポイントはモバイルだということです。

eコマース全体の売り上げに占めるモバイルの売上高は25%程度ですが、その数値以上に重要なのは、eコマース全体の売り上げに対するモバイルの貢献度だとNiraj氏は強調します。その貢献度は40%にも上るといいます。最初のタッチポイントであるモバイルを通じて、パソコンで商品を購入する顧客が多いのでしょう。今後、モバイルからのエンゲージメントを増やすために、クロスチャネル利用を想定したシームレスな体験を提供できるよう準備を進めているということです。

モバイルしか閲覧しない「モバイルオンリーユーザー」も無視できない存在に

「ユーザーとのエンゲージメントを増やすためにもモバイルコマースは重要な戦略になる」と多くのセッションで話題になっていました。一方で、モバイルサイトしか閲覧しない「モバイルオンリーユーザー」の増加が脅威になる可能性も注目を集めています

米国大手のリテーラーであるTarget、Best Buy、Walmartなどでは、現実にモバイルオンリーユーザーが増加しているのです。Targetは最もその割合が多く、サイトを訪問する全体の半数が、モバイルサイトしか閲覧しないユーザー。オムニチャネルリテイリングも重要ですが、こうしたモバイルオンリーユーザーの対策は今後より一層重要になるのでしょう。

アプリがショップスタッフと顧客との距離を縮め、オムニチャネルの推進役に

モバイルコマースにおいてアプリ(iOS)を活用した成功事例もいくつか紹介されました。「Mobile Commerce: Get ready today for tomorrow」と題した講演では、ネット専業のアパレルブランドであるModClothが自社の事例を共有しました。

ModClothは2006年にサイトを立ち上げ、2012年頃にはモバイルからのアクセスが急増。急遽モバイルに最適化したサイトをオープンしました。その翌年の2013年秋には、iPhoneやAndroidアプリ、タブレットサイトを次々にオープン。3Qの終わりにはモバイルからのアクセスは全体の6割以上を占めるようになったということです。

ところが、モバイルの売上高は売上全体の3割程度と伸び悩みました。「消費者は違った目的でデバイスを利用している。スマートフォンはリサーチ、ブラウズするために、そして商品の購入はパソコンで行う。モバイルが顧客との接点を広げるためのツールなのだから、我々とつながる楽しさを提供することが重要」とModClothのUdi氏は指摘。この反省を生かすために目をつけたのがアプリでした。

自分の身長やサイズなどを登録することで自分のサイズにぴったり合った商品をリストアップさせる機能(Fit For Me)や、スマートフォンで簡単にお気に入りが登録できる「Love it or Leave it」を実装。「Love it or Leave it」は2014年の4月のローンチ以降、83万商品が「Love」登録され、それは商品全体の22%を占めています(2014年6月現在)。

最終日にモバイルの基調講演として登壇した、アパレルブランドのFree PeopleのJed Paulson氏も同じくアプリの提供とユーザーエンゲージメントについて自社の事例を紹介しました。Free Peopleは老舗アパレル企業のUrban Outfittersグループ企業で、急成長しているアパレルブランドです。

2004年にeコマースサイトを立ち上げ、従来の伝統的なロイヤリティープログラムなどを実施するもののまったく成功せず、顧客とのエンゲージメントを深めるためのアプリ提供を選択。実現したかったことは、写真機能を搭載し、Free Peopleのショップスタッフ、ファンが簡単にフォローし、商品などをシェアできるようにすることでした。

実際にこの機能を搭載することで想定以上にファンによる商品購入からの着用自撮り、シェア、フォローが瞬く間にファンの間で利用が広がりました。ローンチから6週間後には7万5000アプリがダウンロードされ、アプリからの売上はFree People全体の売上高の10%まで占めるようになりました(Free Peopleは実店舗の売上構成比率が高く、ウェブは大きくはない)。

また4万以上の写真がアップロード、共有され、100万以上の「hearts(Facebookのいいね!のようなもの)」が付きました。アプリは当初、顧客とのエンゲージメントを増やすために立ち上げたのですが、アプリへのプッシュ通知などを通じ、店頭に足を運ぶユーザーが増加。店頭では簡単に商品情報やレビューにアクセスできるツールとして利用が普及しました。

Jed氏は最後にこう説明しています。「アプリがショップスタッフと顧客との距離を縮めることに成功し、ショップスタッフのモチベーションを高めることができた。オムニチャネル戦略ではスタッフの教育も重要だと言われるが、自然とスタッフの間にデバイスの垣根が消えたのもこのアプリのおかげだ」。

◇◇◇

今回の米国EC企業の事例の要点を以下のようにまとめてみました。

  • 顧客との接点を拡大するためには顧客視点に立って考えることが重要である
  • モバイルの普及はすなわちモバイルからのエンゲージメントを深めるチャンスである
  • PC、モバイル、それぞれの役割を認識した上で、KPIなどゴール設定が重要である

私がIRCEで感じたことは、米国の企業はオムニチャネルやクロスチャネルといったキーワードに対応するのは、全て顧客視点に立ったマーケティングを行うためではないかということ。オムニチャネル、クロスチャネルという言葉にとらわれるのではなく顧客視点に立った時に何ができるか考えることが重要なのではないでしょうか

そして、顧客とのエンゲージメントを深めるためにも今まで以上に顧客との接点を広げ顧客に支持されるサービス、商品の提供が重要になると思います。


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武藤 綾子

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武藤 綾子(むとう・あやこ)

コマースリンク株式会社
営業本部 戦略企画担当部長

1996年慶応大学環境情報学部環境情報学科卒業。外資の生命保険会社で勤務後、2005年にコマースリンクに入社。
大手ECサイトの担当営業として様々な業種の企業の自社サイトへの集客拡大、売上拡大を実現。2011年からECサイト向け無料セミナーの開催や展示会出展など、EC企業に役立つ情報発信を手掛ける。現在は、ビジネスアライアンスや市場調査を担当。

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