最新のオムニチャネル事例が分かる! リアルとネットを融合する米国大手小売店のアプリ体験記
スマートフォン(スマホ)の台頭は、消費者とリテールの間に新しい「買い物体験」を創りだすことを可能にしました。リテール側にとって新しい価値を創造することができる絶好のチャンスです。米国ではオムニチャネルは当たり前。日本のリテーラー、通販・EC企業も知っておきたい、新しい「買い物体験」を創り出す米国の大手リテーラーの取り組みを、私の実体験を基に紹介します。
高い大手小売チェーンのオンライン売上の成長率、オムニチャネルがけん引
2014年6月10日~13日にシカゴで行われたIRCE(Internet Retailer Conference & Exhibition)のレポート第2弾(前回のレポートはこちら)は、アメリカの街で実際に試してみたリテールチェーンのオムニチャネル体験です。
今回、6月12日の「General Session」で、米国の「Internet Retailer」のTOP500について紹介がありました(ちなみに、米国のEC売上高トップ企業をまとめた冊子「TOP500 GUIDE」は、IRCEに参加するともらえます)。2012年から2013年の小売全体の市場規模は3.67%増に対して、オンライン売上高は16.87%増加。米国でもオンラインでの売り上げが圧倒的に伸びています。
中でも、大手リテールチェーンのオンラインに関する成長率をピックアップすると、30%を超えている企業が実に多いのです。
- ウォルマート 30%
- メイシーズ 31%
- コストコ 48%
- ホームデポ 54%
- ノードストローム 30%
平均成長率よりも高い成長率を見せているリテーラーは全体の34.4%。リテールチェーンで絞ると39%となり、全体と比較して伸び率は高めです。
これらの数字を見て、オムニチャネルに果敢に挑戦している米国小売チェーンのこれからの施策が楽しみになりました。
日本でも、イオンやセブン&アイといった大手リテールチェーンのオムニチャネル戦略が注目されています。今まで通り、日常生活で利用してきたお店との“ツナガリ”が、スマホの台頭によってより一層強くなっています。世の流れとして、オンラインを利用する時にも“フィジカルなツナガリ”のあるお店で、満足度の高いお買物体験を選択するというコンシューマーが増えていくのも、消費者心理を考えると当然の流れのように感じます。
お店の近くに行くとクーポン利用ができるプッシュ通知が届く米国のオムニチャネル用アプリ
こんな状況を目の当たりにしたら、実際に体験してみたくなるもの。アメリカのリテールチェーンのオムニチャネル戦略を現場検証してみよう! となり、ニューヨークとシカゴにて、大手小売チェーンの「Target」とWalgreensグループの「DuaneReade」、そして「STAPLES」のアプリを試し、米国のオムニチャネルを体感してきました。3社とも、オムニチャネルに戦略的に投資しているリテールチェーンです。
「Target」は日本で例えるとイオンのようなスーパーマーケット。「DuaneReade」はマツモトキヨシ。「STAPLES」は例えるのが難しいですが、オフィス用品のスーパーといったところです。
「Target」は、米国オンライン売上TOP500の18位、「DuaneReade」は、「Walgreen」傘下なのでEコマースのプラットフォームは「Walgreen」と統合されています。ちなみに「Walgreen」は43位。そして、「STAPLES」は堂々3位と、米国を代表するEC実施企業なのです。
各社ともとても面白いアプリでしたが、今回は「Target」が昨年リリースした「Cartwheel」という節約に役立つ(?)クーポンアプリについて紹介します。「Target」が提供しているアプリは、幾つかあります。まずはメインのオンラインショッピングアプリから。
アプリでは、オンラインショップの在庫だけではなく、実店舗で購入できるかどうかが一目で分かるようになっています。あらかじめ、自分がよく利用する実店舗をセットすると、商品ページに「available at harlem」などの案内が表示され、当該ページに遷移すると在庫の有無が明記されます。
自宅への配送ではなく、近隣店舗などでピックアップできる商品を購入した際は、ピックアップできる店舗を現在地から検索できるようになっています。その場合は「Shipping free」と表示されます。
「Walmart」同様、コンシューマーがどこで購入してどこで受け取れるのかという選択が自由にできるオムニチャネルサービスを実現しています。「Target」は、2012年から2013年にかけてオムニチャネル戦略におけるIT投資を積極化。1800以上の実店舗で通販・ECで購入した商品を店舗でピックアップできるようにしているそうです(日本でもヨドバシカメラが同じように実店舗の在庫がわかり、ピックアップする店舗で何時に用意できるかまでがわかるようになっています。会社の横がヨドバシカメラなのでいつも本当に便利だなと感じます)。
アプリメニュー内に「Mobile Coupons」という実店舗で利用できるクーポン発行機能があり、バーコードが表示されています。実店舗でこのバーコードをレジで提出すると、クーポンの対象となる商品を購入した場合に適用されます。便利なのがiOS6以上のiPhoneに標準インストールされているPassbook(クーポン、航空券、その他モバイル支払などを利用するためのアプリ)にクーポンを登録でき、「Target」の近くに足を運ぶと、「Passbook」が利用できるクーポンがあることを通知エリアに表示し、知らせてくれるのです。
