オムニチャネルでスマホ時代の消費者を囲い込むために必要な基盤と3つの顧客アプローチ
「オムニチャネル」施策を実際に進め、ライフスタイルが多様化する消費者を囲い込み、商品購入につなげるには、どうすればいいのか。その実現には、「コンテンツ」「タイミング」「チャネル」を見極めたアプローチに加え、そのアクションを起こすためのデータ収集とプロモーションを表裏一体で実行する基盤が必要だ。スマートフォンの普及で大きく変化している消費者の買い物環境に対応する取り組みとして、近年多くの小売店や通販・EC企業が対策を進めているオムニチャネルの成功に大切なポイントを解説。
オムニチャネル化に取り組む上でIT基盤の整備は避けて通れない
オムニチャネルという概念が小売市場で考え出されたのは2007年と言われる。米国大手百貨店のメイシーズが機会損失を防止するため、モバイル端末で在庫をコントロールしようとしたことが始まりだ。2011年に米国オムニチャネルという言葉が世に広まり、売れない時代のマーケティング手法として注目が集まるようになった。
オムニチャネルの成功企業として知られるメイシーズのケーススタディは、米国を中心としたビジネス系メディアで多く取り上げられている。メイシーズがオムニチャネルマーケティングに成功したポイントは次の2点だ。
- ロイヤルティが高くない → 庶民にも手が届く高級ブランド・中級百貨店
- 店員とお客様の接点改善が原点 → ITのみの施策ではなかった
ネットと実店舗を連動して商品購入につなげるマーケティング手法は、「オムニチャネル」という言葉が日本で浸透し始めた2013年以降、大きな注目を集めている。流通系専門業界誌でも、オムニチャネルを成功に導くための必要不可欠なこととして、以下のような項目が挙げられている。
- オムニチャネル化に取り組む上ではIT基盤の整備が避けて通れない
- ネットと実店舗で顧客や在庫のデータを一元的に管理する
- システム基盤が不可欠
- ネットと実店舗で顧客や在庫データが一元化されていなければ、統合的な分析ができず、マーケティングに生かすことも難しい
このようなオムニチャネルの歴史から成功企業のポイント、業務を進めるために必要不可欠なことを披露したのが、富士通の西本伸一氏。
あまり知られていないが、富士通は数年前からECサイト構築を推進している。そして、富士通のデジタルマーケティングソリューションの中核として、昨年からECサイト向けソリューション「SNAPEC-EX」を提供している。このソリューションは、Web受注カート・決済機能、出荷や在庫管理といったバックオフィス機能などECサイト運営に必要な機能をオールインワンで実現し、これまで大手のEC事業者やネットスーパー、アパレル企業など100社以上に導入されている。また、近年のオムニチャネル需要に対応し、ECやSNSといったネットと実店舗などの複数チャネルを組み合わせ、“個”客ごとに最適な“エンゲージメント(おもてなし)”を実現する「オムニチャネルテンプレート」の販売を始めている。
有機・低農薬野菜の宅配事業を手掛ける、らでぃっしゅぼーやは別々に運営していた2つのECサイトを「SNAPEC-EX」で統合。レコメンド機能を強化するなどして、ECサイトを大幅リニューアルした。これにより、旧ECサイトと比べて120%ほど受注額が増えたほか、レコメンド機能を利用したクロスセルで購入金額は従前比10%増という効果を実現した(詳細な事例はこちら)。
このツールの販売などを通して得たオムニチャネルのノウハウを「ネットショップ担当者フォーラム in 大阪」で、「富士通が目指すオムニチャネルコマース」と題し、オムニチャネルの「いろは」を西本氏が披露した。
オムニチャネルはお客を引き込む「コンテンツ力」を軸に、「タイミング」「チャネル」を見極めてアプローチすべき
店舗、ネット、メール、DM、カタログなど企業と顧客を結ぶチャネルが多様化しているなか、富士通ではオムニチャネルには次の2つの役割があると考えている。
