三陽商会のEC売上が伸びている理由と自社通販サイトの強化策とは
三陽商会は、EC事業を成長戦略の柱のひとつとして、商材や顧客接点の強化・拡充などに努め、2018年12月期のEC売上高は前期の約50億円から65億円に引き上げる。
前期のECについては、自社EC売上高が37億円、他社モール経由が13億円で、それぞれ前年から20%弱伸びたほか、自社ECの割合が74%と他のアパレルに比べて高い比率で推移している。
主力の自社ECは実店舗と連動した会員獲得が奏功し、前期末時点で会員数が50万人を突破した。同社は16年9月に店頭とECで顧客情報およびポイントの統合を始動し、主力の売り場である百貨店でも対象店舗を広げ、昨年12月に三越伊勢丹グループでも三陽商会の会員制度「サンヨーメンバーシップ」が利用可能になり、ほぼ全店に導入。同社ブランドと親和性の高い層に通販サイト「サンヨー・アイストア」としてもリーチできるようになり、新客獲得を下支えした。
加えて、自社ECだけで実施していたポイントキャンペーンなどの販促が実店舗との共通施策として実施できるため、両チャネルで相互送客が進んできているようだ。
また、自社ECの欠品時に店舗在庫を引き当てて販売する「お取り寄せ購入」サービスがEC売り上げに貢献している。店頭販売員へのEC啓発活動や評価制度の浸透もあり、自社EC売上高に占める同サービスの割合は10%前後で推移。自社ECの拡大に伴って金額も増えている。
他社モールについては、影響力のある「ゾゾタウン」が実施する施策に左右される部分も大きいが、ブランドクーポンやタイムセールなどの販促施策をうまく活用したことで、売り上げを伸ばしたブランドも出てきている。
今期は、自社ECで扱う商材の拡充に着手する方針で、EC専用ブランドの販売や、「サンヨー・アイストア」で他社商材を販売するモールビジネス化などに取り組む。
同社はブランドの多くが百貨店を主販路とし、EC市場では高価格帯の商品が大半を占めるため、既存ブランドだけではEC利用者のニーズに応えきれないと判断した。また、構造改革に伴って複数ブランドを廃止しており、品ぞろえを厚くするためにもEC専用ブランド「ルジュール」を昨年9月にスタートした。
同ブランドは16年に休止した婦人服ブランドをEC専用に転換したもので、大きな投資をしなくても迅速に立ち上げられる利点があった。
ターゲット層は従来と同じ20代半ばから30代の働く女性に設定する一方、EC専用ブランドとしてウェブビジネス部が主導権を持ち、データなどを活用しながら商品を企画するほか、EC利用者が買いやすい価格に抑えて展開する。
自社ECでは商品の原価率をある程度高めても利益が得られるため、オリジナル商品だけでなく、ターゲット層が好む商品の買い付けも行っており、「ルジュール」ではバッグやアクセサリー、アロマディフューザーなどの雑貨も提案する。
自社ECのモールビジネス化についても既存客との親和性をベースに品ぞろえを広げ、売り場の魅力を高める狙いで、新たな商品・サービスを提供できるプラットフォームを構築する。第1弾としては昨年12月に時計のセレクトショップ「ノルディックフィーリング」の商品を期間限定でテスト販売し、クリスマスのギフト需要に時計がマッチしたこともあって予想以上に売れたという。
今期は、アンケートなどで得た自社会員の購入意欲が高い商材をテスト販売したり、三陽商会が展開する「マッキントッシュフィロソフィー」や「ポール・スチュアート」といった人気ブランドでは衣料品以外のサブライセンス商品もあるため、こうした商品の販売も視野にある。
自社ECの検索機能など改善、外部モールへの出店も加速
三陽商会は今期、EC事業の成長に向けて顧客接点の拡大や自社通販サイト「サンヨー・アイストア」の利便性向上などに取り組む。
消費者との接点を増やす施策では、4月中をメドに独自のウェブメディア「サンヨー・スタイル・マガジン」を開設する予定で、ブランド横断型のファッションコンテンツを毎月30程度発信して自社ECへの新規送客や既存顧客のリピート化につなげる。
また、外部のファッションECモールへの出店を加速して新たな客層にリーチを広げる方針で、ストライプインターナショナルの「ストライプデパートメント」と三井不動産の「アンドモール」には3月から、「伊勢丹オンラインストア」をはじめとする三越伊勢丹のECモールや丸井の「マルイウェブチャネル」には4月から順次、出店を進める。新規の外部モールとは機会ロスなどのリスクを回避するためデータ連携を前提に出店する。
三陽商会の前期EC売上高約50億円のうち、自社ECは37億円と全体の7割強を占め、他のアパレルと比べて自社EC比率が高く、外部モールを通じた販売については新規出店を強化することで“伸びしろ”は大きいと見ており、外部EC経由は前期の13億円に対し、今期は20億円を計画する。
また、同社ではヤマトホールディングスが都内の商業施設「アトレ大森」で今年1月から始めたファッション通販サイトの商品の受け取り・試着や返品ができるサービス「フィッティングステーション」にもスタート時から参画して消費者とのタッチポイントを増やしている。
一方、EC事業の軸となる自社ECのユーザビリティー向上にも本格着手。前期上期までにゲスト購入機能や楽天ID決済に対応したが、今年2月には自社EC上で気になる商品と、過去の購入アイテムや手持ちの服とのサイズ比較ができるバーチャサイズ社のサービス「サイズをチェック」を導入したほか、今後は検索性などの使い勝手を追求し、サジェスト(入力補助)機能を導入するほか、レコメンド機能についてもAIを活用し画像検索で類似アイテムを表示する複数のツールを上期中にテストする。三陽商会ではスマホ利用者の拡大に伴ってライトユーザーの訪問者が増えていることから、「商品と出会いやすくすることが大事」(安藤裕樹IT戦略本部ウェブビジネス部長)とする。
また、同社はライフスタイル型ストア事業の強化に乗り出しており、一環として、家具やインテリアのネット販売で成長しているベガコーポレーションと今年2月に業務提携。ECチャネルでの取り組みもカギになると見られ、まずはベガのインバウンド型越境ECサイト「ドコデモ」を通じた自社ブランドの海外販売を始める考え。
ベガは買いやすい価格帯のインテリアや家具を企画・製造し、通販サイト「ロウヤ」などで販売しており、百貨店の売り場が主力のファッションブランドを展開する三陽商会とは取り扱い商材の価格差があるものの、「組み合わせの妙でシナジーが生まれる」(杉澤幸毅執行役員)と見ている。
同社によると、昨今の消費者は服や雑貨、インテリアなどライフスタイルに欠かせない商品を購入する際、お金の使い方はすべての商材で同水準ではないことから、「価格はミックスでいい」(同)と判断。加えて、ベガは「楽天市場」など競争が激しい総合ECモールでも商品とコンテンツ、マーケティング力をベースに売り上げを伸ばしており、「縦売りできる商材を開発できるノウハウは、とくにECでは重要」(安藤部長)としている。
両社は今後、新たなライフスタイルブランドの共同開発なども含め幅広く協業を検討していく考えのようだ。
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