【WeChatの日本戦略】中国人観光客の利用拡大で売上5倍の事例も。富士急ハイランドは決済を全面導入
山梨県富士吉田市にある「富士急ハイランド」。広大な敷地に「ド・ドンパ」「FUJIYAMA」といった絶叫系アトラクションが数多く設置されている人気遊園地に、中国大手IT企業Tencent(テンセント)の無料インスタントメッセンジャーアプリ「WeChat」のモバイル決済サービス「WeChat Pay」が全面導入された。中国向け越境ECで注目される「WeChat」と「WeChat Pay」。「富士急ハイランド」で行われた日本市場における事業戦略が語られた戦略説明会の内容を紹介する。
「WeChat」で何ができるのか
富士山エリアの観光客は年間およそ3,600万人。今やその半数以上が外国人観光客という。「WeChat Pay」の全面導入により、富士山エリアのほぼすべての観光施設で、中国人観光客は日本円を持たずに観光を楽しめるようになったという。
テンセント・ホールディングスの李 培庫氏(WeChat Pay担当バイスプレジテント)は、「WeChatを使うことで、富士急ハイランドの魅力をまだ知らない人にも広く知ってもらえる」と語る。
「WeChat」には決済だけでなく、「公式アカウント」「ミニプログラム」(WeChat上で動くインストール不要のアプリに似たプログラム)「モーメンツ」(「WeChat」内でユーザー同士が情報を共有し合う機能)といったさまざまなソリューションがあります。特に「モーメンツ」は「チャット」の次に使われている機能で、写真をシェアしてコメントをもらうものですが、中国人は暇さえあればこの「モーメンツ」を使っています。我々はマーケティングのための「モーメンツ広告」を用意しています。
新規顧客の獲得から興味関心の誘発、決済に至るまでの売上向上、そして決済後の顧客化・会員化といったCRMの機能まで、一気通貫で備えています。こういったソリューションをぜひ活用してほしい。(李氏)
WeChat Pay 海外ビジネス担当の殷氏(シニア・オペレーション・ディレクター)によると、「WeChat」の月間アクティブユーザーはおよそ10億。そのうち半数以上のユーザーが毎日90分以上アプリを使用しているという。また、公式アカウントは2,000万超。「WeChat Pay」の月間アクティブユーザーは8億人を超え、加盟店も100万店を超えた。
テンセントの日本における事業展開
テンセントは2017年7月、「WeChat Payオープンセミナー」を開催し、日本における加盟店や代理店の募集を開始した。1年間で取引本数は6.2倍、取引金額は5倍、加盟店数は6培、アクティブ加盟店(「WeChat Pay」の取引が毎日発生する店舗)の数は5倍に伸長した。同時に来日する中国人観光客も増えているため、加盟店も効果を上げているという。
テンセントは「オープン」と「フェア」を大原則としており、「WeChat Pay」の導入に関しては、どんな企業でもオンラインから申請できる。申請内容が現地や中国の法規制に沿っていれば、「WeChat Pay」のパートナーとしてサービス提供が可能。公式アカウントについても中国以外の国からもオンラインで申請できる。審査や承認のプロセスは中国国内の企業と同様だ。
「WeChat Pay」は単なる決済手段ではありません。「WeChat」の膨大なトラフィックを加盟店に提供できます。「WeChat Pay」以外にも「公式アカウント」「モーメンツ広告」「ミニプログラム」などを活用すれば、ターゲットユーザーに正確にリーチでき、消費前、消費中、消費後のすべてにおいてマーケティングソリューションを実行できます。
「WeChat ID」の判別方法は非常に簡単で、ログイン機能やIDの機能を使って自社の顧客へのインサイトを深めることができます。(殷氏)
「WeChat Pay」の「フラッグシッププラン」とは
次の1年は、「WeChat」のフルソリューションを提供できる深い提携を、富士急ハイランドのような各業界のリーダーと行いたいと考えています。スモール、ミドルビジネスにも同じように注目しています。我々が望むのは中国人が来日した際、いろいろなシーンでWeChat Payを使えることです。(殷氏)
フラッグシップ提携(旗艦店提携)を行うと、テンセントから専属の担当が付き、キャンペーンの設計やポスターやPOPといった店内販促物の制作、マーケティングリソースの提供などが実行される。テンセントがフラッグシップ提携を行っている日本企業は、新千歳空港、ドン・キホーテに続き、今回の富士急グループが3社目。
