競合に負けないECビジネスに必要なことは? 「商品力×プロモーション」効果を最大化する方法は「データ」にあり
ECビジネス事業を拡大する際、重要になるのが市場調査や自社データを活用したデータの分析。商売に必要とされていた勘や経験に頼らず、データに基づいた需要予測、仮説・検証、施策の実行が求められるためだ。900社以上が利用する競合データ分析ツール「Nint ECommerce」の開発・運営を行うNintのECソリューションエバンジェリスト友田和宏氏は、データ活用の重要ポイントとして「市場規模の捉え方」「価格の捉え方」「時系列の捉え方」が必要だと説く。
データ活用3つのポイントに加え、データ分析から導き出される、競合に勝つための戦略の立て方についても紹介する。
勝つECサイトに必要なマーケティングとは
「商品力×プロモーション」が最重要
友田氏は、「マーケティングで重要なのは商品力である」と断言する。一般的にネットショップの売上構成は、「アクセス数×転換率×客単価」とされる。しかし友田氏は、「商品力×プロモーション」こそ実は最重要であるとし、その商品力がネットショップでは「圧倒的に不足している」(友田氏)と指摘する。
自社商品に自信があるにも関わらず、売り上げが伸び悩んでいるネットショップは、往往にして「プロモーション不足」にその理由を求める。しかしその実、「商品力」が足りていないケースが多々ある。たとえ社内で高い評価を受け何らかの賞を取った商品であっても、市場で評価されなくなっていないか、常に疑う姿勢が必要なのだ。
商品力の定義は、「市場でどの程度ニーズがある商品なのか、潜在的・顕在的に関わらず、どれだけ市場にマッチした商品を提供できているか」(友田氏)。すなわち、自社の商品力を知るには、市場調査が必要不可欠となる。
データ解釈に必要な4つのポイント
市場調査はデータを得てからが重要だ。適切にそのデータを捉えなければ、誤った判断や選択をする可能性が出てくる。
上の表は、データ解釈の一例としてドライブレコーダーの市場をあげたものだ。
左表の上から、商品A~Dとする。商品Aの月商は、約690万円。単価が1万円程度なので、単純計算で約600個売れていることになる。続く商品Bの売り上げは、約650万円。3番手の商品Cと4番手の商品Dの売り上げは、それぞれ500万円前後と同程度だ。
右表のデータは、エクセルなどでデータ分析をする時によく見られるものだ。ただしこのデータだけでドライブレコーダー市場への参入可否を判断するのは、尚早だ。
次の4つのポイントも加味した上で、慎重に検討を進める必要がある。
- 自社が参入できる市場か
- 売れている商品をそのまま真似ても売れるか
- 上位が独占されている市場に参入余地があるか
- 市場規模が大きい・小さいの判断基準は何か
すでに販売実績のある商品と、同じ機能を持つ商品を自社で作るか、仕入れて販売するかして市場に参入する場合、「上記の4点を正しく捉えていれば、判断を誤ることはないだろう」と友田氏はいう。
データの捉え方で重要な3つのポイント
データの捉え方で重要なポイントは以下の3点である。それぞれについて見ていく。
- 市場規模の捉え方
- 価格帯の捉え方
- 時系列の捉え方
1. 市場規模の捉え方
友田氏は市場規模の捉え方を、「想定売上=市場規模×市場占有率」としている。
市場規模は大きければ大きいほどニーズが多いため好ましい。市場占有率は競合の数が少なければ少ないほど、弱ければ弱いほどよい。(友田氏)
上図はその具体例だ。例としてあげている3製品の市場規模はそれぞれ、スマホケースが14億円、ドライブレコーダーが2.8億円、丸ノコギリが660万円。競合商品数は、スマホケースが約530万商品に対し、ドライブレコーダーは約5万商品、丸ノコギリは約3万5000商品。これら2つの数字から商品1点あたりの売り上げを割り出すと、スマホケースが264円、ドライブレコーダーは5600円、丸ノコギリは188円となる。
ここから言えることは、次の3つだ。
- 264円のスマホケースは、市場規模は大きいものの最も競合が多い。
- 188円の丸ノコギリは市場規模が小さいにも関わらず競合が非常に多く、最も参入しにくい。
- この中で最も参入しやすいのは、1点あたりの売り上げが5600円と一番多いドライブレコーダー。
しかしそれはあくまでこの図の数値から見えた結果であり、参入の判断をするには次に説明する「2.価格の捉え方」と「3.時系列の捉え方」をかけ合わせて考える必要がある。
2. 価格の捉え方
上記のグラフは、価格帯ごとの流通規模を示している。価格帯は「5千円以下」「5千~1万円」「1~2万円」「2万円以上」の4つで、それぞれの商品特徴も価格帯によって異なる。
