ネットショップ担当者フォーラム編集部 2019/6/24 7:00
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デジタル決済プラットフォームを提供するPayPal(ペイパル)は200以上の国と地域で決済サービスを展開し、2018年は99億件の取引を決済した世界最大級の決済専業企業。2019年3月時点のユーザー数は2億7700万人まで拡大している。

大規模なトランザクションが発生するPayPalの決済基盤を支えるエンジニアリングのトップで、PayPal Indiaのゼネラルマネージャーも兼務するGuru Bhat氏(VP Engineering&General Manager, PayPal India)が5月末に初来日。Guru Bhat氏が力を入れていること、インドでも進んでるというキャッシュレス化などについてインタビューした。写真◎吉田 浩章

良い製品を生む秘訣は男女バランスの最適化

Guru Bhat氏の設計思想や考え方は、世界、そして日本国内のPayPalにも影響を与えるだろう」。Guru Bhat氏をこう評するのがペイパルジャパンの担当者。

Guru Bhat氏はPayPalの次世代決済ソリューションおよびサービス構築において、グローバル決済プラットフォームを強化・拡大するためのグローバルチームの一員であるインドでのテクノロジー戦略の推進を担当。そして、グローバルで約4500人のエンジニアを抱えるエンジニア部門のトップとして、グローバル決済プラットフォームの構築などに携わる。

VP Engineering&General Manager, PayPal India Guru Bhat氏
Guru Bhat氏(VP Engineering&General Manager, PayPal India)
2015年にPayPal入社。マーチャントデータプラットフォームと紛争解決経験を提供するPayPalの製品、APIのグローバルリーダー。PayPalの技術センターのゼネラルマネージャー(GM)も兼務。ニューヨーク州立大学バッファロー校でコンピュータサイエンスの修士号を取得。Sun Microsystems、Oracleで勤務。2007年にインドへ帰国。スポーツ、本、映画、音楽など、人生を楽しく&面白くするほとんどすべてに強い関心を持っているという

PayPalは200以上の国と地域で事業を展開しており、「言語、文化が異なるさまざまなお客さまに対応しなければならない」(Guru Bhat氏)。さまざまな国と地域のユーザー、そして社員を抱えるPayPalの責任者として、Guru Bhat氏がインドで力を入れているのがダイバーシティ(人材の多様性)という。

カースト制度の影響によって、男女差別が根強く残るインド。Guru Bhat氏がもっとも力を注いでいるのが「男女の差別をなくしていくこと」(Guru Bhat)だ。

グローバルでビジネスに携わるGuru Bhat氏は、インドも他国と同様、「技術系の勉強をしている女性は多くはなく、もちろん企業にエンジニアリングとして入社する女性も少ない」と言う。

こうした課題を社会貢献の一環として解決しようとスタートしたのが、8歳~14歳の女子にプログラミング学習の機会を提供する「Girls in Tech」というプログラム。PayPalインドのテックセンターで学習の場を用意。「小さい頃にプログラミングの楽しさを学んでくれれば、その道に進んでくれる子が増えるはず」とGuru Bhat氏は期待を寄せる。

子育てをする女性にとって働きやすい環境作りも進めている。2015年に始めた「Recharge Program」はその1つ。妊娠・出産後の女性に働きやすい職場環境を提供するといったプログラムで、何かしらの理由で一度は家庭に入った女性の仕事復帰をサポートするというものだ。

プログラミングといったハードスキル、プレゼンテーションなど、ビジネススキルに関する3週間のトレーニングを行った後、最終面談を実施。これまで300人を超える女性がトレーニングを受け、30人程度が本採用に至ったという。

PayPalに入社する人がハッピーだと感じる職場を作るのがゴールだ。PayPalでは妊娠6~9か月の期間でも安心して働けるように、会社と自宅への送迎を行っている。スキルを向上するための女性向けコミュニティの運営、フレックスタイム制の導入、在宅勤務、託児所の手配など、生活と仕事のバランスを取れる環境を用意している。(Guru Bhat氏)

VP Engineering&General Manager, PayPal India Guru Bhat氏
Guru Bhat氏は「ダイバーシティの推進は最終的には会社の利益、顧客満足度の向上につながる」と話す

なぜ、Guru Bhat氏はこうした取り組みを推進するのか。ビジネス観点でこう強調する。

お客さまの多くが女性。製品を開発する時、それに携わる職場やスタッフの男女バランスは最適な方が良い製品が生まれる。雇用機会のバランスが良く、ハッピーな職場。それが会社にとっても最終的な利益、お客さまの満足度向上につながると信じている。(Guru Bhat氏)

女性向けのほか、経済的に恵まれていない人たちへの支援も行う。実は、PayPalインドで働くプロダクトマネージャー、マネージャーの中には貧困層出身者がいる。さかのぼること3年。「経済的に恵まれていない人に、エンジニアになるための環境を用意するべきではないか」(Guru Bhat氏)。こんな声が社内からあがった。

Guru Bhat氏はインド内の2つの大学と協力関係を作り、経済的に恵まれない子どもたちの大学進学をサポートする活動をスタート。

貧困層出身者の大学入学の門戸を開き、エンジニアリングを学んでもらう取り組みを行っている。これまで1600人くらいの人たちと面接したが、全員を採用するわけではない。基準を下げて全員を採用するのはよくないからだ。初年度は3人(女性2人)、その翌年は5人を採用した。彼らの人生は大きく変わった。(Guru Bhat氏)

キャッシュレス化が進むインド、日本との違いは?