- お客の動きをキャッチするための動きの役割
- キャッチしたお客の動きとコールセンターなどの問い合わせをデータとして統合し、分析・活用していく役割
オムニチャネルは、データを取得するための「入り口」と、そのデータを活用するための「出口」の役割の両方を担っており、そのために「顧客や在庫のデータを一元的に管理するシステム基盤が不可欠」と西本氏は指摘する。
こうしたオムニチャネルが担う役割を踏まえ、現実の買い物シーンで行われているオムニチャネルショッピングについて、西本氏はスライドを用いて次のように説明した。
~ファッション誌を愛読するアラサーのサラリーマン(32歳)のある日の買い物~
【通勤時間の出来事】
あるサラリーマンが通勤中、ニュースサイトに掲載された興味のある広告をクリックしてサイトへ訪問し、新作のネクタイを見つけた。
しかも、「いいね!」をすると100ポイントをプレゼントされるキャンペーン中だ。とりあえず、クリックだけして会社へと向かう。
【翌日の仕事帰り】
たまたま、先日クリックしたお気に入りのショップの近くを通ると、店からクーポンが届いた。全商品10%オフというキャンペーンが実施されているのだ。
さらに、入店すると、自動的にポイントを取得したという通知が届いた。
【店舗~自宅】
しかも、店員はなぜかそのサラリーマンの好みの柄のネクタイをお勧めしてくる。購入の決定権がある奥さんに相談するため、その日はカタログだけをもらい帰路に就いた。
帰宅後、そのカタログを見ると白黒のシールがついており、それをお気に入りのYシャツを吊しているハンガーに貼り付け、アプリで服とその白黒のシールをかざした。
すると、持っていたシャツと気になるネクタイのコーディネートがスマホ上で確認できた。スマホでそのままネクタイを購入し、カード決済。商品の受け取り場所は会社近くの店舗に設定した。
西本氏はこうした消費行動を例に挙げ、「消費者はさまざまなチャネルをまたがって商品を購入する傾向があることが分かる。たとえば、ウェブの広告を閲覧し、ECサイトで商品をチェック。SNSで評判を見て、店舗に出向いて実物に触れる。カタログで比較検討し、専用アプリで試着を通してイメージを確認。購入はWEB注文で行い、店舗で受け取って最後はSNSで情報を発信するといった消費行動が挙げられる」と指摘する。
こうしたオムニチャネルショッピングについて、「消費者は複数のチャネルをわざわざ自ら選んで利用してはいない。便利なものを利用すると自然に複数のチャネルをまたいでいる。だからこそ、消費者の利用する“チャネル全て”で切れ目なく追いかけることが重要。消費者はさまざまなチャネルを“一連の流れ”のなかで使い分けている。この“一連の流れ”で消費者を自社に引き込むためにはコンテンツ力が必要となる」(西本氏)
オムニチャネルでは商品などの「コンテンツ」で引き込んだ消費者に対し、「タイミング」「チャネル」を見極めたアプローチ方法が必要と西本氏は言う。それを行うために、データの収集とプロモーションを表裏一体で実行する基盤が必要なのだと説明する。
部門間における仕事の押し付け合いなどを解決し、成功につなげるための課題とは
オムニチャネルを推進するなかで、大きな問題となるのが部門間の連携だ。米国最大のECに関するイベント「IRCE」でも、オムニチャネルで必要なのは、ネットやリアルなど部門間連携だと米国企業の経営者も言及している。
データの管理はシステム部門、データの活用はマーケティング部門。データを中心に、仕事の押し付け合いが起きているのではないか?(西本氏)
こうしたことを踏まえ西本氏は、「オムニチャネルで得られるビッグデータの活用を部門間で押しつけ合うのではなく、事業を拡大する共有資産と考えることが重要」と説明する。
オムニチャネルを進める上で発生するさまざまな問題をクリアし、企業は多様なチャネルを活用したマーケティングを実現する。西本氏はこれまでに富士通がソリューションを通じて実践した企業のオムニチャネルへの取り組みを紹介した。