最も低い価格帯の商品特徴は、120度の画角とフルHDのみだが、最も高い2万円を超える商品はカーナビ連動に加え、日本製、さらにはアプリに対応と、価格が上がるほど高機能化していることが分かる。
価格帯の捉え方におけるポイントは、市場規模ではなくそれぞれの属性を見ることだ。例えば「4Kに対応した1~2万円の価格帯」で売り出すとしたら、市場からどう見えるかという視点である。
そしてその属性内で、商品特徴など競合他社との差別化要素を取り出し、「1.市場規模の捉え方」に基づいた分析を行うと、自社製品での市場参入が可能かさらに見えてくる。
3. 時系列の捉え方
新しく生まれた商品は、時間の経過と共に進化・細分化されていく傾向があり、その結果、ターゲットが絞られていく。
スマートフォンケースの進化・細分化が良い例だ。2008年にiPhoneが日本に上陸するまで、スマートフォンケース市場は存在しなかった。その後、ケース型と手帳型に分かれるなど進化を続け、発売開始から10年が経った現在、市場にはさまざまなターゲット層を狙った商品が約530万点存在する。
もしその事実を知らずに14億円という市場規模だけを見て参入しても、自社商品が他の人気商品と同じ特徴しかなかったら、その商品はほぼ確実に失敗するだろう。手帳型商品の販売を検討するならば、ミラー付きなのかレター型なのかコンセプトを詰める。さらにその中で、どういう立ち位置で、どのような特性を持った商品にするのか意識する必要がある。
市場形成されたものは市場拡大に伴ってコモディティ化(一般化)し、バリエーションが増え差別化が求められていく。参入を検討している市場が、現在どのような時系列にあるのかも事前に市場調査しておくことが重要だ。
データの捉え方から導き出せる戦略
「データの捉え方」の3つのポイントを基に導き出せる戦略に、「同じような商品での価格勝負」と、「新しい要素を持った商品での差別化」がある。
同じような商品で価格勝負する
例えば、これから新たにドライブレコーダー市場への参入を検討しているとする。上記のAはすでに単価5000円で販売され、500万円分売れている人気商品。このAとほぼ同じ商品特徴を持つBを、4500円で販売し、ユーザーの目に止まれば商品が売れることは容易に想像がつく。つまり市場をAからそのまま奪う作戦だ。
この戦略の注意点としては価格勝負になるため、Bの売れ行きが良ければ、当然Aも値下げに踏み切り、結果として厳しい戦いになる可能性があることだ。この戦略はシンプルで成果が出やすい一方、製造コストを下げるための工夫をしないと、勝者でい続けるのは難しい。
新しい要素を持った商品で差別化する
競合他社と差別化を図るには、いくつかポイントがある。上図の機能的差別化、デザイン性による差別化のほか、さらに以下のように細分化できる。
多機能化
前述の「同じような商品で価格勝負する」で紹介したドライブレコーダーを例に取ると、画質のスペックを上げたり、新たにセンサーをつけたりと、機能強化やアップグレードすることで元からある機能を便利にする。
単機能化
シンプルにすることで特徴を際立たせる。若干特殊な方法ではあるが、キングジムが出している「ポメラ」というデジタルメモが一例。ネット接続をしないことで「書くことに集中させる」など、あえて機能を絞った点が支持されている。
カラーバリエーション
商品の色が黒しかないような市場に対して、様々なカラーを揃えていく。
サイズ
デザインの多様性が少ない「大きいサイズ市場」などで、多様なデザインを持つ商品を提供することで選択肢を増やす。
図の下半分は、ネットショッピング特有の差別化方法だ。どれだけ付加価値をつけられるかは、同じ商品を扱う競合ショップとの間でアドバンテージとなる。配達日時指定と即日配達についてはすでに多くのショップが実践していることや、最近の物流事情を踏まえると、これだけで差別化するのは難しく、あくまで補足と考えた方が良いだろう。
右側の「ストーリー・世界観」は、最も難易度が高い。商品そのものの世界観をショップ全体で演出する必要がある。たとえば、北欧テイストの雑貨や陶器を販売するショップがここに当てはまる。
市場調査をして商品力を高める
ネットショッピングに取り組む上で重要となるのは、市場調査をしながら商品力を高めることだ。友田氏は最後に以下のようにまとめた。
市場調査を行う際は、市場規模・価格・時系列の3つの捉え方、市場規模が大きくて競合が少ないところを狙うべき。参入の際は、今日紹介したようなデータ分析をして市場にアプローチする必要がある。市場調査結果を踏まえて、価格勝負なのか差別化なのか2種類の戦略に落とし込んで、参入の可否を検討して欲しい(友田氏)。