「Passbook」は日本では利用されている印象があまりありませんが、「DuaneReade」の会員証も「Passbook」に入れるような仕様になっていました。米国の大手百貨店「macy's」などもそうでした。
バナナを購入したことが友人にバレる? クーポン利用状況を友人と共有する機能もある
商品リストを見ていると、「Cartwheel offer」というアイキャッチのある商品があります。これは実店舗で使えるクーポン対象の商品で、「Target」のもう1つのアプリ「Cartwheel」です。利用するとクーポンでお得に買い物ができます。
「Cartwheel」は、「Target」で使えるお得クーポンを何百も集めたアプリ。「欲しいな」と思った商品のクーポンをあらかじめ取得しておくことで、購入時にレジで割引されます。面白いのがFacebookと連携していること。Facebookの友達で「Cartwheel」を使っている人がいると、友達のクーポンの取得、利用状況が分かるようになっています。そのため、私がバナナのクーポンを取得していることが友達にバレバレということなんです(笑)。
せっかくなので、「Cartwheel」で取得した「バナナ」のクーポンを使おうと、レジに並び、「Passbook」からバーコードを出すと、店員がスキャンしてくれました。見事にバナナを安く買うことができ、「Cartwheelを見ると、私が「$0.07得をした!」ということがFacebook友達にも分かるようになっています。ランキングもされていて私以外の友達でまだクーポンを使った人がいなかったため、「得した人ランキング1位!!」になっていました(笑)。
どんどんアプリを使うと、自分が得した金額(total savings)が上がり、「節約できた!!」と満足できる(?)アプリのようです。
※total savingsは友達に対して非表示にすることもできます。
「Cartwheel」を使って買い物をするフローは、
- 今日買い物に行こう
- 安くなっているものあるかな。Cartwheelを見ておこう
- 歯磨き粉なくなりそうだし買っておこう。クーポンゲット)
- (店に入って)歯磨き粉を買おう
- レジでCartwheelのバーコードをPassbookから出す
- お得に買い物完了
- いくら得したかCartwheelで確認してほくそえむ
という感じでしょうか。
お得情報を毎日取得するツールは折り込みチラシからアプリへ?
毎日チラシをチェックする変わりに、「Cartwheel」をチェック。新しいクーポンが出れば取得する。期限が切れそうになると、通知が届くのでその前に商品を買いに行く…という消費行動を促すためのアプリなのでしょう。
ただ、欲しいクーポンが探しにくいという声があり、改善の余地があるアプリのようです。「Facebook連携もちょっと…」という意見も多いようなので、今のところ爆発的に使われているという感じでもなさそうです。その内、レコメンドやパーソナライズ機能が搭載され、より便利になると、「Cartwheel」を使った新しい買い物習慣ができ上がるのかもしれません。
ちなみに今回、バナナ1房(7本で1房)を購入し、7円程度のお得となりました。その時のレシートですが、バナナ1本ずつに価格と割引が記載されています。どういうレジの打ち方なのか気になりましたが、まぁそれは気にしないでおきます…。
私は、eコマースプラットフォームの開発を生業としていますが、以前から言われ続けている「ネットとリアルの融合」が、徐々に本格的な流れとなり、eコマースという領域はもはや消費者にとって「特別な買い方」ではなく、日常生活のお買物シーンで当たり前に利用するチャネルになりつつあることを実感しました。
eコマースはスマホの台頭により、バーチャルな世界から日常生活のリアルなツールとして昇華していっているように思えます。
冒頭でウォルマートのオンライン成長率が30%であることを筆頭に、米国大手リテールチェーンの成長が著しいと説明しました。これに対し、Amazon.comの2012年から2013年の成長率は20%。ウォルマートのオンライン売上は$10billionに対し、Amazon.comの売り上げは$60billion。Amazon.comの成長率20%分の売り上げに相当する売上高が、ウォルマートの全オンライン売上高という規模なのです。
つまり、ウォルマートのオンライン売上高が30%成長しているとはいえども、Amazon.comには遠く及ばない現状がまだまだ続いています。
とはいえ先日、全米小売業協会(NRF)が発表していた2013年度の全米小売業ランキングでは、ウォルマートが断トツの首位。Amazonは9位。ウォルマートはまだまだEC化率2%です。今後、オムニチャネルを本格化し、本気でAmazonに立ち向かうとのこと。これは面白くなってきました!
ネットであれ、実店舗であれ、これからの買い物シーンがどう変わっていくのか、本当に楽しみになってきました。これはリテール側にとってチャンス以外の何者でもありません。
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