「Amazon Pay」は導入して当たり前の時代?「侍カート」が実現した標準実装のスゴさとオプション提供との違いとは
Amazon(アマゾン)が提供するオンライン決済サービス「Amazon Pay」の導入店舗の多くで、コンバージョンレート(CVR)やLTV(顧客生涯価値)が向上している。つまり、消費者にとって使いやすく、求められている決済方法だということ――。
こうした状況や考えの下、FIDは定期購入ができるASPカート「侍カート」に「Amazon Pay」を標準実装した。カートなどのECプラットフォーム側では「Amazon Pay」は決済手段の1つとして、オプション提供するのが一般的。「侍カート」は標準化によって、ECサイトの開設と同時に「Amazon Pay」が利用できるようになる(Amazon側での審査は必要)。
ECプラットフォーム側で「Amazon Pay」が標準実装されるのは日本初のケース。FIDは、Amazonのアカウント情報を使って他の自社ECサイトでネットショッピングができるようになる「Amazon Pay」の標準実装を通じて、「多くのECサイトの収益アップに役立てたい」と意気込む。「Amazon Pay」を導入する自社ECサイトの急拡大を予感させる今回の取り組みが実現した背景などについて取材した。 写真◎吉田 浩章
「Amazon Pay」の標準実装とは何なのか?
EC事業者が「Amazon Pay」を利用するには、「Amazon Pay」に対応したASPカートなどのECプラットフォーム、ECサイト構築パッケージなどを使う必要がある。かつ、ECプラットフォーム側ではオプションとしての提供が一般的であり、月額利用料などを徴収しているケースが多い。
また、ECサイト構築パッケージを使うEC事業者であれば、「Amazon Pay」を導入するための開発が必要となり、追加コストや新たな手間などが発生する。
今回、「侍カート」ではECサイト開設ステップの中に「Amazon Pay」を標準機能として組み込んだ。「Amazon Pay」の審査に申し込み、審査が通ればすぐに利用できる環境を整備している(既存顧客も同様)。
実際には、「Amazon Pay」の審査を、「侍カート」のシステムアカウントを発行した段階で申し込むように開設ステップの流れの中に組み込んだ。審査を通過すれば、EC事業者は手間とコストをかけることなく「Amazon Pay」を利用できるようになる。日本では初めてのケースであり、グローバルで見ても初の標準実装で、「画期的な取り組み」との声があがっている。
「侍カート」ではこれまで、「Amazon Pay」の利用には月額利用料金として5000円を導入企業から徴収していた。それを今回、標準機能として組み込むことで、「Amazon Pay」の利用料金を無料にし、決済手数料はAmazon側が定めている決済金額の4%(デジタル商材は4.5%、クレジットカード決済手数料込み)で提供する。
ECプラットフォーム側で発生する「Amazon Pay」に関する開発コスト、運用コストを月額料金で回収および補塡(ほてん)していくモデルを捨て、まずは「侍カート」導入店舗の収益アップの達成につなげるという方針に転換したことを意味する。FIDはこう説明する。
FIDは「侍カート」に「Amazon Pay」を標準実装することによって、「侍カート」を利用している販売事業者のビジネスの成長を加速させることをめざしている。消費者の満足度アップがEC事業者(クライアント)の満足につながっている。消費者が求めるサービスを導入するのは必然であり、消費者の満足度を向上させる方法を考えると「Amazon Pay」の導入は必須だと考えた。自社の収益も必要なのだが、それ以上にエンドユーザーのことを考えると、「Amazon Pay」を標準実装しない理由はなかった。(FIDの和田聖翔社長)
「侍カート」が惚れ込んだ「Amazon Pay」とは
「Amazon Pay」は、Amazonアカウントに登録した情報を使い、Amazon以外の自社ECサイトなどでログインや決済を行えるようになるオンライン決済サービス。2015年のサービス開始から約3年で、利用ECサイト数は数千社に達している。アメリカ、イギリスやドイツなどでも展開しているが、日本の伸び率は他の国と比べて高く、自社ECサイトからの利用ニーズが急増しているという。
「Amazon Pay」を導入したECサイトでは、その自社ECサイトを使う消費者に対して次のようなメリットを提供できる。
- 「Amazon.co.jp」のID/パスワードひとつで買い物できる
- 住所やクレジットカード情報の入力が不要
- Amazonアカウントへのログインと注文確定の最短2クリックで決済が完了する
そのため、「Amazon Pay」を導入したECサイトでは、①新規会員が獲得しやすくなる②CVRが向上しやすくなる③不正注文が防げるようになる④LTVが向上しやすくなる――といった効果を期待することができるという。
新規会員獲得&CVR向上に役立つ
Amazon Pay事業本部 井野川拓也事業本部長によると、あるクライアント企業では導入後に「購買率・新規顧客数がともに1.5倍になったと事例がある」と言う。初めて利用するECサイトでは、顧客情報の入力が必須。だが、「Amazon Pay」を導入しているECサイトであれば、その手間や時間を省くことができる。
入力作業が面倒で買い物していなかった消費者が「Amazon Pay」の利用をきっかけに購入するようになったのではないか。情報入力が手間で買うことをやめてしまった消費者に対して、便利な買い物環境を与えることができていると思う。(井野川本部長)
また、自社ECサイトへのAmazonのロゴ掲載、「Amazon Pay」が利用できる、といった表示の部分が安心感の提供となり、商品購入につながるケースが多いというEC事業者の声もあると井野川本部長は語る。