今後は、「WeChat」上の広告枠である「モーメンツ広告」の解放、「公式アカウント」や「公式ミニプログラム」といったリソースの公開など、リソースをオープン化する計画があるという。
中国人観光客の利便性を高めるために
富士山の周辺はここ数年、外国人観光客、特に中国のお客さまにたくさんお越しいただいています。私どもにとって最も大切な中国のお客さまに、少しでも快適に便利に過ごしていただくために、2017年11月に「WeChat Pay」を導入しました。
このたび世界で初めての「WeChat Payスマート旗艦遊園地」という立場を与えていただき、大変嬉しく思っています。今後はさらにさまざまなプラットフォームを進化させ、中国の皆さまにより快適に富士山観光を楽しんでいただきたい。
こう語ったのは富士急行 代表取締役社長の堀内光一郎氏。富士急グループではテンセントと提携し、「WeChat」公式アカウントの開設、中国内においてネットでチケットを購入できるシステムを導入したりするなど、中国人観光客の招致に積極的に取り組んでいる。
富士急行によると、河口湖駅の利用者のうち2014年度は35%だった外国人観光客が、2017年度には53%に拡大した。また、河口湖近くのロープウェイも、2014年度は外国人観光客が30%だったが、2017年度には64%に拡大。今や外国人観光客が半分以上を占めている。
特に多いのが中国人観光客。そのため、利便性向上を図ろうと「WeChat Pay」を導入した背景がある。富士急ハイランドでは、中国人観光客は入園料やフードコートでの支払い、富士急グループの電車やタクシーなどでの決済を「WeChat Pay」で行えるようにした。加盟店として提携しているだけでなく、富士急グループの企業が「WeChat Pay」の代理店になり、富士急グループ以外の企業への導入推進も行っている。
「WeChat」の導入事例
事業戦略説明会で導入企業例として紹介されたのは4社。たとえばスターバックス。「ミニプログラム」でソーシャルギフトを展開している。ソーシャルプラグを使い、ギフト券をシェアし合うこともでき、オンライン上でのバイラル効果も得ているという。
海外企業の導入事例
上海ディズニーランドでは園内の混雑緩和をめざし、アトラクションの前にQRコードを設置。順番待ちができる機能やミニゲーム、アトラクションに関する情報を提供している。
ラグジュアリーブランドでも活用が進んでいる。ロンシャンではオンラインでカスタムメイドのバッグを作れる。
最後は公共施設での活用事例。アジア芸術博物館ではミニプログラムを開発し、作品に関する情報提供や音声によるツアーガイドを行い、「スマートな博物館」を実現しているという。
日本企業の導入事例
ドン・キホーテ
ドン・キホーテでは2017年7月1日に「WeChat Pay」を導入。「WeChat」公式アカウントを開設した。現在、417店舗中、62店舗が「WeChat Pay」を導入している。割合は少ないが、これで中国人観光客の9割以上をカバーしているという。その中の頓堀店、新宿歌舞伎町店、MEGAドン・キホーテ渋谷本店の3店舗が「WeChat Pay」旗艦店舗になっている。
決済はお客さまとの最も重要なコンタクトポイント。一度だけのお付き合いではもったいない。「WeChat Pay」は決済だけじゃない。「ありがとうございました」ではなく「ありがとうございます」と、新たなタッチポイントにつなげられる。(陳氏)
新千歳空港
新千歳空港は世界初の「WeChat Pay」旗艦空港。海外旅客の対応を強化するため、国際線の改築工事を2019年の8月まで行っている。2017年9月に国際線23店舗で「WeChat Pay」を導入。以降、国内線を含めて全面的に導入した。2017年12月14日から2018年2月末まで、世界初の旗艦空港として各種キャンペーンを実施した。
キャンペーンの結果、売り上げが最大で5倍になった。件数についても同程度の伸び率で推移している。国際線の売上は30%増加。2018年5月末から「WeChat Pay」が使える自動販売機を新たに導入した。今後はミニプログラムを導入する予定。新千歳空港は商業施設やエンターテイメント施設を備えた楽しい空港。テンセントタッグを組んでPRをしていきたい。(藤井氏)
「WeChat Pay」導入前は国際線でも50%が現金だったが、5か月後には40%になった。現在も旗艦空港だけの特別なキャンペーンを実施中という。