最初に挙げたのが、テレビ通販などのジャパネットたかた。富士通が開発した新しい映像媒介通信技術を利用し、スマートフォンをテレビにかざすだけで商品紹介・購入サイトに自動接続できるアプリを提供。映像に目では見えない信号情報を埋め込み、スマホのカメラを映像にかざすと瞬時に認証処理し、商品サイトに誘導できるようにした。テレビとネットのメディアミックスによる販促で、売り上げアップにつながったという。
拡張現実(AR)を使ってリアルの世界とバーチャルの連携を図り、客単価をアップさせるような提案も実施している。ある対象物にスマートデバイスをかざしと映し出される映像に、商品のより具体的なイメージを湧かせる拡張情報を付与し、購買意欲を刺激してクロスセルを行う。現実の映像と、バーチャルの映像を共存・連携することで、「楽しい買い物をサポートすることで、お店のなかでの滞在時間が長くなり、結果的に客単価のアップにつながる」(西本氏)と言う。
商売の本質はオムニチャネルも一緒、お客様をよく知ることが重要
消費者はさまざまなチャネルで買い物を行うようになった今、現実ではテクノロジーや技術論などにオムニチャネルを進める企業の担当者は目が向きがちだ。
こうした状況を踏まえ、西本氏は次のように指摘する。
オムニチャネルとはちょっとしたきっかけでモノを買うこと。企業が新たに試みる施策ではなく、消費者のライフスタイルの変化に合わせ企業内のプロセスを最適に変えて行くことだ(西本氏)
商売の歴史は長い。大昔は物の交換や朝市のような露店商が商売の中心で、現代は実店舗、そしてネットが台頭してきた。EC市場が右肩上がりの拡大を続けるなか、日本の小売市場におけるEC化率もじわりじわりと広がっている。テクノロジーや技術だけではオムニチャネルは実現できない。
オムニチャネルも商売も本質は同じで、お客さまを深く知り、リピーターを増やすこと。お客さまをつぶさに理解し、心に響く売り込みを仕掛けること(西本氏)
富士通の考えるオムニチャネル実践
では、具体的にオムニチャネル・コマースに対応するためにはどのようなアクションが必要となるのか。富士通では、そのために次の3つStepでのロードマップが必要だと考えている。このStepアップにより、データの量と質の拡大を図っていくのだ。
- 【Step1】データ基盤の整備
⇒ECサイトを軸に、情報を蓄積する基盤の構築
- 【Step2】店舗/ECの連携、データの利活用
⇒店舗とECを連携し、顧客情報・ポイント・在庫情報・購買履歴の一元化
- 【Step3】ビッグデータとの融合による高度なデータ活用
⇒自社顧客情報と外部メディアとの融合(プライベートDMP化)
何かソリューションを導入すればオムニチャネルが実現できる訳ではない。そのプロセスも手段も、企業によって何が最適なのかは異なってくる。富士通では、企業にとって一番取り組みやすいECを軸とした提案が現状ではベストだと考えている(西本氏)
しかし、その過程で必要となってくるサービス・システムは多岐に渡っており、自社にとって必要なものを適切なタイミングで導入することは困難である。加えて、実際の導入に際してはSI要素も不可欠となってくる。この点について、西本氏は次のように述べた。
中・長期に渡って企業のマーケティング基盤を育てていくためには、SIのスペシャリストである富士通だけではサポートしきれない範囲も生まれてくるため、社外サービスとの連携も積極的に強化していく必要があると感じている。実際に、富士通の「SNAPEC-EX」とナビプラスの「NaviPlusレコメンド」「NaviPlusサーチ」を連携したネットスーパーでは、ECで20%の受注額増加、顧客購入単価も10%増加させた実績もあり、その施策が実を結びつつある。今後も、富士通では包括的なECソリューションとして、事業立上げの企画から導入・構築・運用まで一貫したサポートで各企業を支援していく(西本氏)
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