「Amazon Pay」で商品を購入いただくと、マーケットプレイス保証の対象にもなる。それが購買の後押しになっている可能性がある。初めてのECサイトで購入するというのは、少なからず消費者の心理的ハードルが上がる。「Amazon Pay」がそこを少しでも払しょくできるといいと思う。(井野川本部長)
井野川本部長が指摘したAmazonマーケットプレイス保証とは、Amazonマーケットプレイスでの購入時に、販売事業者と購入者の間でのトラブル時において、配送料を含めた購入総額のうち、最高30万円までAmazonが保証する制度のことで、「Amazon Pay」を利用した場合には、同等の保証対象となるというもの(一部対象外となる商品・サービスも有り)。
Amazonの堅牢なセキュリティー環境
「Amazon Pay」はAmazonがアカウントやカードの不正利用を24時間365日監視しているため、不正注文を防ぐ効果もある。「Amazon Pay」を導入したことでリスク管理のコストを削減し、不正注文の被害も減ったという事例もあるという。
「Amazon Pay」はAmazonがグローバルで展開している不正検知システムを利用している。「Amazon Pay」は消費者とEC事業者の双方に安心感を提供できると考えている。(井野川本部長)
LTVの向上が期待できる
Amazonは日本で最も利用されているECサイトの1つ。そのため、Amazonアカウントに登録されているクレジットカード情報は、常にリフレッシュされ最新の状況になっているケースが多いと考えられる。
そのため、「カードの期限切れといったリスクが少ない最新情報にアップデートされた状態になっているため、『Amazon Pay』がLTV向上を期待していただける1つのメリットになっていると思う」と井野川本部長は分析する。
「侍カート」利用店舗、「Amazon Pay」経由の受注件数&決済金額は大幅増加
「侍カート」は定期購入に特化したECサイト構築のショッピングカートで、サンプル提供やお試し商品の購入から本購入へつなげていくツーステップマーケティングなど、定期購入に必要案作業を自動化することに集中した開発を行っているのが特徴。
「Amazon Pay」は、定期購入などに活用できる「Auto Pay機能」(購入者が注文時に選択したクレジットカードを利用し、今後も支払いすることに同意すると、「自由に金額やタイミングを設定し、請求することが可能」「顧客へのサービス提供内容に応じて、頻度や金額などのカスタマイズが可能」というもの)を実装している。定期購入+追加購入にも対応できるため、「侍カート」との相性も良い。
「侍カート」を利用しているある事業者では、「Amazon Pay」の導入月と直近月を比較したところ、受注件数、決済金額ともに増加。そして、「Amazon Pay」の利用率、決済金額もともに増えている。
FIDの和田社長はこう言う。
「Amazon Pay」の導入によってスムーズな買い物が可能となり、従来はカゴ落ちして購入に至っていなかった消費者が商品を購入している可能性がある。
また、コンバージョンだけでなく、LTVの向上にも寄与している数値も出ている。LTVの向上は、クライアント企業が長く商売を続けていくためには必要不可欠な指標であり、「Amazon Pay」はそれに大きく貢献していると思う。
自分自身、クレジットカード情報をいろんなサイトで入力するのは手間がかかると感じるし、不安を感じて入力したくないケースもある。「Amazon Pay」の便利さ、安心感がLTVの向上に一役買っているのだと感じている。(和田社長)
ちなみに、FIDが参加したあるコンペで案件を獲得した際、発注企業から「当社はエンドユーザーの利便性などを考えると、Amazon Payを使わなければならない。だからFIDを選んだ」といった意見を言われたことがあるという。そのことを踏まえ、和田社長はこう語る。
新規顧客を獲得できなければ、リピート購入にもつながらない。まずは消費者に商品を買ってもらう必要がある。それを達成するには決済手段のバリエーションを増やすことが1つの重要な要素。それは、顧客満足度の向上、そしてゆくゆくはLTVの向上にもつながる。(和田社長)
今後の展望
「Amazon Pay」を標準実装するECプラットフォームが増えれば、自然と「Amazon Pay」を導入するECサイトが増える。こうした流れが生まれてくると、「自社ECサイトでAmazon Payで決済するのが当たり前の時代になるかもしれない。
FIDが踏み切った標準実装は、こうした可能性を秘めているという声が出ている。事実、和田社長は今回の標準実装を機に、「侍カート」のさらなる飛躍を見据える。
開発者目線でのサービスの開発ではなく、消費者の声を聞いた上でこれからも開発を進めていきたい。たとえば、デジタルコンテンツや役務の分野。家賃の支払いなど定期的に支払いが発生するサービスに対して、今回のような仕組みが生かせる時代がやってくるはず。消費者が買い物・支払いがしやすい、よりよい社会作りを担っていきたい。(和田社長)
井野川本部長も、Amazonの進化に応じて、「Amazon Pay」も変化対応していくと話す。たとえば、クラウドベースの音声認識サービス「Amazon Alexa」に日本語対応した「Amazon Echo」などのボイスコマース分野。
現在、音声を通じて「Amazon プライム」対応商品を購入できる機能が搭載されている。それが、将来的にはさまざまな自社ECサイトの商品を、声を通じて探し、購入できるようになるかもしれない。井野川本部長はこう説明する。
今後、ボイスコマースの分野を含めて、「Amazon Pay」はいろんな使い方が出てくるだろう。実際に欧米では「Alexa」で「Amazon Pay」を使った決済サービスがスタートしている。新しい分野にも積極的に取り組んで、お客さまの利便性向上に取り組んでいく。(井野川本部長)
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