Digital Commerce 360 2019/4/4 8:00

「プログレッシブWebアプリ(PWA)」は、まだ理解されていない部分が大きいようです。PWAはWebページのように読み込むアプリケーションで、ネイティブアプリのような機能も兼ね備えています。EC事業者は、PWAとネイティブアプリにそれぞれどのような働きがあるかを理解し、どちらを使うのか、もしくは両方を使うのかを決めなければなりません。

モバイルコマースにおいて、PWAとネイティブアプリは共存できるのか?

端的な答えは「Yes」ですが、補足が必要です。

最も大切なことは、ホリデーシーズンの買い物では、モバイルコマースが主流になりつつあることをブランドが理解することです。

「Adobe Analytics」によると、2018年11月1日から12月31日に購入された商品の40%はモバイル経由でした(スマートフォンとタブレット含む)。デスクトップ経由のコンバージョンが7.4%だったのに対して、モバイルデバイス経由のコンバージョンは10.5%でした。全体として、ホリデーシーズンの支出の57%がモバイル経由だったとAdobeのレポートでは報告されています。

デバイス別のトラフィックとCVR(2018年11月1日~12月31日)
Adobe Analyticsのデータを元に編集部で作成

このデータを見ても、小売事業者がモバイルにより真剣に取り組むべきであることは明白で、モバイル戦略への投資を前向きに検討しない限り、販売機会の損失につなげります。

このデータは、消費者のモバイル経由での買い物が減少する兆しがまったくないだけでなく、より大きな未来予想を伝えています。それは「小売の未来はモバイルだ」ということです。モバイルにおけるコンバージョンの低さは、強固なモバイル戦略をもって解決しなければなりません。

PWAにはWebが不可欠

ブランドは重要な課題に直面していますが、最も大切な課題の1つは、マーケティングや広告、技術獲得のために取っておいた予算をどのように使うかを決定することです。モバイルコマースに関して言えば、ブランドがネイティブアプリかPWAのどちらに投資するべきかを決めることが大切です。

PWAはこの数年使われていますが、これまではそれほど大きな流れにはなっていませんでした。しかし、現在はPWAが効率、ROI、カスタマーエクスペリエンスにおいて、とても重要な役割を担うようになっています

PWAは通常のWebページやWebサイトのように読み込まれるWebアプリケーションですが、今まではネイティブアプリでしか使えなかったオフラインでも利用できる機能、プッシュ通知、デバイスハードウェアへのアクセスなどが可能です。

PWAには多くの利点があることは間違いありませんが、今まで伝えられてきたのは、小売事業者や消費者向けの利点というよりも、テクノロジー企業にとっての利点でした。ですからまだ疑問が残ります。「PWAは小売事業者にとって最善の選択になるのか、もしくはまた、巨大Webテクノロジー企業の食い物にされるだけなのか?」という疑問です。

GoogleがPWAを開始した時、自社の目標達成のためにPWAの機能は大きな可能性を持つことを理解しました。PWAはWebコードを使って構築されているため、ブラウザなどが機能するにはWeb技術が必要なのです。

言い方を変えれば、PWAにはWebが不可欠であり、Webはグーグルの最も高い収益源です。実際、グーグルの収益の84%はモバイルWebの広告というデータもあります。ですから、モバイルWebへの流入を誰にも邪魔されずに継続させることが、グーグルにとっては極めて重要になります。

PWAの弱点

PWAはWebコード(JavaScript、CSS、HTML5)を使ってWeb用に作られた、アプリのようなエクスペリエンスを提供するアプリケーションです。PWAは前述のWebベースのコーディング技術を使って、モバイルサイトでもリッチなエクスペリエンスを提供しようとしています。しかしながら、PWAにはいくつかのデメリットもあります。

PWAのデメリット
  • ネイティブアプリとは違ってアップルのApp StoreからPWAをダウンロードすることができず、ホーム画面に保存することが難しい
  • PWAはカスタマイズされたリッチなエクスペリエンスを継続的に提供できません。アップルのデバイスにPWAを保存できても、ストレージが50MBを超えたり、3週間未使用の場合は削除されてしまうのです。ですから、支払情報、連絡先、ログイン情報などが消えてしまいます。
  • PWAはモバイルサイトの見え方をより良くするという目的が大前提のため、Webコードを用いて構築されています。しかしながら、機能をWebコードに頼っているため限界もあります。Webコードは、ネイティブコードのように早く進化したり機能できないからです。

ネイティブアプリとは

ネイティブアプリはデスクトップやモバイルWebとは異なった、よりリッチな機能をユーザーに提供するために開発されています。ユーザーが望むものを提供し、ブランド認知、信頼性、ロイヤルティを高めるために一役買っています。ネイティブアプリは、モバイルWebよりもずっと魅力のあるエクスペリエンスを提供するため、ロイヤルティも生まれます