「インド国内の取引は85%以上が現金で行われている」(Guru Bhat氏)。インド政府はキャッシュレス化を推進しているものの、現状は若年層にとどまっているそうだ。ただ、13億人を超える人口の7割は30歳以下。現金を「使いたくない」「持ちたくない」という若年層は急増しているという。

ただ、インドもキャッシュレス化が始まったばかりのため日本と似ている点も多い。そこで、ペイパルジャパンのカントリーマネージャー・瓶子昌泰氏がインタビューに加わり、インドと日本のキャッシュレスの現状、今後について対談した。

インドのキャッシュレス化社会のいま

瓶子昌泰氏(以下、瓶子):日本では「LINE Pay」「PayPay」などのスマホ決済サービスがキャッシュバックなどのキャンペーンを積極的に行い、キャッシュレス化を推進している。インドではそうした施策は行われているか?

Guru Bhat:インドも同じような状況。ユーザーを獲得するためのインセンティブ提供は当たり前に行われている。宣伝の一貫でやっているところが多い。

瓶子昌泰氏(ペイパルジャパンのカントリーマネージャー)
ペイパルジャパンのカントリーマネージャー 瓶子昌泰氏

瓶子:日本ではキャッシュレス決済を普及するために、決済端末を導入する事業者の負担を手数料無料などで軽減する施策が行われている。

Guru Bhatインドでは加盟店向けの手数料無料施策は行われていないが、加盟店に向けたキャッシュバック、インセンティブの提供は行っている。たとえば、映画のチケットはATMで購入すると安くするとか……。ただ、キャンペーンなどは一時的な効果にとどまると思っている。消費者が最終的にキャッシュレスに移行するのはその利便性を感じた時だろう。

インドでは政府が推進する決済システム「UPI(Unified Payment Interface)」がある。これは独自の認証コードの発行や電話による本人認証で個人同士の送金、事業者との取引ができるシステムだ。この仕組みをインド政府が作ったことで、キャッシュレス化社会に向けた下地ができた。そして、インド政府は年金や還付金といった給付もデジタル化している。こうしたことを国民にいろいろと案内しているところだ。

Guru Bhat氏と瓶子昌泰氏
「私の両親はまだ現金派。息子がPayPalに勤めているのに」と、Guru Bhat氏はジョークを交えてインドのキャッシュレス事情を話した

日本のキャッシュレス化が遅れている理由は?

Guru Bhat:日本は技術的な先進国。決済のデジタル化が遅れているのはなぜか?

瓶子日本は現金を扱う技術を進化させてきた。たとえば、POSの技術、販売機、切符の券売機など。現金を簡単に扱える技術を推進してきたという経緯がある。そういった背景もあり、スーパーのキャッシャーで現金を引き出せるという取り組みも始まっている。

Guru Bhat:インド市場において、30歳代以下はキャッシュレスの文化が浸透してきている。日本はどうか?

瓶子:日本もインドと同じような状況と捉えてもらいたい。若い世代はスマホで決済をするといった文化が浸透してきている。ネット通販もスマホを利用する傾向が高い。支払い方法に関しては、代金引換や後払いといったキャッシュレス手段を使った買い物が多い。

Guru Bhat:日本国内での不正行為はグローバルと比べてどうか?

瓶子:グローバルと比べると不正取引は少ない。攻撃内容を見ても、海外アカウントが関わっていることが多い。逆にグローバルでの傾向はどうか?

Guru Bhat:セキュリティに携わる立場から言うと、不正行為自体は増えている。もちろん、ECサイトでの不正行為も増加傾向だ。悪意の第三者は機械学習や人工知能(AI)などを使い、攻撃手法や内容を研究してきている。

エンジニアリングのトップが見るPayPalの特徴

消費者はよくわからないECサイトにカード情報を入力することに抵抗感がある。盗まれて不正に使われても困る。インドでもECはそうした点が怖いという人は多い。(Guru Bhat氏)

世界的に増えている不正アクセス攻撃などを踏まえ、ネット通販を利用する消費者心理をこう話すGuru Bhat氏は、カード情報などを保有する際のトークン化の重要性を説明。PayPalは1999年からトークン化を採用しているという。

現在、採用しているのは2つのトークン化技術。その1つでは、パートナー企業との連携で、外部企業の決済サービスでもPayPalを使って買い物ができる状態を作っている。

米国でGoogleが始めた「Google ウォレット」。「Google Pay」からPayPalを使って買い物ができるようになっているという。

たとえば、「Google Pay」の加盟店でNFC対応端末があれば、その端末にスマホをかざすだけで、PayPalを通じて決済することが可能になる。これは、「Google Pay」の支払い方法としてPayPalを登録しておけば、NFC端末が自動的にPayPalを通じて決済する仕組み。「Google Pay」とPayPalの間では、16ケタのカード情報をトークン化することで、スキャン技術に対応しているという。

なお、この仕組みはFacebookやInstagramのショッピング技術にも搭載され、いわゆるSNS内でのショッピングの実現をサポートしている。

Instagramの「Checkout(チェックアウト)」機能のイメージ
Instagramの「Checkout(チェックアウト)」機能のイメージ。決済はVisa、Master、Discover、PayPalの利用が可能
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