  • アプリのユーザーセッション数はモバイルWebの2.9倍、デスクトップの3.1倍
  • アプリを再訪するユーザー数は、モバイルWebの3倍でデスクトップの2.7倍
  • 平均LTVは約12ドル

上記のデータをまとめると、消費者は何度もアプリを訪れ、継続的にお金を使っているということです。何度もアプリを開く消費者が多ければ、ロイヤルティが高いことを意味し、同時にLTV、ROIやブランド認知もアップします

継続的でパーソナルな買い物体験を提供すると同時に、モバイルアプリの利点はユーザーデータが常に保存されることです。時間制限やストレージの制約はありません。

2018年のホリデーシーズンを振り返るため、Poq社のSaaSアプリプラットフォームのデータを見ると、ネイティブアプリの人気が高まっているだけでなく、コンバージョンにも大きく貢献していることがわかります。

  • 2017年から2018年でアプリ滞在時間が5%増えた
  • 2017年から2018年で再来訪が11%増えた
  • 2017年と比較して、2018年のブラックフライデーのコンバージョンが7%増えた

より驚くべき事実は、ブラックフライデーやサイバーマンデーの時期に、以前利用したアプリを再訪した消費者は89%に上り、2018年の第3四半期の平均よりも20%高くなっていることです。

PWAはモバイルWeb戦略をサポートできる

PWAはデメリットもありますが、小売事業者にも魅力的なメリットもたくさんあります。例えば以下のようなメリットです。

PWAのメリット
  • 短期間で市場に出せる……PWAはデスクトップ、モバイル、アンドロイド、iOSと、どのプラットフォームでも使えるシングルソースコードを使って構築されているため、素早くローンチ可能。
  • 読み込み時間が短い……モバイルWebよりもユーザーのアクションに対する反応が早い。
  • 少ないメモリーで対応可能……PWAは多くのメモリーを必要とせず、ダウンロードの必要もなく、アプリのようなエクスペリエンスを提供するため、新興市場でも容易に利用できる。

小売事業者は、モバイルWebビューをリッチにするための戦略として、PWAを採用するべきでしょう。多くの消費者がデスクトップからモバイルに流れていますが、モバイルでのコンバージョンはいまだにデスクトップよりも低いままです。モバイルにおけるコンバージョンの低さは、強固なモバイル戦略を持って解決しなければいけません。小売事業者はモバイル戦略において、ネイティブアプリとPWAの両方を取り入れる必要があることも、ご理解いただけるでしょう。

PWAはグーグル検索からの流入を促進するが……

モバイルWebは流入を促進し、ブランド認知を高めるための素晴らしいチャネルであることは間違いありません。新しいグーグルのSEOアルゴリズムでは、ページスピードがランキング決定の要素に含まれるため、PWAがもたらすサイトスピードは検索結果に影響を与えるでしょう。

モバイルリンクプラットフォームのBranch社は、「モバイルWebのUU数はデスクトップのそれを超えますが、ユーザーはモバイルWebに比べて、モバイルアプリの方が285%多く商品を閲覧し、1回の購入もモバイルアプリの方がモバイルWebよりも11%以上高い」と伝えています。

PWAはグーグル検索からの流入を促進しますが、アプリを持っていれば、App Storeを訪問するユーザーを囲い込むことも可能です。App Storeには毎週5億の訪問があります。

アップルはネイティブアプリとWebアプリケーションを複合したアプリに比べて、ネイティブアプリをフィーチャーし、ランキングを上げる傾向があります。結果、App Storeで自然にダウンロードしてもらいたい場合は、常にApp Storeにネイティブアプリを置いておかなければなりません。App Store内のダウンロードの65%は有機的に行われていることを覚えておいてください。

◇◇◇

PWAがネイティブアプリに取って代わることも、その逆もありません。しかし、平和的に共存して、全体的なモバイル戦略の一助を担うことは可能です。

賢い小売事業者たちは、最適化されたモバイルジャーニーの重要性を理解し、より多くの顧客と収益を獲得しています。Webベースの技術を使って構築されているPWAだけに頼るのは、モバイル予算の賢い使い方とは言えません。常に躍起になっているPWAが、一番早くて簡単なソリューションのように見えますが、だからと言って最適で最も賢い選択とは言えないのです。

小売事業者は自社の目標を見直し、現在利用可能な複数のテクノロジーの具体的なデータを集め、モバイルエクスペリエンス全体を最適化する戦略を立てる必要があります。

この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア『Digital Commerce 360』(旧『Internet RETAILER』)の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

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